担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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さよなら

トレセンは、無常である。

 

「あ、ありがとう……ございました……」

 

こうして泣きながら駅の改札を通ろうとするウマ娘たちを、呼び止めることを許さないのだから。

トレーナーが付かなかったか、はたまた学力が足りなかったか。

レースで活躍するウマ娘を育成する。そんな輝かしい面を持つトレセン学園は、自らの放つその光で、暗く、深い影を落としているのだった。

 

「……また……」

 

隣の先生が、震えた声を絞り出す。

 

「また、去っていってしまった……」

 

彼女は、確か数学が得意だった筈だ。

そして今改札を通ろうとしている彼女は、スタートダッシュがとても綺麗だった。

今、たづなさんに別れを告げている彼女は、学力だけは申し分無かったはずだ。

 

「トレセン学園は、文武両道……」

 

今、きらきらと輝いている彼女たちは、奇跡を全身に浴びて生きている。

その逆に、今、俺の目の前で大粒の涙を床に落としているようなウマ娘もいる。

今月のトレセン学園退学者、計三名。

イントロスパート、アストロメイデン、マルマル。

以降、彼女たちがレースの歴史に名を残すことは、無い。

 

駅員さんが改札の向こうで彼女たちの背や肩を叩き、慰めている。

慣れている。本当は慣れてほしくなど無いが。

 

「電車が発車するまで時間がありません。……行ってあげて、ください」

「はい。使命、果たしてきます」

 

布に包まれた長い棒を持った俺は、泣きじゃくるウマ娘たちに背を向け、駅から出る。

そのまま線路沿いに歩き、一息入れた。

スマホに、先生方から『行きました』とのメッセージ。間髪入れずに駅員さんから『乗りました』と来た。

……よし。

 

電車が、ゆっくりと走り出す。

ウマ娘三人が乗っているのを確認し、俺は全速で走り出した。

彼女たちが窓に張り付き、目を丸くして俺を見る。

両手に持った棒の紐をほどき、布に風を浴びせた。

 

「「「…………ッ!!」」」

 

たなびき、揺れ、しかし力強くはためく文字。

 

「俺たちはお前の事、忘れないから!!!!」

「「「…………っ! ッ……」」」

「っは、何言ってるか全然わかんねぇよ」

 

そこに書いてあったのは。

 

 

 

 

 

Eclipse first, the rest nowhere.(唯一抜きん出て並ぶものなし)

 

 

 

 

 

俺たちが、せめて送れる言葉だった。

誇りを、忘れるな。

ウマ娘である喜びを。走れることの悦びを。

彼女たちに、忘れないでほしい。

 

「……ぐっ……!」

 

電車対人間なんて、結果は決まってる。

スピードに乗り出した電車は俺を抜き去り、対して俺は全速を維持することが出来ずに減速していく。

だけど……!

 

「諦めんな……忘れんな……」

 

目をキラキラ輝かせ、自分の歩む道に思い馳せたあの頃を、絶対に忘れんな!!

俺は、お前らの走りが好きだった!!

お前らのファンは、ここに……学園にいつまでもいるから!!

だから絶対、忘れんな!!

 

「……えくりぷす……ふぁすと……ざ……」

 

旗が、勢いを無くす。

同時に、脚が倦怠感を訴え体は酸素を求めた。

これが体育教師である俺にできる精一杯。

彼女たちの意思は、いつまでも三女神が、そしてこの言葉が、継承している。

だから絶対。

 

絶対、忘れんな。

 

 

 

 

「おかえりなさい」

「はは……やっぱ電車には敵わないです」

「えっあっ……そうですね……そっか……」

「たづなさん? 何か?」

「いえいえ!!」

 

中央にトレセンになって、何回目かのお別れの儀式。

毎月、アレが来るのではないかと身構え、少しの期待を込めて耳を貸し、そして走る。

少なくとも半年分……六回、か。

 

地方トレーニングセンターではウマ娘と共に走り「結構いける」と言われた俺だが、文明を詰め込んだ鉄の牛はやはり速かった。

……ふう。

俺が新人でよかった。でなければ、こういう風にしないだろうし、体力も無いだろう。

せめて定年までは走り続けたい。とういうよりかもう二度と走りたくない。

そうやって願い続けて、もう半年以上経ってしまった。

 

正直覚悟してはいたことだ。

走ることは構わない。俺がやりたいと言い出したのだし。

けれど、毎月、少なからず一人は退学者がいるというのはさすがに堪える。

次こそは、無いといいな……。

少々ナーバスになっていた思考は、差し入れられた炭酸飲料によって弾け、胃の中へ流されていった。

 

「じゃ、学園に戻りましょうか」

「あー、俺ちょっとボールペンの芯切らしてるんで買ってきます。先、行っててください」

「そうですか。じゃあ、お先に」

 

はーい、と見送った後に振り返り、電信柱を叩く。

陰にいたウマ娘が弾丸に撃たれたかのように出てきた。

 

「おうどうした」

「あ、いえその、あはは」

「あのナイスネイチャがストーキングかぁ?」

「す、ストーカーちゃうわい! ……いや、たまたま見かけてさ。ゼェハァしてたから何事かと思って」

 

ふぁータイミング最悪でござるwww

生徒が三人減った事を知ったらこの子多分悲しむでござるよwww

 

「なんもないよ」

「え? ほんとに?」

「ランニングしてただけだ」

「ほーん……そっか」

 

ナイスネイチャは屈託のない笑みを浮かべる。

思わずもふもふ(ビワハヤヒデ)すると「くすぐった」と身を捩りながら笑った。

うん、ウマ娘はこういう笑顔が1番似合う。日常的な笑顔も、1番を掲げた時の笑顔も。

次に似合うのは1着を取れなかった時の晴々とした泣き顔。

決して、先程のもう走れないことに対する泣き顔じゃない。

 

……よし、吹っ切れた。

俺は今を生きる男。

目の前で輝いているこの光を育て、太陽にするんだ。

それが俺の使命。俺がやりたいこと。

……トキノミノルさん。

これで、大丈夫ですか?

あなたが期待したトレーナーに、なれていますか。

 

「っし、トレセンに戻るか。俺車で行くからお前走って来い」

「んなっ。乗せてくれないの?」

「嘘嘘。ほら、駐車場行くぞ」

「アットレーナー! ネイチャモイルー!」

「あぁめんどくさいのに見つかった」

「めんどくさい!? トレーナー、それどういうこと!? ボクが!? それボクのこと!?」

 

図らずしも集まった輝く太陽達。

パッと周りを見渡すだけでも、ウマ娘は沢山いる。

もちろん、トレセン学園に入学していないウマ娘も。

……うん! 未来は明るいな!

 

「サモン、ゴルシ!」

「お呼びですかマイマスター」

「ゆけっゴルシ! でんこうせっか!」

「オラァン!」

「ゴルシ!? ちょっ待っ……ピャア!?」

「ははは! 見ろ! ウマ娘が塵のようだ!!」

「一教師として大丈夫なのその発言? ……ってか帰るんじゃなかったの?」

 

ゴルシを召喚した時点でもう予定なんて無いと思え。

結果ウマ娘三人を車に乗せてトレセンへ出発するのだが、三人寄れば文殊の知恵。女三人集まれば姦しいと。

トレーニングのこととかタピオカとかシューズとかウマスタとか。

ところどころプロ意識のある女学生の会話を聞き流していると、ふいにこちらに話題が向けられた。

 

「あっ、そういえばトレーナー」

「んあ? どしたナイスネイチャ」

「あたし、横浜ステークス出走するよ」

 

おっ!!!!

心の内でニチャアと口を裂く。

ブロンズコレクターである彼女に後ろから追われたら、ハリボテエレジーもあらたな成長を見込めるだろう。

そしてなによりエモいレースが見れそう!!!!

 

「わかった。ハリボテエレジーにも伝えとく」

「根岸ステークス? なんだァ?」

「次にハリボテエレジーが出るレースだよ。あとすぐ何日かで開催されるはず」

「へぇ……ボクも出たかったな!」

 

壁にしては標高が高すぎるんでやめてください。

……あれ? もしかして今申し込めばトウカイテイオーも出走できちゃう?

え?

あれ?

 

「……やめといたほうが良いんじゃないか」

「なんでさー!!」

「ははは、はは……」

 

後部座席からクビに手を伸ばすトウカイテイオー。どうやら先程シめられたことを根に持っているらしい。

ちなみに俺の横にはサングラスと葉巻(たぶん本物では無い)を咥えたゴルシ。ハードボイルドだぜ。乗用車ですまんな。

ガクガクとゆさぶられながら見事なドライブをし、信号待ちのところで手を首から外そうとぺしぺしと叩いていると、不意に俺側の窓がこんこんと叩かれた。

なんぞ、誰ぞこんな時間に……あ、まだ門限の時間じゃないか。

それで、誰だ……?

 

「はい」

「トレセン学園の女生徒があなたの車に乗っていくところを目撃しました。警官のオマワリサンです、お時間いただけますか」

「逃げろお前らオマワリサンだ!!」

 

一斉にウマ娘達が車の外に出て寮の方へ走り出す。

待ちなさい、とオマワリサン……警察手帳を掲げたウマ娘が声を上げるが、逃げ出した三人は聞く耳を持たない。

 

「逃げた……何かやましいことがあると見ます。署までご同行いただけますか」

「どうぞご自由に。頭が固いと評判のオマワリサン」

 

このウマ娘のおかげでここらの男が何回冤罪をかけられたか。

娘を乗せれば拉致かと疑われ、彼女を乗せれば援交かと言われる。

それでいてとても鈍い。天然や鈍感などでは話にならないくらいに頭が固いのだ。

だから、俺が取るべき行動は。

 

「ただし、俺を捕まえられたらな!!」

「なっ、待ちなさい!!」

 

まずはオマワリサンから逃げること!!

こいつは頭がバクシンなので逃げ切ったら冤罪をかけたことなんてすぐ忘れる。で、シンボリルドルフと真逆でいつまで経っても人の顔を覚えないのだ。

 

「待ちなさい! 女子生徒誘拐の疑いで逮捕します!!」

「やってられっか! お前が持ってる交番言ったら丸一日かけても冤罪無くならんわ!」

「この悪人め!」

「俺が悪人ならアバシリの奴らは魔王か邪神だよ!!」

 

で、俺がこの時間帯にカーチェイスしても騒がれない理由。

うん、もう慣れてるからだ。オマワリサン、今日だけで三回は冤罪かけてると思う。

だからもう、急発進した車の隣にオマワリサンが単独でついていれば、「あぁまた冤罪か」とまぁ、狼少年のようになっている。

 

「おい、お前……あぁ、オマワリサンか」

「よくご存知で!」

「頑張れよぉ〜」

 

交差点ですれ違ったトラックのおっちゃんがエールをかけてくれる。

ちなみに本当に犯罪者を追っている場合はまず真っ先にパートナーがオマワリサンの背中に「本物です」と張り紙をつける。

よぉし、夜の街を駆けるぜ!!

 

「待ちなさい!! 止まらないと撃ちますよ!!」

 

バカスカ拳銃撃ちまくるからパートナーに没収されてるやつが何言ってやがる!!

だれかこいつから警察の権限を剥奪してくれ───!!

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