担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
アークインパクトが俺たちに誘った交流会。
とうとうその日がやってきた。
早朝トレセン学園の正門前には、俺たちの他にもウマ娘やトレーナーがわいわいがやがやと集まっている。
スマホの時計は時刻4時を指していた。
ハリボテエレジーはこういう時目立って良い。すぐに場所がわかるから。
「おっ、バスだー!」
ウマ娘が声をあげる。
彼女の指差す方向からバスが三列並んでやってきた。すでに乗車しているウマ娘もいる。
バスの正面には、えー……トレーニングセンター総合交流会。
え、そんなデカい物だったの?
「この度はトレセン学園の代表としてお集まりいただき、誠にありがとうございます。企画、そして一号車ガイド担当の田島と申します」
トレセン学園の代表なの???
「これから、合宿の形で貸し切りの訓練場へと向かって行きます。各自お手元にある座席番号の場所へお座りください。各ウマ娘とトレーナーの着席が確認でき次第、出発致します」
座席番号……?
バッと横を見るがハリボテエレジーも見当がつかないらしい。
慌てて他のトレーナーたちを見ると、各々チラシを持っている。
ハリボテエレジーがやってくる! とかふざけた売りを書いたチラシだ。
もらったものを取り出して見てみると、裏にバスと座席の番号が。
気づかんわこんなん。
ハリボテエレジーとバスに乗り込み待機。
ウマ娘は後ろでトレーナーは前。まあ教員だからな。
チラリ横目でメンバー確認。お、ナイスネイチャとかダイワスカーレットもいるじゃん。
結構ほいほい声をかけているのかも知れない。
「お隣失礼します」
「あ、どうぞどうぞ」
好青年っぽいトレーナーだ。若草色のパーカーやスニーカーといったラフな格好が眩しい。現代っ子やあ……。
「ハリボテエレジーさんのトレーナーさんですよね。よろしくお願いします」
「これはご丁寧に……若いのにすごいですね、トレーナー、結構過酷じゃないですか?」
「若いって……おんなじ十代じゃないですか」
「え」
「え?」
…………。
十代……? 大学生トレーナー……? イケメン……?
「こ、怖……大学生イケメントレーナー怖……」
「お、同じ研修生かと……違うんですか!?」
「25っす……」
「19です……」
「若……」
「いや若いのはそっちですよ!! なんでそんな若々しいんですか!?」
「にっ、25歳舐めんな! まだまだ現役っすから!!」
っていうか19ってなに!? そんなん名家のトレーナーしかいなくない!?
アメリカ行ってスポーツ医学とかいろいろ学びに行ったやつ! トレーナー界の天才児ってやつ! 19ってそのレベルだろ!
「な、仲良くしてくださいね!? 僕アメリカから帰ってきたばかりであまり友達いないんですよ!」
「切実ですね! よろしくお願いします!!」
本人じゃねえか!?
お互いびっくりしつつ硬い握手を交わす。
後ろに乗った他のトレーナーさんはクツクツと笑いを堪えたり青年の年齢に目を丸くしたりしていた。
「ひゃー……怖いわぁ……」
「すごい若作りですね……お見それしました」
「やめてくださいおじさんは悲しくなってしまいます」
イケメンスマイルやめろ。自分が周りより童顔っぽいのは自覚してるけどそこまで顔良くないんだから。
「じゃあお酒とか飲めないんですね」
「成人しても飲みませんよ。お酒が絡むとロクなことが起きないって学んでますから」
「本当にっすか……? あれは一度飲むとなかなかやめられませんよ……?」
後ろのトレーナーがうんうんと首を振る。
ですよね、そうですよね。
だって俺も大学の頃はお酒飲まないって決めてたもん。でも社会に出て缶ビールを一口飲んでからこうなってしまったんだよな。
最近こそトレーナーの仕事があるから飲んでないけど。
「それでは出発いたします。振動にご注意ください」
「ウッ」
「めっちゃ急発進するじゃんワレ」
ガクンと揺れた車体。シートベルトが腹に食い込んだのか隣の青年がお腹を押さえる。
「では、トレーナーの皆様、自己紹介などお願いできますか?」
「すいませんその前にこの人にエチケット袋を」
「だ、大丈夫です、びっくりしただけなので」
シートベルトを外して青年が立ち上がる。
ウマ娘から歓声が上がった。やはりイケメンは強い。
「研修生トレーナーの
おお。さすがイケメン。爽やかだな。
「では、マイクどうぞ」
「俺すか。えーと……こんにちキーン!!!!」
ハウリングしやがった。
こっちは恥をかいたが、笑ってくれたからそれでいいか。
「ええと、ハリボテエレジーのトレーナーやってます。アークインパクトからチラシもらった時は胡散臭いと思いましたが、これだけのウマ娘がいると良い走りを見られそうです。良い走りを見るのが好きなんでトレーニングも全力でやろうと思います。よろしくお願いします」
……ぐ、やはりイケメンよりも拍手が小さい! なんで「マジかよこいつ」みたいな目をしてるんだ!
しくしく。おっさんは引っ込んでますようだ。
マイクどぞ。
「あ、はい……えっと……さっきのトレーナーさんがすごいカミングアウトしたから見劣りはするけど、一応私もお呼ばれしました〜、一号車での紅一点トレーナーの
歌のお姉さんみたいな元気さ。拍手も多い。
「くそう……どうせ俺は……」
「あの……アークインパクトさんに招待されたんですか?」
「え? あぁ……ショッピングモールで渡されました」
「直々に招待を……招待券の売りに書き出されるくらいですもんね。さすがです」
は? なんなんあのウマ娘? そんなすごいやつなの?
不器用ウーマンにしか見えなかったんだけど?
「えっと……最後に
天然そうな大男。
こいつもこいつでイケメンじゃないか。なんでトレーナーはイケメンが多いんだ。
優しい山男って感じ醸し出してんじゃないよ。頭ぶつけるよ……ほらぶつけた。
なんとも濃いメンツだ。まともなのは俺だけか。
後ろのバスにも個性強いトレーナーやウマ娘が乗ってるんだろうなぁ……。
「それではトレーナーの自己紹介が終わりましたので各自現地に着くまで準備をしていてください」
その瞬間、押さえ込んでいたのか場が一気に姦しくなる。
言いたいこと、聞きたいことがあったのだろう。
苦笑しながらスマホを取り出す生芝トレーナーを横目でチラリと見てみると、ロック画面が目に入った。
「そのロック画面って……」
「あぁ……僕が初めて会ったウマ娘です。この娘を見て、僕はトレーナーになろうと決心したんですよ」
「へぇ。家の方針とかじゃなくて?」
「それもありますけど……やっぱり変ですかね?」
「いや。俺も同じ動機でトレーナーになろうと思ったんで、誇れることだと思いますよ。立派じゃないですか」
「そ、そうですかね? ありがとうございます……ところで、その、動機になったウマ娘って誰なんですか?」
あぁ。動機になったウマ娘ね。
……ええと……。
「名前……忘れました」
「あぁ……」
少し悲しそうな顔をする生芝トレーナー。君は良いやつだ。
「まぁ、この業界にいる以上いつかは思い出しますよ!」
「そうですね。俺もそう思います」
そんなやりとりを交わしていると、後ろの方がどっと沸いた。
高砂トレーナーが変顔したらしい。
「楽しそうですね、彼女たち」
「仲良きことは美しきかなって言いますからね。ハリボテエレジーも馴染んでいるようで何よりです」
「……なかなかに奇抜な格好ですよね彼女」
「それ、初めて会った時の俺と感想全く同じですよ」
後方座席でわいわいと話し合う声を聞きつつ、俺は目的地まで眠りにつくことにした。
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