目が覚める。非常に喉が乾いた。いや、乾いているというわけではないらしい。傍迷惑に滅茶苦茶痛い、というのを乾きと誤認しているようだ。舌も口内も十分に濡れているのがわかる。唾液を飲み込んでも、飲み込もうとするのが痛いだけで染みたりとかはない。
口にマスクのようなものと左腕になにか透明な紐が刺さっている。とりあえず外す。そして音を立てないようにベッドから転がり落ちる。地面と角が当たって地味に痛かった。私の角は転がれないような長くてでかい奴じゃないが、左右五本ずつと沢山生えてるので地味にめんどくさい。
――回らない思考と霞む視界を置いて、とりあえず武器を探す。ナイフ、杖、銃でも、カタナとか大剣みたいな扱うのが難しい奴でも、この際なんでもいい。あればあるだけいい。私のものなら、尚更いいが贅沢は言わない。
が、しかし、武器どころか武器になりそうなものすら見当たらない。漸くはっきりしてきた目で辺りを見渡す。整った部屋だが、ここには私ひとりしかいないのか?そして床に砂埃がない。ベッドもかなり綺麗なものだった。
――これはアレか?そういう趣味のやつに
よく見れば、服も変なものだった。衣服に頓着はあまり無いが、白いローブと、その裏に縫い付けてある《ガラス瓶》はかなり大事なものなので、近くに無いのは少々不安である。
正直なところ、此処から逃げ出すにしても打つ手が全くない。本当の本気で手詰まりだ。手持ち無沙汰を紛らわす為に伸び放題のくすんだ金の髪を弄る。今の所在地は……ウルサスなのか炎国なのか、あるいはヴィクトリアなのか。なにもわからない。無策に外に出る訳にもいかない上に、情報がなにもない。
――ここにくるの前の記憶といえば、《ロドス・アイランド》と戦って負けたというところか。《壁》に弾き飛ばされて、おそらく崩落に巻き込まれて、気を失って……。
格好つかないやられ方にため息は出るものの、現状の打開策が思いつくはずもなく。とりあえず、壁に凭れ掛かって色々と取り留めのないことを考える。Wはどうしているだろうか、とか、あのウルサス人の子供は生き残ったのだろうか、とか、武器がないからまた名無しになるのだろうか、とか。
眼を閉じる。眠いような、起きねばならぬような、中途半端な覚醒状態で、床と壁の冷たさを肌で感じる。相変わらず頭は回らない。それでも考えるのを止めない。
考えねば、生き残れない。そう言ったのは、ママだったか、それともパパだったか。もしかしたら両方に言われていたかもしれない。
ふと視線を上げると、緑の髪のアダクリス人と目が合った。いつの間にそこに居たのだろう。先程は全く人は居なかったのに。ドアが開くのも気づかない程度には気が抜けているらしい。
そして、どうやらこのアダクリス人は怒っているようだ。
物凄い気迫と勢いで距離を詰められて、頭を片手で捕まれた。咄嗟に逃げようとしたが叶わず。
「病人は!!ベッドで!!寝てろ!!」
そして持ち上げられ ベッドに叩きつけられる。頭の中と視界と肺と空の胃の中身がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。
アクダリス人が廊下に顔を出してなにかを叫ぶと、すぐさま複数人が集まってテキパキと色々と整えて、終わったかと思うと先程抜いた紐とは別だが似たようなものを腕にぶっ刺されて、今度は薄い機械端末を持ってこれ以上無いぐらいのしかめっ面でこちらに向き直す。
「名前は?」
「……傭兵としての?」
「それでいい」
「《キャンドル》。」
「聞いてた通りか。次は、病状……痛い所とか、調子が悪いところとかはあるか?」
「さっきのガシッてやられて首背中頭がやばい。あー、そういえば喉の調子も変。動きたいけどあまり動けない気がする。」
「指は何本に見える?」
「えっと、立ててるは2本だよね?」
「今の所脳震盪の後遺症はなさそうか……。ダルいのは丸5日は気を失ってたからだろう。
質問攻め。さっきのやつが凄いズキズキと痛む。またやられるのは勘弁してほしいから、なるべく正直に答える。医者に掛かったことはないが、これが医者なのだろう。凄い乱暴だったが。
しかし、聞いていた通りとはどういうことだろうか。誰か私を知っている人が此処にいたりするのだろうか。
「あー、もしもし?貴方は何処の誰で、私に何の用事があるの?」
ピタリと、端末を操作する手が止まって、ため息。そして、ぎろりと聞こえてきそうな程に強く警戒している視線がこちらを向く。
「
鋭い視線で大体理解した。《病人》、しかしながら《危険因子》。つまりは《ロドス・アイランド》に、私は負けて捕まってるのか。
手段を選らばないサルカズ傭兵は確かに危険因子だから、警戒は尤もだ。
「暴れたところで自爆が精々だし、自爆しても部屋とあなたが煤だらけになる程度しかできる気がしないから、暴れない。」
「まあ、暴れたらぶん殴るだけだが……。自爆ってなんだよTHERMAL-EXかよ……。」
が、しかし。私は武器の無い殴り合いはどちらかというと苦手だし、基本的に術師なのにアーツロッドになりそうなものもないし、
私は意味が無いことはしない主義なのだ。諦めが早いとも言う。
「っと。
製薬会社とはなんだろう。薬を作る会社か。なるほど鉱石病の薬を作っているのか。しかしその製薬会社がなぜレユニオンと戦うことになったのか?
いやわからん。Wに聞いていた話とちぐはぐな感じがする。情報が足りない。
なによりも、傭兵集団などではない製薬会社に負けて捕まったと。格好つかない所の問題ではない。
「製薬会社?が何故チェルノボーグに居たのかは訊いても分からなさそうだから後回しにするけど、私は何故助けられたの?」
「アタシは知らん。……が、ケルシー先生かアーミヤなら把握しているだろう。後で訊きに行け。」
ケルシー、アーミヤ。恐らく偉い立場の人なのだろう。会わねばならない。
とりあえず、起き上が――
「後でつっただろうが!」
――頭を抑えられ、ベッドにまた叩きつけられる。頭の中でぐおんぐおんと音がする。
「今日のところは安静にしておけ。後程また来るが、なんか有ったらそこのボタンを押せば飛んでくるから。」
「……はい。」
よく分からないが、安静にしていなければ殺されかねないということが分かった。痛みに耐えながら、緑の医者が部屋を出ていくのを見送った。
危険分子をパゥワーで抑えるためのガヴィルさんです