担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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アイアンソウルは敗北の味

カンカンカン。

靴裏に蹄鉄を取り付け、ハリボテエレジーに渡してみる。

 

「お、重いですね……」

「そりゃ鉄だからな。あんな軽いのに慣れてたらそりゃ重くも感じるわい」

 

がしょんがしょんと音を響かせながらハリボテエレジーが立ち上がる。

違和感を無くすように足首を捻ったり膝をあげていたハリボテエレジーだが、それを見ていたトウカイテイオーが首を傾げた。

 

「やっぱりエレジーってなんか変だよね」

「へ、変!?」

「うん。蹄鉄での走り方も知らないなんて変わってるなって」

「うぅ……」

 

なんだかダンボールフェイスが落ち込んでいる気がする。

っていうか……。

 

「酷いですよぅ!!」

 

眉ができてる!!

ダンボールの目穴の部分の上に眉ができてる! めっちゃ動いてる! なにそれどうやってんの!?

 

「と、ととと、とりあえず一回ランニングとかしたらどうだ? 感覚を慣らす必要があるだろ」

「はいっ!!」

 

ま、眉が寄せられた……。

(`・ω・´)みたいな感じになってる……怖。

 

いきまーす、と手をあげたハリボテエレジーに合図を送ると、ボテボテと走り出す。

やっぱり重いか。膝を曲げられていない。これじゃあ遠心力だけで走ってるみたいなもんだ。

 

「と、トレーニングにはっ、使えっ、そうっ、ですっ」

 

加えて衝撃を流せていない。

重い蹄鉄が芝に接すればもちろん衝撃の跳ねっ返りがくる。だからそれをいなして、反発力に、スピードに変える技術が必要なのだが……。

今は衝撃が上に向かってるのかアレは? ぴょんぴょん飛び跳ねて、ガクガクと揺れている。

フォームの維持はできないかぁ……。

 

「そこまで! ……ちょっとウェイトを軽くするか。あと、次に使う蹄鉄でジャンプしながら走れ。衝撃をいなす練習だ」

「はい!」

 

渡されたスニーカー。

蹄鉄をガコッと外し、軽めの蹄鉄を選んで鋲で固定し打ち付ける。

その作業を見ていたトウカイテイオー。

 

「…………」

「な、なんすか」

「ううん? すごい手際がいいなって」

「ある程度できるようには練習積んでるからな」

「じゃあボクのもやって!」

「お前は自分でできるだろ……」

 

蹄鉄は消耗品。

二週間に一回くらいだったかな、変えるのは。

トレーナーに任せっきりよりもウマ娘本人がやれるようになれば楽なんだよなぁ。

 

「ほい、できたぞ」

「ありがとうございます。……んしょ、と。あ、さっきよりも軽い」

 

がしょんがしょん。

マリオジャンプしながらコースを走るダンボールフェイスは滑稽かな。いと滑稽かな。

とりあえず合う蹄鉄があってよかった。

 

「それじゃあ、これからはそれで走れーっ。予備も渡しておくから、満足したら家に帰れよーっ」

「はーいっ!! ……んしょっ……んしょっ……」

「トウカイテイオー、今あいつが使ってる蹄鉄の予備を探すから、ついてきてくれないかね」

「いいよ!」

 

即答かよ。

夕暮れの中コースで一生懸命にマリオジャンプをするハリボテエレジーから視線を外し、俺たちは芝を後にした。

 

 

 

 

うどん……うどんが食べたい。

でも出汁がダンボールに染みちゃうから、滅多なことがない限り学園では食べれそうにないや。

プラスチック製の被り物とか……だめだ。高くなっちゃう。

 

「ふあ……エレジーってさ、昨日今日でかなり走れるようになってない?」

「ナイスネイチャさんの指導の賜物ですよ」

「ちょっ、やめてよそんな……」

 

飛び入りで参戦したナイスネイチャさんが私に合うフォームを一緒に考えてくれたおかげで、かなり脚が慣れてきた。

カーブで曲がっちゃうのはどうしても変わらなかったけど……それでも、蹄鉄を手に入れた私は無敵だもんね。

いつかトウカイテイオーさんに勝てるようになってみせるんだから。

 

「……そうだね、もうそろそろご飯の時間か」

「あれ!? 私、お腹鳴ってました?」

「可愛かったよ?」

「ひえ……」

 

は、恥ずかしいっ!!

ナイスネイチャさんは「お腹が鳴るまでトレーニングできるのは美徳」って言ってるけど……でもやっぱ、卑しい子って思われてないかなぁ……。

 

「ご、ご飯いきましょう! 今日はなんだか麺が食べたいです」

「麺ねぇ。ううん、アタシも麺にしようかなぁ……」

「麺はいいですよ! 特にうどんが……あれ……?」

「エレジー? エレジーっ? ちょっ、誰か!」

 

体が、動かないや。

立ち上がらなきゃ……。

 

 

 

う……。

 

 

───ッ。

 

「エレジーッ!? しっかり……エレジー!!」

 

 

 

 

 

───……?

 

 

 

 

 

ここは……どこ? 病院?

う……頭が軽い。ダンボールはどこ……?

ベッドの枕元に置かれていたマスクを被って思考を落ち着かせていると、カーテンの向こうで勢いよく扉が開く音がした。

 

「ハリボテエレジーは!? ……倒れたって聞きましたけど」

「トレーナーさん、ですか」

「はい。何かありましたか……?」

 

トレーナーさんの声だ。もう一人はお医者さん?

 

「単刀直入に言います」

 

ベッドから降りて声をかけようとしたけど、足に痛みがあって降りることに失敗した。

 

「骨折寸前の状態でした」

 

まさか、と思って左足をみる。

固定具が付けられていて、痛々しい。

 

「…………骨折はしてないんですね?」

「はい。幸いにも寸前で止まっています。しかし、それ以外にも問題があって……」

「問題?」

「両足とも骨にダメージが入っていたんです。付け根からつま先にかけて徐々にひどくなっています。特に酷いのは左脚ですね。なにか負荷をかけるようなこと、しませんでした?」

「……蹄鉄を履かせました」

「おおかたそれが原因でしょう。自主練でのオーバーワーク、それとカルシウム不足ですね」

 

カルシウム不足?

なんでだろう。牛乳は毎日飲んでるし、つい先日にぼしを食べたばっかり。

 

「えー、この子はカルシウムの消費が他のウマ娘よりも激しいようです」

「体質的な問題でしょうか」

「そうですね、体質といってもいいでしょう。それで、その原因について調べてみたんですが」

 

……あれ。

そういえば私はいつダンボールを外したんだろう。

 

「実はこの子、本当は」

「わああああああッ!!!! おっはようございまあああああす!!」

「ハリボテエレジー……! 目が覚めたのか!?」

「はい! 今しがた! たった今!!」

 

がばあっとカーテンを開け放った私に面食らったお医者さんとトレーナー。

お医者さんはダンボールをかぶっている私に何かを感じたのか、肩をすくめて別に話題に入ってくれた。

よ、よかった……素顔がトレーナーさんに明かされるかと思った……!

 

「えっとですね。本人も起きたようですし改めて。ハリボテエレジーさんは両足の骨が骨折寸前のダメージを負っています」

「ナ、ナンダッテェ!?」

「…………。えぇと。不足しているカルシウムは錠剤で補給してもらいますが、骨に入ったダメージは時間を置かないと回復できません。ですので、しばらくは走ることを我慢していただきたいのです」

 

私、最近走ること禁止されてばっかり。それもこれも蹄鉄のせいだ。

あーあ。

 

「まぁ、通常のウマ娘ならばこれくらいのケガは二週間程度で治りますかね。多く見積もって三週間と言ったところでしょうか。回復力を高める薬も出しておきます。薬局でもらってください」

「わかりました。ハリボテエレジー、今日は車で送るよ」

「はい……」

 

トレーナーさんが頭を下げて病室を出て行く。

追って病室を出ようとすると、お医者さんが声をかけてきた。

 

「ハリボテエレジーさん」

「ひゃ、ひゃい……」

「私はあなたを応援こそしていますがね。……隠し事とは、いつかバレるものですよ」

「……覚悟の、うえです」

「そうですか。それでは、頑張ってください」

 

やっぱお医者さんには叶わないや。

そう思いながら、私はトレーナーさんを追いかけた。

 

トレーナーさんは待合室で指先を合わせながら俯いていた。

ハリボテエレジーさん、と呼ばれたので窓口へ寄ってみると、薬の説明をされた。

もらった紙袋を抱えつつトレーナーさんの元へ戻れば、暗い声で「帰るか」とつぶやく。

 

私のせいだ……。

 

車の後部座席に乗せてもらい、運転するトレーナーさんを見る。

いつもは明るく朗らかに笑っているトレーナーさんが、一言も喋らずに運転していた。

 

「すまない」

「……え?」

「俺が、慣れない蹄鉄を履かせて自主練なんかさせたから……」

「いや、それは私がオーバーワークをしたせいで……」

「ちがう。もっと上手くできたはずなんだ。もっと、もっと上手くできればこんなことには……」

 

まただ。またトレーナーさんが病み期に入ってしまった。

もう発作だと思う。

 

「トレーナーさん、車止めてくれますか?」

「え? あ、あぁ……」

 

道の脇に車を止めたトレーナーさん。

止まり切ったのを確認して助手席に乗り込む。

 

「は、ハリボテエレジー?」

ハリボテスタンプ(ただのビンタ)!」

「stab!?」

 

横っ面を赤くしたトレーナーさん。ちょっと強すぎたかしら。

しかしもう止まらぬ。私は無敵! たとえ脚が壊れかけていようと一度ついた勢いは殺さぬ!!

 

「トレーナーさんは過保護なんです! 私、っウマ娘なんですよ!! こう、もう少し自由に走らせてくれてもいいじゃないですか! いっつもいっつも空を見上げてため息ついて後悔して、なんですかカッコつけてるんですか!?」

「……ハリボテ、エレジー……?」

「まったく心外です! 私は転んだら死ぬんですか!? スペ○ンカーじゃないんですから!! ちょっと慣れてなかっただけで、蹄鉄くらい履いてレースできます! 甘く見ないで欲しいですね! いつまでも子供のままじゃないんですよ!!」

 

ぷぅと頬を膨らませて見る。

シリアスな雰囲気なんていらないのだ。ふはは。

……あっ、ダンボールで顔が見えない……そっか……。

 

「……そっか。そうだな! お前ならもっといけるわ! ははは!」

「そうですよ、失礼しちゃいますね」

「わりぃ! 俺、自分に自信なくてさ! たづなさんにも言われてたのに、お前のこと信用できてなかったんだわ! ほんとゴメン!」

 

いつもの調子に戻ったトレーナー。

完全に吹っ切れた感じかな。

 

「ほら、私に天辺獲らせてくれるんですよね?」

「おう! お前なんかちょちょいのちょいでJWCもURAもぽーんだぽーん! 任せな! このチームレグルスのトレーナーがお前を次元の向こうまで吹っ飛ばしてやるぜ!」

「はい! ……はい!?」

 

なんか今重要そうな情報が漏れ出なかった!?

 

「ヒャッハア! このまま薬局まで直行だァ! 安全運転かつギリ法に触れないスピードでぶっ飛ばすぜぇ!!」

「トレーナーさん今なんて!? あの、今なんて!?」

「ギリ法に触れないスピードでぶっ飛ばすぜぇ!!」

「そこじゃない!!!!」

 

結局聞き間違いだったのか確認もできず、私はとってももやもやした状態で家に送り届けられたのでした。まる。




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