担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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2回目のウイニングライブ

暗闇の中、画面に紫色の背景が灯る。

 

「おっ、トレーナーじゃん。やっぱ観客席にいるんだね」

「当たり前だろナイスネイチャ。我が子のライブだぞ」

「んんんいつのまにあの子はトレーナーさんの娘になったのかなぁ?」

 

白を基調としたパフスリーブのセーラー服のウマ娘が俺の隣に立つ。

興味本位でちょこっと寄った感覚だろうか。

 

「合宿の帰り?」

「まぁね。普通にトレセンに帰ろうと思ったんだけど、途中で横切った時に気になってさ。おめでとう、一着じゃん」

「その気持ちは俺じゃなくてライブのハリボテエレジーに言ってくれ。俺のうちわを貸してやろう」

「いやサイリウムで充分だし……」

 

俺の差し出した「えれじーこっちむいて♡」と書かれたうちわは優しく押し戻された。解せぬ。

ナイスネイチャがポキポキと折り始めたサイリウムはライブを見に来たら入り口でもらえるもの。消費型だが経費を考えるとしょうがない。

 

「じゃあはっぴだけでも」

「本ッッッ当にエレジーが大好きだねぇ。ちょっと妬けちゃうよ」

「あ? ならお前も走ればいいのに」

「……あはは、なんのことやら」

「お前が走れば、俺は当然それを応援する。勿体無いぜ、お前ほどのウマ娘が」

 

コイツにもコイツなりの事情があるのはわかる。

けど、けどさぁ……!

ナイスネイチャって可愛くない!? 可愛いよね!? 走ってもらいたいよね!?

ナイスネイチャは可愛い。異論は認めないってアグネスデジタルも言ってた。

 

「ま、好きにしたらいい。でも……」

「でも?」

「壮観だぞ、この景色。ここにいる人が全員、パクパクムシャーの三着を、サイキョウモロヘイヤの二着を、そしてハリボテエレジーの一着を祝いに来てる。……きっと、ライブをする側から見たらもっと嬉しく感じる光景なんだろうな」

「…………そうかもね」

「っと、始まるぞ」

 

ハリボテエレジーがセンターに立つ。

もちろんダンボールは被っていた。ブレないやつである。

ダンボールの内側にマイクを仕込んでいるのかいないのか。くぐもっていない清らかな歌声が聞こえてきた。

 

 

 

心に誓ったのは『最速』の2文字!

 

限界のその先まで駆け抜けたウマ娘たちが本能のままにシャウトする!

 

 

 

 

 

歓声が聴こえる。

胸いっぱいに会場の雰囲気を詰め込んで、お返しとばかりに歌で返したら、さらに上をいく熱量を返してくれた。

この曲好きだなぁ。疾走感があって。

 

観客席に向けて手を振っていると、サイキョウモロヘイヤ……モロちゃんが私のとなりに立った。

なんじゃろうかと首を傾げているとパクパクムシャーちゃんも反対側に立つ。

まるで何かを期待しているかのように。

モロちゃんが声を上げる。

 

「なにか、言い忘れてることは無いかしらーっ!?」

「ライブはまだ終わりじゃないらしいよぉ〜っ!!」

 

二人が私に耳打ちする……ダンボール越しに。

あ、なるほどぉ!

な、なんだろう、この最後の一声、私が言っちゃって良いのかな。ええい、言っちゃえ!!

 

「それじゃあみんなで、せーのでコール、お願いします!!」

「「「せーのっ!?」」」

 

 

 

アンコールッ!! アンコールッ!! アンコールッ!!

 

 

 

男の人の声も、女の人の声も聴こえる。

紫色のサイリウムが波を描き、それはかけがえのないエネルギーになって私の脚を動かしてくれる。

瞬間、後ろに紫色の近未来な背景が映し出され、モロちゃんが大きくジャンプした。

 

「おっけー、それじゃあさっきの曲の二番目、今度はラスサビも含めて最後までいくわよーっ!!」

 

えっと、さっきの曲の二番目だから歌うパートは……っと始まっちゃった!

パクパクムシャーさんが観客席に向かって手を突き出す。

汗が飛ぶ。

 

ライブって、楽しい!

教わった振り付けを踊りつつ大声で歌って、今、この場は私たちの独壇場!!

この景色、さいっこう!!

 

「───…………」

 

気づけば間奏。ラストのサビまで繋げる歌詞のない部分。

あ、奥の方にトレーナーさん発見! 投げキッスしちゃお!

 

わああああああああああッ!!!!

 

……えぇ……?

そんな盛り上がるの、これ?

 

「さあ、いくよ〜エレジーさん」

「パクパクムシャーさん……」

「準備はいいかしら? ラスサビ、合わせるわよ……!」

 

 

 

 

 

「「「誰より今!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

おろろん。

おろろ〜ん。

おろろろ〜ん。

 

「ねぇ良い加減に泣くのやめなよ……ほらめちゃくちゃ注目浴びちゃってるじゃん」

「ハリボテエレジーがぁ……ッ……普通に……走って戦って……」

「メイクデビューとは違うの?」

「メイクデビューっ、は……こう……その場凌ぎな感じだったから……通用するってわかって嬉しおろろろ〜ん」

 

だってそうなるじゃん誰だって(´;Д;`)

最前線を走っていけるとわかって俺は嬉しいぞハリボテエレジー!!

俺が、俺がお前のファン一号なんだからな〜ッ!!

 

「はいはい、うれしいね〜うれしいね〜まずは泣くのやめよっか〜」

「ママ……」

「うぇっ!? ね、ネイチャさんはママじゃないですよ〜?」

 

ママだもん。

マ゛マ゛た゛も゛ん゛(´;Д;`)

 

「だめだこれ完全に幼児退行してる……いっかい楽屋いこ、楽屋」

「やだぁ……今ハリボテエレジーに会ったら絶対泣く……」

「ええちょっともう……あ」

 

俺を揺すってなんとか宥めようとしていたナイスネイチャが急に動きを止める。

何かあったのだろうかと振り返ってみると、話しかけづらそうに様子を伺っているハリボテエレジー(アイドル衣装バージョン)がいた。

あぁアカン泣きそう。ナイスネイチャ、俺の頭を撫でろ。ハリー!

 

「ねぇ……あなたのトレーナー、あんなだったかしら」

「いえ……あの、大丈夫ですかトレーナーさん?」

「きっと頭を打ったんじゃないですかね〜。こう、がつーんと!」

 

二着と三着もいる……アイドルグループみてぇだ……。

三人の登場によりざわめく出口付近。

ライブ良かったよーとか、グッズ買ったよーとか、いろんな声が三人にかけられている。

グッズを購入したと言っている人が抱えているそれはハリボテエレジーのぬいぐるみ。ほんと泣きそうだ。泣いてるけど。

 

「あーあ。愛娘のこんな姿を見たら号泣もんだねぇ?」

「いやマジで……よく頑張ったなハリボテエレジー」

「……いえ、トレーナーさんのおかげです。ロクに走ることも出来なかった私が、こうやって出場したレースで、正攻法で勝つことができたんだから……。私、もっと一着を獲ります。トレーナーさんに、いろんなトロフィーと、功績を差し上げます!!」

 

突然の宣言に辺りからおおお、とファンが盛り上がる。

ハリボテエレジーは俺の元へ近づき、耳元でこう言った。

 

「だから、JWCで勝つことができたら……いろんなこと、教えてくださいね」

「……ああ」

 

不甲斐ないけど、多分この子なら大丈夫。

JWCを戦って、全部吸収して勝ち進んで行くんだ。

そして目指すはURA。

 

「トレーナーさん」

「ああ」

「これからも、よろしくお願いします!!」

「……ああ!!」

 

俺たちは指切りをした。

絶対に、破れることの無い約束を。

絶対に、敗れることは無いという約束を。

 

「うんうん、いい話だ」

「これ私たち必要あったかしら?」

「なかったんじゃ無いですか〜?」

 

夜空には、一等星が輝いていた。

 

 




だってしょうがないじゃん歌詞の使用許可降りてなかったんだもん。法に触れない範囲でやるしかないじゃん。
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