担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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要秘匿書類:幻のウマ娘

こうするのはいつぶりだろうか。

シンボリルドルフは俺に跨り、俺の方に顎を乗せていた。さながら捕食シーンのようだ。

 

「どうすりゃいい?」

「撫でろ」

 

そういえば、授業でシンボリルドルフが目に見えないような無理をした時を背中をさすってやった気がする。

皇帝たるもの、と頑張る彼女は頼もしくもあるが、同時に少し心配でもあったんだ。

 

「ほい」

 

ぶっ。

顔に尻尾が叩きつけられる。

背中をさすっていると制服越しに硬い何かの感触が伝わるのであんまり意識したくないが、状況が状況だけに見られたらトレーナー引退は確定だろう。

 

「で、ピンクフェロモンってどういうウマ娘なんだ?」

「……詳しいデータはまたまとめて渡すが、勝負服がその……かなり扇情的らしい。男性はその虜になっているそうだが……」

 

あーはいはい。

そんなウマ娘の情報を生徒に聴く教師ってどんなんだって話ね。

 

「何より戦いたくない理由は、体を大きく使ってこちらの視界を埋めてくることらしい。背中に視線を惹きつけられ、気づけばかなり大外を走っていることもあるそうだ」

 

そして当のピンクフェロモンはレーンの近くまで戻って、他のウマ娘との距離を離すってわけか。

というと、先行寄りか。

常にバ群の先頭に付いて視界を奪う必要があるから、序盤に前につかれたら作戦が逃げでも惹きつけられてしまう。厄介なウマ娘だろう。

 

「……それと」

「それと?」

「ニンジャスナイパー、というウマ娘もいる。普段の姿は誰も見たことがなく……というより、隠密が得意で誰も見れないんだそうだ。トレーニング風景も一度も取材を許可したことがないらしい」

「……まさかニンジャスナイパーも」

「ジャパンワールドカップに出場するため、ピンクフェロモンと一緒に日本へやってくる」

「留学の時期は?」

「……すまない、少し待ってくれ」

 

シンボリルドルフは俺から名残惜しそうに離れると机の上にノートパソコンを取り出し、何かを打ち込む。

恐らく時期のことやウマ娘のデータを調べているのだろう。手持ち無沙汰になった俺はティーカップに注がれた炭酸飲料を口に運び、辺りを見渡した。

たまにしか来ることがないからかあるものが珍しく思え、ソファから動かず首だけ動かしていると、ある書物が目に止まった。

乱雑に積まれた本の山、それの隅の方に目立たないように置かれている、小さな本だ。

シンボリルドルフはパソコンに熱中している。

 

「……」

 

席を立ち、その本を手に取る。

古ぼけた緑の紙表紙。ファイルになっているようだ。

表紙をめくってみると……。

 

 

 

 

 

『幻のウマ娘』

 

 

 

 

 

心臓が跳ね上がった。

どうやらさまざまな資料を破いたり集めたりしてつぎはぎに作ったらしい。

 

「…………」

 

もう一度シンボリルドルフを見る。どうやらこちらには気づいていないらしい。

 

 

──────

トキノミノル

身長:当時164cm

体重:不明

スリーサイズ:B83、W63、H84

尚、ウエストは体調によって変わる(後述)

──────

 

 

やはりトキノミノルのことだ。

今まで全く情報がなかったトキノミノルの情報が、こうも簡単に。

 

 

──────

好物はラーメンと餃子だが、レース前は泣く泣くニンジンを食べて生活。レース後の爆食いにより体重とウエストは日々変化し続ける。

新馬、オープン、札幌ステークス、オープン、優勝、朝日盃、オープンにて優勝。その後、皐月賞と日本ダービーでレコード勝ちを残した。

トレーニング中、走るフォームのバランスが悪い。右腕を庇っているような動きアリ。調べる必要有。→右肩、肘などの関節部に裂傷。皐月賞からこのような動きをしていたため、皐月賞で何らかの理由で怪我したと推測。軽い骨折?

目的であるダービー優勝後、入院。

「思い残すことはありませんよ」

と述べる。手術状態不明。回復か?

→完璧なフォームで走り切ることはもう叶わない。本気を出さずとも他のウマ娘よりは早く走れるだろうが、追い抜かしたり全力で走ることは容態の悪化に繋がる。→引退?→引退。

──────

 

 

…………。

そんなことがあったのか。

このファイル、既に書いてあるデータに増筆するように書かれている。恐らく進行形でデータも更新を続け、引退のタイミングでファイリングをやめたのだろう。

そしてこの1ページは恐らく、ゴルシからもらったウマ娘ファイルの破れたページだ。照らし合わせないとわからないが、行の位置からして恐らくそうなのだろう。一体なぜ、こんなところに。

 

 

──────

作戦、逃げ。

一般的には逃げと認識しているが、トレーナーに直接取材すると、逃げが得意というわけではないと言う。理由を問うと、「単純に早すぎるから先を走らせた」と言った。

文句なく速く、強かった。凄いバネとスピード、スタミナが共存していた。

レース人生で生きていれば五冠は夢ではなかったのかもしれない。

スピードに乗るのが早く、トップスピードの維持も他と桁違い。レースにおいて一瞬逃げのウマ娘に前を譲るも、すぐに追いつき追い越し引っこ抜き、他ウマ娘をぶっちぎってゴール。尚、皐月賞の後に調子が悪くなり始めた後も、そうそう負けることはなかった。

──────

 

 

マルゼンスキーと似た印象を見受けられる。確かそんな噂が彼女にもあったはずだ。

ぺら、とページをめくる。ここにもまた、どこかの本から破って来たのであろうページが貼り付けられ、ところどころにメモが書いてあった。

 

 

──────

トレーナーは当時無名で地方上りだったが、都会には無い辺境特有の根性論で育成を開始。

◼️◼️◼️◼️◼️◼️は育成も始めて出会ったために何をしていいか分からず、全てにおいて均等にトキノミノルを育てた。

結果として、スピード、スタミナ、パワー、根性、賢さが均等に育て上げられ、能力評価テストでは最終的に脅威のASS(オールダブルエス)を獲得。どの分野においても、このウマ娘を越えるものはいなくなった。

だがそれがネックとなり、後継を継ぐことが厳しくなる。全ての能力評価テストにおいてSSを叩き出しているトキノミノルは当時のトレーナーの教育方針もあり均等に能力配分がいくようにウマ娘を育てようとし、また、遥か高みからの視点のためにウマ娘の限界を見定めることができず見当違いなアドバイスをすることもあった。→ウマ娘の引退後は自身の経験を生かしてトレーナーに就く者も多いのだが、トキノミノルの場合引退後は少なくともトレーナー職ではないようだ

──────

 

 

オール……ダブルエス。

確か、ある一定の権限を振りかざすことによって、最新技術で能力を数値化することができるって聞いたことがある。

今もトレセン入学時に計測していて素の能力を測っていると聞くが、その情報は厳重に管理され生徒会でもアクセスができないと言われている。もはや都市伝説で、信じているものはいない。

トレーナー職に就く者の妄想だ。ウマ娘のスピードやパワー、それが数値化されたら瞬時に不足分を補うトレーニングメニューに変えることができる。トレーナー垂涎モノ。つまりは「こんなのあったらいいな」で作られた妄想だろう。中には、その数値化された能力を瞳を通してみることができるトレーナーがいる、なんて話もあった。

だが……そのどれもこれも。妄想だと、思っていたのに。

 

 

──────

 

トキノミノルを能力評価テストにおいて上回るウマ娘は、現時点では未だ出て来ていない。

 

──────

 

 

まさか実在していたなんて。

この書物が妄想である可能性は? ……いや、そんなことはない。

噂が出て来たのは少し前だと聞く。このファイルにまとめられている破られたページは、目に見えて古いモノ。

実在するのだろう。きっと。

 

 

──────

取得スキル一覧

・一陣の風

・ハヤテ一文字

・曲線のソムリエ

・逃亡者

・先手必勝

・スプリントターボ

・弧線のプロフェッサー

・全身全霊

・内的体験

・コンセントレーション

・注目の踊り子

・好転一息

・円弧のマエストロ

・不屈の心

・じゃじゃウマ娘

固有スキル

・◼️◼️◼️◼️◼️◼️

・円弧線のプロフェストロ

──────

 

 

……?

なんだこの……これは……?

スキルっていうか……まぁ、スキルっちゃスキルなんだろうけど……これ、色んなトレーナーが編み出した走法とかに名前をつけたやつだよな?

どれも聞いたことがないし……何より多すぎる。こんなに沢山の走法を一人のウマ娘が扱い切れるわけがないし、何よりウマ娘の「固有スキル」なんて世界のどこでも聞かない単語だ。

一つは黒く塗りつぶされてるし。

 

 

──────

スキルの取得においてトキノミノルはこれ以上にない天才性を発揮した。

ありとあらゆる文献を用意すれば、それを瞬時に読み込み自らに組み込み、モノにしてみせた。

本人の意志もあり世界中からスキルを編み出したトレーナーを呼びトキノミノルの指導をさせると、そのどれもを取得することができた。

主に使っていた走法はこれだけだが、実際には逃げ以外にも先行、差し、追込のスキルすらも取得し、どの作戦にも対応できる。

やはり彼女は天才だ。日本のレースを盛り上げるのに必要な存在だ。

一通りスキルの取得が終わると、トレーナーは彼女に休暇を与えた。

見目麗しい彼女が、同じく可憐なウマ娘であるトキノミノルを膝枕する様子は、見ていて微笑ましい。まさにエモーショナル、と言ったところか。……私の語彙ではこれを表せない。もう少し未来なら、もっと表現するに値する言葉が生み出されたのだろうが……。

──────

 

 

このページには、「女トレーナー」「トキノミノル」「著者」が出ている。

前ページの報告書のような書き方から一変して、かなり親しげな様子。色んな文献からページを破いてるから、著者が変わったのか。

 

 

 

──────

レポート

観測対象:トキノミノル

一日目

左腕から血液採取。遺伝子を調べにかけ、トキノミノルを一時的に拘束。

遺伝子から、今までにない見事なまでに純粋な細胞を発見。名前は未明。マウスに投与。破裂。

他のウマ娘の細胞との違いは、圧倒的な遺伝子の強度にあると推察。

子を成せば恐らくまず間違いなくウマ娘が生まれるだろう。

 

二日目

細胞の遺伝子を猿に投与。結果、強靭な肉体や身体能力を持つ代わりに、脊椎が折れやすい体となった。3体の内、1体は死亡。残りは植物状態へと移行。身体能力の上昇は3時間のみであった。

推論》人間と似た骨格が必要であるか、それとも人間にはあって猿にはないものが起因か。セーフティ? 翌日、脳の構造を機械で映す作業を取り付ける。トキノミノルは帰りたそうにしていた。可愛い。

 

三日目

再び摂取した細胞を薄め、猿に投与。一時的なドーピング薬として作用。走力を測定してみたところ、ウマ娘10歳児と同等の速度を出した。測定の途中猿一体が転び、顎を打ちつけて死亡。もう一体は激しい痙攣の末死亡、もう一体は痙攣は治るも足の筋肉に力が入らない症状が発症。

筋力の増強に追いついていける肉体強度が必要と判断。細胞に仮称として「トキノミノル細胞」と名前をつけた。

トキノミノルは恥ずかしそうにしていた。可愛い。

 

四日目

トキノミノル細胞について研究するのを一旦置いておく。今は目の前の時計に取り掛からねば。

それはそうとトキノミノルと今度お茶しにいく約束を取り付けられた。嬉しい。

 

五日目

 

 

 

──────

 

 

あ〜〜〜ん〜〜〜え〜〜〜?

なんかSFチックな香りがほのかにして来たぞぉ〜???

なんかこの感じから察するにトキノミノルはウマ娘としての本質が高いってことか?

五日目からがないけど、24時間のうちにここまで調べるなんてすげえな。どこの研究所だよ。アンブレラか?

てかこの人相当なトキノミノルのファンじゃねえか。

 

「トレーナー君」

「ぴぇ!?」

「て、テイオーのような声を出して……どうした?」

「あ、いや、なんでもない!」

 

ファイルをぶん投げる。

シンボリルドルフが俺の手元を覗き込むが、そこにあった山を見て苦笑いした。

 

「散らかっていてすまない。エアグルーヴが持ってきた資料を読んでいたんだ」

 

……ナリタブライアンが散らかしたんだろうな。もしくはトウカイテイオー。うん、トウカイテイオーの方がありえるわ。「なにこれ読めないつまんないよぉ〜!」って。

いや大丈夫、と呟いてその場から立つと軽い立ちくらみがしてふらつく。

横からシンボリルドルフが支えてくれ、ソファに座らせてくれてやっぱフッカフカやなこのソファ!!!!

 

「それで……ニンジャスナイパーについては?」

「トレーナー君の地方研修の後だ。帰ってきて一週間ほどしたら飛行機でこちらへやってくる」

「うーっわ仕事増えたもしかして?」

「トレーナー君は体育教師だからな。他国に我がトレセン学園の実力を舐めて貰っては困る。トレセン学園の名に恥じない指導を期待しているぞ」

「俺、教師やめよっかな」

「とんでもないなんてことを言うんだ!」

 

ガタッと立ち上がったシンボリルドルフは顔を赤くしてもう一度座る。

俺もなんとなくソファに座り直してフッカフカやなこのソファ!!!!

 

「私はまだトレーナー君の顔を見ていたい。教師を辞めてしまえば、会える時間は少なくなるだろう?」

「そうやって誰彼構わず口説き落とそうとするところ、シリウスシンボリに似てるよ」

「…………別に、誰彼構わずというわけではないのだがな」

 

シンボリルドルフはポケットから何かを取り出し、それを自分の制服にくっつけた。

それは、金色に輝く獅子。

大きく口を開け、獲物を食い破らんとする獣だった。

 

「私は君を待っている」

「…………」

「私は選ばれたことを誇っている」

「……ウマ娘ってのは、どうしてこうも執着が強いのかね」

「平生のものでな。あのメジロでさえも手に入れることのなかったこの輝きを、私は誇りに思っているよ」

 

愛おしそうに胸のバッジを撫でるシンボリルドルフ。

 

「ナリタタイシンにも伝えておく」

「なんて?」

「時はくる、と」

「確定かぁ」

「恐らく君は……あと少しで、謎が解ける状態なんじゃないのか?」

 

俺の目をじっくりと見つめ、見通そうとしてくるシンボリルドルフ。

謎って言われてもな。あっちも謎こっちも謎で、どれから手をつければいいのやら。

 

「楽しみにしているよ、名探偵」

「……要件は済んだから俺は戻るぞ。シンボリルドルフ、邪魔したな」

「またいつでも来てくれ。喜んでもてなそう」

 

俺は生徒会室から出て扉を閉め、親指の爪を噛んだ。

あのファイルを、持っていけなかったのだ。

好奇心は人を殺す、と聞いたことがある。だが、事故とはいえ乗り掛かってしまった船から降りるのはなんとなく気分が悪い。

秘匿要項と書かれていたし、次の頃には無くなっているんじゃないか?

いや、普通にシンボリルドルフに持ってくるように頼めば……でもあの子今シットリルドルフ状態だしなぁ……。

 

「あぁ、先生」

「はい?」

「今日ちょっと、わたしが……腰が悪くてねぇ」

 

化学の教師であるお爺さんが腰をさすっている。

 

「大丈夫すか」

「ちょっと今日、病院に行こうと思ってね。けど、見回りがあるんだよ。代わってくれないかい?」

「えぇ全然大丈夫っす! いつもお世話になってますから!」

「すまんね、次に君が見回りの時は代わるからね」

 

……この際だ、残業してでもいいからシンボリルドルフが帰ったら見回りと称して侵入してしまうか。

俺は見回り当番の掲示に書かれていた文字をに赤い水性ペンで線を引き、俺の名前を入れた。




スーホと白いウマ娘、プロット出来上がりました。誠意執筆中ですのでお楽しみに。
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