担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
さ、三周! ゴールっ!!
つ、疲れた……!
「エレジーすごい! 速くなってるよ!」
「へ、へへ……」
先にゴールしていたトウカイテイオーさんが歓声を上げる。
追えているわけでも無ければ、短距離でも敵わない。けど、タイムだけ見てみれば確実に上がっている。
実感できると嬉しくなっちゃうな。
「エレジーはぽてんしゃる……? がすごいよ! まだトレーニング始めて少ししか経ってないのに……」
「えへへ……でも、トウカイテイオーさんには敵わないですよ。最終直線のあの加速……すっごく……華麗? な足取りで……」
「そ、そう言われると照れちゃうなァ……あれは……必殺技? みたいなヤツで、ここぞと言うときに追い抜かせるように温存してた力を使うんだ!」
お、温存……あれで。
「テイオーステップのコツなら教えられるけど、やってみる?」
「テイオーステップ……?」
「見ててね、行くよ〜。こう!」
……。
なんだかぴょこぴょことして可愛らしい動き。
いや、そうじゃなくて。
見極めるんだ。このステップが、なんの役に立つかを……。
「……はい、おしまい!」
「なにも分かりませんでしたぁ……」
「えぇー!」
恐らくこれはルーティンとかじゃないかな。
レースに活かせるかと言われたらあれだけど、つま先を伸ばしつつ歩くトウカイテイオーさん独特のウォームアップは、その体の柔らかさから来ているんじゃないか。そんなことくらい?
「もっと色んな人の必殺技……奥義を見て学ばないと。トウカイテイオーさんが自分の柔らかさを活かす奥義を持ってるってことは、他のウマ娘もそれぞれ自分の個性を伸ばす奥義を持ってるはず……」
「ど、どしたのエレジー? なんか、怖いよ?」
「あっ、すみませ、へへ……。でも参考になりました! ありがとうございます!」
「いいんだよ! これからも頼ってくれたまえ!!」
そして、今日のところはトレーニング終了。
奥義、奥義……技術向上かぁ……。
この先、名だたるウマ娘たちと肩を並べて走るには、何かしら秘策、必殺技が必要だと、私でも思う。
得意を伸ばすのが奥義。
じゃあ、私に場合は? スタート時の瞬発力?
いや、今のところ脚質は追込だから、最初から飛ばすとスタミナがなくなっちゃう。
「どしたのエレジー? 行かないの?」
「ちょっと一人で考えてみたくって」
「そっか。じゃあ、先に着替えて待ってるねぃ!!」
トウカイテイオーさんを見送りつつ、靴紐を結び直して足を早めてみる。
軽めのランニングをしながらの方が、頭の回転が良くなるってテレビで言ってたもん。
トウカイテイオーさんはパワータイプで、もちろんスピードもすごく強い。模範的な先行型って感じ。
そんなトウカイテイオーさんを抜かすには……やはり追い込み。最終コーナーを曲がったその直後、加速力と瞬発力で一気にごぼう抜き。
これだ。むしろ、これしかない。
私は最終コーナーで減速してしまうから、抜けた直後、思い切り踏み込んで……。
「今ッ!!」
根性燃やして、突っ走る!
───[優勝トロフィー作成キット]───
は、速い!!
自分でも意味わかんないくらいに加速力がついてる!
こんなの序盤に使ったらコーナー曲がれずに大転倒、骨折もありえちゃうかも!!
これが、これがトウカイテイオーさんの見ていた世界……
「ゴールッ……とと、とっ、わぁ!」
す、スピードが制御できなくて転んじゃった……レースで使うにはクセがあるなぁ……。
でも、なんとなく感覚は掴めた気がする。
スピードを全身で感じるあの世界を、ようやく私も感じれた。
私だって、普通のウマ娘と同じ世界に立てた!!
「ふふっ、はははっ」
どうしてか、笑いが込み上げてきちゃう。
全然勝てないのに。悔しいって思う度、色んなことに度肝を抜かれる。
私がどれだけ未熟なのか、いつもわからせられてきた。……それなのに。
「私にも、できた」
夢だと思っていた細い道が、広がっていくのが見えた。
「私にも、走れた!!」
やった。
やった、やった。
私はハリボテエレジー。
脚質は追込、直線加速力で全てを置いてきぼりにする、いずれ世界最速となるウマ娘だ。
私は……私は!!
「もしかしたら、勝てるかもしれない……!」
今一番アツい、波に乗ってるウマ娘だぁ!!!!
◇
「遅い」
「ごめんなさい」
芝から帰るときには夕暮れだった。
着替え終わった頃には完全に夜となり、トウカイテイオーさんは不機嫌そうな顔をして更衣室の前で立っていた。
「まったくもう。……で、どうだったのさ」
「はい?」
「何か収穫はあったの?」
「収穫……はい。とっても」
「……そっか。ならいいや。今度見せてよ、その収穫」
トウカイテイオーさんが笑って許してくれる。
少し申し訳なさを感じつつも、今度あの追込を見せるにはどうしたらいいか、最終コーナーまでスタミナが持つか……なんてことを考えてしまう。
トウカイテイオーさんって少し子供っぽいけど、走ることとなると誰よりも考えてるんだなぁ。
人一倍努力して、結果、一着をほしいままにしていく。
いいなぁ。私も、そんな風になりたい。
トウカイテイオーさんの話はなぜか走りからこの学園のウマ娘のこと(私はまだ会ったことないウマ娘)へとシフトしていた。
この子がああしていた、なんでトレセン学園のウマ娘はこんなにも個性が強いのか、と。
いやあ、ははは。トウカイテイオーさんもかなり強い個性あるよって言ったら怒られるかな。
「でさ、そのあとどこからともなくゴルシがやってきて……ってあれ? あそこにいるの、トレーナーじゃない?」
「え? どこですか?」
「ほら、あっちの……」
「本当ですね。あっ、こっちに歩いて来ますよ」
トレーナーさんがゆっくりと歩いている。
風に当たるようにしている姿は少しミドルな感じだけど……かなりの童顔だから似合わない感というかなんというか。
あっトウカイテイオーさんがいない。先に行っちゃった。
「トレーナー!」
「っ……ああ、トウカイテイオーか。今帰り?」
「うん! トレーナー、カイチョーと話してたんでしょ? どんな話? ねぇ、どんな話したの?」
「えっとそれはちょっと……っと、ハリボテエレジー。そっか、一緒に付けたトウカイテイオーがいるんだからハリボテエレジーもいるよなそりゃ」
はい、と返事をしようとしたのだけれど。
なんだか、トレーナーさんの視線がいつもより鋭い気がする。
こう、怯えている猫のような……。
「トレーナーさん、何かあったんですか?」
「え?」
「いえ、だいぶその……お疲れみたいですから……」
「いやぁ、そんなこたぁねえやい。俺はいつも通りだ」
なるほど、嘘だ。
なんだろう、シンボリルドルフさんに何か言われたのかな。
えっ、もしかして、引退!? なんで!?
「トレーナー、結局なにを話したの?」
「ええ……ああその……ちょっと……おおっぴらには言えないんだ」
絶対引退だ!!
確定しちゃった!
「そんな……どういうことですか! 私が何かしましたか!?」
「いや、お前は何もしてない、変に勘繰るのはやめてくれ」
ど、どうしよう、トレーナーさんが引退しちゃう!
え、これってまずどうしたらいいの? 生徒会長さんに反対を示すとか?
契約的に私のトレーナーは最後まで続けるんだろうけどなんだろうその、体育教師みたいで生徒から人気があったあのトレーナーさんがなんで……えっ痴情のもつれ!? トレーナーさん浮気したの!?
いっつも面倒を見てくれるイケメントレーナーが沢山のウマ娘を手にかけて……ありえない話じゃない!!
えっ、キャー!キャー! これどうしたらいいの! きゃー!!
「トレーナーさん、今すぐ謝りましょう!! 今ならその、何とかなるはずです!」
「……あン? なんの話だぁ?」
「二股……ですよね?」
「エェッ!? トレーナーウワキシタノ!?」
「ちゃうわッ! いや、『じゃあなんですか』と問われるとちょっと言いづらいけども!」
「やっぱり浮気じゃないですか! かーっ、卑しか男ばい!! 見んねトウカイテイオーさん! 卑しか男ばい!!」
「最低!!」
「思い待て、何か誤解が……今後の信用問題に大きく関わる誤解が……!」
トウカイテイオーさんと目を合わせ、二人で一斉に背を向ける。
「ちょ、ちょっと待て。おいトウカイテイオー、なぜ離れる? ハリボテエレジー、どうして何も言わないんだ? なぁ、この空気はもしかしてアレなのか? なぁ……」
「「トレーナーの、浮気男ー!!」」
「やっぱりかよぉぉぉおおお!!」
ダッシュで逃げる私たちを、トレーナーさんは悲痛な面持ちで見ていた。
ような気がする。えへへ。