担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
「ねぇ、良かったのトレーナー? エレジーじゃなくてボクで」
「ん……むしろお前に来て欲しかった感はある」
「なに、ナンパ?」
「ナンパかも」
「えぇ……」
いたずらっぽく笑うトウカイテイオーに即座に斬り返し、パンフレットを広げた。
ちなみにハリボテエレジーはどっか行った。なんでも最近足りなくなっている日用品を買うそうだ。
「賢さトレーニングで美術館かぁ。ボク、こういうのってあんまり来たことないや」
「来る機会は少ないだろうな。ハリボテエレジーはどこか行ったし……トウカイテイオー、せっかくだしトレーニングじゃなくて、ー俺と美術館デートと行かないか?」
「ちゃんとエスコートできる?」
「お前にエスコートはいらない」
「ひっどい!? いるよ!?」
今回、この美術館に集まっている美術品のテーマは……奇跡。そしてウマ娘。
歴史的な画家の残したウマ娘の絵や、ウマ娘に関係がなくとも奇跡を起こしている絵。他にも、芸術家のウマ娘が作った壺や彫刻などが集まっているらしい。去年は絶望と人がテーマだったそうだ。
彫刻のコーナーには大きいものから小さいものまで沢山のものがあった。中でも目を引くのは中央に置いてあるジオラマだろう。
木々や椅子、塔。そして人とウマ娘。川の流れに至るまで、全てが石を削り出して作られている。
「すっごいなにこれ……」
「これは……奇跡の方か? ほらここに書いてある。一度もミスをしなかったって」
「ミスしないってすごいことなの?」
「さぁ。俺は彫刻はわからないから」
像にしては荒削り。ゴツゴツしていて美しいかと問われると一瞬うーんってなるジオラマ。
それにミスをしなかったと言っても、ミスした時に見栄を張ってそれを成功ですと言えばミスじゃなくなるじゃないか。
俺に彫刻はわからない。
「あっトレーナー、これマックイーンに似てる! だけどモンスターみたい!」
「これメジロマックイーンだぞ」
「えっ!? あっほんとだ作られたの最近!」
美術品だもんな。最近作られたのが飾られたっていいはずだ。歴史館じゃないんだし。
白いウマ娘、と書かれたプレート。恐らくメジロマックイーンのことだろう。芦毛と書かれていたら悩んだけれど。
走る姿を像にしたのか、一見トロフィーのようになっているそれはメッキでできていた。
キラキラと輝くそれにトウカイテイオーが負けじと目を輝かせている。
「次は壺だって」
「……壺って面白いの?」
「中に小銭が入ってるかもわからんぞ」
「割るの!?」
まず目に入ったのは青いステンドグラスでできた壺。
絶対実用品じゃないだろうと突っ込みたくなる前衛的な形をしている。
けれど全体が青でできているからかとても落ち着きのある色だ。小さいやつがお土産コーナーにあったら買いたくなる感じ。
と、隣でトウカイテイオーがすんすんと鼻を鳴らす。
「なんだか蜂蜜のにおいがする」
「えっと……あぁ、たぶんこの壺だ。既に焼いたものを蜜蝋で包んで、そこからまた蜜蝋で絵を描いたらしい」
「ミツロウって何? 誰?」
「さてな。蜂蜜に関係する何かを溶かして作ったペンみたいなもんだろ」
「はぇ〜」
でもこいつよくそこから蜂蜜のにおいとか嗅ぎ出したな。
俺も鼻は効く方だと思ってたんだけど……すんすん。うん、そんなにおいは感じ取れない。
恐らくはちみーの飲み過ぎで鼻がイカれているんだ。かわいそうに。
しかし見れば見るほど味のある絵だ。クレヨンのようだが、滑らかな曲線を描いている。
色も豊かではあるが、これは……色むらが多いだけってことか?
「あっ……これ絵から出てる匂いじゃない。優しいレモンの香りも……これ、中から漂ってない?」
「ここに来る以前に蜂蜜レモンを作るときに使ってたんじゃねぇの」
「びじゅつひんでしょ、あるわけないじゃん」
「だろうな」
まぁ、ウマ娘であるトウカイテイオーだからこそ気づけたのかも。
もしくは、その作者が……ふふ。そんなこと、あるはずないか。
どっちにしろ、俺に壺はわからない。
さて、さまざまな芸術品とやらを鑑賞してきたが、今回の目玉は絵である。
俺は彫刻や壺はまったく価値がわからないが、絵……相手の想像力に全てを委ね、夢を見せる……そんな芸術は他よりも何となくわかる。
実物がそこにない分つまらさはあるだろうが、これは大人になってからわかるものだろう。
「特にトウカイテイオーはわからないだろうな」
「あっ今バカにした。わかるもん! ゲイジュツ! ほらこの絵とか綺麗だよ!」
「これは……」
なんというか、独特な絵だ。
ウマ娘らしき何かがターフに立っている。そして木が赤い。
どのような視点から見ればこうなるのだろうか。地獄のようで……どこか浮世離れした印象を受ける。
これを『綺麗』とみたトウカイテイオーは、作者と気が合うのかもしれない。まぁ、多分この作者もさっきと同じように……。
「でも全然忠実じゃないや。これも最近の作品みたいだし……」
「絵がおかしいってことか?」
「やっぱわかんないよゲイジュツって。下手な絵をゲイジュズって言えば良いの?」
「そう言うわけでもないだろうな。トウカイテイオー、流しでいいからぐるっと一周回ってきてみたらどうだ。じっくり見ることなく、ぐるっと。それで目を引くものがあったら、それがトウカイテイオーにとっての芸術なんだろう」
「……なるほど。わかった!」
歩くスピードをほんのりと早め、トウカイテイオーが先行する。
チラチラと一瞬だけ絵を見て周り、そして……ある一枚の絵の前で止まった。
「あったか?」
「あったというか……ううん……」
「これはお前を書いたやつだな」
「えぇ!? これボク!?」
トウカイテイオーが唯一立ち止まった絵は、獣のような風貌の女性だった。
恐らくウマ娘。本物よりも獣らしさが際立ち、いくらか美人に描かれている。
……トウカイテイオーならこの絵で立ち止まってくれると思っていた。
「全然似てないじゃん! ボクこんな顔してる?」
「……俺が見せたかった絵はこれだよ」
「え?」
「この絵を俺は知っている。そして、この絵をトウカイテイオーに知ってもらいたくてここに連れてきたんだ」
この絵は……異界からやってきたらしい。
異界の画家が、異界のウマ娘を描き、それが時と時空の流れを漂いこの世界へやってきた。
これは、そんな絵だ。
「つまり、そのイカイのボクはこんな顔なの?」
「いや、多分違うと思うぞ」
「じゃあどう言うことさ」
「……この絵を描いた画匠はさ、盲目だったんだ」
「……え」
「先天的な盲目で、ウマ娘も、走る姿も、果てには空の青さまで見たことがないらしい」
そんな彼が、一人のウマ娘を描いた。
画家として大切なものが欠如している彼が、名だたる画家の歴史をなぞるように遺したもの。
異界の住人である彼の今を、俺が知るわけがない。
ただ、絵は間違いなく異界のものだ。調べたところそう出てきた。
「さらに身体も弱く歩いているのが不思議なくらいに病に苦しんでいたそうだ」
「…………」
「そんな彼が『描きたい』と思ったウマ娘は、彼の見えない目にはどのように映ったのだろうな」
さぞ美しい青が、広がったのだろう。
「……異界のボク、か」
「あぁ」
「異界のボクは、その絵の……センセーに、何かしてあげられたのかな」
「きっと、たくさんのものを与えているはずだ」
自身、勇気、夢、力。
「希望」
だって、この作品の名前は。
色が見えないはずの彼が描いた、心を救う永遠の帝王を描いたこの絵の名前は。
「青いウマ娘、か。この絵、気に入ったかも!」
だって読んだときに真っ先に思いついちゃったんだもん……!!
素晴らしかったんだもん……!