担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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鳥か!? 飛行機か!? いや……あっ、なんだアレ! えっあっ……ゴルシだ!

ゴルシ直伝ゴルシキック発動! 相手は死ぬ!

ことはないが、そこそこのダメージは与えられそうである。

なんか知らんけどチョクセンバンチョーが大☆覚☆醒した翌日、やることが無くなった親父はチョクセンバンチョーに剣道教えてた。

 

「意味あんのかコレぇ!?」

「ある!」

「嘘だッ!!!!」

 

一本一本、ビシバシとチョクセンバンチョーの体に竹刀が当たる度、苦悶の表情が読み取れる。

虐待だぁ……ウマ娘虐待だぁ……。

 

「じゃあ俺らもやるか」

「この流れでですか!? 嫌です!」

「問答無用」

「あだっ!?」

 

サッと竹刀を取り出しハリボテエレジーの脇腹にシュゥーッしてみれば、死ぬほど痛がってる。ウケる。

まぁなんだ、親父がやってんだからなんか意味があるはずだ。そう考えるしかないんだ、今は。

ハルウララはもう少しで退院だが、チョクセンバンチョーが代わりに走ると決まった以上もう一度変えることはできない。

横浜ステークスの再試合の日程も決まり、夏も盛り上がってきたと言うところ。

本来なら学生の夏といえば夏休みと夏合宿と夏祭りがあって結構青春ができるはずだがここはトレセンなので一縷の望みも無し。

あーあ、学生の頃に戻りてぇな!!!!

 

「いだぁい!?」

「……フッ。弱いな」

「私走るの専門なんですけどぉ!!」

「甘いわ!」

「ぎゃ!」

 

よくわかんないけど近接格闘術なら俺も学んだから大丈夫なはず。

 

「シンボリルドルフなら避けれるぞぉ!」

「ハッ! コレはまさか泥跳ねを避けたりその場の判断能力を鍛えるトレー、あだぁ!?」

「遅いわぁ!」

 

まぁ多分それであってる。

剣道という形で自分だけが持つ信念を確固たるものとして、走りに対するメンタルを鍛える。

まあ即興だけど。その時、ふと閃いた! ってやつだ。

 

もちろん道場があるわけじゃないので体育館でビシビシ打っているが、近くを通る者、体育館に用がある者がどんどこ集まってくる。

一体なんのトレーニングなんだとほとんど警察を呼びそうな目で見ていたウマ娘達だが……。

 

「フッ!」

「ぬっ」

 

チョクセンバンチョーが大体50本目くらいで避けれるようになり始め、見る目が変わった。

先読みする力を鍛えるトレーニングであると気づいた途端に見様見真似でシャドーボクシングをし合うウマ娘達。

少し滑稽にも見えるその姿を見ながらハリボテエレジーを虐待していると、奥の方に見慣れた茶髪が見えた。

 

「おおい、ギンシャリボーイ!」

「ん……どうしたんだい……いや本当に何をやっているんだい?」

「虐待」

「いだぁい……」

「御乱心かい?」

 

きっとターフに向かっていただろうミスギンシャリ。

なんだか取り巻きが増えている気がするが、それもそうだろう。

 

『ギンシャリボーイがやってきた! ギンシャリボーイがやってきた! そこのけそこのけギンシャリが通る! ギンシャリボーイ、今まさに一着! 最も運のあるウマ娘は、ギンシャリボーイ! ギンシャリボーイが、日本ダービーを制しました!!』

 

なにせ、つい最近二冠を取ったのだから。

出走登録やハルウララドーピングの件でかなり時期がずれたが無事開催された日本ダービー。

そこで見事に優勝を果たしたギンシャリボーイは、三冠に王手をかけたのだった。

 

ボーイなのに娘とはコレいかに。考えちゃいけない。

人の壁をかき分けこちらへやってきたギンシャリボーイにチョクセンバンチョーを見せると、嬉しそうな顔をして頷く。

 

「大体わかったよ。僕も混ぜてくれないかい」

「全身痛いです。どうぞ代わりますよう」

 

ほー?

やる気だねぇ。

試しにゆっくり振ってみると軽々躱され、手加減を察したのかくいくいと挑発をしてくる。

こんなとこまで王子様じゃなくて良いんだよちくしょう。だったらやっってやらあ!

 

「行くぞぉ!」

「ッ!」

 

本気の半分くらいで振る。ハリボテエレジーが対処できなかったスピードだ。

ギンシャリボーイやこれを見切りや手首を捻っていなしたり躱したりを繰り返す。やるじゃないか。

だが……。

 

「痛っ」

「体制が崩れてるぞ」

「なるほど、体幹も……。思った以上に、いい訓練になりそうだ!」

 

俺の剣撃を掻い潜るギンシャリボーイ。

その隣のチョクセンバンチョーが、ちらりとこちらを見た気がした。

闘志というか……悔しさを感じる。大方、ライバルのギンシャリボーイがまた自分を追い越しそうで悔しいと言ったところか。

 

「ピッチ上げろ!」

「抜かせ小娘! 私に指図するなど!」

 

とは言いつつも嬉しそうに剣振ってるやんけ。

と思いつつ視線を戻すと、ギンシャリボーイが余裕を見せ始めた。

後ろから畏敬の視線を感じるのはハリボテエレジーだろう。

 

「いつもこれしてるのかい!?」

「いや! 今日が初めてだ! 速くするぞ!」

「なるほど……痛っ!」

 

これ、トレーナー側も相当体力消費するな……。

明日には筋肉痛になってそうで怖いわ。

そんで持ってもう周りは殺伐としすぎでしょ。なんでそんな人を殺せそうな視線でシャドーボクシングし合ってんの。

 

 

ウマ娘たち の 殺る気が上がった!

↑絶好調↑

 

 

なんだ今のビジョンは。

困惑していると剣を振るリズムが崩れたのかギンシャリボーイが避け損なって体勢を崩す。

隙だ!!

 

「オラァン!?」

「ぐっ……が……」

 

見事に決まった逆胴。FOOOOOOO! グレートだぜぇ!

さぁ、次をやろう……あれ? ギンシャリボーイ? 大丈夫か?

 

「っつう……」

「ギンシャリボーイ……? まさか、どこか入っちゃったか!? 悪い、どこだ!」

「大丈夫、だよ……大丈夫……」

 

何やら服に手を入れ、横の腹を押さえて蹲るギンシャリボーイ。これはもしかしなくてもやっちゃった感じだ。

トレーニングとはいえ生徒に危害を加えるとは退職待ったなしの状況に冷や汗を流しながら、まずはギンシャリボーイの体を触れずに外から見定める。

先程とは別の意味でざわつく体育館。

 

「とにかく、保健室へ行こう」

「だ、大丈夫だって……」

 

ギンシャリボーイの肩を担いで保健室まで連れ歩く。

その間もギンシャリボーイが当たった場所から手を離すことはなく、かなりのものが入ってしまった可能性が頭をよぎる。

本気どころか微塵も打つ気のない剣だったが、あたりどころが悪かったのだろうか。

下手をすれば骨折? ギンシャリボーイがしばらくの間走れなくなる?

 

「ハリボテエレジー、保健室へ先に行って状況を伝えてくれ」

「がってんです!」

 

ハリボテエレジーが廊下を走る。

小さくなる背中を見つめながら、ギンシャリボーイはゆるゆると俺から離れようとした。

 

「大丈夫だってば」

「青い顔して何言ってやがる。今はみんなピリピリしてんだ、こっちももやもやした状態でやりたくないんだよ」

「良いって」

「もう少しで保健室だから。ここにいる以上、レースに出るウマ娘は身体を大切に───」

「離してッ!!」

「がっ!?」

 

…………。

ウマ娘の膂力で突き飛ばされ、壁に強く打ち付けられる。

肺の中の空気が全て吐き出され、チカチカと明滅する視界の中で、ギンシャリボーイが俺を吹き飛ばした体勢で固まっているのが見えた。

その片方の腕……先程まで抑えていた腕が、しっとりと赤いのを確認する。

まったく。

どうしてここのウマ娘達は、ボロボロの体を毎回隠そうとするのか。

 

「傷口が開いたのか」

「…………」

 

閉口するギンシャリボーイ。

痛む背を曲げ、床に頭をつける。

 

「すまなかった。調子に乗って強く当ててしまった」

「え、いや、それは……」

「俺の教師生活やトレーナー生涯より、君のアスリートとしての道の方が大切だ」

「…………」

「俺は首を飛ばしても良い。けど、保健室には行ってくれ。頼む。俺のせいでギンシャリボーイの走りが見れなくなったら、俺はどう償えば良いかわからない」

 

衝撃で開く傷。

大方、火傷や爛れの類だろう。

ギンシャリボーイのそんな話は聞いていないが、本人も言いたくない事情があるかもしれない。

ハリボテエレジーだってあんな経歴を持つんだ。それくらい揉み消せるのだろう。

 

「頼む」

「……わかったよ。保健室には行く。適切な処置をとってもらう。けどそこには保険医の先生以外誰もいない。それで良いね?」

「ああ」

「聞き出すのもダメだよ」

「あぁ」

「……しょうがない」

 

ギンシャリボーイが俺を起こし、保健室へと歩いていく。

制服の上からは傷の様子は分からないが、きっと血が出ている。

 

「あっ、ギンシャリボーイさん」

「大丈夫だよ。あとはトレーナーとトレーニングに励むといいさ」

「え……あっトレーナーさんなんで土下座を!?」

「ガイアの意思を感じ取りたくなった」

 

ギンシャリボーイの後ろ姿を見つめる。

 

「ハリボテエレジー」

「はい」

「充電期間に入ろう。しばらく新しくレースの予定は立てないぞ」

「えっあっ……わか、りました……」

 

何が起こったのかわかってない様子のハリボテエレジー。

ま、妥当だ。

 

 

 

 

あいつは、何事もないかのように走っている。

ハリボテエレジーと一緒に遠目から見学として眺めているが、あいつは股関節が柔らかいんだ。

それでいてしなやかなだけじゃなく、筋肉が詰まっていてがっしりとしている。太くはないが、しっかりとした脚だ。

 

対して。

向こうで俺たちやギンシャリボーイに隠れるように見ているチョクセンバンチョーは、乱暴なトレーニングを重ねた結果か脚が筋肉質。

筋肉は重いと聞く。体重は申し分ないだろうし、あの脚ならきっと天候は関係なく走れるだろう。ダートも芝も多分大丈夫。

 

「…………」

「どした」

「いえ……すごいなぁと」

 

ハリボテエレジーはどういう育成をするべきだろう?

ギンシャリボーイのように着実にトレーニングをするべきか、チョクセンバンチョーのように荒々しいトレーニングをするべきか。

今まではそもそもハリボテエレジーがウマ娘にしてはステータスが低すぎたので基礎を学ぶようなトレーニングをしてきたが、

 

『───ドォォォンッ!!!!』

 

カーブですっ転んで尚、上位に食い込めるあの末脚。

大砲で飛んでいるのかと思うほどのトップスピード。

アレを、どう活かせる?

もっと体力を上げ、序盤から逃げもかくやという勢いであのスピードを出すことができたら……。

 

「否っ」

「えっどしたんですかトレーナーさん」

「いや……すごいなぁと」

 

それは()()()()()()()()である。

強いウマ娘として育成する方法ではない。

ハリボテエレジーの強みを活かせるトレーニングかぁ……。

 

「うう〜ん……」

「お悩みですか」

「まぁねぇ。なぁハリボテエレジー、お前が走ってて一番楽しいって思う時はなに? なんかある?」

「走ってて一番楽しい時ですか……えーと」

 

首を傾げるハリボテエレジー。

重そうなダンボールフェイスが傾く。首を傾げているのだろうか。だとしたら上半身が全部傾いているので気をつけて欲しい。

 

「追い上げをする時です!」

「追い上げ」

「はい! 最後尾からトップスピードでびゅんって上位まで走る時が、一番楽しいです!」

「それは……レースが好きってことか」

「そうなりますかね? こう……憧れの地へ! みたいなロマンがあってレースは好きです!」

「わかる」

 

勇気少し借りて感あるよな。

……レースが好き、か。

 

「ハルウララ……」

 

彼女もレースが好きと言っていた。

確か彼女は……never give up。どんなに転んでも立ち上がる精神だったな。

よし、根性だ。根性を鍛えよう。

 

「あっ、トレーナーさん!」

「ん」

「スパートです!」

 

言われて視線をやれば、ギンシャリボーイが某リギルトレーナーの目の前に突風を吹き起こしているとこだった。

なんじゃありゃ。トラックかよって。

 

「タイムは……10秒縮んでいる」

「10!?」「うっそぉ……」

「……なんだかあそこの見学がうるさいが、レース中は歓声も聞こえる。騒音の中走るトレーニングもするぞ」

「はい……エレジー、これが僕の本気」

 

ぶい、とハリボテエレジーに向かってピースを送るギンシャリボーイ。

 

「僕は三冠を取るよ。絶対」

「……はい! 頑張ってください!」

 

そして、ふいと隠れているチョクセンバンチョーがいる方向へと向いて。

 

「…………」

 

何も言わず、次のトレーニングへと移っていった。

あからさまにチョクセンバンチョーに気づいているような素振りだ。チョクセンバンチョーは潜伏スキルが皆無ということか。

 

「兎にも角にも、研究だな。JWCでぶつかるであろう相手だ、研究していて損はないな」

「そうですね!」

 

俺は、坂路(はんろ)を駆け出したギンシャリボーイの姿を写真に収めた。

 

 

 

 

 

「撮影禁止」

「いだっ!? す、すみません……」

 

 

 

 

 

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