担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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【悲報】かなりストック書いたはずなのにこれで最後【悲報】


JWCからお手紙届いた。ハリボテさんたら読まずに受けた。

はい。現在地は俺の車です。

ハリボテエレジーは狂喜乱舞し参加の書類にサインしましたとさ。

JWCって書いてあるのを見てすぐに書き込みやがったぞ。変な内容だったらどうすんだマジ。

JWCは複数回開催されて、二回勝ったら最後の決勝戦まで進出できる。そこまでが、JWCというレースだ。

その一回戦に出るために出した出願書が、ようやく受理されたのだと言う。

それで、あとは本人確認と、出る上での条件とかもろもろを確認し、この書類を送ればオッケー。

晴れてハリボテエレジーはJWCに出走するウマ娘ということになる。

 

「やりましたね!」

「あぁ」

「念願のJWCです!」

「あぁ!」

「なら本番に向かってトレーニングしないと行けませんね!」

「それはダメだ」

「なんでぇ!?」

 

JWCに出走するウマ娘が松葉杖とかマジ笑えない。

骨脆いんじゃないの? カルシウム足りてる?

まぁ、ね? さっき見た感じもうほとんど治ってそうだったからね? 別にいいとは思うんだけどね?

おかしいじゃん。別れてから一時間と経ってないじゃん。三ヶ月は治療に必要な骨折って怪我を、ボンドでくっつけるみたいに短時間で治されたらもうわかんないじゃん。

俺なんのために療法士とかの勉強したんだよ。じゃあもう脚使い潰して走りまくれよ。

 

「まぁとにかく、JWCへ行く目処が立った以上、できないことを次々やっていく他ないだろう」

「うっ」

「水泳とカーブ」

「うっ!!」

 

書類を受け取り、トレセン学園にカーナビを設定して走り出す。

 

「カーブはあんまり……」

「まぁこの際良いさ。いや良くないけど、本人の力量の問題もあるだろうし、もう無理強いはしない」

「うぅ……」

「だが水泳はしたほうが良いじゃん。お前体育の水泳も『諸事情により』って休んでたけどダンボール外したくないからでしょ?」

「ひゃい……」

 

あーもう全く。

今日はトレセンで水泳しますよ、と。

そう伝えると青ざめる(ようにみえる)ハリボテエレジー。

JWCに出られるだけでも実力は認められているってことなのに、なんでそうまでして素顔を晒したくないんだか。

 

「なぁ、こう……マスクとかじゃだめなのか? 顔を隠すってのなら、もっとコンパクトに……」

「ダメです!」

「……」

「えっとその……えへへ」

 

なんなんだ一体。

 

「お前、正体を隠して国家転覆を狙う宇宙人とかじゃねぇだろうな」

「そ、そんなわけないじゃないですか! れっきとしたこの星の生まれです!」

 

……シンボリルドルフに言われた、両親が人間であるという事実。

スペシャルウィークも似たような境遇らしいし、別にそこはなんもねぇんだ。疑問とか。

でも、こうまでして顔を隠したいのは理由があるはず。……火傷、とか?

まぁ考えたって仕方がない。

とりあえずは水泳を教えてくれるウマ娘に一緒にやってくれないか打診しないと。

 

「俺電話するけど」

「あ、はい、どうぞ」

「…………」

 

3コールの後、電話が繋がった音がする。

 

「あ、もしもし───?」

 

 

 

 

「おーい!!」

 

トレセン学園、校内プール。

休日である今日もたくさんのウマ娘がスタミナトレーニングをせんとスク水に身を包み挑んでいく場所。

男性は本来ならプール施設内なら入れるが、プール自体には入れないと言う取り決まりがある。

だが、俺は腐っても体育教師。男性でも水に入ることができるというのが強みだ。

ここの責任者は俺だし、なんなら前任の女体育教師が『責任者は救命や指導のため例外とする』というルールを設けたのだ。もちろん、俺にやましい気持ちはない。

 

で、水着で俺が呼ぶのは小さなカラダの持ち主。

気怠げに、しかししっかり約束は守ってくれるところ大好き。

 

「タイシンタイシンタイシンタイシンタイシンタイシンタイシンタイシンタイシ───ンッ!!!!」

「うっとおしい、のぶとい」

 

そう。BNWのN、ナリタタイシンである。

ちなみにBNWとは自動車メーカーの名前で───ってそれBMWやないかーい!!

とまぁ、料理ができるちっちゃい子である。ナイスネイチャとお弁当を食べ比べさせてもらったがどちらも甲乙付け難い、そんなレベルだ。

 

「へいナリタタイシン。そろそろ俺の愛バがやってくるぜベイベ↑」

「…………」

「やめろそんな目を向けるな」

 

悪かったって。ダル絡みとか苦手だもんな。

だけどナリタタイシン。俺はお前がこの前猫に昼寝場所を取られたとき、

 

『……うわ』

『ちょっと、なにか言われてもわかんないよ』

『にゃ……にゃにゃ……え? ちがう? え〜……?』

 

と可愛らしく鳴き真似をしていたことは永久に俺の脳内で残り続けているぞ!

……ちな本人は知らん。俺だってストーカーしたわけじゃないもん。ゴルシが屋上に隠した俺のジャージを取りに来ただけだもん。お陰でおひさまの香りが凄かったわ。

 

「はぁ……久しぶりに連絡が来たと思ったら……なんなの?」

「要件は伝えたはずだがナリタタイシン。トレーナーさんによろしくなナリタタイシン」

「語尾うざい。……それで? 具体的に何したらいいの?」

「多分もうすぐ来るはずなんだが……っと、アレじゃないか?」

 

人影が入り口にいるのを見て、手を振って気づかせる。

こちらに気づいたハリボテエレジーはその水着姿をお披露目……って……え……。

 

「なにあれ」

「……」

「ねぇ」

「…………」

 

丸っこいシルエット。

頭部は球状のメットで守られ、ご丁寧にガラス部分は黒い加工がされていて顔がわからない。

手袋やブーツはゴム製で、どんな水中作業でも苦にならないような装備だ。

そう。これは。

これは……!

 

「どうみても潜水服なんだけど」

 

潜水服だった。

どうして……どうしてなんだハリボテエレジー……!!

どうしてそうなっちゃうんだ……肺活量のトレーニングはどうしたんだ……!!

ガションガションとプールサイドを跳ねるハリボテエレジーは満面の笑み(見えない)を浮かべている。

まさに名案! といった感じだろうか。

 

「ハリボテエレジー」

「はいっ!」

「考えたな」

「はいっ!」

「脱いでこいアホンダラァ!」

「なにゆえっ!?」

 

当たり前じゃ……プールに潜水服でくるやつがあるか!! せめて海人さん服にしとけっ!!

そこまでして顔をみせたくないのか……対人恐怖症? 壁一枚を物理的に隔てないと喋れないとか……?

まぁ、そう言うやつもいるよな。教員っていう立場なんだし、似たようなやつは研修時代とかで何人か見てきた。ハリボテエレジーのは極度だけど。

 

「帰っていい……?」

「すまん……これじゃ練習の意味がないんだ……かと言って無理に潜水服脱がして練習させてもモチベーション下がるだけだし……」

「んじゃ、帰るよ」

 

悪りぃ……まじ悪りぃ……l

ナリタタイシンは結局一度も泳ぐことなくハリボテエレジーとすれ違うように歩く。

その一瞬、ハリボテエレジーを値踏みするように見た*1後、こちらを振り返って、

 

「ふぅん」

 

と言って再度前を向いた。

 

「い、今のはなんですか……?」

「いやぁ……ナリタタイシンとは少し前から縁があってな。今のは『こう言うやつの面倒を見てるんだ』みたいな視線だったと思う」

「そうなんですか……」

 

ハリボテエレジーは申し訳ないです、と言いつつも脱ぐ気はないらしい。鋼の意志を感じる。

結局ナリタタイシンの出番は無いのかぁ。いつものナリタタイシン節を見せて欲しかったけどなぁ。

 

「お。 タイシン? どったの?」

「別に……そこにトレーナーいるよ」

「え、どこどこ……おぉいたいた」

 

入り口の方でナリタタイシンが誰かと会話をしているようだ。

出てきた影はナイスネイチャ。最近良く見かけるな。

とてとてと俺の近くによったナイスネイチャは潜水服にぎょっとした後、ゆっくりと警戒するようにこちらへ歩みを進めた。

 

「どうも」

「あぁ、どうも。それハリボテエレジーだから」

「えぇ……置物じゃないんだ?」

「これ、動くの結構体力いるんですよ」

 

図らずとも体力トレーニングにはなっているらしい。

 

「さっきそこでタイシンとすれ違ったんですよ。久しぶりに顔見ました」

「そうだねなぁ。俺も久しぶりに会った」

「まだエレジーには話してないんです?」

 

…………。

まぁ、もうちょっと先かなって思う。

 

「あんまり先延ばしにしてると、言う機会失っちゃいますよ」

「いやぁそうなんだけど……」

「なんならアタシから言ったげましょうか。おおいエレジーやい」

「なんですか! 今ちゃんと首は動かしてます!」

 

まったく動じない潜水服が応える。

どうやらメットの中で首だけ向きを変えているらしい。

ナイスネイチャの頭を押さえると「わっ」という声と共に口をつぐんだ。

 

「言うにしてもムードもへったくれもないだろうに」

「えぇ……?」

「なんですか! 隠し事ですか! 隠し事は描く仕事ですとかそんな感じですか! トレーナーさん漫画家だったんですか!」

「お前今日頭バクシンだな」

 

どうやらそこまで気にしていないらしい。

 

「エレジー、結局横浜ステークスは再試合だってさ」

「そうなんですね!」

「曖昧でしか知らされてないんだけど……でも一つ良いかい? 結局、アタシ勝ってない? エレジーは転んで7着でゴールしたわけだし、アタシずるとかしてないし」

「……………」

 

ナイスネイチャは王道の3着だった。ハリボテエレジーは最後骨折してからの追い込みが激しかったが7着。

そこにハルウララは介入しておらず、二人だけの成績を見るならナイスネイチャの勝利だ。たしかに。

気づいたのか受け入れたくないのか微振動を繰り返すハリボテ潜水服だが、やがてぎこちなく動きで踵を返し、入り口へ戻ろうとする。

 

「待て待て」

「……ナイスネイチャさん、再試合で勝負しましょ」

「でも勝ったのは事実じゃん」

「ヤダーッ!! 認めたくないですぅぅぅ!!」

「7着ねぇ……頑張ったよエレジーは。アタシも頑張った。3着」

「うわああああああ!」

「約束、覚えてるよね……?」

 

約束!! 俺知らない!!

いやまぁ何でも知ってたらただのストーカーだから知らなくて良いんだろうけど、気にはなる!!

 

「約束ってなんだ?」

「いやあ、勝ったらダンボールを外して、自撮りを送ってもらうことになってるんですよぅ。へへ、良いではないか〜、良いではないか〜」

「うえええええ!」

 

ハリボテエレジーの自撮りだと!? ダンボールを外して!?

 

「な、ナイスネイチャ……」

「そこはダメだよ。プライバシーとかあるもん。あたしだけがエレジーの端正な顔つきを眺められるんだぁ♪」

「ちくしょう……」

 

なんだこの敗北感。専属トレーナーなのにどうして他のウマ娘の方が素顔を見れるんだ。

俺もハリボテエレジーと賭けをしておけば……!

 

「うぅ……アングルは私が決めますからね!!」

「よかろう良かろう、それぐらいは、ね」

「ちくせう」

「……ふむ。どうせだったら、勝負服とかでも良いんじゃない? トレーナーさん、もうそろそろ勝負服できてるでしょ」

「というかだいぶ前に受け取ってる。そうだなぁ、じゃあ俺も素顔を見れるって条件なら解禁を許そう」

「ずるい! ……まぁ……それなら仕方ないか……」

「何勝手に決めてるんですか!? 勝負服要らなッ、気にはなるけど!! 気にはなりますけど!!」

 

がっしりと握手をした俺たちの間に入るようにハリボテエレジーが大声を上げる。

重りのついた両腕から放たれる一撃は結構勢いがあって、俺とナイスネイチャを吹き飛ばした。

 

「ごほ……おい、うるさいから近所迷惑考えろ」

「そうそう。他のウマ娘もいることだしね」

「私おかしくないと思います!! もう知りません!」

 

逃げ去るハリボテエレジー。

重い服着てる割にそれなりの速度が出ている。プールサイドを走るな。

 

「ナイスネイチャ、一回着替えてくれないか」

「おっけー」

 

さっと更衣室へ飛び込んだナイスネイチャ。外に潜水服が置いてあることからして、すでにハリボテエレジーは逃げただろう。

プール施設の外へ出ると、遠くに豆のように見える逃亡するハリボテエレジーの姿が。

早すぎる。本当に骨折れた後なのかあいつは。

そして後ろから追ってきた、ジャージ姿のナイスネイチャ。

ぐっとその場で一回伸びをし、スタートの姿勢を取った。

 

「…………」

「…………」

「…………え?」

「え?」

「ほら、早く。出走の合図出してよ」

「えぇ……位置について」

「それじゃない! ほら、わかってるでしょ! 早くしないと追えなくなっちゃうから! はーやーくー!」

 

なんなんだ最近コイツ。

全くもう。

目標、ハリボテエレジー。遠くの方へと指を指して、と。

 

「ナイスネイチャ」

「…………」

「GO!」

「疾ッ!!」

 

とんでもないスピードで走っていくナイスネイチャを見送り、俺もその場で伸びをする。

体を後ろへ傾けたときに……施設の窓ガラスからこちらをじっと見つめるナリタタイシンと目があった。

なんやねん。メンチ切ってんとちゃうぞ。

するとナリタタイシンは何がおかしいのかふすっと微笑むと、奥の方へとすっこんで行ってしまった。

 

…………なんやねん。

 

 

 

 

彼女は素直ではなかった。

帰ると宣言したは良いものの、プール施設の休憩スペースで一人待っていた。

久方ぶりの電話だったのだ、話したいこともいくつかあって……否。あちら側が構う側だろう、と。

少なくとも、前は結構喋ってたな………などと考えながらぼうっとしていると、唐突にハリボテエレジーが猛スピードで出口の方へ向かっていったのだ。

そして、しばらくしてトレーナーが追って行く。その次をナイスネイチャ。

そして、懐かしいやりとりをするナイスネイチャとトレーナー。

 

じっと遠くを見つめ、張り詰めた空気の中。

 

GO、と。

 

思わず窓ガラスに張り付いて眺めてしまっていたが、とうとうトレーナーに気づかれてしまった。

ストレッチで背中を逸らしたときに、ちょうど目が合ったのだ。

何メンチ切ってんだオラァン!? とでも言いたげな視線。

逆さまで変顔をするトレーナーを見てつい、自分の口角が上がっているのに気づいて目を逸らすナリタタイシン。

居た堪れなくなって奥の方へ逃げるが、トレーナーは再度プール施設へ入ってくることはなかった。

 

「…………」

 

寂しげに、胸を撫でるナリタタイシン。

ジャージのポケットには、もしかしたら見せる事になるかもと持ってきていた、黄金の獅子のバッジが入っていた。

*1
尚全身を隠す潜水服

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