担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
横浜ステークスに向けて、トレーニングメニュー少し変更致しました。
トレセン学園の周りを走り、スタミナトレーニング。
街中も走るためもしファンに会えたらいいねみたいなトレーニングだ。
そんなわけでマラソン? ランニング? の編成を紹介いたします。
1。我らがトリックスター、ハリボテエレジー。
2。エレジーガハシルナラボクモハシルヨ! トウカイテイオー。
3。ダイワスカーレッツ。 ……ダイワスカーレット。
4。生麦生米生ファル子。スマートファルコ。
5。チャーハン。「ライスはライスだよ……!」
6。皐月賞では完全に場を支配、ミッドナイトモーセ。
7。誘ったら案外すんなり参加してくれた、チョクセンバンチョー。
以上の編成となっております。
後方彼氏ヅラ……というわけでは無いが、スクーターで後ろからウマ娘たちを追っていく俺。さすがにウマ娘のスピードには勝てん。
まぁとにかくこのメンツでしばらくは集団トレーニングをするというわけだ。彼女達のトレーナーがチームを組んだ時や合併などを行った時、すぐに馴染めるようにする練習で身ある。彼女達の専属、もしくはチームのトレーナーにはちゃんと許可をとってある。
「ちょっとペースが落ちてるぞ!」
「……っ、トレセーン!! ふぁい!」
「「「「おー!」」」」
「ふぁい!」
「「「「おー!」」」」
気合を入れる声をハリボテエレジーが上げる。
それに応じて後列に続くウマ娘も気合を入れた。
……実は、アスファルトや通常の道を走るというのは案外スタミナを消費する。
芝と違ってしっかり土が慣らされていなかったり、小さな坂道や曲がり角、走る車の音や匂い、景色など、ペースを乱されるものがたくさんあるからだ。
それによって集中力が切れるとスタミナを消費し、「辛い」「やめたい」などの感情が多めに出るようになる、と。まぁ心理ですな。
完全なペース配分を見せたミッドナイトモーセも今ではへろへろだ。ギンシャリボーイとかなら涼しい顔して走るんだろうけど。だから呼んでない。
「ハァッ、ハァッ……」
「チョクセンバンチョー、休んでんじゃねー」
「ぐっ……くそッ……」
お、立ち上がった。
チョクセンバンチョーはスピードに乗るまでが速いが、一度集中力を乱されると完全に墜ちるな。
「全群、あともう少しだ! この先の公園で休憩を挟む!」
「「「「はいっ!!」」」」
「……とは言った、ものの……」
「結構、遠い……!」
あースクーターって良いわぁ。楽ちんだわぁ。
「この野郎、煽ってやがる……!」
「お? チョクセンバンチョーちゃんはリタイア? お? お?」
「こなくそぉ!」
「ひぃ、ひぃ……性格悪いねアンタ……」
「キミがそれを言うかね、ペース乱しがお得意のミッドナイトモーセ?」
「返す言葉も無いねェ」
後ろから木の枝振り回して牧場の羊飼いのように追いかける。
尚スクーター。
んで、本命のハリボテエレジーはどうかしらん?
「ふっ、ふっ、ふっ……はぁっ……」
お、それなりに頑張ってるな。
体力の底は見え始めているけど、脚はまだ軽々と動いている。少しの距離ならスパートをかけても良さそうだ。
その隣に位置取るトウカイテイオー。こいつは余裕そうだな。汗は流しているし不安そうな表情だけどまだ一回もフォームを崩していない。
ダイワスカーレットは……ッ!? なんだあの乳は!? 本当に中等部か!?
走るたびにだるんだるんと、痛く無いのだろうか。クーパー靭帯は無事なのだろうか。
あ、トウカイテイオーが蹴り上げた土が目に。ここでダイワスカーレットはリタイアか。目ぇ洗ってこい。もしくは乗るか? スクーター。あ、乗りますかそうですか。じゃあ後ろに……ッ!? なんだこの乳は!? (デジャヴ)
「っし、とにかくもう少しだ。もう少しだけ辛抱しろ」
「ううううう〜……」
バ群はというと、もうかなり近い位置へ行っている。
よし、あの様子なら大丈夫だろうし先に公園行っちゃお。
行くぞダイワスカーレット。
「お先ぃ!」
「アッ、ずりいぞスクーター!!」
「て、手当のために先に行ったんじゃないかな……!」
「トレーナーさんに遅れをとるわけには行きません! 行きますよ皆さん! トレセ〜ンッ! ふぁい!」
「「「「おー!」」」」
「ふぁい!」
「「「「おー!」」」」
いいねえスポコンだねぇ。
公園についた時点で見事なターンを決めダイワスカーレットを反動で放り出し、水で目を洗っておけと命令する。ちなみに水道の近くに放り出した。
よろよろと水道へ向かうダイワスカーレットを尻目にスクータを停めていると、丁度ハリボテエレジー達が公園へ着いたところだった。
「おっつー」
「てめぇコラ覚悟しろよ頭突きすんぞ」
「まぁまぁエアシャカールみたいなこと言わない。しょうがねぇべさ、あいつ目に土入ったんだから」
「ゴメンネ……」
音もなく崩れていったダイワスカーレットには気づいていたのか、トウカイテイオーが申し訳なさそうに背中をさする。
目はさすがに撫でられないし道理である。
ダイワスカーレットのダウンもあるし、復帰するまでを休憩としようかな。
「んじゃお前ら休憩。好きに散れい!」
「「「「おー!」」」」
お、そこにハニードリンクの出張店があるぞ。
「……お金……」
「あぁ、まぁランニングでわざわざ財布持ってくるやつはいないよな。重いし。……しゃあねぇ、あとでちゃんと払うなら俺が出してやらぁ!」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
あ、トウカイテイオーがダイワスカーレットを見捨てた。
大丈夫かダイワスカーレット。あ、なんとか? そっか、念のため帰ったら保健室行ってきな。あそこなんでも治るから。
財布から3万の札が一気になくなり、それらは数千円のお釣りとなって帰ってきた。はちみー高すぎるだろ……。
いや、まぁこれはちゃんと後程お金を払ってもらうから良いんだけどね。喪失感が……。
「お金のつながりは絆の綻びと言うしな……安易に奢るとは言えない金額だ」
「オレはあんなんいらない。水で充分だ」
「……チョクセンバンチョー」
今日は薄い金髪か。ジャージは着るけどその学生帽は外さないのね。マチカネタンホイザと似たようなものを感じる。
っていうか良い体してんな。あ、トレーナー視点で見て良い体って意味ね。
脚は他のウマ娘よりも比較的細く華奢なのにどっしりと構えられているし、贅肉はほとんどない。
丸っこくて女らしいハリボテエレジーやトウカイテイオーと違い、ちゃんと絞ってアスリートの理想系を指し示している。
しかし喉やふくらはぎにしっかり肉が付いていることから、「いつでも体重を減らす準備をしてある形」という感じか。
「なにジロジロ見てんだよ」
「健康状態が気になって。その感じなら大丈夫そうだな」
「ったりめぇだ。管理を怠けて負けたら恥だからな」
「だがはちみつは栄養が多いしランニングの後に飲んでみるのもいいと思うぞ」
「甘すぎんだよアレ。オレはしょっぱいのが好きなんだ」
ふん、と不満げに頬を膨らませるチョクセンバンチョー。
こんな威厳ある姿なのに身長がトウカイテイオーと同じくらいなせいでどうしても背伸びしたお子様感が絶えなくて可愛い。
「今オレのことかわいいって思ったろ」
「いや別に?」
「……はぁ」
チョクセンバンチョーの懐から一枚のしおりが取り出され、琥珀色の瞳がそれを見つめる。
しおりにされているのは……クローバー? 四葉だ。
「……なぁ」
「ん」
「これ、
「……それで?」
「でもなんか、アイツからはオレをライバルとして見ているような気がしねぇ。それどころか、オレなんか見向きもしねえって思うんだ」
珍しくチョクセンバンチョーが弱気だ。
トレーナー会議のとき、チョクセンバンチョーの専属トレーナーが弱味を一切見せないから大変だと言っていた。
けど多分……この前の皐月賞。あれでギンシャリボーイの走りを見た時、どうしようもない不安に駆られたんだろう。
「アンタから見てどうだ。オレは……あいつと、タメ張れると思うか?」
今日ランニングに誘う前に調べて見たが、チョクセンバンチョーは今までこれといった成績を残していない。
選抜レースでも良い結果を残せず、メイクデビューではギンシャリボーイに負けて出だしは不調。出たレースでは好戦績を残していたらしいが、報道はあまり食い付かず、それでいてライバルが皐月賞優勝。
弱気になるのも仕方がない、か。
「無理だな」
「……」
「正直データが無いから勝てるかなんて予測はできない。けど、ギンシャリボーイならこのランニングは涼しい顔をしてこなしてみせると思うぞ」
「……あぁ」
ま、それを言われたところでどうしろってんだって話だよな。
今からトレーニングを積んだところで、ギンシャリボーイも同じ量のトレーニングをしていたら差は埋まらない。
心苦しいが、勝つのは難しいだろう。
「今から追い抜かすのは無理だ。だからお前は、アイツのペースを狂わせることだけ考えろお前、脚質はなんだ?」
「差し」
「……先行だな」
「は?」
「脚質を先行でも大丈夫なようにしろ。ギンシャリボーイは脚質自在だが、もしJWCにハリボテエレジー、ギンシャリボーイ、お前が揃って出るなら、ギンシャリボーイは余った先行か逃げを選ぶと思う。そうじゃないにしても、ギンシャリボーイは皐月賞で逃げをするまで追込とか差しとか、後方から抜かす位置が多かったんだ。だから先行だ。前にいたら抜かせ。後ろにいたら逃げろ。差しも充分通用するが、一度やって見てもいいだろ」
なんでそこまで、とチョクセンバンチョーが目を丸くする。
ハリボテエレジーのトレーナーなんだから、同じレースに出走するライバルとなるウマ娘に塩を送るなんて……と思っているのだろう。
実際、自分のチームや担当ウマ娘以外には冷たく突き放すトレーナーだって多い筈だ。
「忘れるな。俺は体育教師だぞ。悩める生徒に応えられないでどうする」
「…………」
「次は何をしてほしい? 情報か? プライベートじゃなければ、横流しできるぞ。もちろん自分の情報が他人に流れることを覚悟してもらうがな」
お、ダイワスカーレットが立ち上がった。そろそろ休憩も終わりか。
ハリボテエレジーはストロー長いやつ貰ったんだな。はちみーは美味いか? 美味いか、そうかそうか。ちなそれ1800円すんで。
……で、お前はどうよ?
「なぁ」
「ん」
「オレ、もう少しやってみるよ。凡才なりに、やってみる」
「不良のくせに根性あんじゃねえか」
「暴れろよ」
「応」
拳を突き合わせる。
ようしこの事チョクセンバンチョーのトレーナーに言っちゃお。どんな顔するかな、絶望するかな。
……ま、ここまで火がついたらトレーナーの言うことも聞くだろ。
「それじゃあこの公園のウマ娘様のトレーニングコースを五周! そのままトレセンに帰るぞ! ペースは維持だ!」
「「「「……はい……」」」」
「うし! おめえら行くぞ!」
「えぇっ!? チョクセンバンチョーちゃんが先頭行くんですか!?」
「文句あっか紙頭!!」
「紙頭!? いや、たしかにダンボールですけど……!」
ダッと駆け出したチョクセンバンチョーに続く様にウマ娘達が走り出す。
チョクセンバンチョーか。あいつは化けるぞぉ。
ワクワクする気持ちを胸に留めながら、俺はスクーターのエンジンをかけた。
◇
あと三周……!
なるべく早いペースで走っているが、意外とコイツらついてきやがる……!
トウカイテイオーやライスシャワーはわかるが、この紙頭……。
前まで全然スタミナ無かったのに、もうついてきてやがる。
隠れて様子を見に行った時も辛い辛いと言っていたのに、次の日には元気に走り回っていた。
「(こいつには筋肉痛って概念がねぇんじゃねぇか……?)」
空気抵抗がデカそうなダンボールマスク。
走ったあと毎回息苦しそうにしてんのに、まったく外そうとしねぇ。
もしかしてマスクトレーニングか? わざと酸素の取り込みづらい状況を作ることで外した時にいつも以上の力を出せるってやつか?
マスクはレースでも被ってやがった。だとしたらそれを外すのはいつなんだ? それほどまでにデカイレースなのか?
……いや。
決まってる。
「(……JWC)」
それしかない。
あいつはそこまで考えていたのか。
……いや、オレの意識が足りないんだ。
こんなんじゃギンシャリボーイにもハリボテエレジーにも勝てやしない。
そこらのレースで負けて終わりだ。
ンなことになってたまるかよ。
あと一周。
いつしか隣にいたハリボテエレジーが声を上げる。
「トレセ〜ンっ!! ふぁい!」
「応!」
「ふぁい!」
「応!」
この合図は自分、ひいては後続のペースが落ちてきた時に発する気合を入れる言葉。
ダンボールだからくぐもってるはずなのに、声がデカイ。
腹筋の力だろうか。
「……おい、ハリボテエレジー」
「ひゃ、ひゃい……はぁっ、はぁっ」
「JWC、負けるつもりねえからな」
「ふぇ? ……ひゃ、ひゃい!!」
だらしねぇ返事だな。
ほとんどスタミナ切れで集中できてねぇのか。
「はっ、そんなんじゃすぐにびゃてて……んお」
「えへへ、チョクセンバンチョーちゃんも疲れてるじゃん」
「…………」
「あ、耳真っ赤」
「えなになにチョクセンバンチョー耳真っ赤なの? もしかして自分で飛ばして疲れちゃった!? プギャーwww」
後ろのスクーター野郎がうぜぇ……!!
なんであいつはオレにだけ煽ってきやがるんだ!?
くそう、ぜってぇ負けねぇからな……!!
「トレセェェェン!!」
「ッ!」
「ファイ!!」
「「「「おー!」」」」
「ファイ!!」
「「「「おー!」」」」
あぁクソっ。
調子狂うぜ全く。
◇
そう。その根性がお前の武器だぜ、チョクセンバンチョー。
バーサス横浜ステークス。