担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
「ゴルシちゃんキーック!!」
「集会場の壁が!?」
突如現れた謎のウマ娘が壁をぶち抜いた!!(サブタイ回収乙)
「じゃあな!」
「あいつ何しにやってきたんだ……?」
「こ、工作得意なので直しときますね……ふん……重……」
ハリボテエレジーのパワーが20上がった!!
つってもさすが工作上手○。
見事壁を修復してみせた。短時間でよくやるわ。
「すみません、このスポーツドリンク、いくらですか?」
「交流会のチラシはお持ちですか?」
「あ、はい……これですか?」
「確認いたします。……はい、大丈夫です。交流会に呼ばれている人なら無料でご提供いたします」
瓦礫撤去で汗をかいているハリボテエレジーへの差し入れをしようと思ったんだが無料らしい。
まじかよアークインパクト。サービス行き届いてんな。
ストローつきボトルを受け取ってぽいとハリボテエレジーに投げるとわたわたしながらも受け取ってくれた。
「んぐ、んぐ……ぷは。それで、どんなトレーニングをすればいいですか?」
「そうだな。あそこの貸し出し無料って書かれたタイヤをロープで腰とつないで引っ張る」
「なるほど」
「具合を見て量を増やすぞ。すいませーん! タイヤ二つ貸してくださーい!!」
こうして、ハリボテエレジーの特訓が始まった。
「えっほ、えっほ……」
「大丈夫そうだな。じゃあ6つ目にいこう」
「は、はひ……!」
「私も増やすー!」
「おっ、ハルウララは8つ目か」
「ぐっ……トレーナーさん、もう一個お願いします!!!!」
「ぜ、ん、りょ、く……!」
「おぉ、まさかあのでっかいタイヤが動くとは思わなかったな。ダンプカーにも使えないタイヤって、なんのタイヤなんだアレ」
「おおおおおおお!」
「もう少しですわよハリボテエレジーさ……きゃあ!?」
「あっ、上にいたメジロマックイーンがタイヤの穴に落ちたぞ! 生芝トレーナー、ロープください!!」
「暗いですわ〜、怖いですわぁ〜……」
「マチカネタンホイザのドキドキ☆瓦割り講座〜」
「ぱちぱちぱち!」
「良い? 瓦割りっていうのはね、『えいえいむんの呼吸』でやるんだよ!」
「えいえいむんの呼吸?」
「見ててね〜。えい、えい……むんッッッ!!!!」
「す、すごい……15枚重ねを、一撃で……!!」
「さ、やってみよう!」
「え?」
「さ、やってみよう!」
「…………」
「うさぎとび!」
「はいっ!」
「一気に五段!」
「はい! ……はい?」
「せーのっ!」
「あっちょっ、待っ……うぐっ!? 痛ぁ……」
「スタートダッシュのコツを教えてください!」
「おういいぜ! スタートダッシュってのはな……」
「あんたが何を教えられるのよゴールドシップ!」
「この
「そう。ネイチャさんがお手本するね……っ、ぷぅ〜……ッ! はぁ、はぁ……あれ? できちゃった」
「な、なるほど、やってみます。えい、えい……むんッ!!」パァンッ
「……できちゃうかぁ……そっかぁ……」
「『えいえいむんの呼吸』ですよ!」
「聞いたことあるなぁソレ……ううん……」
そんなわけで。
ハリボテエレジーはパワーやスタミナ、基礎体力を磨いた。
重きに置いたのは走り込みなどではなく、この場でしかできないトレーニングをしたこと。でかいタイヤなんて滅多に無いからな。
結果。
「ウララは敗北を知りたい……」
ハルウララがマッチョになった。
なんでだよ。どこからきたんだよその筋肉。もうお前ナツマッサカリに改名しろよ。
でその体躯で可愛い声出すんじゃないよ。癒されちゃうだろうが。
……とまあ現実からは目を背け。
ハリボテエレジーは順調にその才覚を伸ばしている。
コーナーで曲がれるようになることが一番の課題かもしれんが、本人が「カーブにはトラウマがあって」と言うのだから仕方がない。気持ちの問題だろう。
とにかく、普通の追込ウマ娘レベルには成り上がったのだから驚きだ。
呼吸の仕方に謎のクセが付いているが、デメリットではないと信じたい。
なにより成長が目覚ましかったのは、スタートダッシュだった。
「行きますよ。……はいっ!」
「ッ!!」
バン、と破裂音が響く。
ドラマでみた銃の発砲音のような力強い音は、ハリボテエレジーが踏み込んだ時の音。
メイクデビューのときも聞いたことがある気がする。
「やっぱ速いよね! どうやってスタートダッシュで踏み込んでるの?」
「そんな脚があるなら逃げでもいいんじゃない?」
「後ろからあの音聞こえたらビビりますねェ……」
それに、奇抜な格好も馴染んできたようである。
『ウマ娘とトレーナーの皆様、第一日目がまもなく終了致します。宿泊をご予定の皆様は集会所にて確認を……』
振り向けば、茜色の空を太陽が沈みゆく様が見えた。
そろそろ潮時か。移動を考えるとこれ以上ここにいられないだろう。
「ハリボテエレジー」
「私は、素顔が見られてしまうかもしれないので……他の人と過ごすのは……」
「わかった。人見知りも大変だな」
俺は……どうしようか。
このままここに残ってみるのも勉強になっていいだろう。
けれど、一人で帰るハリボテエレジーの気持ちを考えたらどうだ?
少なくともいい気持ちはしないだろうな。
「……もったいないが、俺も帰るかな」
「えっ。トレーナーさんは残ってても全然大丈夫ですよ!?」
「いや。今はお前に集中したい。たしかに他のウマ娘を見るのもアイデアが出るだろうけど、お前がいなきゃ意味ないんだよ」
「そ、そうですか……へへ……じゃあ……帰りますか?」
ハリボテエレジーの尻尾は見えない。
曰く、昔引っ張られたのが嫌になって巻いているのだとか。
それでも、ハリボテエレジーが尻尾を揺らしているように見えた。俺も、トレーナーとしてレベルが上がってきたと言うことだ。
タクシーに荷物を乗せていると、後ろから生芝トレーナーが追ってきた。
「ここでお別れですか」
「そうですね。ありがとうございました」
「いえいえ。……あの、実は僕、ハリボテエレジーちゃんを目標にしてるんです。絶対に勝ちたいので。だから……いつか、僕が育てる予定のウマ娘と勝負してくださいね」
「あっ……はい!」
生芝トレーナーはまだ担当ウマ娘を持ってないのか。
じゃあ……ちょっとだけ助言を。
「生芝トレーナー。トレーナーとしてレースに出すためには、最低四人は同時に見れないといけないですよ。チームを組むんです」
「はい。がんばります。いつか、必ず! これアドレスです」
「どうも。……じゃあ、また。高砂トレーナーと樹トレーナーにもよろしくお願いします」
「はい!」
「では、お先に。行こう、ハリボテエレジー」
「はいっ!」
タクシーに乗り込んで中央トレセンまでと伝える。
生芝トレーナーが頭を下げて送ってくれている。
良い子やあ……あの青年良い子やぁ……。
「……早い一日でした」
「ま、交流会って名ばかりの合宿、それの三分の一だし? 早くも感じるだろ」
「そうですね。なんだかとっても疲れちゃいました。……でも、この交流会で、かなり強くなった気がします。ようやくその、スタートラインというか、勝てる武器を手に入れたというか」
「アドバンテージ?」
「そうです、アドバンテージです。だから……頑張れば、安定して一位が獲れるんじゃないかって」
そう簡単にうまくいくもんか。
でかかった言葉を呑み、今はハリボテエレジーの気分を良くさせておこうと頷く。
一度の交流会で一位を獲れるほどレースは甘くない。何度も何度もレースを見てきたんだ。ウマ娘じゃない俺にだってわかる。
ただ……今のうちはまだ、メイクデビューを余韻に浸らせてあげたい。
『あなたは甘い。今この場の誰よりも甘いですわ』
メジロマックイーンの言葉を思い出す。
たしかに、今の俺は甘いのかもしれない。数年前の俺が見たらロケランでも撃ち込みそうだ。
勝ったからと言って油断しちゃならないんだ。
「……勝って兜の緒を締めよ、ねぇ」
「トレーナーさん?」
「ハリボテエレジー。明日、レースに出られるか」
「あっ、明日ですか!?」
「あぁ……交流会で得た能力を見てみたいんだ」
「わ、わかりました。がんばります」
ハリボテエレジー。
お前は今、何ができる?
俺は何を育てればいい?
それを、教えてくれ。
ハリボテエレジーは、ダンボールの黒フィルム越しに俺を見つめている。
相変わらず何を考えてるかまったくわからん。
「……トレーナー」
「ん?」
「チームって、なんですか……?」
ごくりと、喉が鳴る。
「お前はさ」
「はい」
「トレーナーに、見ず知らずのチームに勝手に入れられているって知ったら、それを許せるか?」
……。
…………。
◇
「トレーナーに、見ず知らずのチームに勝手に入れられているって知ったら、それを許せるか?」
どうなんだろう。
トレーナーさんが生芝トレーナーに言っていた、レースに出るにはチームを持たなきゃいけないという言葉。
私はチームに入った記憶がない。
「もし自分のトレーナーがクズで嘘つきで、お前に伝えてないことがたくさんある胡散臭い男でも、許せるか?」
……大丈夫ですよ、なんて言葉は安易に出せない。
トレーナーが何を抱えているのかわからない。
これは踏み込んじゃいけない事だったんだ。
私はただ、走り切るのが仕事。
走ること以外にトレーナーさんのことに踏み込んじゃいけないんだ。
きっと私は、トレーナーさんにとって……。
◇
『トレーナーとウマ娘はビジネスパートナーってわけじゃないんですから』
ああクソッ。
何を甘えてるんだ。
こんなんじゃ意味がない。
これをしろ、あれをしろ。トレーニングしたらレースに出ろ。他は何も知るな。
そんな考えで頂天が獲れるか? そんなわけないだろう。
「……レースだ」
「…………」
「お前がJWCで一番になったら、全部話す」
◇
JWCで一番になるまでは、何も知ろうとするな。
◇
そんなことが言いたいわけじゃないんだ。
◇
私にはそう聞こえた。
◇
俺はそんなつもりで言ったんじゃない。
「……俺は……」
「一番、ですね」
「……あ?」
「一番になったら教えてくれるんですね」
俺は担当の子になんてことを言わせてるんだ。
ごめんなさい。
許してください。
全部話します。
でも俺は、そんなことが言えるわけなく。
「……あぁ」
震えた声で、言うしかなかった。
私はこんなシリアス展開にしたくなかった。
だれか牛乳持ってこい。ぶっかけて美味しくモーニングにしてやる。