担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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トレーナーはチームトレーナーと専属トレーナーで分かれるぞ! 恋愛もできるぞ! ただし片方が鈍感でなければな!!

トレセンについてまもなく。

メンバーが全員三女神像の前で死屍累々としていたのを傍観しながら、俺は今日一日の安全を三女神に感謝していた。

いつもやってるわけじゃないしただの気休めだけど、気分で感謝やお祈りしたっていいだろう。

そういえばこの三女神も大昔に実在したウマ娘がモチーフとか噂があったっけ。

ウマ娘が大手を振って走れる法律や基礎を固め、ウマ娘の心に走ることを植え付けたとかなんとか。諸説あり。

 

俺が生まれた時からずっとウマ娘は存在していたが、ルーツはどこから何だろう。

やはり黒人白人黄色い人族の様に、どこかの大陸に存在していて歴史の流れの中で人間と邂逅したのだろうか。

考えたこともなかったなぁなんて考えていると、足元で死にかけているウマ娘たちの耳がひょこひょこと動き始めた。体力が回復してきたか?

 

「大丈夫かお前ら」

「と、とれせーん……ふぁい」

「「「「おお」」」」

「ふぁい」

「「「「おお」」」」

 

大丈夫じゃないらしい。

息はちゃんとした一定のリズムを取り戻せているが動く分の体力がないと言った感じか。

スマホのタイマーで10分を設定し休んでいるみんなを見ていると、これが存外に面白い。

それぞれ休み方に個性がある。

とくにハリボテエレジーなんかはやる気が絶好調なのかもう膝立ちまで回復して隣のライスシャワーの背中をさすっている。

 

うーむ。スタミナトレーニングにしてはやりすぎたか。これでは他のトレーニングができなくなるし、毎回毎回やっていてはモチベーションも下がる。

たまにブートキャンプ的な感じでやるのが最適なメニューだな。メモメモ。

 

「で、ハリボテエレジーは脚の調子はどうだ」

「あ、はい。大丈夫そうです。いい感じに脚ガクガクです」

「ふむ。やっぱ負担が大きいよなぁ」

 

ふくらはぎを揉んでいるハリボテエレジーは心底眠たそうに大きな欠伸をすると、ぼけっとした様子で三女神像を見上げた。

 

「横浜ステークス……どんなウマ娘が出るんでしょうか」

「出走予定のウマ娘ならわかるが、コンディションや成長度合いはわからないな」

「相手によっては負けてしまう。シビアな世界ですね」

「まぁ……な」

 

やがて体力が回復したのか誰より早く立ち上がる。

ダンボールフェイスの前面に取り付けられた眉がVの字描き、拳が握られた。

 

「JWCで勝つためには、こんなとこで負けてられませんよね」

「……そうだな。進化したハリボテエレジーの力、見せてやれ」

「進化、ですか! ……ハリボテエレジー2.0! どうですかこれ?」

「蹄鉄手に入れてバージョンアップってか。いいんじゃねぇか?」

 

2.0って、なんだかロボットみたいだ。

そのうち鉄の走行を纏った戦車みたいなのが出てきたりして。……それはねぇか!

バージョンアップだと胸を張るハリボテエレジー。その後ろに、緑色の服を着た女性が見えた。

たづなさんだ。なるほど、そろそろウマ娘たちが寮へ帰る時間だ。

 

「よし、時間も時間だし予定していた追加トレーニングは無しにしよう」

「本当!?」

「いいのかい……?」

「そんなに辛かったかアレ。……ごほん。今回のランニングはお前らの筋肉を痛めた非常に効果のあるトレーニングだ。またたまに誘うから、その時はよろしく」

「「「「はい……」」」」

 

解放された様にぞろぞろと脚を引きずりながらそれぞれの部室や教室へ向かうウマ娘たち。

ハリボテエレジーだけがその場に残り、深呼吸を繰り返していた。

 

「お疲れ様です」

「あぁ、どうも。毎日お疲れ様です」

「いえ、これも学園のイメージにつながりますし、交流を深めるのも楽しいですから。……ところで、あの」

 

たづなさんがチラリとハリボテエレジーを見る。

彼女に知られたくない内容だろうか。

ちょいちょいと手招きするたづなさんに耳を寄せると、彼女の口から出てきたのは、

 

「明日、例のアレをしなくてはなりません」

 

 

 

 

府中駅。

トレセン学園関係者が良く使う駅で、ウマ娘が使うことも多い。遠くのレースに出る時、車じゃ行けなかったりするもんな。

そして、俺自身も良く使う。最近はめっきり車を使う様になってしまったが、まだ中央(トゥインクル)のトレーナーライセンスを取る前、勉強も兼ねてレースを見ようと良く改札を通った。

お陰で、

 

「あぁ、どうもお久しぶりですね」

「あっ、お久しぶりです!! 聞いてくださいよ、俺の担当ウマ娘めっちゃ速いんです!」

「見てます見てます、ハリボテエレジーでしょう?」

 

駅員とは顔見知りになっていたりする。

ちょうど読んでいた新聞に載っていたハリボテエレジーをこちらに見せ、嬉しそうな顔をした。

 

「いや、よくやる子だ。メイクデビューの中継見てましたよ。彼女は根性がある」

「そうなんですよ! 回復力がえげつなくて、この前脚の怪我を心配していたら『もう大丈夫」とか、『過保護』とまで言われたんですよ!?」

「そうなんですか。……はて、脚の怪我をしていたんですか?」

「いや、それがあいつ左足……あっ」

 

骨折寸前だったこと、言っても良いんだろうか。

これを誰かが聞いていて騒ぎになったらおしまいだ。ウマ娘に近い位置である以上、俺にだって記者がついているのかもしれないのだから、迂闊な言動は控えた方がいいだろう。

たとえそれが、仲のいい知り合いであっても。

 

「左足、この前捻ったって言うんですよ! ひねった状態で走らせたら危険だと思ってたんですが、次の日にはすっかり治ってまして。ウマ娘ってすごいですねぇ」

「本当ですよ。いやはや、応援してます。頑張ってくださいね」

「はい!」

「……して、どの電車に乗られるのですか? すみません、話し込んじゃって」

「あぁいえいえ、今日は電車には乗らないんです」

 

乗らない? と一瞬だけ思案顔で首を捻った駅員さんだったが、やがて合点がいったのか徐々に視線を落としていく。

彼が座っている駅員室の壁には、大量の写真がコルクボードに貼られていた。職員室の俺の教員机はここらへんからレイアウトをパクったりしている。

 

「また、あれですか」

「あれですね」

「世の中、そう簡単にうまくはいかないのですな」

「あの……また、走るんですか?」

「えぇ。彼女が見えなくなるまで、走りますとも」

 

それで明日に、全てが終わるのだ。

彼女らにとっての熱血体育教師としての使命を、果たすのだ。

 

「とりあえず、明日あれがあると言うことだけ」

「明日……」

「それじゃあ、帰ります。よろしくお願いしますね」

「はい。いつものように、やってやりますとも」

 

いつからか彼とは協力関係だった。

あくまで他人というスタンスをとってくれるからだ。時には。そういう他人からの優しさが必要な時もある。

 

駅を去り、スマホを見ると、時刻は晩飯どきに差し掛かろうとしていた。

同時に空腹感が己を襲い、疲れも相まって、ううん、晩飯どうしよっかな。

家で自炊するのめんどいなぁ……ちょっと豪華に外食しちゃおっかなぁ。

なんて、とりとめのないことを考えていると。

 

「どーん!」

 

不意に、後ろから抱きつかれた。

ぬっ! と体を捻って腕から肩へ、そしてもう一方の手で腰に手を当ててぐるりと一回転し拘束を逃れ、そのまま遠心力で今度は自分が背後について首を締めようかと目を据わらせていると、その人物が小柄であること、そして驚きでピンと伸ばされたウマ耳に気がついた。

 

「……トウカイテイオー?」

「ぎぶ、ぎぶ、こっ……苦じ……」

「オトしても良い?」

「〜〜〜ッ!! ……っ!!」

 

解放してやるとトウカイテイオーは耳をぺたんと前に倒し、苦しそうに酸素を吸った。

すまんな、ウマ娘の中には気性の荒いやつもいるし殴られでもしたら終わりなんだよ。護身術くらいは身につけないといけなくてさ。ははは。

闇討ちかと思ったと告げると「ボクヲナンダトオモッテルノサ!!」と激昂し、しかし次の瞬間には視線を落として申し訳なさそうにした。

 

「ごめんね、なんだか元気がなさそうに見えたから」

「……元気がない? 俺が?」

「うん。最近エレジーのことにつきっきりで疲れてるみたいだったのに、なんだか今日はもっと疲れてそうだったんだ。……なんて言うのかな、寂しい?」

「悪かったな独身彼女無しで!!」

 

しかし、それを案じて俺に抱きついてきてくれたのか。一教師ごときに、なんて優しい子だろう。

 

「ありがとな。大丈夫だ」

「おっ! ……ひひ」

 

頭を撫でると、前に垂れていたウマ耳が元の調子に戻る。

尻尾もゆらゆら揺れて、表情から見て取れる様に上機嫌そうだ。

まぁもともとトウカイテイオーは子供っぽいしな、もしかしたら兄代わりのような何かと思ってくれているかもしれん。

 

「俺、頑張るから」

「うん! ……あっ、じゃあ今度ボクと買い物行ってよ! 結局エレジーの蹄鉄問題、解決しちゃったけどさ!」

「もちろん。……だが俺でいいのか?」

「なにが? あぁ、エレジーの事?」

「いや、お前の事だ。そんな一教師に肩入れするもんじゃないと思うぞ。俺からすりゃ、教師と出かけるなんて拷問でしかないが」

「そうかな? ……ま、トレーナーだし!」

 

俺はトウカイテイオーのトレーナーを務めたことはないのだが、と思うが、女子からすると異性と買い物に行くのはそこまで抵抗あるものではないのかも知れん。

ま、いっか。本人が望んでいるなら。

 

「なんだかデートみたいだな」

「……ぴぇ!?」

 

目を見開くトウカイテイオー。

……あ、しまった! 年頃の娘にデートとか言っちゃ地雷だこれ! 吊るされる! セクハラ発言で吊るされる!!

携帯を取り出したらいつでも取り押さえれるようにじりじりと構えながら距離を詰めるが、当のトウカイテイオーにそのような動きは無い。

ぴぇぴぇと鳴き声の様なものを発しながら小刻みに震えるだけだ。

 

「トレーナー……エレジーがいるんだよ?」

「……ん? あぁ、それがどうした?」

「!?」

「別に今あいつは関係なくないか?」

「ええっ!?」

 

ハリボテエレジーに言いつけるぞと言いたいのだろうか。

だが奴は今既に自宅に帰っているだろう。SNSで繋がりを持っていない限りは告発は明日以降になるし、その前に俺がハリボテエレジーにメールで「トウカイテイオーの言うことは信じるな」と言っておけばチェックメイトだ。

勝った!!

 

「と、トレーナー、それって……」

「それが……どうかしたか? あいつに、チクるか?」

「そ、そそ……そんな、事……!」

 

お、月だ。結構話し込んでいたらしい。

 

「見ろ、今日は月が綺麗だぞ」

「……!? っ? !? ……???」

 

そして茹で蛸のように真っ赤に染まったトウカイテイオー。話をそらされて怒り心頭という事だろうか。

バイブレーショントウカイテイオーはその震えを最大まで発すると、やがてさっと踵を返して。

 

「ちょっと考えさせてぇぇぇぇぇぇ!!」

 

と叫んで寮の方へと爆速で逃げ帰ってしまった。

……なんだったんだ一体。結局買い物は行くんだろうか。どうせ俺が荷物持ちをすることになるんだろうが、日時は……。

トウカイテイオーの背中に向かって伸ばされた行き場のない手を上げ下げしていると、誰かが俺の肩に手を置いた。俺、背後取られすぎじゃない?

振り返ると先程の駅員さん。

 

「……あんた……女の子にあんな事言っちゃダメだよ……」

「やっぱデリカシー無かったっすかね。あ、あの子は今んとこアレじゃないんで、安心してください」

「……ダメだこりゃ」

 

駅員さんが遠い目をしていた。何がだよ。解せぬ。

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