担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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一章
出会い


───速い速い! 後続を追い払いただ一人突き進む! もはやバ身では表せない!』

 

風を切って大地を蹴って。

 

『今ゴールテープを切りました! 伝説のウマ娘としてこの世に名を轟かせましたぁ!!』

 

めっちゃかっこいい。

俺もそうなりたかった。

ただでも、俺はウマ娘じゃないから。

 

「ぜったいなるんだ……トレーナーに」

 

そんな人を、育てる側に回ろうと思った。

 

 

 

 

トレセン学園。

正式名称は「日本ウマ娘トレーニングセンター学園中等部高等部」。

数多くのウマ娘が在籍し、数多くのレースへと排出している超有名なトレーニング施設。

そんな学園に、新しく所属するウマ娘がいるらしい。

 

「この扉の向こうに、その娘が?」

「はい。トレーナーさんが担当するウマ娘になります」

「なるほど」

 

カラカラカラ、と扉を開けると、不安そうに座っていた人影がびくりと跳ねた。

 

「驚かせちゃってごめん。まずは、入学おめでとう。今日から、君の担当をするトレーナーだ」

「は、はひ……」

「よろしくね、ハリボテエレジー

 

そのウマ娘は頭にでかいダンボールを被っていた。

明らかに手作りのダンボールメットに黒ビニールテープで視界を確保か。

個性が強いトレセン学園でもトップに入りそうなウマ娘だなぁ。風の抵抗とんでもなさそう。

 

「は、ハリボテエレジーです。得意なのは短距離と直線です……よ、よろしくお願いします!」

「いい脚を持っている。しなやか筋肉だな」

「あ、はい……」

 

おずおずと下げられるダンボールフェイスに気圧されるが、それよりもスカートから出ている脚が先に見えてしまった。

これでもウマ娘トレーナー、その脚を鍛えるための職業についた者。

いったいどれだけの地面を蹴ってくればこんな脚になるのか。いいやあ、いい脚ですねぇ。

 

先程驚いて飛び跳ねた割にはもう足の震えが治まっている。あんがい図太いのかもしれん。

 

「ハリボテエレジーちゃんはまだこの学園で日が浅いです。本日トレーナーさんには、この学園の案内をお願いしたいんです」

「たづなさん。俺も新人です。ここ専属になってまだ半年も過ごして無いです」

「今日はメインとなる設備の案内だけで大丈夫です。詳しい案内は後日、他のウマ娘や新人トレーナーさんも交えて行われます」

 

そうですかぁ……。

つっても購買とかプールとかしかわからないし、まずプールは行きたくない。水かけられるからな。

 

「行きたいところ、ある?」

「ぐ、グラウンドって、どうやって行くんでしょうか?」

「グラウンド? ……わかった。案内しよう。じゃあたづなさん、これで」

「はい。ハリボテエレジーちゃんはかなり特殊な例でサポートなどが遅くなるかもしれませんが、よろしくお願いします」

「ハリボテエレジーがトレーナー変更を望まない限りは!」

 

軽口を叩きつつハリボテエレジーに立つように促すと気弱そうに「ひゃい!」と飛び上がった。

その姿はなんだかあのヒーローのウマ娘と被る。こんど会わせてみよう。

 

「ハリボテエレジー」

「は、はい、なんでしょうか」

「コースへ着いたら、一度走ってみてくれないか。急な話で悪いが、君のトレーナーを担当する以上、タイムや実力が知りたい」

「わ、わかりました……失望しないでくださいね」

「どれだけ自分に自信がないんだ……?」

 

どうやら人見知りではないらしい。単純に気が弱いだけか。

その割にはしっかりとした足取りで、自らに好奇の目を向けるウマ娘に挨拶を返している。

図太い……いや、芯がある、のか?

どもったりはしているが震えてはいない。謎だ。

 

「その兜は自作か?」

「えっと、お母さんが作ってくれました。自分で作った物もあるんですが、トレーナーさんに会うということで、一番綺麗なお母さんのを選んだんです」

「へぇ……ちなみに素顔って見れないのか?」

「むっ無理です無理です! 私、人見知りで……!」

「なるほど。じゃあ良い。俺がハリボテエレジーにとって他人じゃなくなったら見してくれな……っと、ここ通ったらコースだ。更衣室はあっち。体操服、持ってるか?」

「あ、はい。カバンの中に」

「よし。先にコースで待ってるわ」

 

ハリボテエレジーが一礼して更衣室へ歩いていく。

この通路。この暗さ。誰かが芝で走っているのか、ここまで響く地を蹴る音。

心臓が高鳴る。今、誰が走っている?力強い音だ。

ワクワクして、歩む足を早めてしまう。

そして、陽の光が俺を照らした時。

 

「はいよっと! ……えー、ベストタイムから三秒遅れ!」

「えぇぇぇぇ!? なんでぇえええええ!?」

 

一陣の風が俺の目の前を走り抜きゴールを通過した。

ゆるやかに減速していくウマ娘は茶色のポニーテールとメッシュが()()()()……()()()()の、我らが英雄、トウカイテイオーだ。計測役としてゴルシがいる。

 

「順調か?」

「ぜんっぜん! ……トレーナー、ずいぶん久しぶりじゃない?」

「さんをつけろお前のトレーナーじゃないんだから。……たしかにそうかもな。悪い」

 

汗を拭うトウカイテイオーに返答を返しつつ、どうしてもトレーナーの性でめっちゃアドバイスしたくなってしまう。

ウズウズしてることに気づいたトウカイテイオーが俺の言葉を待っている。お、さては絶好調?

 

「最後しか見れてなかったけど、さっきの走りは少し適当に感じたな。もう少し持続力を上げて、集中を最後まで維持してみよう」

「なるほどね! いやー、コンディションばっちりだし、今日はいけると思ったんだけどなぁ……」

「蹄鉄の重さ、見直してみるか?」

「そうだねゴルシ! 参考までにゴルシの───」

 

本当に、ウマ娘ってのは走りに真摯でまっすぐで、惚れ惚れする。

走ることが大好きで、見ていて気持ちがいい。だからトレーナーになったんだ、俺は。

暗い過去とか、天から授かった才能とか、そんなのいらない。ウマ娘の走りを見ていれればそれで構わない。

 

このトレセン学園。ウマ娘の名門校として名が高いが、ということはもちろん所属するトレーナーも多い。

つまりトレーナーの名門でもあるわけだが、やはりというかなんというか、トレセン学園のトレーナーになるためにはある程度の成績が求められる。で、成績が良いトレーナーはその……かなり、個性が強い。

 

そりゃもう、毎日アメ咥えてたりとか、肌黒くてサングラスで声が渋いとか。

 

とにかく、俺は成績そこそこのトレーナーだったが、ちんちくりん理事長との面接で上記の理由(ウマ娘の走りを見ていれれば〜の部分)を申し上げましたところ「感銘ッ!!」と内定もらったんすよ。へへ、これ俺の自慢できるところね。

ま、世のトレーナーはがんばんなきゃって血吐いたり勉強ばっかしたりしてるけど、俺みたいな奴もいるんだから気楽にいっておっけーってことよ。

 

「テイオー、これ重すぎねぇか? 走れんの?」

「ヨユー、ヨユー! なんなら今から一本……んお?」

「…………」

「見ねえ顔だな。誰だおめ?」

 

どうやらハリボテエレジーの着替えが終わったようだ。

カンカンと蹄鉄を鳴らし、ダンボールを揺らしている。

 

「着替え、終わりました……」

 

ただしすっげえおどおどしてる。

 

「トウカイテイオー、ゴールドシップ。紹介するよ、今日から俺の担当ウマ娘になるハリボテエレジーだ」

「よ、よろしくお願いします」

「エエエエエエ⁉︎ トレーナー、タントウトレーナーニナッチャッタノォォォォ⁉︎」

「ほえー……何それどうやって作んの? 後で教えろよ」

 

うむ、二人はそこまで悪い印象は得てないみたいだ。

トウカイテイオーはかなり面食らっているが、お前はトレーナーがはやく欲しいだけだろ。

 

「す、すごいです……これが、芝……!」

「あぁ、レースは基本的に芝が多い。脚質が合わなければ他のレース場にもいけるが……どうする?」

「走ります! 走りたいです! 私、走ったことないんです!」

「よし」

 

興奮冷めやらぬといった様子。なるほど、芝は初めてなのか。

ゴルシからストップウォッチを受け取ると、ハリボテエレジーが位置につく。

と、ここでトウカイテイオーがぴょんこぴょんこした。なんじゃ。

 

「ボクモハシリタイ!」

「お前はさっき走ったばっかだろ。しかもかなりスピード出して。休息はしっかりとらないとまた骨が折れるぞ〜」

「ウッ。ジャアゴルシ!!」

「んあ? なんだよ」

「ボクノカワリニハシッテヨ!!」

「はぁ!? なんで……」

「わ、私ゴールドシップさんと走りたいです!」

「いいじゃないかゴルシ。久しぶりにお前の実力が見たい」

「んあぁ〜??? ……ったく、一回だけだぞ」

 

しぶしぶと言った様子でゴルシがハリボテエレジーの隣に立った。

足をぐねぐねとさせて不服そうだが、やる気が無いと立ってさえくれないので今日はかなり調子が良い方なのだろう。

 

「言っとくが、新人だからって手加減しねぇかんな」

「は、はい!」

「それじゃあ、いっくよ〜!! イチニツイテ!! ヨ〜イ!! どんっ」

「「ッ!!」」

 

さあ両者一斉にスタートしましたプライベートマッチ。

先頭はハリボテエレジー、その後ろをゴールドシップが追って走る。

ゴールドシップが出遅れないのはとても嬉しいこのレースだが、はやくもハリボテエレジーが加速し始める!

地面を蹴って……おっとゴールドシップ、目に土が入るのを紙一重で避けた!! これは熱い戦い!

 

「……なんかゴルシの体勢おかしくない?」

「目に土が入ることを避けたんだ。それでもスピードは維持できているのはゴルシの長所だな」

「ふ〜ん。でもさ、ハリボテエレジーって言ったっけ。あの子、なんか「遅い」遅くな……うん」

 

外から見ているトウカイテイオーが気づいているのだ、きっと今後ろを走っているゴールドシップも同じことを思っているだろう。

一周一本、トウカイテイオーが走っていたようにここは平均的な長さ。

彼女は短距離と直線が得意だと言っていたが……。

 

「さて、最後のカーブ……なっ」

「うそ、減速した!? なんで!? それじゃ簡単に追い抜かれちゃうよ!!」

「あぁ、ゴルシも簡単に追い抜かし……ほら言わんこっちゃない」

 

あろうことか最終コーナーで減速したハリボテエレジーは簡単にゴルシに抜かされ、ゴルシは勢いそのままにゴールテープを切った。

そこから5バ身……これだけ離れていると計測が逆に難しいが、かなり離れてハリボテエレジー。

そこでストップウォッチを押した。

 

「……えぇ……ウソだ……」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」

「ウマ娘にしてはかなり遅いタイムだ。直線で加速していたようにも見えるが、それも微々たるもの……」

「言っちゃ悪いけど、負ける気がしないよ」

「……まぁ……な……」

 

頭の中をトレーニングメニューがめぐる。

が、あまり効果が期待できそうにない。素質はいいはずなのにもったいない……。

 

「うっす」

「どうだゴルシ」

「控えめに言って第三惑星」

「やっぱ遅いよな……」

 

この距離、なおかつ最終コーナーで減速しているのに既に息切れしているハリボテエレジー。

スタミナ、スピード無し。パワーと根性だけで走っている節があるな。

よし。

 

「ゴルシ。これから先もハリボテエレジーのトレーニングを頼むことがあるかもしれん。頼めるか?」

「アタシ? なんで? テイオーじゃダメなん?」

「トウカイテイオーは……早すぎるから……」

「チョット! ナンデハヤイコトガワルイミタイニナッテルノサ!!」

 

あとは……うん。

トレーナーがまだついていないヤツなら、きっとハリボテエレジーの競争相手になるはずだ。

なにはともかく、ハリボテエレジーのステータスを平均まで押し上げる。

それが優先すべき事項だろう。

 

「ハリボテエレジー」

「は、はひ……」

「今の走り、どうだった? 自分で何か思うところは」

「ご、ゴールドシップさんみたいに力強くないし、トウカイテイオーさんみたいに速くなかったです……ふぅ……」

 

一息ついたハリボテエレジー。

ダンボールフェイスの表面を微妙にしっとりさせながら、ちゃんと俺の目を見て言いやがった。

 

「でも、気持ちよかったです!」

「ほぉ……」「ヘェ?」

 

うぅん。

負けて尚、走ることが気持ちよかった、って言うかぁ。

はっきりいって才能は無い。才能はないんだが……。

 

「ねぇトレーナー? トレーナー、いつもなんか言ってなかった? ほら、ほらぁ!」

「ニヤニヤすんな。……『楽しめることが一番の才能』ってやつだろ。……まぁ……」

「ご、ごくり……」

「ウマ娘に一番必要なものは、ちゃんと持ってんじゃないか……と、思う」

 

トウカイテイオーがハリボテエレジーに抱きつく。

表情は読めないが、ハリボテエレジーも嬉しがっていると思う。

なんとなくそんな気がした。

 

「おい」

「ん」

「見込み、ありそうじゃねえか」

「これからわかることだ。それまでは、同じ追い込み・差しタイプとして指南してやってくれ」

「しゃあねえなぁ……」

 

新しく担当するウマ娘は、才能が無くてただ走ることが好きな少女だった。

しかも、なんの理由かダンボールをかぶってやがる。

ただ、でもちょっとだけ。

初めてダービーを見た時のような高揚感を感じてしまったのは気のせいじゃないだろう。

 

「無敵のエレジー伝説、これからスタートだぁ!!!!」

「お、おー!」

 

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