担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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山盛りのポテトサラダ

おはようございます!

トレセン学園の校門で大きく、そして元気な声が上がる。

俺はたづなさんの隣で挨拶をしながら、コーヒー缶を呷った。

ハリボテエレジーを寮まで送り届けたあと家に帰った俺は、親父のトレーナー(バイト)の期間が終わったことによる後処理をした。

日付が変わったところでナリタタイシンから久しぶりにゲームのマルチプレイのお誘いを受け、それから二時間ほど勤しんだわけだ。あいつ消灯時間過ぎてるはずなんだけどなぁ。

 

「っあ゛ー……効く……」

「寝不足ですか? トレーナーさん、業務に差し支えるほどの夜更かしは厳禁ですよ」

「すみません、以後気をつけます」

「朝食は摂りましたか? まだでしたら「おはようございまーす!」おはようございます。まだでしたら、このあと私と如何です?」

「ぜひ」

 

どうやらたづなさんのご相伴に預かれるらしい。光栄なことである。

と、前方からぱたぱたとかけてくるダンボールフェイスを発見。

 

「はろーハリボテエレジー」

「ぐっもーにんぐです! トレーナーさん! 昨晩はありがとうございました!」

「いいんだよ、あれくらい」

「服のお代金はまた後のトレーニングの時に払いますね! では!」

「おー」

 

っと、やること完了。

無事にハリボテエレジーが登校しているところを確認できたらそれでいいんだが……ま、朝ごはんにお供すると言ったし、朝の挨拶は手伝いましょうかね。

 

「おはようございます!」

「あいおあよ」

「たづなさんおはよー」

「おはようございます」「俺は?」

「доброе утро」

「おはようございます」

 

あのセグウェイウマ娘、今なんて……?

 

「たづなさん今のわかるの?」

「わかりませんが、ゴールドシップさんは毎日多種多様な言語で朝の挨拶をしてきますので、今日もそうかと」

「な、慣れてる……」

 

ゴルシに慣れ始めたら終わりだぞ。たづなさんは入ってはならない領域へと脚を踏み外しかけている。

その後も次々と門を潜る生徒たちに挨拶をし、時間的にも最後になるであろうウマ娘が校舎へと入ったのを見送った俺たちは食堂へ来ていた。

どうやらたづなさんは来ることを事前に伝えていたようで、本来まだ使われるはずのない食堂のキッチンにおばちゃんが待機していた。

 

「男連れかい。お熱いねぇ」

「ふふふ。ちょっと今日はカッコいい人を連れてきました」

「どうもカッコいい人です」

 

たづなさん流石というかなんというか、やっぱ美人ってそういうののあしらいに慣れてるんだなぁ。

たづなさんはおばちゃんに「いつもの」と伝え席に着く。じゃあ俺は……。

 

「うどんで」

「あいね。待ってな」

「トレーナーさん、こちらへ」

「は〜い」

 

席に着くとやたらとニコニコしているたづなさんが一枚の書類らしきものを取り出した。

目を通すと、俺の教師職の方に用事があるらしい。

曰く、中央のトレセンに地方のウマ娘の代表を、地方のトレセンに中央のウマ娘たちの代表を互いに数人ずつ送り込み、違う場所でのトレーニングや走り込みに慣れろというもの。

既にトレーナーが付いているウマ娘はトレーナーと一緒に地方へ赴くらしい。つまり、ハリボテエレジーが代表に選ばれた場合は俺も一緒に地方へ行く。

 

「なるほど、それで?」

「今回トレーナーさんは、中央に残るか地方へ赴くか選ぶことができます」

「……というと?」

「今のところ、地方へ行けるウマ娘はハリボテエレジー、パクパクムシャー、ミッドナイトモーセ、ギンシャリボーイの四名が上がっています。そのトレセンとは……こちらです」

「……! ここって……」

「はい。トレーナーさんゆかりの地、ですよね?」

「黒歴史なんで掘り返さないで欲しいんですけど」

「いえいえ、実はトレーナーさんが中央に来てから、このトレセンのウマ娘の能力が下がっているように思えるのです。ですから、是非と……考えていたのですが、トレーナーさんは体育を担当する教師も兼ねていることもあり残れます。その場合は、あの子だけ地方へ赴いていただくことになりますが……」

 

あーうんうん。話が見えてきたぞ。

要はどっちにしろトレセンには利益があるから選択の自由をあげるよ、と。

そのかわり、どっちを選んでもウマ娘たちの全体を鍛える役目はしてもらうぞ、と。

ははぁ、ありがたいこってす。

 

「あいよ、いつもの。それとうどん」

「あざます」

「ありがとうございます!」

 

そして目の前に盛られた防護壁かと見間違える量のポテトサラダ。

はいはい、なるほどね? たづなさんは健啖家だったのかぁ。

うどんの出汁の味を確かめながら書類をもう一度流してみてみると、本人の希望があれば他のウマ娘も別の場所へ行けるとか。

えっとそれって、地方のウマ娘たちはほとんどが中央に来るんじゃないのか? だって設備いいし。

 

「オープンキャンパスのようなものなので、もぐもぐ。中央に行きたいと思うウマ娘たちももぐもぐ。やる気がアップするかもしれないとのことですもぐもぐ」

 

あ、出汁うっま。ここのうどんハマりそう。

 

「なるほどなるほど? えー、これ、中央に残った方がウマ娘全体の利益につながるじゃないですか」

「そうですね……そうなってしまうかもしれません」

 

俺に選択の自由があるのはロ()事長の温情といったところだろうか。彼女にはいつもお世話になっている。こんどどこかへ連れて行かねば。ハイエースで*1

俺の実力を買ってくれていると思えば嬉しいのだが、ハリボテエレジーは今は大切な時期だ。他のウマ娘まで一気に面倒を見て、彼女の育成もしっかりできるかと問われればあまり自信がない。

地方へ行った方が良いんだろうなぁ……よし。

 

「地方の方へ行きます」

「……そうですか。少し寂しいですね。えと、それではまた後ほどもぐもぐ、地方研修という形でもぐもぐ、書類をお渡ししますもぐもぐ」

「ずるる……むぐ、はい、わかりました」

 

みるみるうちに減っていくポテトサラダ。

そういえばポテトサラダって家庭で味が違うと言うが、この食堂はどんな味のものを出しているのだろう。

 

「ポテサラ、少し味見させてくださいよ」

「えっ? あ、はい、どうぞ」

 

小皿を渡してくれる。自分で取れと言うことだろうか。

少し箸で山を突いてポテトサラダを分けてもらう。

口に含むと、口内にさわやかな甘味が広がった。

シャクシャクと音が鳴るのは玉ねぎ……いや違う。これリンゴだ。

リンゴが入っているから甘味が強いんだ。

 

「これ美味しいですね」

「そうなんです! ウマ娘用に味を工夫してあるんです! リンゴやにんじんなどをふんだんに使ったメニューで、健康にも良いんですよ!」

「そ、そうですか。ハマってるんですね」

「それはもう!」

 

やけにテンションが高いなぁ……。

しかし、ウマ娘用、ね。ヒト息子である俺が食べても美味しいと感じるのだから食堂のおばちゃんはかなり腕がいい。まぁ知ってたんだけど改めて実感すると言うか……。

ま、甘みだけのポテトサラダってのも珍しくてちょっとびっくりしたけどもね。

 

「…………」

「……? トレーナーさん、どうかしましたか?」

「あぁいえ、ちょっと昔のことを思い出しまして」

「むかしのこと?」

「はい。俺、昔地方のトレセンに住み着いてたんです。行く宛がなくて住み込みで働いてて……それで、たまーに食堂のご飯をウマ娘と食べてたというか……まぁ、このポテサラがすんなり食べれたのもそれのおかげというか。ちょっと懐かしいんですよ」

「では、今回の地方研修は……帰郷になりますね」

「はは、そうかもですね。久しぶりにおばちゃんに殴られてきます」

「ええ……えっとその、楽しんできてくださいね……?」

 

えっと今の年齢が……四捨五入して5年前くらいか?

時代って流れるのが早いもんだねぇ。あ、そうか、メジロの話もあったからそれでか。

はぇ〜すっごい。

 

「ごちそうさまでした」

「早ッ!?」

「あい、お粗末さんだよ」

「こっちはこっちでノーリアクション!?」

 

さっと皿を下げるおばちゃん。手慣れてるけど……普通食器ってこちら側が持っていくもんだよな?

たづなさんは申し訳なさそうにしてるけど料理人が皿を下げにくるって……たづなさん何者なんだ。

 

「気まぐれだよ」

「心を読んだ!?」

「ま、贔屓にしてもらってるからねぇ。今も昔も」

「昔も? 何があったんです?」

「ふふ、秘密です♪」

「そっすか……」

 

そういえば俺、たづなさんのこと何も知らん。いや、同じ職場にいるだけって関係だから別に知る必要とかないんだけども。

でもこう見えて、たづなさんであれ理事長であれ、俺は偉い人となんとな〜く仲の良い気がする。少なくとも、一般人くらいは。メジロのばあちゃん元気かな。

そんなことを考えながらうどんを啜り続け食べ終えた時、俺のスマホに着信が入った。

おばちゃんのところにお盆を持っていきながら片手で確認すると、親父からチョクセンバンチョーの様子を確認して欲しい旨のメールが。

オトン、チョクセンバンチョーと別れてからまだ一週間も経ってないんやで。過保護か。

 

「ごちそうさまでした」

「あいよ」

 

まぁ仕方がない。ウマ娘たちがトレーニングを始める放課後、いたら見てみるか。

……どうせならギンシャリボーイも見ておいた方が良いよな。だったらハリボテエレジーに偵察に行かせた方が良いのだろうか。いや、ハリボテエレジーは大切な時期だしトレーニングを怠ったら……んぁ〜悩みどころだ。

あとはそうそう、ここ最近海外でとっても伸びているとウワサのウマ娘についても知りたい。いつだったか、中央に留学するって話も聞いたしな。

 

確か名前はピンクフェロモン。

 

周りのウマ娘を惹きつける力が強いのだとかなんとか。純粋なスピードやパワーもさることながら技術面も素晴らしいらしい。あと、何故か男性陣に人気とも。なんでだろ。調べてみるかな。

 

「それじゃあご飯も食べましたし、今日もお仕事頑張りましょう!」

「おー!」

「では、私は理事長室へ行きます。地方遠征について不明な点がありましたら」

「らじゃっす! お疲れ様です!」

 

去るたづなさんを見送り、腕時計を確認する。

んー……この時間は職員室で待機かなぁ……暇よなぁ……。

あ、そうだ。この時間ならまだいるはずだ。ちょっかいかけにいこ!!!!

 

まずは自販機でジュースを買い、そこから階段を登って目的の場所へ向かう。

教室からウマ娘たちの賑やかな声が聞こえる。声だけでほんわかしてしまうのはもうこれはしょうがないと思う。

だってさ、年頃の女の子が隣にいつもいるんだよ!?

一人くらい食べても……バレへんか……ってなるの仕方なくない!?

まぁそんな考え持ってる奴は教職につけないんだけども。もしくは、持っているとしても自制心の強い奴。

トレーナーとウマ娘の禁断の愛が炸裂してやむなくトレーナーを退職したやつも()()()()()

つまりはトレセンはオフィスラブ無法地帯ということだ。

 

つい先月も俺の地方トレセンの友達が無事ウマ娘と結婚して退職した。できちゃった婚らしい。

本人には覚えがないと言っていたのでおそらく寝込みを襲われたのだろう。話に聞くと海外に逃亡しても追いつかれできちゃった婚させられたトレーナーもいるとか。

ウマ娘は愛が深い。純粋で素直で、実直で。

だから、吊橋効果のような愛も、親愛としての愛も、全部ひっくるめて「愛」としてしまう。多感な女子生徒にありがちな話。

……だからチーム持てる奴は、相当にデキる奴なのだろう。子供がデキるんじゃなく、実力がよ?

ウマ娘を外の世界から守り、自分自身をウマ娘から守る。担当一人のトレーナーでもかなりキツイのにチームとなるとその量は最低五人。

てかウマ娘五人が全員トレーナーを好きだった場合、人間側に勝ち目無くね? トレーナーがやたらと身体能力が高いのはそう言う理由もあるんだろうな。

 

「きっと多分講習があるんじゃないかなぁ……『ウマ娘から貞操を守る百の方法』みたいないっでぇ!?

 

ぶつぶつ呟いてたら扉にぶつかった。どうやらオートモードで歩いていたために距離感を見誤ったらしい。

痛みよりも先に恥ずかしさを覚えて周りに人がいなかったかキョロキョロと見渡していると、俺がぶつかった扉が開いた。

 

「なんだ今の音は……あっ」

「やあシンボリルドルフ生徒会長。足元が悪い中今日もお疲れ様です」

「……今日は晴天だが……頭大丈夫かい?」

 

それはどっちの意味でだ。

 

「まぁぶつけただけだ、ギリいける。あーんでそんでそうそう、お前に用があったんでした」

「……口調を軽くするのか硬くするのかどちらかにしてくれ。落ち着かん」

「あ、そう? えっとじゃあこっちで。んでえっと……まずはこれ。ジュース」

「その前に入ってくれ。廊下で話すことか?」

「あぁ、たしかに。お邪魔」

 

生徒会室。

ついこの前も、ハリボテエレジーの正体がなんだーとかで来たことのある部屋だ。

高級感のある机やソファ。生徒会ってだけでこんなお高いものが手に入るはずもなしに……おそらく皇帝のネームがあるからなんだろうなぁ。

シンボリルドルフは俺に座るよう促すと自らもその対面に座り、俺の差し出したジュースをティーカップに入れ始めた。

シュワシュワと音がする。炭酸飲料なんですけどそれ。ティーカップにいれるもんじゃなくない?*2

 

「それで、用というのは?」

「えっと……まず確認なんだけど、ピンクフェロモンっていつくるの?」

「……それは……」

「まだそっちに情報が来てないならいいけどさ。たづなさんや理事長よりは楽なんだよな、シンボリルドルフの方が」

「いや、来ている。近いうちピンクフェロモンというウマ娘がジャパンワールドカップの出走条件を満たすために短期で留学に来るそうだ」

「……なんだって? ジャパンワールドカップって言ったか?」

「え? あぁ……そう言えば、ハリボテエレジーはJWCが目標だったな。強敵ができたと言うことだろう」

「まさにその通りなんだよなぁ……。シンボリルドルフ、データ取れない?」

「してやりたいが嫌だ」

「ダメか」

「嫌だ」

 

……ん?

嫌とダメって何が違うん?

 

「両方の立場からしても、ピンクフェロモンについて情報を渡すことはできる。だが、個人的に嫌なんだ」

「俺なんか怒らせちゃったか? ごめんな」

「………………」

「えぇ……」

 

アレか? 付き合いたての女子がよくやる「私は何に怒っているでしょうかクイズ」か?

いやいやいや、違う人間なんだからわかるわけないじゃんか!

っていうかシンボリルドルフって表情とかそこまで変わらない方の人だし、読み取るとか難しくない???

 

と思ったそこの君ィ!

俺の役職をご存知ないか? ……え? 体育教師?

……。いやそれはそうなんだけどさ、なんかあるじゃんこう……ほら! もう一個!

 

「…………スーパーシンキングタイム」

「勝手にするといいさ」

 

そうそれ! トレーナーだね!

ウマ娘のことを知り尽くすトレーナーだね! そんなトレーナーの俺にはシンボリルドルフが何に怒っているのか当てることなんて操作もないことなのだよ! みんなわかったかな?

わかったら、右手を輪っかにして目に当ててみよう! 左手も輪っかにして手首をひっくり返せばスパイダーマンになるから面白いぞ!

 

「……何をしてるんだ?」

 

アカン、俺疲れてるのかも。

……まぁとにかくウマ娘の心情が知りたいならよく観察することが大事だ。

尻尾や耳の動き、目線の揺れ……たまにチラチラこっちを気にしてるな。なんや、見られて恥ずかしいんかワレ。

で、手に入った今のシンボリルドルフの情報を脳内コンピュータで計算し、そこに5を足して6で割って4をかければ……。

 

「嫉妬?」

「ぬっ」

「マジかよ合ってんの?」

「……概ね」

 

ボソッと呟いたシンボリルドルフ。俺すごい。

 

「なるほどね、嫉妬か。かわいいやつだなお前も」

「もう知らないぞ」

「悪かったってほら。はい、おいでよ」

 

両手を広げる。

一瞬反射的にこちらへ来ようとして固まったシンボリルドルフの尻尾が揺れる。

 

「早くしないと、誰かに見つかったら事案になるぞえ?」

「…………」

 

答えは無かった。

*1
事案

*2
皇帝に炭酸を差し入れする男談

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