担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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横浜ステークス・リヴェンジ

暑さもマシになってきたこの頃、事件があって再試合することになった横浜ステークスが行われようとしていた。

トレーナーは手元の資料の出走するウマ娘の名前を睨み、傍でストレッチをするハリボテエレジーへと注意を飛ばした。

 

「わかっていると思うが今回、ハルウララの代わりにチョクセンバンチョーが入ることになっている。ハルウララ───彼女のファンには申し訳ないが、これが運営の意思らしい」

「はい。いつものように追込でいきます」

「うん。だけど注意する点はたくさんある。一つは、チョクセンバンチョーとお前はレースで競ったことが一度も無いんだ。併走の時には力を抜いていたと言うこともあり得る。今回はチョクセンバンチョーをマークだな」

 

その時、コンコンとドアがノックされる。

トレーナーが「どうぞ」と声をかけると、入ってきたのはチョクセンバンチョーだった。

今回は髪の毛を金色に染め上げ、その目には闘志が宿っている。

 

「バンチョーちゃん!」

「わるい、今は一方的に言いたいこと言わせてくれ」

「ん、まぁ……どうぞ」

「今回のレース……ハルウララの代わりにオレが出るって話だけど」

「そうだな。今そのことについて話してたんだ」

 

そうですね、と頷くハリボテエレジーを横目で見て、チョクセンバンチョーは宣戦布告をする。

 

「あいつの代わりに出るって話だからさ。……オレ、負けないから」

 

不器用だがしかし、単純明快。

ウチの子はつくづく強豪ウマ娘とバトルする、とトレーナーは頭を抱え、ハリボテエレジーはスペアのダンボールフェイスを小脇に……つまり、頭を抱えた。

 

「うん。私も負けませんよ!」

「……それ何個あんだ?」

「これはレース用のスペアです! 今被ってるのは普段使い!」

「……そうか」

 

話は終わりだとチョクセンバンチョーが楽屋を出る。

顔に張った緊張のベールを少しずつ剥がしていきため息をつくと、ちょうど息を吐き出しきったタイミングで角からウマ娘が現れる。

 

「やぁ、順調かい。探してたんだよ」

「ギンシャリ……なんだ急に」

「君を応援している」

「上からだなァ」

「同じ目線としてさ。早く君とレースがしたい」

「そうかよ」

 

少し動きが鈍い。恐らく疲れを隠している。

そう感じ取ったチョクセンバンチョーは早々と彼女の前から立ち去ろうとした。

そうして隣に並び立ち、

 

「おい」

「ん?」

「いつかアンタを抜く」

「抜かれないよう頑張るよ」

「…………」

「勝ってよ」

「当たり前だ」

 

本心から、言葉を交わした。

同じ土俵に立つために。

ライバルと戦うために。

 

 

急遽入ったレースに勝ち、そのまま連勝を続け、JWCでぶつかる。

硬く決意し、チョクセンバンチョーは一歩を踏み出した。

 

 

 

 

『今日の天気は快晴です。急遽試合できなくなったハルウララに代わり、チョクセンバンチョーが横浜ステークスへ参戦しました』

『彼女はあまり目立った活躍をしていません。ダートも走った系歴がありませんが、どのような走りを見せてくれるのか、期待しましょう』

『三番人気はこのウマ娘。7番、マックスダンパー。この評価は少し不満か、二番人気はこの娘。3番ナイスネイチャ。……今応えたい、生きていると。5番ハリボテエレジーが一番人気です』

 

次々とゲートへ入っていくウマ娘。

ハリボテエレジーが臆せず一番最初に収まり、それに続くように他のウマ娘がゲートインしていった。

 

「わり、遅くなった……ってんお、アイツ一番人気じゃねぇか」

「努力の賜物かなぁ、ここ最近は人気が上の時が多いんだよ」

「へぇー……ゴルシちゃんも人気欲しいなぁ」

「お前はいろんな意味で人気だなッ、もごっ」

 

口にアメリカンドッグをつっこまれながらトレーナーはハリボテエレジーを見る。

別段、変な様子はなかった。絶好調である。

そしてやっぱりというかなんというか、隣にはよく見る二人組の男が早口で何かを喋っていた。どうした急に。

 

『各ウマ娘、全員ゲートに入りました』

 

 

ガシャコンッ!!!!

 

 

『スタートしました。定石通りマックスダンパーが前を行きます。続いてヘルアント。ハリボテエレジーとマイニングリバーが睨み合い』

『ヘルアントはやはりよく周りを見ていますね』

『先頭はマックスダンパー! 2番手の位置で先頭を伺うのはヘルアント! この二人は速い!』

 

走った道を舗装するかのように力強い走りを見せるマックスダンパーに、トレーナーは歯噛みする。

 

「(……序盤はやはり、前回と同じような結果になるか。違うのは、チョクセンバンチョーがバ群で出るタイミングを伺っていること。ハリボテエレジーにはチョクセンバンチョーを警戒しろと言ってしまったし、彼女がタイミングを掴めなければこちらも下手に出られない……)」

『さあ第一コーナー回って第二コーナーへ入ります、依然先頭はマックスダンパー。チョクセンバンチョーがバ群の先頭で三着の位置』

『前回転倒してしまったマイニングリバーとハリボテエレジーは追込を作戦としています。ナイスネイチャは差しですし、後方を疎かにしていると抜かれてしまいます』

『なるほど……っとここで1番タイタンが仕掛けてきた、後続を内側へと詰めて行きます!』

 

チョクセンバンチョーの隣に位置取ったウマ娘がじわじわとレーン側へより、そのせいでバ群は圧縮されどのウマ娘もぬきづらくなった。

群から飛び出すにはパワーがいるし、大外から回り込もうとすればスタミナを大幅に消費する。

バ群の前列でヘルアントとマックスダンパーのみに気を取られていたチョクセンバンチョーは自分が内側ギリギリを攻めていることに気づき、少し速度を上げた。

タイタンに、邪魔をされないようにである。

 

『誰も動くことができない、今の場を支配しているのは1番タイタンです! 次点で後続を引っ張っているチョクセンバンチョー。後ろから追いかけている4番マイニングリバーと5番ハリボテエレジーはまだ動きません。互いに警戒しているようです』

 

しかしハリボテエレジーのこれは愚策であった。

無論、隣にいるウマ娘がいつ仕掛けるのかは警戒すべきことである。

だが、前方でバ群が鮨詰めのようになっている以上、いつ仕掛けたところで抜かすためには時間がいる。

チョクセンバンチョーとマイニングリバーを見ているハリボテエレジーに、そこまで考えるほどの力はなかった。

よって、

 

『第三コーナー、誰も仕掛けません! タイタンのブロックによって誰も動けません!』

『このままいけば、第四コーナーで加速したタイタン、先頭のヘルアントとマックスダンパーの戦いですね』

 

いつのまにかタイミングを逃すのだ。

 

「「(まずい!!)」」

『おっと焦ったかチョクセンバンチョー、速度を上げ始めました! その後ろから間を縫うように3番ナイスネイチャも上がってくる!』

 

焦りで集中を乱され、何も考えずに抜こうと思い始めてはもう止まらない。

 

『第四コーナー入ります、タイタンが仕掛ける! タイタンが動きました! ヘルアントの後ろへ張り付き、プレッシャーをかけていきます! 内側が塞がれた8番チョクセンバンチョーと3番ナイスネイチャは外から攻めます! 後続は大丈夫か!?』

「(そんなこと、言ったって……!)」

「(こんな状態で放置されたら……)」

「「「無理〜!!」」」

 

そして、事態に気づいたのはハリボテエレジーも一緒であった。

第四コーナーを通った後に目の前にバ群があったら抜かそうにも抜かせない。

その結果、第四コーナーでの現速を忘れ、

 

『ハリボテエレジー転倒───ッ!!!!』

『前回と同じです! 彼女はここからですよ!』

『先頭マックスダンパーを抜いたチョクセンバンチョー、まだ距離が残っている! 苦しい顔をしているぞ! ナイスネイチャがうまく前に出られない! タイタンが、タイタンが競ってきた! マイニングリバー、タイミングを間違えたかこれは間に合わない! このままチョクセンバンチョーの一着か!』

『いや、最後尾を見てください!』

 

そうして日常の動作の一つのように起き上がった彼女は、うずくまり、先頭を見据え、

 

『来ますよ』

 

───バゴンッ!!!!

 

『ハリボテエレジーだぁぁぁぁ!!』

『前回と全く同じですね。違うところは、彼女が余裕の表情を見せているところでしょうか。顔見えませんけど』

『とんでもない! とんでもないスピードだハリボテエレジー! ハリボテエレジーが今タイタンに迫ります! 残り300M! タイタン抜かされた! チョクセンバンチョー、ナイスネイチャ、ハリボテエレジー! ハリボテエレジー止まらない! 速い! ナイスネイチャ抜かれる! 残ったチョクセンバンチョー意地を見せられるか!』

「(そんなこと、言ったって……!!)」

 

チョクセンバンチョーの後ろで、戦車が走っていた。

ダートなぞなんのそのと踏み潰し、今己に切迫せんと走る戦車が。

轢かれる。恐怖がチョクセンバンチョーの背中に迫る。

 

チョクセンバンチョーはタイタンの策略により溜めた脚を使ってしまっている、

心臓は速く脈打ち、肺へ空気を送り込むことさえ苦しく辛い。

 

まるで、少し前の自分の悪夢の中のようであった。

唾と痰が喉に絡みつき呼吸が出来ず。

 

スタミナは底を尽き、先程戦車に抜かれたばかりのナイスネイチャが牙を剥く。

今自分が居座っている一着の座を渡せば、減速はするがギリギリ二着に収まり好成績と言えるだろう。

ハリボテエレジー、そしてナイスネイチャと競り合った相手として。

 

だが。

 

─── 勝ってよ

 

そしてなにより。

 

─── バンチョーは速いね!

 

ここで示さねば、番長としての誇りが泥をかぶる。

ハルウララにも、ギンシャリボーイにも顔向けできない。

そして、後ろの戦車にも、手を抜いたと思われることだろう。

そして……夢は現実となってしまう。

追えない。

届かない。

掴めない。

栄冠も無ければ、ライバルの隣に立つ資格もない。

それは何より、屈辱的な事だった。

 

「…………」

 

泥をかぶるのは御免だ。

だからオレは。

 

 

 

 

 

 

 

泥を被らせ続ける(一着で居続ける)

 

 

 

 

 

 

 

 

───[ロケットカウル]───

 

「ッ!!!!」

『持ち堪えた! チョクセンバンチョーがハリボテエレジーに喰らい付く!!』

 

なんだこれ。

目の前が真っ白だ。オレの目はどうかしちまったのか。

 

『ハリボテエレジー、チョクセンバンチョー! ナイスネイチャこれは追いつけない!』

 

聞こえる。

聞こえるはずなのに、聞こえない。

それに頭ん中がバチバチして、疲れも何も感じない。

まるで世界に、自分一人になったような───。

 

レース場のVIPルーム。

面倒ごとには巻き込まれたくないとハリボテエレジーのトレーナーが拒否したその部屋で、一人のウマ娘が腕を組んでチョクセンバンチョーを眺めていた。

空気を震わす闘志が静電気となって放出される。

それはまるで、彼女の───皇帝の姿のようだった。

生徒会長と番長の姿が類似している事実が彼女の頬をほんの少し持ち上げる。

そしてシンボリルドルフは言った。

 

「ようこそ、チョクセンバンチョー。……私たちの領域(ゾーン)へ」

「───オオオオオオオオッ!!!!!!!」

『チョクセンバンチョーここで加速する! 残り100メートル! ハリボテエレジー追いつけない! 番長だ! 番長が全てを蹴散らし押し通る! ハリボテエレジーが、ハリボテエレジーが競り合いで負ける! チョクセンバンチョー、チョクセンバンチョーだ!」

「(ダメ……早すぎる……!!)」

「(負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けない負けないッ!!!!)」

『チョクセンバンチョー、文句なしの!!』

「(勝てない……!)」

「(勝つッ!!!!)」

『ゴールインであります!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……結局、バンチョーとエレジーの一騎打ちだったじゃん。はぁ……アタシは噛ませ犬かぁ」

「えー……」

「なんだよ、オレは邪魔者ってか?」

「こっちはこっちで!?」

 

建設されたウィニングライブ会場の舞台裏にて、三人は互いに健闘を称えていた。

 

「「冗談」」

「もう!!」

 

一着のチョクセンバンチョー、二着のハリボテエレジー、三着のナイスネイチャ。

それぞれ全力を出し切った。至らなかったのは、相手の努力が一歩、己の努力を上回ったから。

そして、その努力の結果の頂点であり、他が持っていない武器……領域(ゾーン)を手に入れたチョクセンバンチョーこそが、最も輝くべきなのだ。

 

「いやーマジで頑張った……これで歌って踊るとか、明日筋肉痛確定だわ……」

 

当の本人は、未だ興奮冷めやらぬと言った感じで上を見上げていたが。

 

「ね、バンチョーの追い上げすごかったよね」

「うぅ……勝てると思ったんですけど……どうやっても最後抜かせなくって……」

「……まぁ、な」

 

最後に、確かな迷いがあったこと。

それを振り払えたのは、後ろでプレッシャーをかけてきていたウマ娘がいたからに他ならない。

一人では、到達できないのだ。領域(ゾーン)とは、そういうものである。

 

「「……?」」

 

含みのあるような顔に二人が首を傾げれば、チョクセンバンチョーはニカッと笑みを浮かべた。

 

「お前らが束になったって、オレは負けねえよ!」

「言うねぇ〜」

「次は負けませんからね!」

 

ウマ娘も三人集まれば姦しい。

わいわいと楽しげに話し合っている三人に、スタッフから準備ができたことを告げられる。

 

「それじゃ、ライブを始めようか!」

「トレーナーさんいるかなぁ」

「……きっと、いるだろうぜ」

 

恐らく、己のライバルも。

チョクセンバンチョーは高揚に胸を高鳴らせ、そしてトレードマークである学帽の位置を直した。

 

「あぁ、今日は……」

 

最高の一日だ。

 

 

 

 

 

───……

 

 

 

 

 

『『『どうか全力で! 射抜いてよ! 瞳で私を!』』』

 

汗が輝き、可憐で、それでいて力強い歌声がステージに響く。

前方で気絶し倒れたピンクのウマ娘を確認したトレーナーは苦笑いし、そして傍にいるシンボリルドルフを見た。

 

ゴールドシップは既にトレーナーの近くから姿を消していた。もはや日常茶飯事であるし、一度フィンガースナップを鳴らせば彼女は悪魔召喚のように出てくる。

煌めきと歓声で包まれたステージを眩しそうに見つめるトレーナーの横顔をじっと見つめるシンボリルドルフ。

 

「惜しかったな」

「……ん? あぁ、最後の追い上げですか。いやあ、実力を見誤っていまして。まるで生徒会長のような走りでしたねぇ……」

「あぁ。あれは私だ」

「……え?」

「彼女は領域(ゾーン)を発現させたぞ」

「……マジかぁ……」

 

愉快そうに笑うシンボリルドルフと、天才が増えたことに悩ましげにチョクセンバンチョーを見つめるトレーナー。

時代を動かすウマ娘は、皆全て領域(ゾーン)へ入った事がある。……とは、シンボリルドルフの談であった。

今の時期、領域(ゾーン)に入れるウマ娘は少ない。というより、シンボリルドルフの時代に領域(ゾーン)に入れるウマ娘が多すぎたのだ。

 

「チョクセンバンチョー、彼女は……三冠へ挑むべき人材だったのだろうな」

 

少し前にぶつかった事のある芦毛のウマ娘を思い出し、シンボリルドルフはふっと笑った。

 

「UNLIMITED IMPACT……」

「ん?」

「雨やぬかるみの中でも力強く走るウマ娘たちの心の叫び。それがこの歌だ」

「あぁ……たしか、そんなものだったかなぁ……」

「だが、これにはもう一つ意味があるんだ」

 

初耳情報にトレーナーは振り向く。

そうして、親友の顔でも思い浮かべたような表情のシンボリルドルフは、

 

「三冠へ挑みたくても挑めなかった歌……それがこの歌だ」

『『『君は目撃者だよ───』』』

 

そう、笑ってみせた。

 

 

 

 

 

───YES ……UNLIMITED IMPACT!!

 

 

 

 




チョクセンバンチョー
暴れ馬として知られるが、ハマった時の末脚はギンシャリボーイをも凌ぐ。(ピクシブ百科事典引用)
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