担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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幻の加護

トレセン学園につく頃にはすっかりトレーニングの時間を過ぎていた。

全力疾走でコースまで行くと、既にそこには松葉杖を離して自主練をしているハリボテエレジーの姿がある。

ゆっくりと踏みしめるように膝を上げたり下げたり、なるほど、これはリハビリか。

 

「もう良くなったのか? 早すぎないか? 一日だぞ?」

「トレーナーさん! びっくりしました、今日はもう来ないのかと!」

「すまん。……で、脚だよ脚。なんで自主練なんかやってるんだ」

 

踏み込むときにカシャンと音が鳴ったことから、コイツまた蹄鉄つけてるってことがわかる。

ダンボールフェイスのズレを直したハリボテエレジーは眉を八の字にし、ばつの悪そうに打ち明けた。

 

「骨が折れかけって話でしたよね。折れかけじゃないなら気をつければいいかなぁって」

「お前さぁ……さすがにそれはどうかと思う」

「はい過保護」

「これは過保護にもなると思うけどねぇ!?」

 

びしっ! と俺を指さすハリボテエレジー。

絶対に辞めないという意思を感じる。

……あーあ……。

 

「わかった、降参だ。ただし、俺がいる時にしてくれ。何かあったら対応してみせるから」

「はい。約束ですよ」

「……ところで。ハリボテエレジー、ちょっと見せたいものがある。ちょっと靴を脱いでくれないか」

「? ……はい」

 

芝に座り込んで靴を脱いだハリボテエレジー。

少し膝を庇って座っていた。やはり本格的に走らせるのは少なくとも三週間くらい後だな。

俺も隣に座り込んで胸ポケットからクソ重い鉄の塊を取り出すと、ハリボテエレジーが興味深そうにそれを見つめた。

 

「新しい蹄鉄ですか? 結構ボロボロですけど」

「これはな、トキノミノルっていうすっごいウマ娘が使ってた蹄鉄なんだ。今じゃプレミアがついていて超絶高いらしい。ほい」

「うわっととと、なんでそんなもの私に渡すんですか! ……ふう。それで、この蹄鉄が?」

 

大事そうにトキノミノルの蹄鉄を両手の上に乗せる彼女は、俺の目線を汲み取って蹄鉄を裏に返した。

そこにあるフェルトを見て、何かがわかったような、しかし困惑した目でこちらの次の言葉を待った。

 

「トキノミノルもお前と同じように脚が弱かった。だから、フェルトを蹄鉄の間に仕込んで衝撃を緩和してたんだ。一度この蹄鉄をつけて歩いてみないか?」

「なるほど、わかりました! トキノミノルさんですかぁ……どんな人なんでしょうね!」

 

蹄鉄をスニーカーに打ち付けながらだべる。

 

「さあな。俺も憶えてないんだよなぁ……この蹄鉄をもらった時の記憶もすっかり抜け落ちてるし」

「こ、これご本人に貰ったんですか!? いいんですかそんなことして!? っていうか、トレーナーさんって案外VIPな人だったり……?」

「やめれやめれ。俺はそんな大それた存在じゃないよ。生まれも普通だし、トキノミノルにこれを貰ったのも完全に運だったんだと思う。だって、うちの家系にトレーナーなんていなかったもん。まだガキだったから、きっとレース後のトキノミノルのとこに走って行って宣言したんじゃないのかな」

 

その時のデータが残っていると言うことは、きっとトキノミノルは取材をされていたんだと思う。

それで、ガキが乱入してトレーナーになる宣言。トキノミノルは蹄鉄を少年に渡し、周りがほっこりしましたとさ。

多分そんなストーリーなんだろうな。

よし、ちゃんと縫い付けられたな。さ、ハリボテエレジー、これを履くといい、

 

「そうですか……と、とりあえずやってみます」

「おう。全力で走るなよ。まずは脚を曲げ下げしてから、負担をかけない程度に走れ」

「はーい!」

 

ハリボテエレジーが具合を確かめるように大地を踏む。

低いジャンプをしたり、足首をぐりぐりと捻って見たり。

そうして、少しの間考えるような仕草をしたあと。

 

「よし!」

 

ボゴス、と芝に穴を開けながらコースを疾走し始めた。

あのバカ!! 全力疾走はやめろって……んお?

あいつ、普通に走れてないか?

 

「軽い! 脚が軽いです!!」

「なんじゃそりゃ……」

 

地を蹴るたびに地響きが鳴る。

最初の頃とは比べ物にならない速度で俺の前を通過して行ったハリボテエレジーは徐々に速度を落とし、やがて信じられないと言うふうに脚の裏を見る。

もちろん慣れていないし脚を庇っていたので完全状態の全力疾走よりは遅かったが、フェルト仕込みだけでこんなに早くなるものなのか。

いや、蹄鉄が他よりも比較的軽いと言うのもあるだろうが……。

 

「これは……まさしく進化だな」

「トレーナーさん! 今すっごく走りやすかったです! 蹄鉄ってこんなに良いものだったんですね!」

「トキノミノルのご加護ってか……? むちゃくちゃだろ」

 

あーあ、スタート地点こんなボコボコにしちゃってもう。

こりゃ荒れるぞ……。

 

「トレーナーさん!」

「ん?」

「脚の痛みが消えました!」

「いや流石にそれはごまかせないよ!? レースには出さないからね!?」

「いやです! 出ます! それに本当に痛くないんです!」

 

いやいやいや。さっきあんた脚庇っとったやんけ。

数々のウマ娘の走りを見てきたこのトレーナーアイは誤魔化せんぞ。

 

「まだちょっと痛いかなって思うんですけど、全然走れるんですよ! 多分明日か明後日には完治です!」

「明日医者行くぞ。そこまで言うなら診てもらえ。あと頭も見てもらうからな」

「酷い!?」

 

 

 

 

「治っ……てますね……」

「ウソやん……」

 

レントゲンに移したハリボテエレジーの脚。

前回見せられたレントゲンは直視できないほど無惨で骨の至る所にヒビが入っていたのに、今回のものはそれが見違えるほどなくなっている。

 

「いやはや奇跡ですよ。脅威の回復力です。プラモデルを接着剤で直すみたいにみるみるうちに治っていってますよ。トレーナーさん、もしかしたら報道への休養宣言はいらないかもしれません」

「いやいや……そんなまさか……」

「ほら、嘘じゃなかったですよ、トレーナーさん!」

「とはいえどダメージ自体はまだ残ってます。しっかりとリハビリに力を入れれば、もう一週間もないでしょう。松葉杖ももう離してもらって結構です。いやすごいなこれ……」

 

医者が素に戻ってレントゲン写真を見つめている。

そうして不可解そうに首を傾げたあと、もう一度ハリボテエレジーの脚をみた。

 

「私がウマ娘のためにやってきた5年間はなんだったんだろうな……」

「もしかしたら回復剤が効いたのかもしれませんよ! ちゃんと朝昼晩飲みましたもん!」

「朝昼晩飲んだとて一日でこんな回復の仕方するわけないでしょうが……」

 

ちょっとキレられた。

 

「トレーナーさん、レース、レース!」

「まずはリハビリだってば。……まぁ、探しとくよ」

「やったあ!」

 

本当に走るのが好きなんだなハリボテエレジー。

なんなんだ? これも幻のウマ娘の加護?

一体全体、何者なんだよトキノミノル……。

 

辟易していると、俺のスマホが鳴った。

この着信音、LINEか。なんぞ……お、生芝トレーナーじゃんやっほー。

 

ちょいと失礼。

 

病室から出て生芝トレーナーに電話をかける。

今良いですか! って送って来てたし、口頭の方が伝えやすいだろう。

 

「あ、もしもし」

『もしもし! トレーナーさん! 次の皐月賞、一緒にいけませんか!! ハリボテエレジーさんも一緒に!』

「なになにどうしたの。皐月賞は毎回見に行ってるけど……え、なに?」

『ギンシャリボーイが皐月賞に出るそうなんです!』

 

なるほど、あのギンシャリボーイが。

芝2000クラシック第二戦でスピードのあるウマ娘を決める大会であの直線が短いと噂の中山レース場で行われるあの皐月賞に出るのか。中山の直線は短いぞ。

 

「はぁいハリボテエレジー?」

「うわっ、なんですかトレーナーさんびっくりしましたよ」

「生芝トレーナーのお誘いなんだけど、皐月賞行かない?」

「出れるんですか!?」

「あ、いや、見る方ね、見る方」

「あぁ……」

 

やめてよそんな落ち込まないでよ。

シャイ○ングポーズ決めてる俺がシュールになるじゃん。はいそこお医者さん笑わない。

 

「でもギンシャリボーイ出るってよ」

「行きます」

「よし。……生芝トレーナー、ハリボテエレジーも行くそうです」

『わかりました! ではまた!!』

 

あ、切れた。

すげえ興奮してたな……いったいなんなんだろうか。

 

「え、ええと……では、診察はこの辺で……」

「あぁ、すみません!! ありがとうございました!!」

「ありがとうございました! また!!」

 

五月五日。

大体四月の第二週くらいで開催される皐月賞にしては少し遅いが、それでも……待て今何日?

スマホを確認。

 

「四日後じゃねえか皐月賞」

 

どんだけギリギリのタイミングで誘ってんだ生芝トレーナー。

まったく……ほいハリボテエレジー、薬受け取ってきなさい。

あ、もう要らないって? そっかそっか、じゃあこれでお会計してきな。はい。

 

……いやあ……皐月賞、ギンシャリボーイが出るのかぁ。

ギンシャリボーイの本気の走りは見たかったし、ちょうど良い機会かもな。

皐月賞ともなれば……もうすでに勝負服も貰えているのでは? ギンシャリボーイのトレーナーさんには挨拶くらいしとかないとな。この前座学教えてもらってたし。

 

あ、終わった? はい、じゃあ帰ろ。今すぐ帰ろ。

そんでうん、そうだよね走りたいよね。わかった、わかったから手を引かないの。

すぐトレセンに着くからね、離して、離……離せって言ってんだろコラぁ!!

 

「レース♪ レース♪」

「君は出ないんだよ……?」

「私、見るのも大好きなので! むしろ見るのが大好きだったから自分も走りたいと思った感じなんです!」

「そかそか。わかった、わかったから車体揺らさないで」

「もう負ける気しません! 最初の頃の私とは大違いです!」

 

まあたしかに、成長はとってもしている。

これなら、トウカイテイオーや他メンツも全力でタメ張れるウマ娘として通用するかもしれない。

 

目標にしていたJWC、結構見えてきたぞ。

 

「皐月賞で走るギンシャリボーイさん、楽しみですね!! ……あれ? チョクセンバンチョーちゃんはどうなんだろう?」

 

そういえばそんなやつもJWC目指してたな。

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