担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
ハリボテエレジーの基礎体力は、今までのウマ娘の誰よりも下だ。
しかし、勝ちたいという意思だけは……根性はかなり立派なものを持っているようで、瞬発力だけならトウカイテイオーを超えて見せた。
すぐにスタミナが切れて抜かされたが。
「JWC……なるほど、同期二人が目標にしているのか」
圧倒的なスピードと凄まじい技術力で走り抜けるギンシャリボーイ。
パワーとスピードごり押しで群がる先頭を轢いてきたチョクセンバンチョー。
二人ともメイクデビューは経験済み。追い抜つき、追い越すにはかなり頑張らなければいけない。
そうでもないと、JWCに出られても二人の次の年になってしまうだろう。
ぜぇぜぇと大きく呼吸をしながらぽてぽて走るハリボテエレジーと、それを余裕の表情で抜かすトウカイテイオーを見ながら二人のフォームを見比べる。
二日前はゴルシとフォームが似ていたから一緒に走らせてみたが、今見るとそうでもないような……むしろトウカイテイオーに似ているんじゃないかと思えてくる。
かぶりもののために視線がよくわからないが、ちょこちょこ自らの手元や足元を見ているところを見ると、トウカイテイオーの真似をして走っているのだろうか。
だとしたら吸収力が凄まじい。
元々の追込の脚質とまではいかないが、トウカイテイオーのように加速することを成功させている。
まず周りのウマ娘に追いつけるようにスタミナのトレーニングとして二人を合わせてみたが、思わぬ収穫だ。
しかし、厄介なのと同期になってしまったものだ。
メイクデビューでその実力を遺憾無く発揮したギンシャリボーイは末脚が恐ろしい。
いつのまにか先頭へ走っている様はまさに王子様。
皐月賞において一番有力候補なウマ娘だ。
対してハリボテエレジーのメイクデビューは三日後。
この惨状を見ていると、入着できて奇跡といった具合。
「ひぃ、ひぃ……っぐ……ッ!!」
彼女の根性は十分育っている。
スタミナは翌日でないとどこまで育ったかわからない。
「ひぃ、ひぃ……ご、ごーる?」
「お疲れ様ハリボテエレジー。歩きながら息を整えろ」
「はい……」
ただ……人並みにこなせる実力はあるようだ。
前回は一周走っただけでバテていたが、トウカイテイオーについて行くことでペースを合わせ、負担を減らしている。
結果、六周走り切ることができた。
1600が前回の一周で、今回がその半分。スタミナトレーニングように作られた芝だ。
まぁとにかく。おおよそ1600一周分全力キープで走り切れるくらいには成長している。
そして回復力か。半周歩いただけでしっかりと息を整えて見せた。
アスリートさながら、ふぅふぅと早いペースから徐々に遅く。
あのダンボール、息苦しくないのかなぁ。
「ねぇねぇエレジー、ダンボールって息苦しくない?」
「ううん。背に腹は変えられない感じです」
息苦しいらしい。
そんなに顔を見られたくないのか。
ウマ娘としてかなりのハンデになると思うが……。
「なら呼吸器をつけたらどうだ、ハリボテエレジー。あと、背面から息が逃げるような構造にするとか……」
「……アリですね」
「じゃあもうガスマスクとかでよくない! ボクがおかしいのコレ!?」
ダンボール被ったまま走るなんてデメリット以外のなんでもないのに。
そんなハンデを背負ったまま走れる余裕なんて今のハリボテエレジーにはないんだよなあ……。
っと、時間か。
「ハリボテエレジー、10分のストレッチだ」
「はい」
「ようし!」
ストレッチと聞いて意気揚々と座り込むトウカイテイオー。
そのまま体を倒せば……やはり柔らかい。
どうやったらそんなに体が柔らかくなるのか疑問でしかない。
ハリボテエレジーは普通だ。
……うん、普通。柔らかくも硬くもなく、無難な角度の捻らせ方をしている。
とりあえずバインダーに書き込んでいると、俺の肩を叩く者がいた。
誰だと振り返ってみると頬に指が突き刺さる。
「ははは、君のそんなムッとした顔は初めて見るな」
「……シンボリルドルフ会長」
「アッカイチョー!! ドウミテミテ? ボクヤワラカイデショ???」
「あぁ、そうだな。……トレーナー君、ちょっといいか」
「長くなります?」
「それなりに」
二人の様子を見る。
ま、この調子なら大丈夫だろう。
「少し離れる。ハリボテエレジー、ストレッチが終わったら全速力を出す練習だ。三周、それを10秒のインターバルで。今日はそれで終了だ」
「はい」
「何かあったらすぐに言えよ」
「はいっ」
よし。
視線を送ると、シンボリルドルフが踵を返した。
立ち話ではない話か。……どんな用事だろうか。
やはり通されたのは生徒会室。ナリタブライアンがいない。
顔が怖いぞエアグルーヴ。スマイルスマイ……すんません。
「かけてくれ」
「あぁ……で話って」
「君の担当しているウマ娘……ハリボテエレジーのことだ」
「あいつがなにか?」
「……前提として、これを見てくれ」
出されたのは履歴書と付箋だ。
出身の学校や、取得資格。趣味や特技まで書いてある。
それでも証明写真をダンボール被って撮っているあたり信念が感じ取れる。
「これがどうかしたのか?」
「どうしても気になってな。戸籍などを確認してみた。そうしたら……」
「ハリボテエレジーのご両親が、人間であることがわかった」
「…………」
「知っての通り、ウマ娘はウマ娘からしか生まれない。隠し子というのも無さそうだ」
「……俺は万いるトレーナーの内の一人でしかないんだぞ」
「これは偶然にして運命だ。君が、たまたまハリボテエレジーのトレーナーとなった。もし君じゃなかったから、こんなこと言っていない」
「探偵の真似事なんてするつもり無い。あいつをJWCに連れて行くことだけが、俺のトレーナーとしての使命なんだ」
「だが……だが! 君なら」
「お前は俺に何を求めてんだ。俺はただのトレーナーだ。才能も無ければ千里眼も無いし、荷が重すぎる……」
お前は口を開くなエアグルーヴ。
声に出さない言葉はたった今俺たちの間に介入しようとしたエアグルーヴに唾を飲み込ませ、生徒会室を再び静かにさせた。
「シンボリルドルフ会長」
「俺の腕を買ってくれているのは嬉しいです。けれど、それは……俺みたいなトレーナーがやることじゃない。もっとすごい人がやるべきなんだ。やれと言われたらやります。仕事だから。けど、けどそれは……」
「……言ってみろ」
「
「そうかも、しれないな……わかった。君の言う通りにするとしよう」
わかってくれたか……。
「もしも、ハリボテエレジーから生徒会に言ってもいい情報を得られたら流します。……それで、勘弁してください」
「……すまない」
「シンボリルドルフ会長。俺は、普通のトレーナーだ。トレーナーは、トレーナーができる範囲でしか、動けないんだよ」
「………………」
「また、何かあったら言ってくれ。失礼します」
◇
扉から出て行く背を見送るシンボリルドルフ。
扉が閉まった瞬間エアグルーヴがほうと息を吐き、額の汗を拭った。
「やはり、ダメだったか」
「彼は探偵のほうが役があっているような気がします」
「……少々自分に自信がなさすぎる。根暗なのがネックだが……ん、根暗なのが、ネック。……ほう」
「……………」
視線を逸らすエアグルーヴ。
「ともかく、結局は、待つしか無いと言うことだな」
「…………」
「幾度も巻き込んで、本当にすまない……トレーナー君」
シンボリルドルフが視線を落とすと、そこにはトレーナーが一度も口をつけなかった紅茶が、湯気を立てていた。