The Trail of Flame   作:ささみささじ

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残滓、されどその身は蝋であり
01


 カズデルという国はもうない。それを理解したのは《ママ》が帰ってこなくなって一ヶ月が経った頃だった。

 

 《テレジア》と《テレシス》の対立。後々になって漸く理解したが、その戦争でママは命を落とし、その武器(名前)は別の人のものになり、そして大地はより一層荒廃していった。

 

 ママがいなくなっても、暫く食べるのにはあまり困らなかった。金――役に立たないこともよくある――はそこそこにあったから、それと食べ物を交換していけばなんとかなった。狙われることも少なくなかったけれど、ママやパパに教えてもらったアーツや戦い方、逃げ方でなんとか凌いだ。

 

 《家》でママを待っている理由が無くなったと聞いた時は、私はどんな表情をしていたのだろうか。私の心は揺れ動いていただろうか。

 今になっては、もうわからないことのほうが多い。

 

 覚えているのは、《価値》がなくなったものに何時までも固執するような理由や考え方は持ち合わせていなかった、ということ。

 

 ママから貰った翡翠色のナイフ。飾られていた銃のうち小さめのものをふたつ。その銃に合う弾薬をなるべくたくさん。パパからもらった白いローブ。金を少しと食べ物。それだけを持って荒野に出た。

 適当にその辺で野垂れ死ぬのも考えたが、《とあること》をしてみようと思ってできる限りの装備を持っていく。

 

 何があったのかを知るためではなく、ただ生きる意味を探すために。まるで亡霊のように彷徨い歩いた。

 

 こうして、二束三文で何処にでもいる傭兵《名無し》が現れた。

 

 ここまでは、よくある話。

 

///

 

 目が覚める。どうやら夢を見ていたらしい。いつもの夢。覚えてなければならないのか、それとも帰りたいのか。

 あれから幾らかの年月が経ったものだと感慨に耽る。血の匂い、戦の前兆、炎の揺れですら起きるようになった。

 そして、起きたということは戦わねばならないということ。東の言葉で確かこう言う筈だ。《常在戦場》。シンプルな形状のアーツロッド、その源石は既に励起している。眠っていたからといって身体が固まっている訳でもない。身体の源石はまだ励起していないが、これも今のチェルノボーグという環境ならば、共振させてしまえばすぐに暖まる。

 

――呼吸を忘れずに、エネルギーの流れに同化し、闘志を整える。

 

 サルカズ傭兵というのは基本的に命が軽い。いや、もしかしたらサルカズ自体の命が軽いのかもしれない。簡単に死ぬ。死ぬのは嫌だなぁって、頭のなかでぐるぐると考え事をしながらたくさん殺してきた。今日も、きっとそうだろう。明日のことはわからない。生きていないかもしれないから。

 保護していたウルサス人の子供二人を起こす。折角助けた命だから、変に戦闘に巻き込んで落としてしまうのはつまらない。

 

「戦闘がもうすぐ始まる。巻き込まれて死にたくないなら、北側の裏口から路地裏を通って西側に逃げるといいよ。」

 

 ああ、そうだ。干し肉と水筒ぐらいは渡してみようか。

 

――逃げる準備をしている子供を尻目に、二階の窓から飛び出し屋根へ。ついでに歩きながらアーツを起動する。私の、そしてこのアーツロッドの名前は蝋燭(キャンドル)。風に吹かれて消える灯火ではなく、風に煽られて燃え盛り自身をも蝋とする炎。

 

 確かに、サルカズは頑丈で治癒力も高い。更に寿命は長い。悪目立ちする程度に身体が小さい私でもそうだ。

 だけど、そんなものはお構い無く、全部全部戦争が消し去っていく。善も悪も一切合切関係なく、鉱石病が掻っ攫っていく。ママはそうだった。私も遠からずそうなるだろうという確信がある。根拠など、左膝と背中の結晶で十分だろう。

 

――蝋を滴らせて、足跡を付けて、線を描いて。

 

 屋根を飛び移りながら敵を目視する。遊撃隊と……その相手はロドス・アイランドらしい。Wからその名前は聞いている。感染者救済。私には縁がなかったものだ。ほんのすこしの善行と、それ以上の悪行を重ね、今日を燃やして生き残る。明日のことは、明日生き残っていたら考えればいい。今は余裕がない。敵を殺す。それだけ。

 

――蝋は積もって幽霊に、足跡増えて行列に、線を束ねて洪水に。

 

 死にたくないから殺す。死にたくないから殺しを仕事とする。死にたくないから傭兵をやっている。

 見慣れぬ黒と青の制服らしき上着を着ている一団がようやく見えた。あれがロドス。あれが今回の敵。敵は殺す。

 残念ながら、私の部隊はここには居ない。なるべく遊撃隊とは離れるようにと命令しているからであるが、少し失敗だったかもしれない。

 

――思考の統一、幽霊の行進。炎の洪水。私自身を火焔とする。

 

 少し辺りを見回せば、遊撃隊が蹴散らされているのがわかる。漁夫の利を狙った横殴り。或いは救援とも。まあ、私のアーツは無差別にヒトを襲うから、そのあたりはごめん。

 

 アーツを形而上学的な思考を用いて扱うことは廃れつつあり、体系化されたものが一般的なものになりつつあるが、前者の威力が劣っているというわけではない。とパパが言っていた。当時は話半分で聞いていたし、今も学があるわけではないから、分かったとは言いづらいけれど。

 淘汰されぬ古いやり方にはある程度の訳がある、というやつだ。

 

 

――ロッドを掲げ、行進を開始する。

 

 屋根からアーツエネルギーの奔流を垂れ流す、白とも黒とも言い難い幽霊達(それら)が飛び降り、遊撃隊を無視してロドスの盾持ちに襲いかかる。

 アーツによる乱雑な奔流の圧力で押し潰し、幽霊達の量で押し潰す。既に五体が交戦し始め、後にぞろぞろと続く。本来ならば発動も維持も手間の懸かる術ではあるが、天災で降ってきた励起された源石、遊撃隊が設置した《人喰い》の祭壇がこの術の味方をしてくれる。

 

 落胆も高揚もなく、無感情に襲わせて、殺す。他の傭兵達みたいに戦争や闘争を楽しんでいる訳ではない。忌避しているわけでもない。そこまで関心がないだけ。

 

 ぱちん、と一体弾けた。感覚がある程度繋がっているから、痛みのフィードバックはある。が慣れたものだ。それに、一体の損耗を補って余りある程の分身が増えていく。

 

「これはアーツエネルギーによって造られたを風船のようなものだ。弱点らしい弱点はないが、風船ならば()()()()を与えてしまえば破裂する。但し破裂した後の衝撃に注意しろ!」

 

 《声》がした。そして、反応するのに三秒程度遅れた。戦場で、誰かの声を認識するのはとても久し振りだからだろうか。それとも、透き通った綺麗な声だからだろうか。

 

「ロスモンティス。近くに術師がいる筈だ。頼めるか。」

 

 ぱちん、ぱちんと続けて二体弾けた。僅かな痛みが思考を現実に引き戻す。幽霊達がやられた後の爆発にも対応されている。確認と並列して一段階アーツの出力を上げる。思っていたよりも対応が早かった。

 

――杖先で足元を三回叩く。直ぐにやられなさそうなやつを適当に数体爆破する。不意打ち程度にはなるだろう。

 

 少し気分が高揚している。理由は不確かだ。負けて死にそうになったことは何回かあった。死にたくないという理由でこんな感じになることはなかったから、今回もたぶんそうだろう。死にたいわけではないが。

 この短時間に攻略されるなんて思ってもみなかった、とでも言うべきか。今迄はとても丁寧に罠を張り巡らされたやつだったり、裏切りと漁夫の利とめんどくさいやつの三重苦だったりと、死にかけたパターンは真っ向勝負ではなかった。

 

――更に出力を上げる。身体が燃えるように熱い。この反動と比例して幽霊達は文字通り燃えていく。アーツエネルギーの供給過剰、即ち捨て身のようなもの。

 

 と、同時に床、否、建物が崩れる。隠れていた訳ではないが、恐らくは見つかったのだろう。流石に倒壊に巻き込まれて死ぬなんてことはないように、瓦礫を踏み台に通りに移動する。それを撃ち落とさんとする攻撃を受け流し、適当な炎のアーツと杖の仕込み刃で迎撃する。地面に足を付けて――

 

 

――目の前にとてつもない速度の壁が迫る。衝撃、轟音。目が回る、というよりも頭の中で音がする。そして、意識はここで終わった。

 

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