The Trail of Flame   作:ささみささじ

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赫灼、焚き付けらるるは恋慕の火
06


 欠伸を噛み殺しながら延々と続く廊下を歩く。眠気は敵だ。

 ロドス・アイランドで目覚めてからというもの、非常に綺麗で柔らかいベッドで寝起きしているから、今までとは比にならない程に快適な睡眠が摂れているのだが、それ以上に快適過ぎて延々と寝ていられるという事件が発生しかけた。今までの夜営に関する悩みと比較しても、非常に贅沢な悩みなのだが、それ故に対処不可能であるので、結構深刻だった。

 いや、その他に悶々と考え事をし過ぎて寝不足、という線もあるかもしれない。

 朝は朝で、夜は夜で辛い。どちらにしても、贅沢だということには変わりはないけれど。

 

「……ええと、ガヴィルさん?次はなんの検査なの?」

「アーツ運用時の源石結晶励起状態における鉱石病の拡散傾向。端的に言うとお前のアーツが及ぼす鉱石病への影響だな。」

 

 暗くて狭くて変な音がする機械のなかで頭の中の写真を撮るとかいうよくわからない検査を受けて、その結果をなるべく真摯に聴いてから、今に至る。

 曰く、確かに脳内に結晶、それも小さくないものが確認できるけれど、結晶が脳組織を傷つけていたり、組織が変異しているなどは殆どないし、今のところ低い拡散傾向に注意していれば著しく悪くなる可能性は低いとかなんとか。

 で、次はその拡散傾向の、アーツを使う時のものを調べるらしい。話をしっかりと聴けば色々と繋がってくるのは面白い。

 

「成程?ずいぶんと歩いているけど……ますけど。」

「実戦レベルのものを実際に使ってもらうからな。ケルシー先生が屋内でのテストは危険かもしれない、と言っていたから屋外でやることになった。だから空いている滑走路に行く。」

 

 滑走路とはなにかはわからないが、文脈的に広い所ではあるのだろう。つまり、全力を出せ、ということだろうか。

 船にしてはかなり広いのに、そういう場所もあるのかと廊下を歩く。

 

「待て、その前に、一旦お前の武器とかを返す。こっちの部屋だ。」

 

 ぐい、と襟を引っ張られて、転けそうになりながら部屋に入れられる。

 鍵の掛かった頑丈そうなロッカーがずらりと並んでいるが、それよりも目を引くもの(見覚えのある装備)がテーブルに並んでいる。

 

「無いとは思うが、くれぐれも変な気は起こすなよ。」

「あー、そうか。そういう手もあるのか。」

 

 冗談っぽく言ってみたら、頭をがっしりと捕まれた。ミシミシという音が聞こえてくる。

 無理矢理頭の向きを変えられて、物凄く良い笑顔が視界に入った。目は全く笑ってないが。

 

「冗談でも()()()()()()()言うなよ?」

「わっ、わかだだだ――ッ!」

「わかればいい。」

 

 ぱっと放されて自由の身となるも、頭はズキズキと痛み続ける。冗談はこの人の前では止めておこう。頭がいくらあっても足りない気がする。

 

「……、武器。手に取ってみてもいい?」

「ああ、不備がないか確認してくれ。」

 

 痛みを我慢しながら、改めて並んでいる武器を手に取る。

 口径は同じだがデザインとか使い勝手とか違うハンドガン二挺。見た目はなんの変哲も無いけれど、直刀が仕込んであるアーツロッド。オリジニウム結晶が埋め込んである翡翠のナイフに、あとはスローイングナイフとかホルダーとか細々としたもの。全部私のものだ。

 そして、そのどれもこれもが手入れをしてある。正直、私がやる手入れなんかとは比べ物にならない程に綺麗だ。更に手に入れるのが面倒な弾薬も雑に使ってもいい程にあるし、これはもう何処へでもカチコミに行ける。

 

「――よし、これが最後。」

 

 白い、私より少し大きめのローブを広げる。地面と擦っていたおかげで裾が血と泥で汚れていたのだが、少し綺麗になっているような気もする。それに、血と汗の混ざったよくわからない匂いもしない。

 が、これは少し足りない。

 

「――あの、このローブ、指ぐらいの大きさのガラス瓶が四つぐらい括りつけてあったと思うんだけど。」

「すまん。アタシは知らないが……今必要なら訊いてみよう。」

「今必要って訳じゃない。けど、大事なもののひとつだから。」

 

 ガラス瓶は、確かにアーツの触媒として使えなくもないけれど、滅多に使うことはないから大丈夫だろう。

 

「わかった。伝えておこう。だが、……ローブを羽織るのは分かるが中が検査衣のままなのはどうかと思うぞ。」

 

 そういえば……外でやると言っていたことを思い出した。艦内は冷えはするものの猛烈に寒いというほどではないが、外はそうではない。今朝窓から外を見た限り雪が振っているわけではなさそうだけど、まあ寒いだろうというのはわかる。

 

「……。なるほど。着替えなきゃ。」

 

 で、その着替えは?とガヴィルさんの方を向いたら、大きくため息を吐かれて、テーブルを指差した。普通に置いてあった。どうやらローブの下に隠れていたらしい。

 これも、今まで着ていたものを洗ってくれてあるようだ。服に愛着があるわけではないがありがたい。

 

「さっきの廊下の突き当りから滑走路に出られるトコがある。着替えが終わったらソッコーで来い。アタシは準備をしてくる。」

「わかった。……いや、わかりました。」

 

 丁寧な言葉というのは少々苦手だか、色々と怖いので無理をしてでも使おうと思った。

 着る順番に並べ直して気付いた。流石に下着は新しいものらしい。どこがとは言わないが、真っ平らだからこういう時は苦労がない。もちろん、自虐である。

 着替えてから、ナイフホルダーを左腿に、銃は腰のベルトに、ローブを羽織り直して、アーツロッドを握る。スリッパから靴に履き変えて、準備完了。

 傭兵ということで、半分ぐらい諦めていたが、匂わないというのは結構気分が軽くなる。

 

 その気分のまま部屋を出て、先程言われた通りに、続く廊下を歩く。流石に迷いはしないけれど、ふと後ろを振り返る。

 ――一瞬だけ、赤いなにかが見えた気がした。幽霊とか呼んでるモノを扱ってる私だけど、よくわからないものと痛いものは怖い。今回は前者だ。

 少し急ぎ足で廊下を駆けて、その突き当たりにある外に出られそうな扉を勢いよく開ける。

 

 ぶわり、と凍りそうな程冷たい空気が身体中を撫でた。後ろを振り返る。特になにもいない。

 そこそこに広く舗装された敷地の端で、機材の準備をしているらしい人集りを見つけて、一息吐く。

 

 周りをぐるりと見渡す。高い建物もあれば、そんなに高くないものもあるけれど、似た高さの建物は高さは集まっているような感じだった。たぶん移動都市ほどに大きくはないけれど、それでも船としてはかなり広い。

 そして、その風景の中に、銀と赤の特徴的な頭のヤツが建物の屋上でなにかしらを眺めているのが目に入った。

 手でも振ってみようか、と挙げた手は、その後ろの白い人影が見えた途端にへたりと下がってしまった。

 

 ケルシー先生。昨日から、私の思考の片隅にずっと居座り続ける人物。そもそも、彼女に対して何を考えているのかすら言語化できない。

 本当に、よくわからない。何がわからないのかすらわからない。

 

 Wはケルシー先生と何を話しているんだろうか。そういえば、ロドス・アイランドという名前を、Wは昔から知っていた筈だ。もしかして、知り合いだったりするのだろうか。

 考えれば考えるだけ何故か少し気分が沈む感じがするが、Wにケルシー先生のことを訊いてみるのもありかもしれない。色々と整理出来るかもしれないし、何か有用な情報が得られるかもしれない。

 

 とりあえず、人集りの方に向かう。また頭を掴まれるのは勘弁願いたい。

 

 

 

 




ヘリも航空機も持ってるから滑走路とかヘリポートとかある……はず!
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