The Trail of Flame   作:ささみささじ

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05.5※ 幕間その1

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 ぱちん、と身体の奥で音がした。まるで薪が火に焚べられて弾けたような音が。

 同時に、背中から刃物で刺された、いや斬られたかのような痛みが襲ってくる。苦痛にのた打ち回る程のモノではないが、痛いものは痛い。

 

 幽霊達を介して、見慣れぬ、しかも帯刀した人物を付かず離れずの位置で監視していたら、突然その姿が見えなくなった――かと思えば、この痛み。

 私の幽霊達が、その見慣れぬ人物によって倒されたのだろう。それも、一瞬のうちに複数。でなければ、これ程鋭い痛みが帰ってくることはないだろう。

 正直、こんな数秒の狂いもなく一気に倒されたことなんて無いから、確信があるわけではない。

 倒された幽霊達の場所はわかる。今いる所から走って5分もかからない。

 

「こんなことなら、《チェルノボーグに侵入してくるならこの辺だ》なんて爆弾魔に言わなきゃよかった。」

 

 遠くから、徘徊させている幽霊達をその場所から離れるように指示しつつ、適当に独りごちる。この間にも痛みは続く、つまりは撤退させても沢山潰されている、と言うわけだ。

 Wにもやりたいこととかあるのはまだわかる。彼女には彼女なりの考え方があるのも、わかる。けれど、ロドス・アイランドとやらを適当にあしらって、その中のフェイスガード暑苦しそうな奴を出来るなら殺しておけなんて、全く面倒にも程がある。

 

 一番近くにいる幽霊をひとつ呼び戻して、その頭に乗る。向かう先は勿論、幽霊達がやられた場所。

 ついでに隊列を組もう。万全を期すのは悪くない。死ぬこと自体は構わないけれど、ダサい死に方も嫌だ。

 

 私の部隊をあの二人の為に動かしたのはもしかしたら失敗だったのかもしれない。二人なら別に私の部隊なんか無くても綺麗に片付けられそうだし、なにより私の幽霊達の決定力が下がる。

 

 ――僅かな足音がした。まあ、これだけあからさまに動かしたのなら、誰でも違和感に気付くだろう。

 

 色々と恩があるから二つ返事で了承したけれど、こうやって考えるとやっぱりよくなかった気がする。せめて5人ぐらいは残しておくべきだったのかも。

 

 ――じゃり、と踏み込む音が聞こえた。向こうも、私も、もう身体は動いている。

 

 飛んできた赤い斬撃を、馴れた手付きでナイフを引き抜き、その一連の流れの延長線上で受け止める。が、私の身体は幽霊の上、つまり不安定な姿勢だから身体ごと弾き飛ばされる。まあ体格差も含めてどうにもならない。少し大きめに距離を取って着地する。

 乗ってきた幽霊は――斬撃の余波か、それとも、アーツ、あるいはあの剣の特性によって消し飛ばされた。もう一回呼び出すのも不可能じゃないけれど、ここまでズタズタにやられるともとの数に戻すのに数時間は掛かるから面倒だ。ついでに言わせてもらえば、幽霊の対処法を完全に確立しているかもしれない。ため息が出そうだ。

 

 黒い剣、そして特徴的な赤い剣を持つ女性。角を持つが、サルカズではない。ドラコだろうか。かの戦士や聴罪師達のような化物の気配は無いが、相当腕が立つのだろう、疲労を見せても、隙は見せてくれない。

 幽霊達を使って戦うのが私の基本の戦闘スタイルだけど、幽霊達は恐らく不利だろうから、たまには私自身のみで戦うのも悪くはない。静かに闘志を整える。

 ――ふと思う。そういえばこの人以外にそれらしい気配は無い。もしかして、ロドス・アイランドとやらではない?或いは囮だったり?

 それに、ドラコといえばだ。我らレユニオンのリーダー、タルラを思い出す。角も似ている気がするし、もしかしたら……と考える。

 

 口を開こうとした瞬間、ふっと姿が消える。無理矢理幽霊を呼び出して盾にする事は可能だし、間に合うけど、先程乗ってきた幽霊の末路を考慮すると有効な方法とは思えない。左手のナイフじゃ捌ききれない気もする。アーツロッドの仕込み刀で……。

 

 ギィン、と耳に痛い音が響き、黒い剣と仕込み刀が鍔競り合う。考え過ぎて間に合わないかと思った。私の悪い癖だと反省するが、どうやって直せばいいかわからないのも事実。まあ、今考えることじゃないのは確かだ。

 鍔競り合いはどちらが優勢ということになることなく続いている。このドラコは少し驚いているようだった。小さくても私は()()。その身体能力を嘗めないでもらいたいものだ。

 

「ええと、麗しの……ドラコさん?どんなご用事で?所属と内容によっては力になれますよ。」

 

 どうやら、この口調はお好みではなかったらしい。また、姿が掻き消える。二歩下がり、三回の斬撃を刀を振るって逸らす。僅かに両足を地面から離して四回目をしっかり空中で受け止めて、その勢いを利用して大きく後ろに下がる。

 ついでにフードを外す。顔を隠すような仮面をしているわけでは無いけれども、無表情という仮面は残念ながら外せた試しはない。どうでもいいけどね。

 

「やっぱり、喋るときにフード被ってるのは良くないのかな。んん゛。……ロドス・アイランドってご存知?そこの……陽動、とかじゃなかったら通してもいいよ。」

 

 ついでに目的地を教えてくれれば人の少ない道を案内するけど、と付け加える。

 

「――お前は、その《変な奴等》の親玉なのか?」

「そういう質問狡いよ、私が質問してるのに。……まあ、いいけどさ。」

 

 隊列を組んだ幽霊達が、漸く追い付いた。50ぐらいやられているし、ここに全部居るわけじゃないけれど、100くらいはいる筈。狭い道を塞ぐように、幽霊達が互いを邪魔しないように、ぎっしりと。

 ただ単純な威嚇行為だ。戦えば幽霊達の被害は免れないだろうが、私がやられたとしても彼女の疲労は蓄積するだろう。

 それに50もやられてしまったのを補充するより、1から全部やり直したほうが比較的早く済むから、まあどちらに転んでもいい。早く済むと言っても、二時間程度寝かさないといけないのだけど。

 ついでに言えば、もう少しで()()()()()だ。寝ずの番は結構面倒である。

 

 ドラコの女性をちらりと見ると、表情が少し歪んでいるのがわかる。それに、さっきよりちょっとだけ息が上がっているのもわかった。

 

「――もう一度聞こう。ここで戦ってもいい。けれど、貴方がロドス・アイランドとやらじゃなけば私は時間の無駄遣いだし本来の目的を果たせないかもしれない。貴方は此処が目的地じゃない上に道中で力尽きるかもしれない。」

 

 売るなら売るで、それでよし。関係ないとしても、まあそれはそれで。陽動だとしても、通りそうな所には地下も含めて幽霊達が粗方潜んでいる。私が哨戒してる時間ならばわからない、ということはあまりないんじゃないだろうか。

 嘘なら嘘で、それを利用するまで。

 

「お前の提案が罠という可能性は?」

「え、あー。うん。それは大いにあるね。警戒して尤もだ。けれど、まあ、私の幽霊達が居る所は、幽霊に馴れてない他のサルカズ達はあまり近寄りたくないだろうし、実際今の時間のこの辺りは全面的に私が哨戒を担当してるから。」

 

 譲歩としての情報。そして、サプライズ。

 建物の上からどさり、と白く、そして黒い塊が降ってきて、何事もなかったかのようにそれはむくりと起き上がる。勿論、私の()()だ。屋根の上にも、逃げ場はないぞ、と。ついでに数に関してのブラフにもなるだろうか。

 

「……私はロドスの人間ではない。龍門の……いや。私は……。」

「その言葉に嘘はない。その先の言葉は私には必要ない。うん。成程?だったら通っていいんじゃない?」

 

 ドラコが言葉を濁したのを遮って、私は適当に言い放つ。そういう覚悟を決めるヤツは当人だけでやってほしい。横から見る分には格好いいけれど、その覚悟を決めた奴は話を聞かないしやりあうと途端に強くなったりするしで面倒なのだ。意味のない事はしない。

 

「司令塔まで一番距離が短いのはこの通りだけど、交差点を一、ニ、……七つ向こうまでが私の管轄、だけどそこから向こうはそうじゃないから、他のレユニオンとかサルカズ傭兵達とかめっちゃ多いよ。正面入口は輪を掛けてね。でもまあ、北側の裏口なら多少は少ないんじゃない?」

 

 ナイフと仕込み刀を仕舞ってやる気がないよというアピールをする。事実としてやる気はもうないのだけど。

 

「何故そこまで喋るんだ?」

「――全部予想。全然違うなら言ってくれてもいいよ。素直に喋ってくれたお礼も含めてるからね。」

「……いや、そういう意味じゃない。お前はレユニオンじゃないのか、という意味だ。」

「あー、うん。簡単な話、レユニオンだってひとつじゃないのさ。そしてそのうちのひとつ(サルカズ傭兵達)、そしてその偉い奴はレユニオンと道を違えることにした――ってこと。まあ私たちも同じように一筋縄じゃないってのはあるけど、その辺は比較的どうでもいいよね。」

 

 そう言えば、Wにペラペラ喋るなってよく言われるけど、まあいいか。必要経費というやつだ。

 幽霊達を退かせて、道を開ける。

 

「話せることはこんぐらい?それじゃ行ってらっしゃい。気を付けてね。」

 

 此方に注意を向けながら走り去っていくドラコを眺めながら、これからのことについて考える。本当ならば、Wに加勢してほしいとか、私も連れて行ってほしいとか言いたいところだった。が、当の本人に釘を刺されているのだ。私は遠くから見ていることしかできない。

 ああそうだ。幽霊に手紙を持たせて部隊の子達へ走らせるのもいいかもしれない。そして、哨戒を交代したらふて寝しよう。そうしよう。

 

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