担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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その名もオニギリウォーク

地響きがトレセンに響く。

トウカイテイオーがまずゴールを切り、そこから3バ身離れてハリボテエレジーがゴールイン。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

「……ふぅ……ねぇ、やっぱりブロックが苦手なんじゃない? 前に立っただけで全然出れてなかったじゃん」

「うーむ……そうなのかもな」

 

膝に手をついて息をするハリボテエレジーに寄りかかりながらトウカイテイオーがぼやく。

トウカイテイオーには力をキープし、ハリボテエレジーの前に立つようにお願いして走ってもらった。俺は実戦を積ませて戦わせるタイプなのだ。賢さG? 知らん、なんだそれは。

 

「そういえば、レースで抜かすときも外から回っていたな……作戦、変えてみるか?」

「何にするの?」

「ううむ……あるウマ娘は他のウマ娘が怖くて抜かせないから、『じゃあ抜かされないようにすれば良い』と逃げにしたと聴く。一度休憩したら、逃げでやってみるか」

「は、はひ……」

「わかった!」

 

逃げ、逃げ、逃げのウマ娘ねぇ……そういえば、脚質自在のウマ娘がいたな。

この時間帯だと……コンビニか。

 

「すまん、ちょっとコンビニ行ってくる。10分経って戻って来なかったら先に初めててくれ」

「はい!」

 

一度コースを離れる。

コンビニまで向かっていると、ちょうどよくコンビニに向かっているであろう影を発見。

ちょいと失礼。

 

「今空いてるか?」

「うん? アナタは……コンビニに行きながらでいいなら構わないけど……」

「ちょっとアドバイスをもらいたくてね」

「……ふむん?」

 

そう言って、茶色い短髪のウマ娘は歩む足は止めずに微笑んで見せた。

その名をギンシャリボーイ。独自の走法スシウォーク……だっけ? 超スピードの加速でレースの王冠をほしいままにしているとかなんとか。

あとおにぎりが好き。

 

「僕に答えられることなら、ある程度は教えますよ。アナタ、ハリボテエレジーのトレーナーでしょ?」

「お、ご存知?」

「ご存知も何も同期だからね」

「それもご存知だったか」

 

頭の後ろで手を組み、さわやかな笑顔を見せる高身長イケメンウマ娘。

トレセンの制服が似合わないくらいのイケメンぶりは噂通りのようだ。

 

「それで? 聞きたいことってなにかな」

「ちょくちょく敬語とタメ語が混じるけど苦手なんか? じゃあ楽にしていいぞ?」

「あは、バレちゃった? ごめんね」

「……で、だ。今現在ハリボテエレジーはちょいとマンネリ気味でな。作戦を逃げにして見ようと思ってるんだ」

「追込から逃げ……極端だね。なにか理由が?」

「先頭の景色を見せればリフレッシュになるかなと」

「なるほど、それで追込も逃げもできる僕に……わかったよ、協力しよう。今の同期の実力も見ておきたいし」

 

恩に着る、と両手を合わせると構わないさとイケメンウインク。

あれだな、テイエムオペラオーだな。系統こそ違うが、アレと同じ女の子にモテるタイプだ。

コンビニに入店しながらギンシャリボーイが財布を取り出す。何を買うかはもう決まっているみたいだ。

 

「おにぎり、一個奢るぞ」

「本当? うれしいな」

 

横目レジの女の子。

歯をぎりぎりと噛み締めている。さてはこの子ギンシャリボーイが目当てでコンビニバイトしてるな?

ギンシャリボーイはおにぎり三つをかごに入れると、こちらの方を向いた。

 

「なにか買うものは?」

「あぁ、じゃあこの際だから昼飯とか買っちゃおうかな。ハリボテエレジーは何が好きかな……」

「じゃ、これをそちらのかごに入れて、後で渡してくれない?」

「おう、任せたまえ」

 

渡されたのはシークレットと書かれたおにぎり。シークレットなんてあるのか。俺も買おう。

あとはパンとかカロリーメイトとか色々買って、そのままギンシャリボーイとコースへと直行した。

 

「むぅ……蹄鉄がボロボロです……また作らないと……」

「あ、トレーナーやっと帰ってきた!! 他の指示がなかったから基礎体力のトレーニングだけしてたけど、遅いよぅ!」

「すまん、昼飯買ってた。お前のもあるぞ」

「エ! ホントウ!? ヤッタァトレーナーダイスキ!!」

「調子いいなコイツめ」

 

嬉々としてレジ袋を漁るトウカイテイオー。横のハリボテエレジーが遠慮がちにちらり。

ギンシャリスマイル。

おい、うちのハリボテエレジーはやらんぞ。

 

「助っ人としてギンシャリボーイを連れてきた。コイツは茶髪より銀髪の方が似合うと思う」

「どうも、久しぶりだね。助っ人だよ」

「ギンシャリボーイさん! お久しぶりです!」

 

トウカイテイオーに渡されたパンを首とダンボールの間にねじ込みながらハリボテエレジーが嬉しそうに声を上げる。

え、なになにお前ら知り合いなの? 早く言ってよ、名前だけ知ってる関係だと思っちゃったじゃん。

 

「ギンシャリボーイには逃げを教えてもらう。基本は追込のつもりだが、別の視点で走ってもいいと思ってな」

「なるほど」

「アレ、ゴルシハイツキタノ? アトソレナニ?」

「シークレットって書いてあるやつ。コイツの昼飯だろうから食ってやったぜ」

 

後であいつにはきっちり働いてもらおう。ガチャ好きな俺の楽しみを奪いやがって。

 

「ゴルシ、それ結局中身はなんだったんだ?」

「一口ちょうだい! ……あむ」

「カラシ」

「ピョウワアアアアアア〜ッッッ!!!!」

 

でかしたゴルシ。

ってかよくお前それポーカーフェイス保ってられるな。舌イカれてんじゃないの?

それはそうとしてギンシャリボーイはカラシおにぎり食べることが確定してるけど大丈夫? トウカイテイオーに食べさせてもいいんだよ?

恐る恐るおにぎりを口に運んで意外とイケるみたいな顔して食べ進めやがった。コイツもあっち(イカれ)側か。

 

スポドリかっこんで口内のカラシを一掃したトウカイテイオーはもうたくさんだとばかりに舌を出しながらコースでストレッチを始めた。

それに反応して舌を出すゴルシ。お前は舌出す意味合いが違うだろ。

 

「ハリボテエレジー、座学か実践かどっちがいい?」

「実戦で」

「わかった。トウカイテイオーは先行、ギンシャリボーイ逃げ、ハリボテエレジー逃げ。ゴルシは……」

「ん」

「……好きに走れ」

「うーい」

 

そろそろみんなの補給も終わったかな。

自分用のしゃけおにぎりを袋から取り出しながら全員の様子を見ると、ギンシャリボーイは逃げの感覚を思い出そうと体勢を変えている。

それをハリボテエレジーが見て学び、トウカイテイオーはテイオーステップ。ゴルシはゴルシちゃん号での参戦のために出力をレース用へと変えている。

やがて全員の用意ができたらしい。

 

「ほなコイン投げるでぇ。地面に落ちたらスタートや」

 

ピンとコインを投げる。

……あ、そういえば。

 

「…………」

 

ハリボテエレジーさっき蹄鉄(ダンボール製)がボロボロって言ってたけど、大丈夫だったのかな。

 

「「「ッ」」」

「きゃあ!?」

 

あ、転んだ。

 

 

 

 

「ごめん、論外だと思うんだ」

「俺も思う」

「ボクも思う」

「アタシもー」

「……はい……返す言葉もございません……」

 

盛大にすっころんだハリボテエレジーの目の前にはついさっきまで彼女が履いていたスニーカーが靴底が上を向いた状態で置かれている。

そこにはズダボロで変形し蹄鉄の形すら成していない紙くずの塊がくっついていて、こんなんで走り出したらそりゃ転ぶわって感じ。

俺は知っていてまた今度また今度とて言って蹄鉄のことを後回しにしていたが、走るウマ娘本人からしたらさすがに見過ごせないらしい。

 

「今日は逃げの感覚だけ座学で教えるよ。それでいいよね、トレーナー?」

「すまんな」

「トレーナー、次の土曜日に蹄鉄を選びに行こうよ! もちろん、ボクもついていくけどね!」

「うん、頼む……」

 

靴下のまま正座し居心地の悪そうにしているハリボテエレジー。隠し事とはいつかは破綻するものなのだ。えらいひとが言ってた。

とにかく当分は座学。先程『俺は実戦派』と言ったな。アレは嘘だ。

せっかくだからコースやレースのことについて教えるのもいいだろう。トウカイテイオーのダンスレッスンもいいかもしれない。

 

「つまり……?」

「お前は次の土曜日までコースで走るのは禁止だな」

「そんなぁ!?」

 

少し気の毒だがしょうがない。今まで隠してきたツケが回ってきたのだ。

 

「いやお前も少しは反省しろよ」

「まっこと返す言葉もございません」

「……さ、それじゃあ授業を始めようか」

 

どこからか現れたホワイトボードにギンシャリボーイが文字を書き込んでいく。

書き出されたのは「とにかく速く走る」という単純明快かつ実行するのは難しい作戦。

誰もが首を傾げるよな。俺もそう思う。

けれど、実際それが一番わかりやすいんだよな。

 

「これは単純に逃げをするときの動きを解説しているだけで、逃げについて深く研究するといろんな走り方があるんだけど……。まず、逃げは先頭を行くから抜かそうとしても意味がないんだよね」

「は、はい」

「あと、自分が早く走れば後続のペースを作ることになるから、レベルが高ければ高いほど逃げは有利なんだ」

 

スタミナが切れる前に爆速でゴールインを狙う作戦もあるしな。

とにかく逃げは抜かされないようにすればいい。実にわかりやすい。

 

「けれどデメリットもある。逃げは前のウマ娘がいないから、風除けがあまりないんだ。それどころか、自分が風除けに使われる場合もある」

「なるほど……」

「あと、自分の身の丈に合ったスピードを出さないとすぐにバテる。逃げはスピードも重要だけど、スタミナと……あと根性も重要なんだ。なにせ、最初から飛ばすわけだからね。スパートは作れるだろうけど、ほぼ全部を全力疾走だね」

 

適正があれば、かなり上位を狙える作戦、しかしなければ終盤抜かされて終わり。

ウマ娘って奥が深いなぁ……。

中央のトレーナーライセンスを勝ち取った際にも思ったが、結構覚えることがたくさんあるんだよな。

地方で燻っていた半分不良みたいなニートが今や中央の教員(トレーナー)。奇跡も起こるもんである。

 

その後もギンシャリボーイは作戦の大切さを教えていた。なんでも、同じJWCに出るもんだから、半端な人とは戦いたくないだそうだ。

言ってくれる……! うちのハリボテエレジーなめんじゃねぇぞ! ダンボールの蹄鉄で普通のレースに勝ったんだぞ!

 

「……うん、これくらいかな」

「ありがとうございました!」

「早く蹄鉄を買うようにね。っていうか、支給されたものがあるんじゃないのかい?」

「ああ……あるにはあるんだが、合うかわからなくてな」

「次の休みに蹄鉄を買いに行くんだよね? だったら、土曜日まで蹄鉄を選ぶといいよ」

「すまんな、アドバイスありがとう」

 

いや、いいさ。同じレースで走れる時を楽しみにしてるよ。

そういってギンシャリボーイはコースを去る。これから自主トレだそうな。

自主トレと聞いてハリボテエレジーが目を輝かせていたがしっかりと忠告しておいた。

 

そろそろ、ハリボテエレジーも進化の時である。




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