担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
はい、私致命的なミスを犯しました!
ストックたくさんありすぎて間違えて一個先のお話投稿しちゃったてへぺろ!!
えー……第43話「意志と覚悟とエトセトラ」……ハリボテエレジーが寮に届けられる前のお話でございます……お風呂シーンより一話分前の……はは……シニタイ……。
というわけでこの回を読む前に二話前(「番外編 青」を含める)まで飛ばして、
・「意志と覚悟とエトセトラ」
・「ハリボテ上等ッ!」
・「お好み焼きって中の具材で出身がバレるよな! だからたこ焼きにしたぜ! でもたこ焼きって夜食としてはどうなんだって感じだよな! 同じ粉物なのに! まじウケる! の巻」
の順でお読みください……この度は本当に申し訳ありませんでした……。
「上がりました〜……」
「なんやえらい遅かったやんけ」
「バンチョーちゃんと居合わせちゃって話し込んでてぇ」
「そかそか。ほな、これ食い」
差し出されたのはたこ焼きであった。
一体なぜこんな者が寮にあるのかと疑問に思う船に8個のたこ焼き、ソースの上に散らされた鰹節がゆらりゆらりと踊っている。
外見で美味いとわかるたこ焼きに「わぁ」と歓声をあげるハリボテエレジー。
「ほんでコレ」
そして隣に置かれたものを見て一瞬で宇宙猫───宇宙乙女となった。
「なぜご飯……」
「……? 粉物には米……」
「あっ、文化の違いッ、すみません先輩、夜食なのでたこ焼きだけで……!」
「そか。ラップしとくわ」
イ゛ーッとラップが巻かれる音を聞きながらハリボテエレジーは「いただきます」と一言断り、爪楊枝が刺さっていた一個を口の中へ放り込む。
あっ、とタマモクロスが止めるのも間に合わずハリボテエレジーの舌の上をあっつあつの球体が転がり口内を灼熱の地獄へ変えていく。
「〜〜〜ッ!? あっふ、あっ」
「水!!」
「んぐっ……ん……ぶはぁっ! あ、熱い!」
「当たり前や!」
下品に舌をべぇっと出すハリボテエレジーを見かねてタマモクロスが水の追加を注ぐ。
温情か氷が二つ追加されていた水で舌を冷やしていると、タマモクロスがじっとハリボテエレジーを凝視していることに気づいた。
「……? どうかしましたか?」
「ん、あ、いや……なんや綺麗な目ぇしとんな、と……」
「目ですか。よく言われます」
「てかダンボール外すんやな。顔見せたくない〜言うてたからてっきりダンボールの状態で来るんか思たわ」
「えっ、あっ、あはは……」
トレーナーが持ってきたナイトキャップには穴が三つ空いていてすっぽり被れば目出し帽になると言うことは伏せておくハリボテエレジー。
トレーナーも意外と気が効くものである。ただし結果は目出し帽。女子には不人気であった。
「ほら、ちょっとだけ冷ましてから食い」
「すみません……。ところで、フジキセキ先輩は……?」
「なんや出てったで。用があるんとちゃうか」
「そうですか」
「なんや、ウチでは不満かぁ?」
「えっ!? いえいえ、そんなわけでは! 黒い雷神のおはなし、聞きたいです!」
「おう、OLに人気のお菓子の武勇伝をとくと聴かせて、ってそれブラックサンダーやないかい!! 白や白ォ! ほんで稲妻やぁ!」
ちょっとボケてみたらとても気持ちの良い反応をしてくれた。
子供がいたずらを引き起こす原因である。
「ブラック・サンダー!」
「ホワイト・サンダー! 言うてな、二人はウマキュア! ってなんでやねん!」
「あぁ、爪に塗るやつ!」
「ふんふふ〜ん、今日は彼氏とのデートやからオシャレしてウマキュア塗って、いやマニキュアやろがい!」
「それ使うお人形ってなんでしたっけ?」
「あぁ、マニキュア塗る人形な、アニメとかのキャラクターのってフィギュア! マニキュア塗らん!」
「塗る人もいるらしいですよ?」
「いや知らんわぁ!!」
ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……。
肩を上下させてツッコミ疲れを表すタマモクロスに感激を覚えながら、ハリボテエレジーは二つ目のたこ焼きを食んだ。今度はしっかりふ。ふーしてから食べた。
「ほふっ……おいひい」
「ン。足りなかったら焼くで」
「今日はお代わりして良いんですか!? うめ、うめ……」
「……なんやそれ」
「トレーナーひゃんがもぐ、いってまひた」
「ガスは撒かんから安心しとき」
ガス? と小首をかしげるハリボテエレジーに「こっちの話や」と手を振り、タマモクロスは用意しておいた自分のたこ焼きに手を伸ばす。
山積みになったたこ焼きの隣に、船に小盛りになったたこ焼きに。
いくら健啖家のウマ娘とはいえ、夜食にするには異常な量のたこ焼きを目にハリボテエレジーがやっぱり首をかしげる。今でこそダンボールを外しているが、最近、首を傾げるときの重さで首を痛めているらしい。
「その、気になってたんですけどこのたこ焼きは……?」
「芦毛、夜食、ソースの匂い。分かるやろ」
「……?」
───ドドドド───
「あぁ、来おったで。……会ったこともあるんちゃうか」
───ドドドドドドド───
「な、なんですかこの音」
「はぇ〜。知らないんか? 珍しい。紹介するで、ウチの友人の……」
「タマ!! お腹が空いた!!」
「オグリキャップや」
エンジンを蒸すような音をへその辺りから鳴らし、芦毛のウマ娘が降りてきた。
一度隣を走ったことのあるその顔を思い出したハリボテエレジーは面くらう。
「オグリキャップさん!!」
「……? 初めまして……そんなことよりタマ、これは」
「食え。そこの積んであるの全部オグリンんのや」
「ありがとうタマ!」
ささっとタマモクロスの隣に座り山を消費し始めるオグリキャップを横目に、タマモクロスが苦笑する。
忘れられていたこと───オグリキャップの中のハリボテエレジーはダンボールを被っていた───に少しショックを受けながら、しれっと廊下側に近いこちらではなくわざわざ回り込んでタマモクロスの隣に座ったオグリキャップに視線を移す。
「あの、おぐりん? ってなんですか」
「あだ名」
「オグリン、自己紹介」
「あぁ……もぐもぐもぐ、もぐもぐもぐもぐもぐ、もぐもぐ。ごくん、以上だ、よろしく頼む」
「何言ってるか全然分からへんねん」
「まぁ……大丈夫です、会ったことあるので」
「む……そうか、それは申し訳ない」
記憶に無いことを申し訳なさそうにしてたこ焼きを頬張るオグリキャップ。
彼女が有名だったこともありハリボテエレジーは模擬レースをする前から一方的に彼女を知っていたのだが、こうして会話を交わすのは何気に初めてである。特にレースでは隣を走ったものの一言も話していない。
そんなウマ娘を覚えろというのは、彼女にとっては少し難易度が高い。
「これから覚えてもらえばいいんです! ハリボテエレジーって言います」
「よろしく」
差し出された手を握るオグリキャップ。
ハリボテエレジーにとっての数多ある憧れの一人にちゃんと個人として認識されたことに対して緩む頬を引き締め直し、ハリボテエレジーは前々から気になっている話題を恐る恐る聴くことにした。
「あの……オグリキャップさん」
「……もぐ?」
「引退、は、どうなったんですか」
「ごくん」
「あー……その辺の話は……なぁ……」
「私は……その、たくさんのウマ娘に勇気を貰って、ようやくこの憧れの地へ歩み出すことができたんです。オグリキャップさんもその一人で……。でも、前回の合宿で、オグリキャップさんはとてつもない走りを見せてくれました。非公開の引退理由は、教えてくれないんですか」
「あんな、教えられへんから非公開やねん。そりゃ教えれるんなら教えたいけど、どっから漏れるかわからんし……」
「いいんだタマ」
「……オグリン」
素か演技か、うんざりしたように言うタマモクロスを静止したのはオグリキャップ本人であった。
オグリキャップの中でたくさんある「口に出したいこと」が乱反射し、小さく誓約、と呟く。
「誓約?」
それを聞き逃すハリボテエレジーではなかった。
「どういうことですか」
「タマ」
「守秘義務っちゅうやつやな」
「……そうですか。脚は、大丈夫なんですか?」
「あぁ、この通りだ。まだ全然動くぞ」
その場で立ち上がり足踏みをするオグリキャップ。
どうやら怪我では無いらしい、と安堵した様子を見せるハリボテエレジーに対してタマモクロスは余計なことを漏らさないかと横でハラハラしている。
今まさに現役、花道まっしぐらといったハリボテエレジー。
欲しい情報は山ほどあるのだろうと汲んだ結果、オグリキャップはできる範囲で教えることを選んだ。
「じゃあ……また、一緒に走ってもらえますか?」
「……あぁ、もちろん」
一瞬面食らう。
引退理由を詰められると思っていたからだ。
「……私、は」
「……?」
「私を勇気づけてくれたウマ娘の皆さんと、レースがしたいです」
「ほぉ?」
「オグリキャップさんもタマモクロスさんも、トウカイテイオーにメジロマックイーン。時代を作った名だたるウマ娘と、同じターフに立ちたいって思ったんです。だからトレセンに入学して……だから、引退理由はもちろん気になりますけど、私にとっては走れるかどうかの方が重要なんです。夢は夢のままで終われませんから」
「なんや、えらいワガママな夢やなぁ。待ってろっちゅーことかいな」
「はい」
即答したハリボテエレジーに呆れたような、それでも少し面白そうな目を向けるタマモクロス。
たこ焼きの山はたった今半分が消費された。
もしもハリボテエレジーが無理に引退理由を訊けば、恐らく二人はそのまま帰っていた。
しかし、どうしてかハリボテエレジーの質問を待ってしまうのは……できる限り情報を与えてあげたいと思うのは、レースが好きだからというのに他ないだろう。
「わかった。私は待つ」
「オグリンがそうするのならウチも」
「あっ、ありがとうございます!!」
「そのかわり、ちゃんと強くなって来るんやで。オグリンにはまだまだ足元にも及ばへんからな」
「はい! もちろんです!」
「ごちそうさまでした」
「早ッ!?」
「お粗末様」
「こっちはこっちでノーリアクション!?」
それから三人は夜更かしを続けた。
蹄鉄のこと、芝の調子のこと。膝の関節が重要だという話をすれば、ナーバスなタマモクロスの話。
他愛もない会話の中でさまざまな知識をハリボテエレジーに与える二人は、同時に少し焦っているようにも見えた。
特に、タマモクロスは。
今現在、引退したかどうかも定かではない彼女はライバルとなるかもしれない彼女に知識を与えることを焦っているのだろうか。
それとも、時間の経過でオグリキャップがまた腹をすかせるのを恐れているのかもしれない。
今まで波乱続きだったハリボテエレジーにとって、そんな二人が、とても可笑しく見えた。
自然に笑うことができた。
寮というのも、存外に悪いものじゃないのかも。
と、思うまでには。
だが、嘘は必ず綻ぶ。
小さな油断が命取りである。
「───そんで、ウチはオグリンをも凌ぐ末脚で……っと、なんやもうこんな時間かい。後片付けせな」
「あ、私も……」
「今日は早よ寝とき。明日の筋肉痛が怖いぞぉ〜」
そうだった、とハリボテエレジーは青ざめ、そそくさと歯を磨きにかかる。
カバンの中から歯磨きセットを取り出し、洗面所へ向かった。
シンクの蛇口を捻り、たこ焼きを作るのに使った調理器具を洗い始めたタマモクロス。手慣れた動きでスポンジに洗剤をつけ、油汚れを落としていく。
既にあらかたの消灯はされている寮で時計と換気扇の音、スポンジが金属を擦る音がやたらと大きく響く。
「オグリン」
「なんだタマ」
「もう、夜も遅くなってきよったで」
「そうだな」
「……寝ないんか?」
「なぜだか眠れないんだ」
「腹いっぱい食っておいてよう言うわ」
キュ、と蛇口が締められる。
「まだ悩んどるんか。レースの名前」
「そうだな……一世一代の大仕事だ」
「……皮肉なもんやなぁ。参加できないのに、レースの名前決めろーちゅーても……」
「あぁ……」
乾いた表情を見せる二人。
それを知ってか知らずか、さっと廊下から現れたハリボテエレジーは元気よく就眠の挨拶をした。
「歯磨き終わりました! おやすみなさい!」
「あぁ、よく眠れますように」
「ほなまた明日」
「はい!!」
バクシン的ウマ娘のように元気に階段を上がる音を聴き、苦笑するオグリキャップ。
元気なのは良いことだ、と座り直すタマモクロス。
二人は時計の音を聞きながら、いつまでも口を開くことはなかった。
「すみません空き部屋ってどこかわかりません!!」
「……三階上がって右曲がって端っこの部屋や……」
「ありがとうございます!! おやすみななさい!!」
沈黙は破られた。