担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
ぶらりちゃんと最後まで乗って下車する旅〜利呼村〜
ガタガタゴットンズッタンズタン。
ガタガタゴットンズッタンズタン。
物理学者が生み出した現代の移動手段シンカン=センは我々を乗せてどこへゆく、と。
目的地は俺の故郷でもあり今回の地方研修……いわゆる遠征の舞台、
林檎が名産で、ウマ娘のトレセンも……規模こそ小さいがあるにはある。なんならトレセンのグラウンドは地元の小学校の運動会の会場になったりするほどだ。あとはなんか、定年のおっさんたちがタバコふかしつつうら若き乙女の走りをぐで〜っと見ている。
「長旅です! 利呼市、楽しみですねぇ!」
「お腹空きました〜……あっ、にんじんハンバーグ弁当ください〜!」
「じゃあ僕も同じものを」
「アタシ、ここにいていいのかい……?」
女三人……いや、四人集まれば姦しい。
俺の前の席では遠征メンバーに選ばれた四人が車内販売の駅弁を買っていた。
え? あぁ、俺すか? じゃあ生姜焼き弁当で。
時刻は12時ちょっと。窓の外を見ると、緑に覆われた山々が広がっている。
「デザートとして、クッキー作ってきたよ……」
「えぇっ!? モーセさんはお菓子が作れるんですかぁ!?」
「トレーナーさん仕込みだけどね……!」
きゃーきゃー言ってる。楽しそうだなぁ……。
俺はといえば、ギンシャリボーイ、パクパクムシャー、ミッドナイトモーセのトレーナーからもらった各トレーニングについての資料を読んでいた。
仮にも体育教師として地方へ、将来有望なウマ娘たちの面倒をみる役に選ばれたのだ。手抜きは許されん。
他の地方研修には武功を挙げたトレーナーが向かっているらしいが、ウマ娘の期待度は俺のとこがぶっちぎりだそうな。
後日、様子見という形でそれぞれのトレーナーがやってくるらしいが、まぁ……って感じ。ギンシャリボーイのトレーナーはリギルのサブトレーナーを務めていただけあってかなり几帳面だし、組んであるメニューも精密。ほぼ必ず、一回は顔を出すだろう。
ミッドナイトモーセはやはり併走をメインとして、他ウマ娘の邪魔をするようなスキルを磨くトレーニングが多い。噂によると、ミッドナイトモーセのトレーナーはめちゃくちゃ怪しいお婆さんだとか。担当にクッキーの作り方教えてる時点で優しいことは確定してるけどね。
……そんで、なにより一番実力が伸びてるのはパクパクムシャー。体の成長が凄まじく、身長や脚力の伸びがここ最近止まらないらしい。
「『本格化』……」
「? トレーナーさん、何か言いましたか?」
「んあっ? いや、独り言だ。気にするな」
「そうですか? はぁい」
ウマ娘を更なる段階へと進め、競技者として身体がピークを迎える『本格化』。
メイショウドトウは本格化前にデビューしたために体力に制限がうんぬんカンヌン、とは聞いたことがある。
恐らくギンシャリボーイは本格化を迎えている。故に強い。チョクセンバンチョーも先日、
ページをめくり、パクパクムシャーのトレーニングメニューを見つめる。
メイショウドトウのトレーニングを参考にしているのか、バランスが取れている。中に「ご飯我慢トレーニング」というのがあるのはとても気になるが。
このデータはとても貴重だ。体育教師として外部に漏らすようなことは絶対しないが、私的に参考にさせてはもらおう。ぐへへへへ。
「トレーナーさん、これどうぞ……」
「ん? いいのかモーセ」
「うん。よろしくね」
可愛いやんけ!
差し出された綺麗な円形のクッキーを受け取り、口に放る。
バターの香りが広がり、歯で潰せばサクポリと小気味良い音を立てた。
「うまい!」
「へへ、ありがとうございます……」
「しっかしなんだな、モーセは料理上手なんだな。性格悪い走りしてくるし、意外かも」
「あっ、それ私も気になってましたぁ〜。モーセさん、なんだか壺で薬を混ぜているイメージありますぅ」
「実際にはボウルでメレンゲ混ぜてるんだけどね……。んま、性格悪い走りなのは認めるよ。アタシはもともと脚が弱いから、ああやって周りにデバフをかけないと勝てないんだよ……」
「脚弱いんですか? なんだかシンパシー感じちゃうかも」
お? ミッドナイトモーセは脚が弱いのか?
あぁ、だから勝負服もあんな亡霊みたいなものにして、脚が見えないようにしてあるんだな。
「昔、折っちゃったことがあって……。以来トラウマで、全力を出したことはないかなぁ……」
「わかります! 骨ってよく折れますよね!」
「……………………よくは……折れないと思う……」
「!?」
なるほど、ミッドナイトモーセはまだ全力ではない、と。
脚が弱いといえばトウカイテイオーが有名だがトウカイテイオーはそれをカバーするだけの実力がある。というより、体の柔らかさを活かして走ろうとした場合に体に負荷がかかるって話らしいから、別段負荷かけなくても走れるんだよな。
だが、ミッドナイトモーセはそうじゃない、と。カバーできる実力も無ければ、ただ走るだけでダメージを負うボディ。
そんなハンデを背負って生きてきたのか。根性あるじゃん。今度レース見に行こう。
「だが、その調子ではレースに勝ち続けることは難しいだろう。生まれつき脚が弱いのなら、ダメージを軽減させる走法を探してみたらどうだ」
「探してはいるんだけどね……。まぁ、この走り方は誰にも真似できないよ。あの人の家の倉庫にあった、門外不出の走りだからね……」
門外不出の走り?
耳を惹く単語にその場の全員がミッドナイトモーセを見る。
「それは、どういうことだい?」
ギンシャリボーイが訊いた。
「西洋の走りを基にした、えっと……『最も最速に近い走り』だとかなんとか」
「へぇ……どんなのだい?」
「教えないよ、門外不出だからね」
ふむ。ウマ娘達のレースの原型はさまざまな説がある。
大昔、郵便屋をやっていたウマ娘たちが山道で競争するようになったとか。
戦争の時に徴兵されたウマ娘が、余興としてやり始めたとか。
とにかくレースの歴史は深い。その中の一つにその門外不出の走りがあるのだとすれば、別段納得がいかない話でもない。
現に、ウマ娘の中には歴史を紐解き、過去のウマ娘のフォームを基にしたウマ娘も多い。槍を構えるような構えで突撃するウマ娘もいた。多分、そういうことだ。
そんでもって、最も最速に近い走り、ね。
最速というのは著者によって捉え方が分かれる。
レースで最速? 加速が最速? もしくはそのウマ娘が本来出せる最大限のスピードを生み出すという意味かもしれない。
だがそれは……既にその秘術の走りを使っているということは、ミッドナイトモーセはもう、限界が近いということだ。
「興味深いなぁ。どうしても教えてくれないのかい?」
「教えないよ」
「……ふ〜ん」
ギンシャリボーイが食い下がる。
ギンシャリボーイの欄は……ん、最近伸び悩んでいる? なるほど、だから門外不出の走法とやらに興味を示したのか。
どちらかというと、ギンシャリボーイはステータスより技の多さで勝負したほうがいいと思う。俺の勘だが。
というよりも、もう既にいくつもの技を持っていて、色んな走り方に合わせようとしているような……? いや、それもまた違う。なんだこの違和感。
そう、ギンシャリボーイといえば気になることがある。
「……? どうしたんだい。僕の顔に何かついてる?」
「あぁ、いや……」
さっきから存在感が無いというか……影を感じないというか……なんだろう、景色に溶け込んでいる気がする。
正確には、俺たちの行動を絶妙なまでに把握して、俺たちの意識に入らないように合わせているような……?
さっきもひょっこりと現れたし、話に入ってきたギンシャリボーイに対してミッドナイトモーセも特別違和感を感じてなかった。単に親交が深いだけなのかもしれないが、なんとなく……ただなんとなく違うんじゃないかと思う。
「ふ〜ん」
それと、こちらを良く観察するようになった。悪い言い方をすれば、値踏みするような視線が多くなった。
「何か考えてるな?」
「え? まぁ、いっつも何かしらは考えているよ。たとえば、エレジーのダンボールをどうやって取ろうか、とか」
「えぇっ!? は、外しませんよ!?」
「知ってる」
「……もう!」
うんうん、ハリボテエレジーもちゃんと馴染めてるようで何よりだ。最初は生まれたての子鹿のようにプルプルしてたもんなぁ。
ハリボテエレジーはやることが奇想天外すぎてちょっと敬遠されてる感もあるし、仲のいい子が居て良かっ…………。
「………………」
ギンシャリボーイから、意識を外された。
俺が丁度、ハリボテエレジーのことを振り返ろうとしているタイミングで。
ここでミッドナイトモーセやパクパクムシャーへ注意を流されていても、「まぁさっき振り返ったしな」で済んじゃう……。
間違いなく育っている。技の精度というか……なにかしらが。
『次は利呼駅。利呼駅です。お降りの方は忘れ物にご注意ください』
「あ、そろそろ着くよ。エレジー、荷物を取ってくれないかい?」
「あ、はい、これでしたよね」
「それはアタシのリュックだねぇ」
「てへ!」
まあいいか。
どうせ密着取材みたいな感じでトレーニングするんだし、隠し通すのは難しいだろう。
ひとまず置いておいて、今は遠征を楽しもう。最も、俺は仕事だが。
ついに新幹線は、駅へと到着した。
「お前ら、忘れ物はないか? ここからバスでトレセン前まで行く。やりたいこと、揃えたいもの諸々は今ここでやった方がいいぞ」
「お茶買ってきても良いですか?」
「おう、買ってこい」
凝った首をぐりぐりほぐしながら、俺たちは新幹線から降りる。
長時間座っていたために少しふらついたが、しっかりと地面に立つことができた。
「……さて」
「わあ!」
「ほう」
「おお……」
「ひゃぁ……!」
三者……いや、四者四様。
市街地やらなにやらよりも少し高い位置に立てられている駅からは、下の景色───利呼村を一望できる。
「ここが利呼村だ」
「素敵ですぅ」
「名産はりんごだ」
「もっと素敵ですぅ!」
パクパクムシャーが土産屋に突っ込むのを追いかけハリボテエレジーもお茶を買いに行く。
ミッドナイトモーセはトイレに行った。
「……まさか帰ってくることになるとは……」
「良いところだね」
懐かしい景色を眺めている俺の横にギンシャリボーイが立ち、同じように下の景色を眺める。
「だろう? あそこに見えるのがここのトレセンだぞ」
「なるほど。……少し小さいような?」
「地方のものにしては大きい方だ。中央のトレセンがデカすぎるんだよなぁ。水泳設備も整ってるし、芝は手入れの人が定期的に来るし。どれだけお金をかければあんな良い設備が手に入るんだか……」
「つまり、あそこは水泳設備はそこそこで芝は手入れの人が来ないんだね?」
「惜しい。水泳設備はそもそも無い。市営プールまで行ってトレーニングするぞ」
「惜しかったか……」
わざとらしく頭を抱えるギンシャリボーイ。なんだかテイエムオペラオーじみている。
「…………面白そうだ」
そして、その両手の間から、鋭い眼光を飛ばす。
温厚なギンシャリボーイの中に燃えている闘志がありありと見てとれた。
間違いない。ギンシャリボーイはここで仕上げようとしている。
これは負けてられないな。
「お待たせしました!」
「んまんま」
「え、もう食べてるのかい?」
「…………」
「トレーナーさん、どうかしましたか?」
……いや。
「なんでもないさ。行こうハリボテエレジー。新しい次元、もう一歩を掴むぞ」
かくして俺たちは、俺の故郷とも言うべきトレセンへと足を運ぶ事になった。