担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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ラテン語における『小さな王』

チームレグルス。

 

『任せな! このチームレグルスのトレーナーがお前を次元の向こうまで吹っ飛ばしてやるぜ!』

 

トレーナーさんが、ぼそっと言っていた名前。

 

「いえ……知りません」

「そうですか。知らされていないということはそれなりの事情があるのだと思いますが……言っても良いものか……」

「トレーナーさん、私になにも話してくれないんです。聞かせてください」

「……わかりました」

 

ドクンドクンと、心臓が脈打つ。

きっかけはほんの些細なことで、私がずっと気掛かりに思っていたことが判ってしまう。

 

「チームレグルスとは、日本で最もウマ娘の実力を引き出したチームです」

「…………」

「その強さは他のウマ娘と桁違い。分散、そしてレグルスに入れなかったウマ娘たちの実力向上を目的に、唯一謙部が認められたチームです。ルドルフ生徒会長は我らがリギルに。ナイスネイチャさんやゴールドシップさんも別のチームへ。かのメジロマックイーンさんまでも、レグルスのウマ娘でありがなら他のチームへ謙部という形で貸し出されています」

「そう、だったんですね」

「地方で生まれた弱小チームはその後、対抗戦にて負けなしを誇り、中央(トゥインクル)へ移りました」

 

だったら、なぜ。

なぜ、このトレセンに来た時に、チーム勧誘の広告などがなかったのだろう。

そんな噂、聞いたこともなかった。他の先生も話さなかったし、色んなレース状でトレーナーさんを見た人もいるはずだ。

なのに、誰も言わない、広めないのはどうして?

 

「聞きたいことは……判っています」

「……はい」

「なぜそこまで強いと謳われたチームが、今では噂を聞かないくらいに知名度が低くなってしまったのか」

「その通りです」

「理由は諸説あります。ですが、一説には……何かしらの問題を起こしたために、トレーナーがチームとしての活動をやめたからというのがあります。これが、もっとも有力でしょう」

「何かしらの、問題」

「そこまでは判りません。私も先輩から話を聞いただけなので……ですが……これもまた噂なのですが……」

「教えて、ください」

「とあるウマ娘をの選手生命を見誤り、使い物にならなくしてしまったとか」

 

一切の音が聞こえなくなって気がした。

もしも真実なら、ウマ娘が大好きであるトレーナーさんにとっては相当なショック。

一体誰のことだろう。

シンボリルドルフさん? オグリキャップさん? 多分、違うはず。

 

歴史の闇の中に放り込まれたウマ娘がいるはずなんだ。

だけどそれを、誰も知らない。

 

「トキノミノル……?」

「『幻のウマ娘』ですか。いえ、それはないでしょう。もしそうなら、あのトレーナーさんは今中高年ですよ」

「そうですか……」

「そのウマ娘は、白い髪の毛をしていたと聞きます」

 

芦毛ってことかな。

ただでさえ数が少ない芦毛のウマ娘の中からそのウマ娘を見つけるのは厳しい。

やっぱり、詮索すべきではないのかな……。

 

「私が知るのはここまでです。あのトレーナーさんは……正直、私でも指導のおこぼれをお願いしたいくらい成績の良いトレーナーです。しかし現在はチームの募集を行なっていないために……あの人の姿を見た時はびっくりしましたよ」

「そうなんですか……」

「とは言えど、先輩が言っていただけなので誇張もあるかと思いますが……。あぁ、それと、テッペンカイザーってウマ娘があなたのことを探していました。私と喋り方がなんとなく似てて面白かったです」

 

テッペンカイザーちゃん。

 

『私、メイクデビューでそんなふざけた人と走るつもりありませんから』

 

あぁ〜なんとなく似てるぅ〜。

しかし、呼んでるってなんだろ。今どこにいるかな、元気かな。

 

「……と、時間がそろそろですね。どうですか、役に立ちましたか?」

「はい……。ありがとうございます。トレーナーさんにも聞いてみることにします」

「あまり気負わないようにしてくださいね」

 

そういって、名も知らないウマ娘さんはトレーニングに戻って行った。

東条トレーナーも長話に理解を示してくれたので、別段怒られたりはしなかった。むしろこちらのことをよく考えて、優しい声を出してくれた。

いやまぁ、それでもトレーニングはトレーナーさんより数倍キツいんだけど……ね。

 

 

 

 

時刻は放課後、ウマ娘さんたちが各々寮へと帰ろうとする時間。

この時期になって少し冷えた校門に背中を預けた私の目の前に、一人のウマ娘が現れた。

 

「……あっ」

「待ってたよぅ、カイザーちゃん」

「私もあなたを探していましたよ。ここ最近、姿をテレビで見かけることが多いですから。『奇抜なトップスター』のアドバイスを仰ごうかと思いまして」

「その通り名まだ流れちゃってるの!?」

「もう呼んでいるのもほとんど私だけです」

 

なんだか懐かしい。

最初の頃のちょっと厳しい印象がなんとなく丸くなって、くすって笑う顔がとっても可愛い女の子になった。

 

「調子はどう?」

「どう、ですか。……そうですね、悪くはないですが、少し伸び悩んでいるかもしれません」

「そっかぁ……。問題点とかはわかってるの?」

「ええ、もちろん。あなたに負けて以降、私はあなたを越えられるように頑張ってきましたから」

「そっか!」

「……エレジーさんは、地方へ行くんですよね」

 

耳を垂れさせたテッペンカイザーちゃん。

その瞳は……なにか薄暗くて重たいものが詰まっているような色だった。

 

「う、うん……」

「地方へ行けるのは、ここから先、URAの界隈を盛り上げると噂されているウマ娘だけ……」

「……そうだったんだ?」

「他の地方トレセンにも……私は選ばれませんでした」

 

…………。

 

「どうすればいいでしょうか。私は今とても悔しいです。どれだけ頑張ってもあなたは……どんどん差を広げて前を行ってしまう。どうしたら、あなたに追いつけますか? 私にはそれがわかりません……」

「…………」

「私はレースの才能が無いんです。成績も悪い。どちらかを取ろうとするとどちらも取れなくなってしまう。……ふふ、ジレンマというものでしょうか」

「……えっと……」

「すみません、こんな話がしたかったわけじゃ無いんです。でも、なぜだかあなたを見てると……もう敵わないような気がして……私って、噛ませ犬なんでしょうか」

 

全身から辛いって気持ちが溢れてくる。

足取りは重く、表情は暗い。

 

「カイザーちゃん」

「なんですッ、うわぁ!?」

 

ハグした。

顔面に直方体が迫ってきてたぶんすっごく驚いたと思う。ごめんね。

だってこんなにも、心臓がドクンドクン言ってる。えっ、これやばくない? この心音やばくない? 心臓大丈夫?

 

「び、びっくりしました……」

「……ごめんね。でも……その。カイザーちゃんがあのとき私に喝を入れてくれなかったら、多分……私は『これでいっか』で走ることになってたと思う」

「あのとき?」

「メイクデビューの前。ダンスの練習をしたのをテイオーさんに教えてもらってたでしょ? その時に喝を入れられて、私は……手を抜いていいことなんて何一つないって、判ったんだ」

「……あぁ」

「カイザーちゃんがいなかったら、私はいないよ」

「……そう、ですか……」

「だから、今度は私が喝を入れるね」

 

カイザーちゃんから一定の距離を取る。

少し緊張した様子で私を見つめるテッペンカイザーちゃんに向けて、私は息を吸った。

 

「四の五の言わずに走りなさいッ!!」

「……ぇ?」

「私はあなたと走りたい! 二度と忘れることのない走りを!」

「だって……」

「私と共に、走ってください! 私と、JWCでッ!!」

「……そんな……」

「まだ……まだ、レースは終わってないんです! 結果が出てないのに諦めて、それでもウマ娘ですか!!」

「……J、WC……」

 

少しくぐもった、私の声。

それでも、届いたと思う。

テッペンカイザーちゃんは、そういう子だ。

 

「私が憧れたウマ娘は……そう簡単に、レースを諦めたりしません」

「…………ふふっ。ばか、ですね……! JWCに路線を変えるとしたら、私は……これからどれだけ走らなければならないんですか……!」

「それでもまだ、申請に時間はあるから」

「……もう……もうっ! そんなことを言われて、すぐに頷けるわけがないじゃないですか……!!」

「でも、できるでしょ?」

「……はい。 たとえこの身が悪魔に堕ちようと、どんな手を使ってもJWCに出ます」

「ありがとっ!」

「恐ろしいことを言いますね……。人生が一気に変わってしまいました。責任とってくださいね?」

「えっ!? け、結婚……!?」

「やぶさかではないです」

「!?」

 

してやったと言わんばかりに、いたずらっぽく笑うテッペンカイザーちゃん。

いつものクールな表情を崩して浮かべたその笑顔は、なんだかとっても魅力的に思えた。

……でも、なんだか嬉しい。

 

この私が、人に影響を与えることのできるウマ娘になるなんて。

 

……なんて、ちょっと変なことを考えてみたりして。

あぁ。今日はなんだか……星がすごく綺麗。

 

 

 

 

 

背骨の辺りがちょっと、痛いくらいに。

 

 

 

 

 

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