担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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うまぴょいは隠語じゃないッッッ

…………。

そう言い放った俺の叫びは教室の中に響き渡り、本を読んでいたハリボテエレジーとシンボリルドルフが顔を上げた。

急にどうしたと良いたげに、不思議そうにこちらを見る彼女たちは、頭の中で俺の言葉を反復しているようであった。

 

「……どうしたんだい急に」

「はちみーも隠語じゃないッッッ」

「いやそれは聴いたことがないが……?」

「じゃあシンボリルドルフはうまぴょい(隠語)は知ってるんだな」

「あっ」

 

キリッとした顔のまま顔をタコのように赤くするシンボリルドルフ。生徒会長のスケベ!

それはともかくとして、うまぴょいは隠語じゃないんだ。

 

「うまぴょいって、あのうまぴょいですか?」

「あのうまぴょいだ」

 

あのうまぴょいとは、『うまぴょい伝説』のことである。

由緒正しきトレセン学園に舞い降りた頭のおかしい曲である。踊りはそこそこかわいいので許す。

どうも作曲者がワイン2本開けてパンツ一丁で作ったとかなんとか……それはいい。

問題は、その「うまぴょい」という単語がウマ娘の間でいかがわしい行為の隠語であると認識され始めていると言うことだ!

シンボリルドルフがそうだったんだから結構危ないところまで浸透してきている!

 

「あ、あの、トレーナー君、あまりそう言ったことを大声で喋るものでは」

「スケベ会長は黙ってろ!」

「……ぐすっ……」

「あー! ハリボテエレジーが泣かしたー! せんせーに言ってやろー!」

「理不尽! 今日私、一言も喋ってないのに!」

 

ていうか俺が先生じゃん。セルフチクリ……?

 

「あの、どうしたんですか急に……?」

「いや、唐突にガイアの叫びを享受しただけだ」

「最近ガイアハマってるんですか?」

 

俺には超能力があってな、稀にガイアの叫びを受信できるのだ。これをゴルシレーダーとも呼ぶ。俺レーダーとも呼ぶ。俺ーダー。

と、恥ずかしさから戻ってきたシンボリルドルフがなんとか平静を保ちながら口を開く。

 

「たしかに、それは由々しき事態だな。生徒会としても見逃せん」

「カイチョーさんもわかるんですか……? 知らないの私だけ……?」

「あぁ、いずれお前もわかるようになるさ」

「そうですか!」

「わかっては行けないと思うのだが」

「テイオーも頑張ってうまぴょいの勉強してたぞ」

「テイオーにはまだ早い!」

 

ガタっと席を立つシンボリルドルフ。やっぱわかってんじゃねぇか。

 

「私も勉強してみようかな、その、うまぴょい」

「そうだな、いろんなところで踊るから練習しておいた方がいいだろう。ハリボテエレジー、放送室でうまぴょいを借りてきてくれ。いくつかストックがあるはずだ」

「はーい!」

 

と、「ウマ娘とヒトの違い」という本を閉じてハリボテエレジーが立ち上がる。

対して座ったのはシンボリルドルフで、行き場のない感情をどこへ流せばいいのかわからないようで手をわきわきしていた。とりあえず教室でダジャレ大全を読むのはやめろ。

では行ってきますね、とハリボテエレジーが教室を出る。

ガラガラという引き戸の閉まる音と共に、教室に再び静寂が訪れた。

 

「…………」

「トレーナー君」

「どした」

「なぜ部室を使わなかったんだ」

「狭い」

「私が片付けに行こう」

「良いよ別に。通い妻かよ」

「ご飯も作ろう」

「それはもう通い妻だな」

 

夕焼けが、シンボリルドルフの髪を照らす。

あそこの席の生徒は誰だったか覚えていないが、窓際に座ったシンボリルドルフはその美貌も相まって本当に学生なのかと疑うほど様になっていた。

思えば、シンボリルドルフとは久しぶりにゆっくり話すな。

えっと……メイクデビュー前にハリボテエレジーの素性について調べてくれと言われた時以来か?

あ、いや、一番最近の記憶はあれだ、横浜ステークスで呼び出したわ。

 

「…………」

「…………」

「なぁ、シンボリルドルフ」

「どうした?」

「やっぱ俺には無理だよ、探偵の真似事」

「そうか」

 

……なんも言わないんだな。

シンボリルドルフが本を開く。動作の一つ一つが様になっている。

写真でも撮りたいところだが、あいにくと開いているのはダジャレ大全なのでどうにも残念感が否めない。

男を虜にするような微笑みもダジャレを読んで笑いを堪えているとは誰も思わないだろう。

 

「…………」

「…………」

 

シンボリルドルフがページを捲る。でもダジャレ大全なんだよなぁ……。

 

「…………」

「トレーナー君」

 

本を閉じた。

小学生が好みそうな派手で下品なイラストが見える。

 

「どうした」

「ちょっとこっちに来てくれないか」

「……普通、生徒が教師の元へ行くもんなんだけどね。どした」

 

日陰から、夕暮れの降り注ぐシンボリルドルフの元へと歩く。

自分の靴が擦れる音のみが聞こえる。

 

「あれを見てくれ」

「……ギンシャリボーイだな」

 

つい最近、二冠をとった期待のウマ娘。

隣にいるのは……模擬レースの相手か?

にしては近くにトレーナーがいない。模擬レースの相手も。ははぁ、さてはあれはプライベートレースだな?

 

「噂によれば、彼女は恋をしているそうじゃないか」

「らしいな。恋心を原動力に走るとなると、相手はレースが好きなのかもな」

「同感だ」

 

視界の端っこで、シンボリルドルフが少し震えたのがわかった。

静寂が、訪れる。

シンボリルドルフが、俺を見上げた。

思わず見返すと、青空のような瞳が夕焼けの煌めきを帯び、こちらを見つめてくる。

 

「トレーナー君」

 

端正な顔立ちが、より近づく。

 

「君は、ウマ娘が走っているのを見るのが好きだろう」

「まぁ、な」

 

華奢な手が、俺の袖を掴んだ。

そのまま俺の手が、シンボリルドルフの頬へと持っていかれる。

 

「私は、ウマ娘だぞ」

 

喉が鳴る。

 

「君のために、走りたい」

「トレーナーとしてサポートしよう」

「トレーナー君のためじゃないんだ」

 

すり、と頬を寄せた。

未だにまっすぐと、瞳はこちらを向いている。

 

()()()()に、走りたいんだ」

「…………」

「私は、君の隣に存在していいウマ娘だろうか」

「誰かの隣に存在しちゃいけないウマ娘なんていないんじゃねぇの。もちろん、ヒトも」

 

手を引っ込めた。

名残惜しそうに、シンボリルドルフの眉が下がった。

 

「君は……いつも、そうやって優しくする」

「俺は今、君のトレーナーじゃない。深入れはできないよ」

「なら、彼女は良いのか?」

「娘みたいなもんだ。どうにも俺のタイプじゃない……と、これは失礼な言い方だったな。どちらかというと相棒感が強いんだ」

 

そして、シンボリルドルフの腕は、こりずに俺の首の後ろへと回される。

 

「なら……」

「なら?」

「私じゃ、ダメなのか」

「……さて、な」

「私なら、君の相棒になれる」

 

そして、鼻が触れる程の距離にシンボリルドルフの顔がやってきて。

 

 

シンボリルドルフは首を伸ばし。

 

 

そして。

 

 

 

 

そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君の愛馬が!!!!

 

「ッ!?」

 

『ずきゅんどきゅん走りだし〜ッッッ!!!!』

 

「ふははは! 甘いわ! 天下のシンボリルドルフも落ちぶれたもんだな!」

 

『ばきゅんぶきゅん駆けて!!!! 行くよ!!!!』

 

「ちょっ、耳が! 耳が痛い! トレーナー君、止めてくれ!」

 

『こんな!!!! レースは〜!!!! は』ピッ

 

「…………」

「……………………」

「…………………………」

 

再び静寂が訪れた。

爆音でうまぴょい伝説を流していた俺のスマホを恨めしそうにみるシンボリルドルフがどうにも滑稽でクソワロタ。

 

「つまりな、シンボリルドルフ」

「……なんだ」

「甘ったれ()()、ということだ」

「!!」

「日も暮れてきたし俺ハリボテエレジー回収して職員室行くわ。CDダウンロードしねぇと」

 

見れば、先ほどまで幻想的な雰囲気を作り出していた夕焼けは地平線の彼方へと吸い込まれ、茜色だった空は紫色を帯びていた。

 

「お前も、生徒会の仕事終わったら帰れよ。あ、トウカイテイオー呼んでおこうか?」

「いや……いい。すまない」

「感謝するのはこっちだって。賢さのトレーニングに付き合ってくれてありがとな。んじゃ!」

 

足早に教室を出て曲がり角を通る。

ハリボテエレジーがこちらへ来るところだった。

 

「すみません、なかなか見つからなくて」

「おっけー。んじゃ職員室行こうぜ。練習できるようにダウンロードしとかないと」

「え、あ、シンボリルドルフさんは良いんですか?」

「あー? 良いよ良いよ」

 

 

 

 

 

「きっと今、人生で最大の失敗をして悔やんでるだろうから」

 

 

 

 

 




やる気なくなったときは感想見返したりしてふふって笑ってます。投げた伏線をことごとく見つけてくれるので好きです
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