担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
なのでギンシャリボーイの勝負服にまつわる描写を消去いたしました。
それとこの結果によりハリボテエレジーの
「ハリボテエレジー」↓
「ハリボテエレジー 2.0」↓
「ハリボテエレジー 3.0」
という進化の系譜シナリオが崩れました。この先多少強引なところも見られるかと思われますが、どうかご容赦ください。
結論から言うとハリボテエレジーの脚は完治した。
皐月賞のウイニングライブの帰りに医者に行ってみたら「はいはい治ってますもうしーらね」とペンを投げられた。
というわけで。
「ハリボテエレジー、トレーニングだ!」
「待ってました!」
「蹄鉄を新しくしたお前の力を見せてやれ!」
「あいあいさー!」
そしてスピーカーから曲が流れ出す。
華麗なステップを踏むハリボテエレジー。
よし、ばっちりだ!
「ってダンス練習!!!!」
「何言ってんだ、ウイニングライブの準備は必要だろ」
「そうなんですけど! いやそうなんですけど!!」
ウイニングライブは二着三着の振り付けもあるからな。
練習はしておかないと、ステージでぶつかりでもしたらシャレにならない。
ダンススタジオでひぃひぃ言うハリボテエレジーを眺めていると、扉が開いた。
自主練みたいだ。
「おうナイスネイチャじゃん」
「あ、ども……使ってた? 邪魔しちゃってごめんね」
「いや、多分あいつも疲れてきてるだろうしそろそろバテるだろ。その時に見本として踊ってくれ」
「ええ……アタシ? アタシよりも他にダンス上手い娘いるんじゃ……?」
「お前よりも可愛いダンスするやつはいないぞ」
特にユメヲカケル! とかは。
あの……こう、人差し指と親指で「」みたいな形を作るあのポーズにやられた人は多いはずだ。
あれは可愛かったなぁ。
「ちょ……やめて……」
「あとは投げキッス」
「やめてぇ!!!!」
赤くした顔を自慢の
恐る恐る手を伸ばすと顔を赤くして片方を差し出してくれた。え? いいの? モフるよ?
ぺふぺふとナイスネイチャの髪の毛を握ったりすいたりしていると、いつのまにか一曲が終わっていた。
ダンボールをしっとりと汗と熱気でよれよれにさせている。脱いだら絶対涼しいのに頑なに脱ごうとしない。なんの意地だろう。
休憩です、とつぶやいてナイスネイチャの隣に座り、「失礼します」とナイスネイチャをモフり始めた。
お前も好きか、ナイスネイチャが。わかるよ、めっちゃ気持ちいいもんな。
サラサラしてるのにたっぷりと空気を含んでいてまるでなんか……そう、校内掃除のモップ。
「ええ……」
「なんか、それはヤダ……」
「すまん、いい表現が思いつかなかった」
「猫みたいです! 濡れたらしぼんじゃいそうなところとか! 吸っていいですか!」
「ちょっ、それはダメ! さすがに髪の匂いは……」
波動を感じる。
即座に離れて指先で画角を生み出し、最終確認の後にむむむとテレパシーを送る。
「ダンボール越しに匂いかげるの?」
「実戦してみますか? それでは失礼します!」
「わわっちょ、近……あ……」
画角の中でハリボテエレジーとナイスネイチャが急接近。
髪の毛をダンボール内に取り込むために距離を近くする必要があったようで、ナイスネイチャはハリボテエレジーの目穴の黒フィルムを見つめていた。
「目……綺麗……」
「え?」
「いや、エレジーの目が綺麗だなって……もっと見てていい?」
「ちょっ、それは恥ずかしいでッ、あうあう……」
お、テレパシー傍受された。きっとどこかでアグネスデジタルが倒れているだろう。
「なにニヤニヤしてんのさ……」
「ニヤニヤなんかしてない。それよりも、ダンスについてだよ。本当にやってくれないのか?」
「やらない」
「そうか……まぁ、次のレースでのウイニングライブを楽しみにしてるよ」
「出ないし! ……まず、ウイニングライブに出られるかどうかも……」
「ブロンズコレクターなんだから必ず出られるだろ」
「……はあ……全く」
と、俺とナイスネイチャのやりとりを見て思い出したのか、ハルウララよろしくレース! と声を上げるハリボテエレジー。
カバンの中から一枚の紙を取り出すと、俺の目の前に叩きつけた。
「私、これ出たいです!」
「横浜ステークス……?」
横浜にそんなのあったっけ。いや、あるからあるのか。
「JWCはG1です! まずはG3を目ざさないと……そのために」
「なるほどね。考えたねエレジー」
「えへへ」
ナイスネイチャがハリボテエレジーのダンボールを撫でる。
……まぁ、G3に出るためには最低でもあと三回は勝ってもらわないといけない。
それからG2、G1、有馬記念や宝塚記念と同じ立ち位置にJWCがあるのだが……。
ここからJWCまで行くのか……既にG1である皐月賞に出ているギンシャリボーイが眩しい。
「ま、大丈夫だろ。申請してみる。出るからには勝てよ」
「はい!」
「ナイスネイチャはどうだ?」
「え?」
「出てみないか? 横浜ダービー」
「あ、アタシ!? いやぁ……自信ないなぁ……」
「大丈夫だって。トレーナーさんに言ってみな」
「ええああ、うん……ダメだったら出ないからね」
何を当たり前なことを。
「とりあえずハリボテエレジーは競歩だな。回復力を予想して、レースまでに完全に治すぞ。あまり回復力とか免疫とかは信用できないが、使えるものは使うべきだ」
「はいっ!」
「そのダンボール、汗で使い潰すぞ!」
「はいっ!」
ハリボテエレジーがジャージ姿のまま練習室を出る。
急に勢いづいたハリボテエレジーに呆気に取られていたナイスネイチャだが、ハッとして正気に戻ると立ち上がる。
先客がいなくなったからダンス練習をするみたいだ。
制服のまま二度三度ステップを踏み、様子を確かめる。
「ストレッチ手伝おうか?」
「いや、いいよ。ハリボテエレジーのとこに行ってあげな。それにアタシ、今から着替えるし」
「そうか。じゃあ、またな。お前が出るレースは全部行くぞ。期待してる」
「あはは……ま、ほどほどにやりますよ」
ナイスネイチャの見送りを受け、俺はスタジオを出る。
しばらくして後ろから曲が漏れだしてきた。
コースに向かうとハリボテエレジーは既にウォームアップを済ませており、俺の姿を見た途端に指示を仰いだ。
まずはランニングから。軽めに走ってもらうも、医者に診てもらった通り、完全にいつもの走りになっていた。
ちっとも衰えてない。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……」
「あと三周。ラスト一周はスパートをかけろ」
「はいっ!」
ペース配分もバッチリ。
今まではスタミナの消費が早くてバテていたが、これはどういう変化だろうか。
そうか、蹄鉄だ。今までダンボールの蹄鉄を使っていたからすぐに蹄鉄がぐしゃぐしゃになってうまく走れなかったんだ。
今使っているのはトキノミノルが現役時代に使っていた蹄鉄。訓練用に使い潰せるものじゃない一品だ。
だったら、走りやすくなるのも当然。ようやく真価を発揮したと言うべきか。
「ヨシ、スパート!」
「はいっ!!」
「おぉ、速ぇ……」
やはりカーブで減速してしまうのは変わらないか。それと、スパートも一周分は続かない。
へろへろになってゴールインしてきた。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「おつかれ。でも走りやすかっただろ?」
「ぜぇ、はい、ぜぇ……」
地面に倒れ込んで肺いっぱいに酸素を取り込むハリボテエレジー。
酸素缶をダンボールの間に突っ込んで噴射してやると気持ちよさそうにした。やっぱり苦しいんじゃないか。
「この仮面、酸素缶を取りつける機構をつけたほうがいいんでしょうか。こんな感じに」
「流石にルール違反だろ」
ハリボテエレジーがろくろを回して管を表現し、己のダンボールにくっつけた。
さながらバイクのマフラー、もしくは象の鼻。
「とりあえずは、肺の力を強くしないとな。加圧トレーニングはまずやろう。それと……」
「それと……」
「カーブ練習だ」
「あぁ〜……やっぱりですか……」
何を当たり前なことを!
カーブは減速するのが普通とは言えど、ハリボテエレジーのカーブ減速は流石に遅すぎる。
最後の直線で奇跡的に勝てているのは良いものの、エリート揃いのG3以上のレースで速度ゼロまで減速するのが許されるとは思えない。
つまり、カーブは絶対に、ある程度は速度を維持して曲がらないといけないのだ。
「カーブ練習……カーブかぁ……」
「どうしてお前はそんなにカーブが曲がれないんだろうな。やっぱりトラウマか?」
「さぁ……それ以外に心当たりがなくって……」
筋肉が強張っているのだろうか。
それだったら、リラックスさせる呼吸法をカーブの直前にしたり、荒療治で全速でカーブにぶつけてみたり……。
とにかく、最速を出せる直線に繋げることが大事だ。カーブはその前段階。
それさえできれば、トウカイテイオーにも勝るだろう。
「今日のうちはコーンの間をすり抜ける練習か。足運びの練習にもなるだろう。カーブ地点に置いておくから、それをランニングでジグザグに避けろ。その時はスピードを落として良いが、他はダッシュだ」
「はい! ……できるかなぁ」
「できるようにする特訓なんだ。練習ならいくらでも失敗していい。……じゃ、俺はコーンを取ってくるから」
「はい」
少しハリボテエレジーを待たせてしまうことになるが、それくらいの時間は誤差か。
◇
やっぱりカーブは曲がらないといけないんだ。
うすうすは気づいていたけど、出来ないと負ける。
ギンシャリボーイさんだって、他のウマ娘だって、綺麗にカーブを曲がってた。
出来ないのは、私だけ。
私だけが、曲がれない。
「……どうしてだろう」
トレーナーさんだって気にしていた。
つまりは、それが私の一番の欠陥だということ。
よし、やるぞ。
えいえい、おー……じゃなかった。
「えい、えい、むん!」
合宿で教わったんだっけ。
むんですか? って聞いたら、むんだよ。って言われた。
……カーブ。
「少しだけなら、トレーナーさんがいない時に自主練をしても……」
あぁいやいや。それで転んだりしてトレーナーさんがまた過保護になったら大変だ。
ちゃんと待とう。
「……ちょっとだけ……」
いやいやいや。
「ぐぅ……」
「何やってんの……?」
ほえ!? ネイチャさん!?
驚いた私に逆に驚いたネイチャさんはジャージ姿で、タオルやペットボトルを持っている。
「あぁ、先客かぁ。あはは、よく会うね」
「す、すみません……」
「良いよ。今日はプール練習に変えるから。ごめんね、邪魔しちゃって」
そう言って踵を返すネイチャさん。
一見無気力そうというかやる気のなさそうな姿。けれど、やる気がないんだったらなんでコースへ来たの?
「ネイチャさん」
「……ん?」
「横浜ステークス、一緒に出ませんか?」
「いやいやいや。エレジーだって主人公なんだから、アタシみたいなのよりもテイオーとか誘いなよ」
私の方を見ずに答えるネイチャさん。
それでも、取り繕うのは変えないつもりだ。
私が主人公とか、適当に言ってるのではないか。そんな思いになる。
「ネイチャさんは職員室の、トレーナーさんの机は見たことありますか?」
「アタシの?」
「私のトレーナーさんのです」
「……体育のプリントを渡すときに、行ったけど」
「じゃあ、コルクボードは見ましたか」
コルクボード? とネイチャさんが怪訝そうな顔をする。
うーん、何を熱くなっているんだろう、私は。
「質問したら、見せてくれたんです。あの人、自分がエモいって思ったレースを写真にして飾ってるんですよ」
「……そう、なんだ」
「合計で五人。誰のレースか、わかりますか?」
まさか、という顔をする。
不安と期待と、少しの葛藤。
言いたい言葉はあるのに、出ないって感じ。
「ネイチャさんですよ」
「…………」
「どのレースかまではわかりませんでしたけど、写真の一枚は全力で走っているネイチャさんでした」
「…………」
「多分あの人ネイチャさんが好きなんですよ」
「好ッ……!?」
「他にも、色んなウマ娘が好きなんです。全力で走って、ひたむきに汗を流す姿が。でもその時に悔しいって思ったんです。色んなウマ娘のレースを見てきたであろうトレーナーさんが、たった五枚に選んだ写真の姿を見れないことが。きっととっても良い試合だったんだろうなって思いました。だからこれは……ワガママです。私の、ワガママ」
ネイチャさんが首だけ振り返った。
寄せた眉と、半開きになった口。
もはや、期待を隠そうともしていなかった。
「ナイスネイチャさん。横浜ステークスで、勝負してください。私のトレーナーが最高だと認めた走りを、見せてください」
きっとネイチャさんに必要だったのは走る理由だ。
本人は走りたいと思っているのに、一着を諦めないのに、どこかでブレーキをかけてしまっている。
ネイチャさんは袖で目元を拭うと、精一杯の笑顔で、
「……うんっ……!」
と応えてくれた。
「やってみるよ」
「はい! 絶対に勝ちます!」
「おーい……お、ナイスネイチャじゃん、お前もカーブ練習してく?」
「カーブ練習?」
「こいつカーブ曲がる時速度をゼロまで落とすのよ」
「本当に勝つ気あるの?」
なっ。
「あ、ありますよう!!!!」
これにて二章は完結となります!
前話のギンシャリボーイを筆頭に、三章では他のウマ娘がその実力を遺憾無く発揮する……かも?
またしばらく書き溜めをするので、更新が再開されるまではしばしお待ちを! もしくは大量の感想と更新を願う声を! もっと! 私に!!!!
それでは、またどこかで!!