担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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意思と覚悟とエトセトラ

それから見るからにぼろぼろのチョクセンバンチョーが出来上がりましたとさ。

走りはもちろん全てを根性で解決させられ、満身創痍だ。思えばチョクセンバンチョーはいつも体力を使い果たしている気がする。

太陽も傾き空が茜色に染まる中、俺の隣でラジオ体操をしているハリボテエレジーもまた辛そうにしていた。

 

「うっ……うぐぐ」

 

本来なら重りのせいで四肢が地面にくっつきそうなほどの圧がかかっているのだ。それを朝から夕方までやっていれば、どんなアスリートでも消耗するだろう。

 

「親父! そろそろやめよう! さすがに明日のトレーニングに響く!」

「そうか! 止めッ!!」

「だあああああクッソ痛えええええっ!!」

「トレーナーさん重り……」

「あぁ、外していいぞ」

 

聞いた瞬間ロックを外し、地面にドスンドスンと落とし始めた。

全身が軽いですぅ〜と軽くランニングをし始めるハリボテエレジーを横目に親父を見れば、夕陽を背にチョクセンバンチョーと向かい合っていた。チョクセンバンチョーのトレーナーもその隣でバインダーを片手に佇んでいる。

チラリ、とこちらを見る二人。

 

「…………」

 

あっ、そっか、俺もチョクセンバンチョーのサブトレーナーじゃん。

よっこら戦闘体制、と立ち上がって三人で並び立てば、全身の痛みから横たわっているチョクセンバンチョーがこちらを見上げた。

 

「あぁ、良いんですよ寝てて」

「そうかい。じゃあお言葉に甘えて」

「その前にお前はほらこれ食べとけ塩アメ」

「オカンみてぇだなお前」

 

ぽとっと塩アメをチョクセンバンチョーの口に落とすと、深く味わいながら俺の後ろを───無言のまま仁王立ちする親父を次に見た。

 

「なんだよ次は」

領域(ゾーン)と言ったか。見せてみよ」

「……ッ、あれは、思ってる以上に疲れるんだよ……今の状態でできるわけないし、第一アレは自分の意思でできるもんじゃ」

「できなければ負ける」

「…………」

 

眉が上がる。

 

「何を分かったようなこと言ってんだテメェ。領域(ゾーン)はアンタらが理解できるもんじゃねぇ。領域はオレ達の領域(ゾーン)なんだよ」

「ならばギンシャリの引き立て役となるだけだな」

「…………」

「私が何を教えてきたか忘れたか?」

 

……つまりはブートキャンプ。

答えは、

 

「……根性ォ……」

 

である。

親父はトレーナーとしての知識はない。

誰が速いか、誰が一番根性が無いか。しれくらいしか見分けがつかない。

 

「お前の領域(ゾーン)は速い。ギンシャリボーイに勝つには必ず領域(ゾーン)をモノにしなければならん」

「それって……領域(ゾーン)が無きゃ勝てねぇって言いてぇのか」

「その通りだ」

「ッ……アンタ……」

 

ギッとチョクセンバンチョーが睨む。

……果たしてチョクセンバンチョーは……それが事実であることに気づけるのだろうか。

自らの走りをライバルには勝てないと言い切られたら、ウマ娘としては恥だろう。

だが……俺の親父は嘘はつかないし、何より俺もそう思う。

 

「……型破りな走りを続けてきたツケ、かねぇ」

 

ボソッと呟いてみると人を射殺せるような視線が突き刺さる。

今のは、チョクセンバンチョーにとっては最大の侮辱だろう。

だが事実だ。チョクセンバンチョーは初見殺しなだけで、その全てがわかってしまえば対処しやすい。

つまり、弱い。

 

「走れ」

 

親父が言う。

 

「私に、領域(ゾーン)を見せてみろ」

 

体は既に限界を越え、恐らく立ち上がるだけでも全身を痛みが襲うだろう。

こんなのは、トレーニングとは言わない。ただの虐待である。

本職である俺たちは何も言えない。

全身を痛めつけ、非人道的に痛めつけるだけのトレーニングが、()()()()()()()()分かってしまっているから。

だがそれは、トレーナーとして一番やってはいけない方法。

親父はサブトレーナーを辞めるつもりで突き放しているんだろう。

 

「……きねぇんだ」

 

小さく、消えるような声が聞こえる。

 

「何回走っても……できねぇんだ……」

「何回……それはどういうことですか!」

「横浜ステークスの後……抜け出して走った。でもできなかった……!」

 

ウマ娘として次の次元へ入る領域(ゾーン)

発現させたウマ娘は、どれも時代を作っていく女傑たちだった。

だが……それは領域(ゾーン)を自らの意志で発現させられる者のことを指す。

 

「せっかく……勝てると思ったのに……ッ!」

 

生涯一回しか発現しない領域(ゾーン)は、奇跡と呼んでも変わらない。

歴史の教科書に載っていた、戦国のウマ娘が残した言葉。

要するに───運が良かっただけなのだと。

 

「ならば退け。ダービーから」

「……テメェッ!!」

 

突然起き上がったチョクセンバンチョーが拳を刺す。

ウマ娘の膂力で放たれた一撃は親父の頬を確かに捉え、その巨体を吹き飛ばした。

 

「親父!!」

「立ったな?」

「……親父……?」

 

負けじと親父がチョクセンバンチョーを睨む。

殴った体勢のままのチョクセンバンチョーは自分の掌と避けなかった親父に目を見開いていた。

 

「立ったらやることは一つ」

「…………」

「走れ」

「…………ッ」

「一度でも領域(ゾーン)を見せたら……こんな職業辞めてやる」

 

きっとそれが1番の挑発だったんだろう。

 

「るせぇ……」

「……」

「こんッッッじょォォォオオオッ!!!!」

 

ビリビリと大気を震わす大声。

周りの一般市民が一斉にこちらを向き、木々に止まっていた鳥たちはパニックを起こし飛び立った。

 

「ふぅ……ふぅ……ッ!!」

「見せてみよ小娘」

「見てろクソジジイッ!」

「……併走相手には、ちょうどいいやつがいるよ」

 

ザッと俺の横に止まったのはハリボテエレジー。

先程の絶叫を聞いていたのだろう。

 

「走るよ。バンチョーちゃん」

「……あぁ……決着だ」

「先に一周した方が勝ちだ」

「ようい」「buddy」

「「GO!」」

「「疾ッ!!」」

 

そうして二人は、舗装されたランニングルートを蹴った。

 

 

 

 

ハリボテエレジーとチョクセンバンチョーは競り合い、争っていた。

方や、全身に圧をかける重りによる常駐トレーニングでスタミナが消耗されている。

方や、過度な根性トレーニングによって全身の筋肉が悲鳴を上げている。

互いに指一つ動かしただけで激痛を伴う満身創痍の状態でも、二人は駆けていた。

それはひとえに、ダート以外でしっかりと決着をつけたかったからか。

 

それとも。

 

「(足音が大きい……動きが力強くなってる……)」

「(勢いのロスが少ねぇ……過負荷に耐えた結果か)」

 

走ることに、理由なんてないのだろうか。

 

目の前の一直線、横目にハリボテエレジーを見るチョクセンバンチョーはある事に気づいた。

それは、ハリボテエレジーには死角が多すぎる事。

ダンボールの中で音が反響するために小さすぎる音は聞こえないだろうし、彼女の視界は真っ直ぐしか見ることができない。

異様なほどに転倒するのも、彼女が足元を確認することは容易でないためか。

 

対してハリボテエレジーは真っ直ぐ目の前だけを見ていた。

というより、見ることしか出来なかった。

暗がりの中、目出しの穴から差し込む景色だけを頼りに走っている以上、隣にウマ娘がいるというのは神経をすり減らす状況であった。

だから、加速がつけられる第四コーナーで。

 

「───ッ!?」

 

チョクセンバンチョーに、前を譲った。

そうして、自らの周りにウマ娘がいない状態。集中力を高められる状態にする事によって。

 

 

───[優勝トロフィー作成キット]───

 

 

擬似的な領域(ゾーン)を、作り上げるのだった。

頭の中にあるのはただ抜かすのみ。なけなしのスタミナを消費して、ハリボテエレジーは呼吸すらも忘れて走った。

だが、これはただのレースではない。

 

「(なに……自分だけの世界に浸ってやがんだ……)」

 

番長がいる、レースなのだ。

ほんのわずか目の前を走るハリボテエレジーに対し、ふつふつと怒りと恨みが沸き上がり。

 

ゴッッッ

 

そして、踏み抜いた。

地面を。

 

「(領域(ゾーン)領域(ゾーン)領域(ゾーン)領域(ゾーン)領域(ゾーン)領域(ゾーン)……!!)」

 

あのとき応えてくれた『理想の自分』にただひたすらに願いと力を請い、ハリボテエレジーの背中を凝視する。

自分の、自分だけの世界を作り上げる。その力がなければ、チョクセンバンチョーを番長たらしめた年寄りに良く似た顔を持つ男に、いつまでも舐められ続ける。

それは、それだけは嫌だ。

 

「……ぐ、ぉぉぉ……!!」

 

一息、ハリボテエレジーが酸素を吸い込む。

圧倒的な肺活量で吸われた酸素は全身に行き渡り、体を壊す事前提で練られた大幅なストライド走法を可能にする。

つまるところ、加速した。

目の前で。

ゴール以外は眼中にないと言うように……実際に、チョクセンバンチョーは後方についているため、意識はされていても警戒はされていない。

 

「今度こそ勝つッ!!」

「……ッ」

 

一馬身差が広げられる。

そして二馬身。

ゴールは、ハリボテエレジーにすぐ近い距離まで迫っていた。

 

「(馬鹿野郎)」

 

パキッ。

体の奥の奥で、何かが割れる。

早まった軌道は景色と共に緩慢になり、景色が自分をのぞいて灰色に染まった。

 

「(たのむ)」

 

だが、もう一つ、次元の壁が邪魔をする。

 

「(たのむ)」

 

運命に、力に、全世界の全てに祈る。

 

「(あいつ()あいつ()を越える力を───オレに)」

 

そうして、与えられた現実は。

 

「…………ははっ」

 

真っ白く、それでいて……心地のよい世界だった。

風も、音も、光ですらも全身を渡って速度となる。

それができる、世界。

 

「っ、ばんちょ、ちゃ」

 

思わず、ハリボテエレジーが呟いた。

()()()()自らに、驚いたからだろうか。

だが、もう戻らない。

 

何も聞こえない。

ハリボテエレジーよりも数刻早く、一周地点の白線を。

 

 

 

 

踏み越した。

 

 

 

 

「おおっ」

「……はんっ」

「チョクセンバンチョー……まさか、本当に……」

 

目を丸くするトレーナーを尻目に、翠緑色のプラズマを放つチョクセンバンチョー。

くすぐったく肌を焦がすそれを全身に纏わせ、番長は……否。

この場を支配する者という意味では……皇帝と呼ぶのが、正しいのだろう。

 

「このオレを……無礼(ナメ)るなよ」

「はぁっ……はぁっ……やったねばんちょ、ちゃ。すご……」

「はは……これでオレも……」

 

G1へ、という言葉は口に出されることはなく。

代わりに、二人のウマ娘が地面へとぶっ倒れたという事実が残った。

 

 

 

 

チョクセンバンチョーのプラズマで、未だに痺れている指先を見つめる。

倒れたハリボテエレジーは俺の車に、チョクセンバンチョーは今トレーナーが自分の車に運んでいる。

電流流れる体に触れたトレーナーはしびしびしていたが。

 

「……やりおったな、あいつ」

「……まぁ、ね」

 

このプラズマは……シンボリルドルフの時と同じだ。

シンボリルドルフが走ると渦巻く稲妻と、全く同じなんだ。

 

「親父、サブトレーナーやめるの?」

「約束だからな。それに私も暇というわけではないのだ」

「あぁ、そっすね、そりゃ大変だ」

 

指先の稲妻を揉んで消す。

……親父は確かに、チョクセンバンチョーを次の段階へと進化させた。

だけど、本当に親父はサブトレがしたかっただけなのだろうか?

 

「親父」

「なんだ」

「トレセンに近づいたのは、なんのため?」

「…………」

 

この親父が警察の権力を使わずにトレーナーとしてトレセンに来たのには、必ず事情があるはずだ。

俺の親父は、ラノベで謎に出てくるゲストキャラとか没キャラじゃない。

なにか、行動理由があるはずだ。

 

「……中央には……化け物が潜んでいる」

「化け物?」

「ドーピングと関わることだ」

「……教えてくれはしないのか?」

「教えて欲しいのか? あれほど厄介ごとに巻き込まれるのは嫌いだと言っていたのに?」

「中途半端に泥沼に足突っ込んでも気持ち悪いだけだ。いっそのこと開きなおって、両足突っ込もうと思ってる」

 

食い下がるオレに親父はため息をつく。

 

「ドーピング薬はウマ娘が使うべきものではない」

「……? どういう……」

「あれは……ウマ娘の遺伝子と調和する仕組みになっていない。ウマ娘に投与すれば、途端に苦しみ、肉体は異形になる」

 

桜色の髪を持つウマ娘の顔が脳裏をよぎり、無意識的に拳を握る。

わざわざドーピング薬でウマ娘を苦しませようとする輩はいない。黒い集団ということも合わされば、恐らく……あの薬を作った集団は、薬がウマ娘に合わないということを知らなかったのだろう。

つまり……実験台ということか。

 

「だが……私にはなんともなかった」

「……なんだって? 試したっていうの!? 自分で!?」

「近くに人間が私しかいなかったからな。至って普通のドーピング薬であった。調べたところ、人間にはうまく馴染むように出来ていたらしい」

 

だったら一体なんでハルウララに投与した?

いや……実験なんだから誰でも良かったのか。ウマ娘には効くのかどうか、とかを調べるために。

神聖なターフを薬で染める……それがどれだけ冒涜的なことなのか、わかっていないのか……?

 

「だから中央に潜んだ」

「結果は?」

釣果無し(ボウズ)だな」

「…………」

「敵はどこにいるかわからない。末端の生徒がその一人かもしれないし、教職員か、もしくはトレーナーにもその組織の一人が混ざっているのかもしれない」

 

こんなにぽんぽん話して、親父の守秘義務は大丈夫なのだろうか。

……まぁ……中央のトレーナーライセンスを持つものではある。多分今の俺の扱いはスパイのようなものだろう。

だが……ウマ娘を愛する者として、喉から手が出るほど欲しかった情報だ。

 

「でも俺は関与しないからね」

「いづれ関与する」

「うーん運命ってやつか」

「そうだ、運命だ」

 

変えられるのさDestiny〜♪ とはいかないらしい。

 

「まぁ、とにかくだ。私はここ最近トレセンで学んだトレーニング方法を用いて、P.P.U.の実力の底上げを狙う。私の部隊は……誰がどこにいようと、逃しはしない」

「まぁ頑張ってよ。親父が警察になった理由でもある女の子、まだ見つかってないんでしょ?」

「……あぁ」

 

さて、そろそろいい時間かも。親父はこのままP.P.U.の本部へ帰るんだろうし、チョクセンバンチョーのトレーナーももう帰った。

ハリボテエレジーはまだ眠っているけど、彼女たちにも門限が……っと、ハリボテエレジーって寮生じゃないじゃん。じゃあ帰り遅くても良いのかな。良くないわ、年頃の娘だぞ。

んまぁ、帰るまでに起きなかったら寮に……そうだな、ヒシアマゾンやフジキセキあたりに放り投げておけば良いだろう。世話焼きな彼女たちのことだ、きっとなんとかしてくれる。この前食べさせてもらったヒシアマゾンのお弁当は絶品であったし、手品も有名なものからあっと驚くものまでレパートリー豊富。人を楽しませることに関して彼女たちはエキスパートだろう。

 

「ハリボテエレジー送るけど乗ってく?」

「いや、良い。しばらくはここにいる」

「そう。ここ最近は夜も冷え始めるから、早めに帰るようにしてよ」

「あぁ……お前の職場での元気そうな姿を見て安心した。これからも励めよ。メジロの二人にもよろしくと言っておいてくれ」

「……まぁね。ぼちぼちやるさ」

 

車の後ろの席に横たわりグースカ眠っているハリボテエレジーの調子を確認。顔が見えないから胸の上下で判断する。うーん、良く眠っている。トレセンまでに起きるといいけど。

ドアを開け乗り込もうとした時、親父が冗談めかしてこちらに呼びかけてきた。

 

「お前まだ未婚だろう! 早いところ、トレセンの誰かと結婚したらどうだ!」

「学生と結婚したら犯罪だっての!」

「なるほど! 気になってるヤツはいるんだな! 私は生徒とは言ってないぞ!」

「バァーカッ!!」

「ふはは!」

 

ったく、あの調子じゃまだまだ現役そうだ。

車を出しつつ、ミラーにぶら下げていた金色のバッジをチラリ。

 

「……結婚、ね」

 

あいつらの中から、選べってことだろうか。

 

「……悪くないかもな」

 

紫がかった空の下、俺は車を走らせた。

 

 

ウマ娘のR-18 NTR小説書きたい……

  • ひっそり、ひっそりやれ
  • おいばかやめろ
  • 脳がァ! 脳が破壊されるゥ!
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