担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
「あ、どうも」
「……?」
「え、なにかありましたか?」
ハリボテエレジーが、包帯に包まれた脚を松葉杖でカバーしつつ立ち上がる。
いやいやいやおかしくない?
え、なにがって顔してるな。じゃあ教えてやるよ。
「なんでもう松葉杖なんだよおおお!?」
「ええっ!? どういうことですか!?」
「いやついさっきまで寝てたんでしょ!? ゴールしたあと倒れるみたいに寝てたじゃん!」
「あぁ、そうですね……脚も痛かったので」
えへへと笑うハリボテエレジー。
はいそれ!!
それがおかしいの!!
「大体さ、さっき折れました、寝ました、松葉杖レベルに回復ですっておかしくない!? 俺さっきスタッフの人から『ンハリボテエレジーさんのっ……ン容態がァっ……!!』って危機迫る感じで言われたからめっちゃ覚悟してきたんだけど!? そんで扉開けたらほとんど回復してて『あ、どうも』ってバカにしてんのか!!」
「え、あ、すみません……?」
「ほんとだよまったく!!」
どうなってるんだよこの子の回復能力は!!
普通三日は寝込むと思うんですけどねぇ!?
「なんかでも、お医者さんからはもう繋がってたって言われましたよ。折れて無かったんですかね」
「違うよ、多分ぐって押し付けたときにほぼほぼ治ってたんだよ」
望遠鏡で見てたけど、ハリボテエレジーが自分のふくらはぎを掴んで溶接するみたいにぐっと押し付けてたら次の瞬間には立っていた。
まじ無理わかんない。この子本当にウマ娘? 宇宙人だったりしない?
回復力が異常とかそういうレベルじゃないもん。再生だもん。ゲームキャラみたいじゃんもう。
「なに? ハリボテエレジーさんの容態が……ってのは治りましたって意味だったの?」
「そう見たいです。……ところで、読んでいただけましたか?」
ハリボテエレジーが自らの頭を指さす。ダンボールの辺の一部が破られていた。
「あぁ、読んだよ。レースは仕切り直しだろうなって思ってる」
「ですよね。……でも、そのハルウララちゃんが……えっと、あの有様で……」
「ん」
ハリボテエレジーが手で促した方を見ると、ハルウララがロープで拘束され、ベッドに強制的に寝かされている光景が広がっていた。
何あれ。
「ゴール直後、控え室で急に苦しみ出して……今は鎮静剤を売って安静にしているらしいですけど、筋肉の痙攣が治らない……とかなんとか言ってました」
仮で建設された治療室のような部屋。
ハリボテエレジーが先程まで寝ていたであろうベッドと、ハルウララが寝ていたベッド。そして、最初に転倒したウマ娘が寝ているであろう───今はカーテンのような即席の囲いで仕切られていて中は見えない───ベッドがある。
「そうか。……ハリボテエレジー、少し耳を貸してくれ」
「あ、はい、どうぞ」
「……頭の天辺をこちらに向けないと聞こえなくないか? 耳は頭上にあるんだし」
「……あっいやっ、大丈夫です! 中で折りたたんでるんで、この辺に耳があるんですよ!」
そ、そうなのか。じゃあまぁ……っと。
ハリボテエレジーの側面に耳打ちをする。
キングヘイローが乱入してきて、ハルウララのドーピングの疑いがかけられたこと。それが、ハリボテエレジーのメモで確信に変わったこと。
ゴルシから得た情報……黒い集団の話。
「そうですか……もしかしたら、あの時に……」
「知っているのか?」
「ええと、あやふやなんですけど……トレーニングをしているとき、ウララちゃんが誰かから呼ばれたって一回どこかへ行ったんです。もしかしたら、その黒い人をトレーナーかウマ娘と勘違いして近づいて行っちゃったんじゃ……」
「そして、ドーピング薬を渡されたと」
「でも、かなり前の話ですよ! もしそうだとしても、なんで今……横浜ステークスでドーピングする必要があるんですか? ウララちゃん、そんなひとじゃ無いと思います!」
「さぁな。何かしらの事情があって……ん?」
ハルウララがドーピングなどしない性格なのは分かりきっている事だ。
だから本当に謎だった。いわゆるお人好しであるハルウララも、頼まれたからと言ってドーピングまではしないだろう。
では、もし、もしハルウララが。
「ハリボテエレジー……ハルウララの注射痕……どこにあった?」
「え? く、首の後ろです……。……ん? え?」
どうやらハリボテエレジーも違和感に気づいたようだ。
そう、ハルウララは、頼まれたとしてもドーピングをする性格じゃない。
では、もしも、
首の後ろに注射なんて、自分でできるはずがない、注射なら、できて首の横だろう。
キングヘイローが持ってきた注射針はかなり大きめだった。骨格的に、首の後ろに手を回した状態で薬を注入出来るとは思えない。
だとするのなら。ハルウララは、ただの被害者ということになる。
「じゃあもし、それが証明できれば……」
「罪は軽くなるだろうな」
「やった……!l
「ただ、ドーピング薬が完全に抜け切るまで……そして今の有様を見ると依存性もあるようだし、打たれる前の状態に戻るには、そしてレースに出られるようになるには相当時間がいるだろうな」
「……そう、ですか……」
ただ、その前の状態へ戻る未来がみえているのは大きい。
とすればあとは、今後このような事件を出さないためにその黒い奴らを捕まえるのが1番だが……その辺は本職であるオマワリサンにやって貰えばいい。
ハルウララの体調が回復したら、当時のことを聞いてみよう。なにかわかるかもしれない。
ただ、ただひとつだけ気になるのは。
他人しか打てない薬を、どうやってハルウララに打ち込んだのかだ。
選手控え室は関係者以外立ち入り禁止区域だ。
そんな場所に、どうやって忍びこんだ?
キングヘイローが嘘をついている? いやいや、自分から疑われるリスクを作ってなんになる?
だとしたら、カバンの中に入っていた……ハルウララが、持ち込んだ……恐らくコレは、あっている……ハルウララが持ち込まなければ行けなかった事情は……?
「……もしかして……」
「?」
いや、まだ確証が持てない以上、注意だけしておいたほうがいい、というレベルか。
「VIPルームにいた誰かに黒い奴らの仲間がいるとか、洒落にならないから。
だってそうだろ、俺。
財布とスマホを除いて大体の荷物は預かられるあの部屋。出入りは自由だけど、かなり警備が厳しかったはず。
目立たないために団体は使えないって前提で考えると、ハルウララに持ってこさせた方がいい。
「とにかく、骨が治るまでは安静だな。またトレーニングはできないよ」
「えぇっ!! すぐ治りますよこんなの!」
「普通は治んねぇんだよ!!」
ウマ娘の回復力がすごいのか、それともハリボテエレジーだけが回復しやすい体なのか。
他のウマ娘の怪我の前例を見ると、きっと後者の方なんだろうな。
トウカイテイオーよりよっぽど『不屈』してるよ。
「とりあえず、その時のことについて詳しく教えてもらう。控え室、大丈夫?」
「はい! 行きましょうか!」
「ねぇなんでもう折れてる方の足で勢いつけれてるの? 松葉杖いるそれ? 俺不安になってきたよ本当に一日で治るんじゃないかって」
◇
ええと……よし、見られてまずいものはない、なっと。
じゃあトレーナーさん、入ってきて大丈夫ですよ!
……あ、じゃあその椅子使ってください!
ええと、どこから話しましょうか。
レースで転ぶちょっと前に、なんか見えるなって思ったんです。
首のとこが、少し腫れてるようなって。
それで、いろいろ試行錯誤してみたんですけど、なんだか背中を取らせないように動いてる気がして。今思えば、注射の痕を隠すためだったんですかね。
それでそのあと転んで、すぐにくっつけて追い始めて……なんですかその顔?
ええとまぁ、それで結局七着だったんですけど、ウララちゃんに近づくことはできました。
それで、首の後ろに手を回してみたら、なんかべとってしてて。あ、やばい、泥だらけの手で傷口触っちゃった……ごめんウララちゃん。
ええとそれでですね? なんと緑色だったんです。明らかにおかしいじゃないですか、緑色の体液なんて。
だから、その場でダンボールちぎって、書いて、スタッフさんに渡した感じです。そのあとは……ちょっと覚えてません。寝ちゃった見たいです。
……え? 普通は骨を折った時点で悶え苦しむ? ……ははは。
と、まぁそんな感じでした。あーあ、ダンボール新しいのにしないと……泥だらけになっちゃった……。
こういう時このマスクは泥を代わりに被ってくれていいですね。目が痛くない。……え、反則ですか? 泥をかけるのも戦略のうち?
………………。
以上です! 他は覚えてません! はい、それじゃ、どうぞ、お帰りください! ハリボテエレジーの占いの館は終了ですよ〜!!
……ふぅ。
んしょ……あー、暑かった。
やっぱダンボールでレース出るのは難しいかなぁ。
控え室って壁に大きい鏡ついてるのいいよね……っと。ん、ほっぺに泥をついてる。いつのまに。
あ、髪の毛も傷んでる……え、これ枝毛!!
うわぁ、しばらくトレーニングばっかしてたからか全然美容関係できてない!!
どうして他のウマ娘はあんなに美人多いの!? ちょっ、もう……えぇ……。
……はぁ。
いつか、ダンボールを外して思いっきり走りたいなぁ……素顔は見られたくないけど。
ラバストだってダンボールフェイスで認識されちゃってるし……いやまぁ、素顔でラバストにされてたらストーカーの存在を疑うけども。
トレーナーさんにも信頼を形にして送れないし……どうしたら良いんだろ。
……お。
足、治ってる?
◇
ふーむ。そんなことがあったのか。
いやまぁ、骨折しました、くっつけて治しましたってのがもう化け物の領域なんだけどね。
いや、ハリボテエレジーの足に関しても、ハルウララの薬に関しても、知りたいことは山ほどある。
世の中にはneed to know───知る必要があるときに知ればいい、なんて意味の言葉があった気がするが、あいにくと俺は指導者だ。
警察や機関に渡しておしまいって、なんだかこちらとしてももやもやする。
とはいえハリボテエレジーはどれだけ突き詰めてもわからなさそうだ。とすればハルウララの件。
「薬といえばアグネスタキオンなんだけど……彼女、本職の研究者ってわけでもないしなぁ」
ウマ娘たちの間で流行っている……二次創作? と言ったかの小説では、大体の厄介ごとはアグネスタキオンが持ってくることになっている。
他にも、薬が原因でウマ娘が暴走したり、トレーナーが暴走したり、サポーター作ったり罠作ったりと、なんだか技術者のような扱いを受けている。
せめて現実世界ではゆっくりしてもらいたい。おのれウマソルジャー
ま、ここは理事長やシンボリルドルフに丸投げすれば良いだろ。俺の出番なし! ヨシ!
とまあそんなわけで、ハリボテエレジーはまだしばらく控え室に残るらしいから一度VIP席に戻ろうかしら。
えっとどこだっけ。
ん……マップは、っと。あったあった。誰か見てるけどちょいと失礼しますよ。
「……む」
「お? シンボリルドルフじゃん」
「あぁ……君か。いや、呼び出しがされてな。なにがなんだか分からないが、事態は急を要するとのことらしいから、まずは私が来ることになったんだ。そのため主催者がいる席へ行こうと思っていたのだが……今回の件について。何か知っているか?」
「まぁな。でも廊下じゃ話しづらいから、一回VIP席行こう。主催者の人もそこにいる。大体はそこでわかるはずだ」
連絡を受けてそのまま走ってきたのか、トレセンの制服を乱し、汗を浮かべていたシンボリルドルフ。
お前も大変だなぁ……なんて思いつつVIP席へ向かうと、先ほどと変わらず頭を抱える主催者とおろおろキングヘイロー、そしてあたふたスタッフという構図が続いていた。ウケる。
「hey諸君! 頼れるトレセンの生徒会長を連れてきたよ!」
「あっ……すみません……」
「構わないさ。……それで、今の状況を説明できる者は?」
「俺がしよう。さっきハリボテエレジーから聞いてきた事も伝える」
そこで挙手。
周りの人達の視線が俺に集まる。
そこで、俺はハリボテエレジーから聞いたことを整理しつつ話し始めた。
「まず今回の件、ハルウララがドーピングをしているという疑いがかけられた。第一発見者……って言って良いのかな。まぁとにかく、持ち込んだのはそこのキングヘイロー。ハルウララのカバンの奥にあったらしい。そしてそれがわかった直後に、ハリボテエレジーから俺宛に、ハルウララの首の後ろに注射痕があるってメッセージが届いた。今はハルウララは迂闊に近づけない状態だが、いずれ見ればわかるだろ。それで、キングヘイローの持ってる注射器。……そうそれ。それの内側に微妙に残ってる液体と、ハリボテエレジーが俺にくれた手紙に付着していた、ハルウララの首から採れた液体。成分はわからんけど、きっと同じもんだ。これらを組み合わせると、ハルウララはこの液体によってドーピングをしていた可能性が高いってことになる」
「……そうか。そのようなことが」
「このままいけばスポーツマンシップにのっとって、ハルウララは二度と公のレースで走れなくなるだろうな」
キングヘイローが泣きそうな顔をする。
気持ちはわかる。俺も、あんな元気なウマ娘が二度と走れないなんて嫌だ。
「けどまだ希望はある。ハルウララから話を聞いてみないと分からないが、実はハリボテエレジーと行った合宿、ハルウララも一緒にいたんだ。俺はこの目で、ハルウララが今のようなマッチョになっている姿を見た。その時はただの筋肉だと思っていたけど……ハルウララはその時、ドーピング薬を注入された可能性が高い。そうすれば、被害者であるハルウララはまだ走れるはずだ。……たくさんやらなきゃ行けない事もあるだろうけど」
「……む。少し待ってくれ、ハルウララが自分の意思で打っていないという証拠はどこにあるんだ」
「ハルウララの注射痕は首の後ろにあったらしい。自分の首の真後ろに、その手動押し出し式の注射器を刺せるか? 刺さったら注入される自動タイプならともかく」
キングヘイローとシンボリルドルフが、自分の首に裏に手を当てる。
首に手を回すことは簡単だが、血管を探り当て、かつ針を通して液体を注入とか、できるわけがない。
「……な、無理っつーか、難しいだろ。だから、今日の件も合宿の時も、どちらも他人に打たれたはずってことだ」
「……なるほど」
「キミは、もうそんなところまでたどり着いていたのか。やはり君は……」
「やめろやめろ。俺は探偵じゃ無いんだ。この情報は警察に渡して、あとは本職に任せる。素人がでしゃばるわけにもいかないからな」
「君は素人では……まぁ良い。そうしたいならそうすれば良いさ。君を同行する権利は、私には無いのだから」
シンボリルドルフは一瞬悲しそうな顔をした後、VIP席の窓からコースを見る。
「事故が発生したため、審議を行います」というアナウンスが入り、客席には不安そうにしている者も不服そうにしている者もいた。
シンボリルドルフの手が、硬く握られる。
その背中からは、確かな怒りが感じられた。
「神聖なレースで……やらかした者がいるらしいな」
「そうみたいだな」
「この件はトレセン学園にも持ち込む。理事長にも、私から伝えておこう」
「ありがとう」
「構わないさ。中央を
で、出たァ───!
ルビが変わる生徒会長お手製の中央を
まさかこんなところでお目にかかれるとは!!
「……君、随分と呑気な考えをしていないか?」
「そんなわけがないだろう!! ンハルウララが……っ、ンハルウララが、ン酷い目にあったんだぞ!!」
「ッ、そうだな……すまない」
いやまぁ、正直はらわた煮え繰り返るくらい怒ってますけどね。
警察が黒い奴らを捕まえたらちょっと二、三回殴らせて欲しいほどに。
けど俺個人がわーぎゃー騒いでも意味がない。
ここは周りを、そして自分を落ち着かせるべく、小粋にジョークでもかました方が楽ちんなんだ。気持ち的にも。
「あーあ。ハルウララのちゃんとしたレース、見たかったなぁ」
「……あぁ」
じゃ、俺は帰らせていただきましょうかね。
スタッフに確認とったら帰って良いってさ。まぁ証拠品とか持っててもどうせ警察沙汰だから隠せやしないだろうし、逃げたらそいつが犯人確定だから無理に引き止める必要もないそうな。
カバンを持って一礼、部屋を出ようとしたところで……。
「っあ、ちょっと待ったトレーナー君!」
「おうおうどしたミスルドルフ」
「今日届いたものだったんだが、君に渡さなきゃ行けないものがあったんだ。もう帰ってしまうなら、これを受け取ってくれ」
「お。……ん、受け取りました」
「あぁ。……じゃあ、また」
「またな」
さて、ハリボテエレジーを迎えに行きましょうか!
……えっと、手紙はどんな内容なんだ? 見たとこ、招待状のような……書類か何かか? この封筒。
内容は……。
JAPAN WORLD CUP 第一回戦のお誘いについて