数日間寝たきりだと、体力はがた落ちするらしい。身を持って知った。ちょっと動くと直ぐに息が上がる、とまではいかないが《検査》で複数の部屋を巡っただけでかなり疲弊している。今は結果と順番待ちだ。
「あら、おチビちゃんじゃない。ようやくお目覚めになったのね?」
「お、
よく見知った、今はあんまり会いたくない奴が図々しく隣に座ってきた。
殴り掛かってもいいけど、生憎私の武器は没収されたままである。Wの性格を考えると、なにかしらの武器を隠し持っている可能性があるので、普通に殺されるかもしれない。死ぬのは別にいつでも構わないけど、こいつに殺されるのは癪なので今はやめておこう。
「まさかこんなところで会うとは、露程も思っていなかった。」
「あら、驚かせちゃったかしら。それとも、なにか不都合なことでもあるのかしら?」
「いや。驚きはしたけど、好都合。探す手間が省ける。訊きたいことも用事も尽きることは無いから助かるよ。」
そんなに求めなくてもいいのに、とニタニタしながら言った。訊きたい事はそれこそ彼のカランドの霊峰程に積もっているが、用事の方はその名前に集約するので名前か命をくれるだけでいい。と、考えたまではいいが、あの緑のアクダリスの医者の顔を思い出した。こいつを殺して生き残ったとしてもアレは多分素手じゃ全く勝ち目無いよね。
今日で何回目かわからないため息が零れた。
「思ったよりボロボロね。」
「――緑のアクダリス人の医者に乱暴されて……というのは半分ぐらい冗談で、実は昨日目が覚めたばかりなんだよね。ぶっ飛ばされて建物の崩落に巻き込まれて気絶してたらしい。」
「フフッ、なによそれ。超ダサいわね。」
「そうだろ?私もそう思う。これ以上ないぐらいに滅茶苦茶ダサいけど生きてるから儲けもんということにして。」
爆笑して頭を叩こうと椅子越しに伸びてくるWの手をいなしつつ反撃を試みるも、私の手はWに届くことはなかった。リーチの差をこれでもかと思い知らされる。私の持ってないもの色々持ってて羨ましいな畜生。身長とか胸とか。あればなめられずに済むのに。
「ま、というわけでさ。色々情報を共有してくれない?」
「ッフ、フフ。いいわ。貸しにしておいてあげる。」
「それでいいよ。」
色々と屈辱的だが、背に腹は代えられぬとも言うし、仕方ないことなのだ。だからそんなに笑わないでください。まじで。
「……単刀直入に訊く。レユニオンは?」
「どうなったと思う?」
質問を質問で返されて、頭痛がする。Wは何時もの調子だった。そのおかしく笑う仮面の下で何を考えてるのか、全くわからない。まあ、何かしらを企んでるという点に置いては全幅の信頼がある、と考えれば多少はマシであるはず。
頭を押さえて考える。ロドスの勝利という既知の情報、それにWが此処に居るとなるとレユニオンが存続している線は限り無く薄い。
生き残りそうな《部隊》と言えば、音沙汰が無くなった《クラウンスレイヤー》のところと、あとは《パトリオット》さんの遊撃隊ぐらいか。《タルラ》さんはパトリオットさんが直々に……という線もあるか。
「……事実上の崩壊。まあ、多少は残っている部隊もあるだろうけど。
「タルラとパトリオットが逆よ。」
「え、嘘。
「こんなところで嘘なんてついてどーすんのよ。マジのマジの大マジ。両方ともウサギちゃんがやってくれたわ。」
衝撃の事実。タルラさんが生きていて、パトリオットさんが死んだ。
ウサギちゃんというのが気になるが、それよりもかの戦士が無くなったとなると、本当に惜しい事をした。いや、表現が少しおかしい気がするが、今のところはそう言うしかない。
「……あんたね。
「……ホントは何も見えてないかもしれないし何も考えて無いかもしれないよ?それに、方向性は違えど
――どうやら、Wさんはこの答えが不満らしい。が、私はこれ以上の答えを持ち合わせていないんだ。残念ながら。
「じゃあ、話を変えよう。私の部隊のみんなは?」
「生きている奴も居れば、そうじゃない奴も居る。いつも通りよ。でもまあ、あたしの知る限りではほんの二、三人しか死んでないわよ。」
そういえば、私のガラス瓶はロドス・アイランドに装備と一緒に回収されているのだろうけど、捨てられてしまったりしていないだろうか。少々不安である。
「驚いても悲しんでも、その鉄仮面は崩れないのね。」
「喜怒哀楽は十二分にあるよ。
「――知ってるわ。表情が変わらない割になに考えてるか分かりやすいことも。ああ、左足を矢でぶち抜かれた時も無表情で相手を殺してたわね。」
「そんなこともあった。当時は痛すぎて声が出なかっただけなんだよね。正直もうだめだ、ここで死ぬんだって思った。」
正直、今回と同じくらいになんで生き残れたのかわからない、ってなった記憶がある。まあ、その傷跡に結晶が出来てしまって、ほんの少し歩くのに支障を来しているのが少々気掛かり。
「なんで表情が変わらないのかはわからないけど、過不足なくわかってくれる人がいるのは結構便利だよ。」
「いちいち変わりもしない顔色を伺うのは正直面倒なんですけど?」
「それはまあ、申し訳ないけど、そっちはそっちで面倒だからお互い様。どうにもならないだろうし、これからもよろしく頼むね。」
Wが大きくため息を吐いた。これでお相子だぞ。
「――あたしからもひとつ……。いや、ふたつ訊いてもいいかしら?」
「珍しいね。答えられないかもだけど、どうぞ?」
少し、Wの雰囲気が変わった気がした。多分、真面目な内容なのだろう。
「じゃあひとつめ……これからどうするの?
「まさか。
「……決まってないわ。」
「私は、
Wが更に険しい表情になる。テレジアに関係する話題だといつもこんな感じになる。珍しいけど、正直面倒だ。
あと、決まってない、というのは多分嘘だろう。
「次、急かしてもいい?」
「――ええ、ごめんなさいね。ふたつめは……。あなたの部隊が居た場所とあなたの担当区域が離れてた事について。」
あ、そういえばそうだった。
一応、サルカズ傭兵のリーダーはWである。他のレユニオンの幹部にはわからないかもしれないけれど、Wはそうじゃない。つまり、反逆が疑われてるのだ。まあ、レユニオンは多分もうないのだけれど。
「《あのふたり》の手伝いとその偽装……って回答で誤魔化されない?」
「なにか知っているの?」
「知っているもなにも、私の部隊は術師と斥候が中心だから、撹乱も偽装も爆破もお手の物……流石に爆破は爆弾魔には勝てないけどね。」
さて、思いの外引っ掛かりが良いが、あのふたりがWに伝えていないのは正直意外だ。面倒臭い置き土産をしてくれたものだ。さて、普通に答えてしまっても良いのだろうかと思案を巡らせる。
「キャンドルさん、四番の診察室にどうぞ。」
「お、渡りに船とは正にこのこと。それじゃ行ってくる。」
「あ、ちょっと待ちなさい!」
するりとWの腕の間を抜けて言われた部屋に向かう。ちょっとだけお互いに考える時間を作ろう。
無表情な女の子がコミカルな動きしてるの大好き侍。