担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
横浜ステークスが終わりひと段落。
俺と親父、ハリボテエレジーとチョクセンバンチョーは貸切で練習場に来ていた。
どうやらP.P.U.に所属しているウマ娘が自らも体力向上、速度上げに使っている練習場らしい。
普段は公共に場所として使っているらしく、ランニングするおっさんや鉄棒などで遊ぶ子供がいた。もちろん、ウマ娘もちらほら。
「はい、トレーナーさん、お茶です」
「ありがとうハリボテエレジー」
「はい、口開けてください、お団子です」
「待ってたづなさんなんでいるの?」
ハリボテエレジーが水筒からお茶を出し差し出してくれるが、反対側から出されたお団子はノリで食えない。
バッと振り向くとたづなさんが三色団子をこちらへ差し出していた。
いやほんとになんでいるの?
「理事長の付き添いで、P.P.U.に所属した元トレセン生徒の様子を見に来たんです」
「あぁなるほど」
ずず、とお茶を啜りながら答える。
……ウマ娘だって全員が全員プロの道へ進めるわけじゃないんだ。俺が見送ったやつらみたいに途中で退学になるやつもいれば、現役を引退してウマ娘のサポート器具開発の道へ進んだりする奴もいる。
その中に、P.P.U.へ所属する道もあったのだろう。あまり有名じゃないから調べなきゃ普通はなにそれ? ってなるけど。
「それで……今日はトレーニングにこちらへ?」
たづなさんがハリボテエレジーを見る。
今はジャージ姿のハリボテエレジーだが、汗一つかいていない。そりゃそうだ、ハリボテエレジーはここにきて一回も走ってないのだから。
「いえ、こちらも付き添いです。アレですね」
「えっと……あぁ!」
俺が指さした方向をたづなさんが見る。
そこには、親父とチョクセンバンチョーのトレーナー、そしてチョクセンバンチョーが唸っていた。
「全神経を目の前に集中させる! 根性!!」
「「こ、根性……!」」
チョクセンバンチョーのトレーナーさん仕事着で大変そうだなぁ。
空気椅子のモーションのまま両手を前に突き刺し、なみなみと水を注いだ盃を手の甲に置いている。
プルプル震えれば水がこぼれるし、倒れても溢れる。
それでもあんな覇気のある声出せる親父は化け物だなぁ。
「トレーナーさんあれできますか!」
「無理に決まってるじゃん」
「あれは……根性トレーニングなんでしょうか……?」
「親父流の、ですけどね……」
でもチョクセンバンチョーは横浜ステークスで見事根性を見せた。
仕事でレース場にはいなかったが、親父もレースは見ていたらしい、
あの根性は俺が育てた、なんて言ってたけど、多分あれは本人のポテンシャルじゃないかなぁ。
「バンチョー、お前は根性が足りん! 反発心はあるが決心が足らん! 私が鍛えてやる!」
「お、おす!!」
……思えば剣道を教えたり今回の拳法修行もどきであったりと、やたらと根性を伸ばそうとしていたな。
最初から根性のことを見抜いていたんだろうか。それにしても、親父のやり方はスパルタというか……P.P.U.は陸軍の派生と聞いた事があるし、厳しいのもうなづけるが……。
「ぐぉぉぉぉ……!」
「バンチョー、頑張って!」
「おめェ真っ先に服濡らしといてぇ……!!」
「根性!」
「うっ、こ、根性ォ!!」
流石にあれは、やりすぎじゃないか……?
あ、でも確かに空気椅子は普段使わない筋肉を使う。
トレーニングとしてはとても理にかなった方法だ。
「くっそ、筋肉痛が痛ェのに……!」
「気合いで治せ!!」
「はぁ!?」
「根性!!」
「こ、根性ォ!」
あっ、水が……。
おぉ持ち堪えた!
「ハラハラするなぁ」
「ですねぇ!」
「あ、あの、トレーニングはしないんですか……?」
あぁ、ハリボテエレジーのトレーニングか。
まぁせっかく良い環境にいるんだし走らせたいとも思うが、ちょっとなぁ。
「今は走力を上げるよりも他の能力を伸ばしたいんです。ハリボテエレジー、見せてやれ」
「はい!」
ハリボテエレジーが袖をまくると、そこには腕輪が付いていた。
脚にも輪っかが付いていて、華奢な脚無骨な印象が加わっていた。
「これは……」
「持ってみますか!」
「あ、はい。……ッ!? なんですこれ、重た……っ!!」
そう。今のハリボテエレジーは四肢に重りをつけている。
その重量は、ハリボテエレジーが最初に履いた蹄鉄3個分。
それでついさっきの「お茶を水筒からコップへ移す」など日常生活の動作をすることによって、全身に負荷をかけているのだ。
「ふんっ……」
がちゃん、と音を立ててハリボテエレジーが重りをつける。
その重りをつけて走れば良いのではないか、とたづなさんは言いたげだ。こんなことせずとも、走るなり水泳なりをすれば負荷がかけられるのに、と。
だがこれには理由がある。まず一つはハリボテエレジーが水泳を嫌っていること。水泳さえできれば肺活量とスタミナのトレーニングになるため重りは要らないが、本人が水泳を断固拒否したために、
二つ目はどうしようもないことだったりする。
ハリボテエレジーは恐らく、走力の面で伸びることはもうない。
今のスタミナ、パワーを加味すると今以上の速度は出ないのだ。
だから、スタミナとパワーをあげ、速度の上限を解放させる。素晴らしい能力には、それに耐えうる身体が必要なのだ。
「と、そんなこんなでハリボテエレジーには重りをつけています」
「なるほど……そんな方法があったんですね」
脚が弱いとできないやつですね、と顎に手を当てるたづなさん。
確かにそうだ。支えである脚が弱かったら、トレーニングの前に脚が潰れて選手生命大安売りだ。
「ハリボテエレジーは脚はすぐ治るもんな」
「はいっ!」
「……? そういえば、そんな噂を聞いた事があります。どういう事ですか?」
「いや、医学的にもわかってないんですけど、コイツは……骨折してもすぐ治るんですよ。折れた翌日には松葉杖になってるくらいに」
「この前なんか、折れた瞬間くっつけてレース復帰しました!」
普通のウマ娘と比べたら驚異の回復スピードだ。多分SAN値削れる。
お医者さんにも相談してみたが、原因は不明。原因を解き明かしたいなら骨折して治して……の動作を病院で行わなければいけないらしい。
ハリボテエレジーはすぐ治せるけど骨折の痛みは感じる。流石に研究のために骨を折りなさいなんて、非人道的すぎて言えるわけないだろう。
それに、「折れてもすぐ治る」なんて奇跡がいつまで続くかわからない。
次に折ったら、もう戻らないかもしれないしな。
「う、羨ましい……」
「そうなんですよね。血液を作るスピードもすごくて、ハルウララに血液を譲渡するときもゴクゴク吸われてるはずなのにケロッとしてんすよ。お医者さんにも『や〜いお前の血液万能血清〜』とか言われてて。……なぁ、お前風邪とか引くの?」
「最近は引いてないです。小さいころは体が弱くて引きまくりでしたけど」
「そうだったんですね……それって破傷風でも治せるんでしょうか」
「どうなの?」
「えっ、わかりませんよ!?」
っていうかなんで破傷風?
「敗血症……」
たづなさんがボソッと呟く。
あ、昔破傷風になったとか?
「破傷風ってどんな病気なんですか?」
「小さな傷口から菌が侵入し、激痛に襲われる病気だな」
「怖ッ」
たづなさんもうなづいている。
特にウマ娘は破傷風を警戒する必要がある。ちょっとした擦り傷でも破傷風にかかり、選手生命が尽きてしまう可能性があるのだから。
……もしかしたら、ハリボテエレジーが骨を折っても体に異常がないのは、その万能血清のおかげなのかもしれない。
しかし、破傷風か。なにかひっかかる。
なんだっけ……うーん……。
「あっ、たづなさんもお茶飲みますか? 紙コップまだありますよ!」
「そうですか? では、お言葉に甘えて」
たづなさんが大事そうにお茶を飲む。
破傷風の話をしていたからか? お茶は病気の防止になるって言うけど……破傷風は傷口からですよ?
そう、知らないうちに小さな傷口から……。
あっ。
あっ!!
「トキノミノルだ!」
「ブッ」
「たづなさん!? 大丈夫ですか!?」
「す、すみません気管にッ、ケホッ」
トキノミノルは破傷風で引退したとかなんとか、図書館のウマ娘名鑑に書いてあった!
えーとえーと思い出せ。なんて書いてあったかな。
そう、東京優駿、つまり日本ダービーの時だ。その時には既に破傷風菌が入っていたとかなんとかで、治療されたけどその後失踪、それで幻のウマ娘と呼ばれるようになったんだ!
「いや〜すっきりした……どうしましたたづなさん?」
「いや目の前でお茶吹いてたじゃないですか! ……気管にお茶入っちゃったらしいです」
気づかなかったなぁ。
「なぁハリボテエレジー、お前一回血液を研究所に送ってみない?」
「断固拒否します!」
「そうか」
ハルウララに輸血するときは進んでやったのに。
ま、ハルウララに入るってわかってるならまだしも、誰ともわからない研究者に自分の血液弄られるとか普通に嫌だしな。
「しかし破傷風かぁ……お前が輸血してれば、選手生命は伸びていたのかもな」
「なんの話ですか?」
「いや、気にするな」
気にしますよ、とハリボテエレジーが言おうとした時、チョクセンバンチョーがついに敗れた。
びしゃ、と盃の中の水がジャージにかかるが、俺の体感時間では10分前後耐えていたことになる。
よく頑張ったなぁ。
「お疲れ様です!」
「痛ぇ……」
「ふむ。休憩だ!」
「お、おす……」
あーあー、脚もガクガクさせちゃってまぁ。親父やりすぎだよ。
しばらくの間チョクセンバンチョーは動けないかなぁ。ゼェハァしてるし。
「あぁいうトレーニングもやり方の一つなんだよなぁ」
「世の中には色んなトレーニングがありますからね」
「俺もまだまだだなぁ」
中央のトレーナーライセンスを獲得しても、知らないことはたくさんある。
……トキノミノルと約束してトレーナーになるって言って、ちょっとの間グレて……それで中央か。考えてみれば俺も出世したな。
地方ですら、色んなウマ娘に会った。側から見ても才能の塊なウマ娘もいた。
「……トレーナーさん?」
「あぁいや、少し昔のことを。ぼーっとしてましたね、すみません」
「いえいえ、それは……ふふ、私、トレーナーさんのその昔のこと、気になります」
「私も気になりますぅ!」
「えぇ……面白いことはないですよ」
「知りたいですよ! ねぇ、たづなさん?」
「はい」
えぇ……。
「いや、でもほんとに。なんもないんで」
「えー? 中央に来る前の話、聞きたいです!」
「お話願えませんか?」
「……簡単にですよ? ……まず俺は、小さい頃目標にしてたウマ娘がいたんです。そのウマ娘から、トレーナーとして君が活躍するのを期待している〜みたいなことを言われて。あ、トキノミノルって言うんだけど」
「ちょこちょこ話題に出ますよね、トレーナーさんの周りで」
「うん。そんで……まずは地方のトレーナーになったかな。一回中央のライセンス試験落ちてさ。グレて地方でウマ娘と過ごして……なんやかんやあって
「そのウマ娘はどんな?」
「いつか話す」
流石にパッと喋れる内容じゃない。めちゃくちゃに濃い生活をしていたな、あそこでは。
それにメジロの……
「うっしゃ! 次だ次!」
「回復早くて草」
「私もっと早いですよ!」
「お前は体力じゃなくて外傷が治るスピードが早いんだよ」
こいつも元気になったな。
最初に出会ったころなんかオドオドしすぎてて中身ライスシャワーかと思ったのにな。
「なんか……最近物事起こりすぎじゃね……?」
俺は真理に到達してしまった。
夏も終わりへと突入する今、さすがに疲れてきている。
「たしかに……最近は死力を尽くすことが多すぎるような気がします……」
「横浜ステークスも終わったしもうそろそろ休もうぜ。トレーニングは今の実力を保つ程度にしておいて、秋や冬を待とう。夏休みだ!」
「夏休み遅い! けどやったー!」
JWCの出願手続きは済んでいる。
来年の春、ハリボテエレジーは世界的に有名になることだろう。
並み居るウマ娘を追い抜き……そして伝説へ。
「トキノミノル……」
「どうしましたか?」
「ん、え、あ、独り言です」
「あっ……そうですか……」
なぜかトキノミノルという単語に反応したたづなさん。
そういえばトキノミノルのこと知らないって言ってたよな……多分、たづなさんとトキノミノルは同世代というか……近しい年齢だと思うのだけど。
「たづなさん、幻のウマ娘って映画があるんですけど」
「……トキノミノルですか?」
「はい! どうですか一緒に」
「映画は好きですけどその映画は一人で見たいです!! 多分展開知ってるし……」
…………。
「振られちゃいましたね、トレーナーさん」
「嫌われた……」
「ええっ!? 違うんです! そういうことじゃなくって、他の映画なら見に行きましょう二人で!」
「二人で!? トレーナーさんやりましたね! デートですよこれは!」
お前なんかやる気上がってない?
レースじゃなくて恋バナでやる気出してどうすんだよ。ってかそもそも俺とたづなさんはそういう仲じゃないし……。
「デートじゃないからお前はトレーニングやってろ」
「「酷い!?」」
「なんでたづなさんまで……???」
全く、男女が会うだけでデートになるわけなかろうが。女ってのはすぐ色恋に関連づけるからよくわからん。
んまぁ、そりゃウマ娘の中には俺のことを少なからず良く思ってくれてるやつもいるかもだよ? けどさ、がっつきすぎるのも良くないじゃん。勘違い野郎にはなりたくないし。
……とか脳内で語ってみたりして。
「たづなさんにはトキノミノルのことを知っておいてほしいんですよね」
「わ、わざとですかっ」
「わざと? わざとと言えばわざとですねぇ。俺の周り、トキノミノルについて知ってる人なかなかいないんですよ!」
「……DVD借ります……」
よっしゃ、布教成功だぜ。
ちなみに俺は見たことある。あるにはあるけどそんなガッツリ見たわけじゃない。トキノミノルのことを思い出した次の日とかその辺に見ただけだから、名シーンだけ覚えてるみたいな……まぁ一般人から見るジブリみてぇな感じかな。
「もう一回見ようかなぁ……レースシーンが白熱だったんだよな」
「そうなんですか!!」
「そうなんだよ。女優のウマ娘はレースを引退したウマ娘が走ってるらしいぞ」
「ほぇ〜」
特殊メイクを使えば撮影用にウマ娘の耳を再現するのは可能だ。けど……この映画の撮影のときそんなに技術の進歩してたっけ?
たぶんアレは……本物だったと思う……。
「トレーナーさん的におすすめの映画とかは?」
「……marvelかなぁ」
「ラブコメとか見ないんです? ほら、最近のだと……これとかありますよ」
横からハリボテエレジーが見せてきたのは、とある学園の生徒会長と副会長が互いに告白をさせようと企む恋愛頭脳戦の映画。
漫画がもとで実写化されたらしく、俳優や女優が大物揃いだ。
「うーん」
「……もしかしてご興味ないです?」
「こう……オタクの観点なんだけど媚びてるなぁって……」
「じゃあこっちは?」
すいっとスライドされた画面に映ったのは、白髪のウマ娘が翼を生やして空から少年を見守っているポスターだった。
中世の時代に捨てられたウマ娘を拾った遊牧民の少年が彼女を育成しレースへ挑ませる……という物語。
「見ようかなぁ」
「もしかしてトレーナーさんてウマ娘にしか興味ありません?」
「そうかも」
「認めるんですか……」
今やってる映画なのか。うむ、覚えておこう。
……っと、あそこにいるのって理事長? あぁ、そういえば付き添いとか言ってたな。
「それじゃあ、私はこれで」
「そうですか。わかりました、おつかれさまです」
「はい。トレーニング、頑張ってくださいね」
そういってたづなさんが理事長の元へかけていく。
……たづなさんが足が速いっていう噂は本当なのだろうか。
タイキシャトルを捕まえたり、スペシャルウィークと同じ速度を出した……とかなんとか。
ふーむ。今んとこ、そんなに足が速そうには見えないんだけどな……。
「……ん?」
「どうしましたかトレーナーさん」
「いや……」
右肩……というか右腕全体が少し不調そうに見える。
今朝どこかにぶつけたとか、痛みがあるとか……なんにせよ、そんな感じの不自然な傾きを感じる。
…………。
………………。
肩、ぶつけると痛いよな! 俺もたまにあるもん!!
「トキノミノルがトレーニングで転んで挫けるシーンすごかったですよね」
「ああああああっ!! やめてください! 掘り返さないで!」
「(……感情移入が凄まじい人なんだなぁ)」
映画「スーホと白いウマ娘」
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番外編として書けダボが
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書くな殺すぞクソ野郎が