担当ウマ娘がダンボールかぶってる   作:徐々に奇妙な冒険

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作戦会議

ぱちり、とシンフォニーが目を開いた。

寝覚めが良い彼女らしくむくりと体を起こすと、キョロキョロと辺りを見渡している。

そして、ここが保健室であることに気がついたようだ。

 

「負けた?」

「勝負はついてない。みんなでここまで運んだからな」

 

シンフォニーはやけに察しが良い。だから会話が少なくても相手の言いたいことを理解して事を進める。

彼女は頭は悪いがバカではない。とは、少し失礼かもしれないが。

 

「……薬ってなんのことだ」

「聞かれちゃった? ……あのね、黒い服の人たちが、トレーニング中に話しかけてきたんだよね」

 

概ね予測はできていた。

ハルウララがナツマッサカリに突然変化してしまったのもそれのせいだ。

黒服と、緑の薬。

 

「いやーあはは、アスリート人生終わりかもね」

「…………」

「…………んなわけないじゃん……」

 

シンフォニーが自分で前言を撤回する。

 

「私、もともと走れなかったんだよ? あの薬のおかげでようやく走れるようになったんだ。もうアレしか頼れないんだよ……!」

「……シンフォニー……」

「誰も頼れないんだ……。トレーナーだってこんな身体になった私を見下してるでしょ?」

「そんなわけない。走れなくなったお前の気持ちもわかる」

「………………」

 

シンフォニーがこちらを振り向く。

その目には、明らかな殺意が宿っていた。

 

「トレーナーだって、私を見捨てて中央に行ったじゃんか」

 

その言葉が深く突き刺さる。

 

「どう? 中央は楽しかった? ()()()()()()()ウマ娘に囲まれて、レース好きのトレーナーはさぞ楽しかっただろうね」

「……シンフォニー、俺は……」

「最初から決まってたんだ。栄光を掴むのは(アーク)で、私は未来を妹に吸い取られたでがらし。ちょっとでも誰かを信用したのが間違いだったよ」

「…………」

 

ベッドから降りたシンフォニーが、再開したときとは比べ物にならないほど真っ黒な瞳で俺を見つめる。

 

「次に開催する利呼主催の地方レース。確か、遠征でやってきたウマ娘は参加することになってるんだっけ? 悪いけど私が勝つ。……トレーナーなら、薬のことは告げ口しないって……信じてるよ」

 

信じることをやめたウマ娘は、俺に信じてるよと言った。

とんでもなく腹が立った俺はその場で拳に力を入れることしかできず、ただ保健室を去るシンフォニーを見つめていることしかできなかった。

 

 

 

 

「これは宣戦布告だ」

「宣戦布告……」

「シンフォニーの成績を調べてきた。次の利呼主催のレースで一位を取れば、トレセン学園が開く『あるレース』に参加できるようになる。そこで勝てば……シンフォニーは、トレセン学園へ移籍できる」

「「「「!!!!!!」」」」

 

借りた教室で机を合わせ、作戦会議を開く。

シンフォニーと募集授業を開いたこの懐かしい教室で新たなウマ娘達と集まる。皮肉か。

 

シンフォニーの身体は既にボロボロ。あと二回もレースをしたら、移籍したとしても廃人になってしまう。

ハルウララよりも症状が軽いのは、シンフォニーの元の才能ゆえか。それとも、薬自体が改良されているのか。

どっちにせよウマ娘の選手生命を縮めるあの薬は危険だ。それを使っているシンフォニーも中央へ行かせるわけにはいかない。

 

「この中で誰か1人でも、シンフォニーに勝つんだ」

「でも、あの子……すごく速かったよ……?」

「そ、そうなんですかぁ……」

「たしかにシンフォニーは速い。技術も、パワーも、スタミナだって中央のウマ娘に引けを取らない。だからこそ、彼女は中央にいるべきウマ娘なんだが……そんなことは絶対に阻止しなければならない」

「シンフォニーさんを……助けるために」

 

雨の中、彼女の脚は千切れた。

痛みに苦しむ声と雨音だけが、ずっと俺の中に残っている。

俺が、メジロにかまけていなければ。

俺が、彼女に今日は自主練だなどと言わなければ。

 

「…………ちょっと、いいかい?」

「どうした、ギンシャリボーイ」

「その……トレーナー、さん……? は……」

「どうした、改まって。何があるなら言ってくれ」

「……そうだね。僕らしくないや」

 

ウマ娘たちの注目を浴びるギンシャリボーイが口を開く。

 

「君は……何者なんだい?」

「何者……」

「もう、普通の体育教師じゃ済まないところまで来ている。仮とはいえトレーナーだ。怪しい人の下で走ろうとは思えないよ。エレジー、君もそうだろう?」

「ええっ!? ……あ、や、まあ……そう、ですね……?」

「もしかして無関心だったのかい……?」

「い、いえ、気になることは沢山あります! でも、プライベートですから……。私も聞かれたくないこととかありますし」

 

ダンボールフェイスがゴトゴトと傾く。

たしかに、自分が何かを隠しているという後ろめたさか、ハリボテエレジーは俺に対して言及などはしてこなかったな。

 

「……何が聞きたい? ここまで来たら教える」

「じゃあ、その……」

 

 

 

 

 

「チームレグルス、について」

 

 

 

 

 

「レグルス、ですかぁ……?」

「レグルスと言えば……獅子座の心臓……一等星、かい……?」

「僕はそんなチームがあるなんて初耳だね」

 

俺は財布にしまっていた、チームのバッヂを取り出す。

雄獅子の横顔が描かれた、金色のエムブレム。

それこそが、俺がチームレグルスのトレーナーであった証明。

それをみたハリボテエレジーが、ハッとしたように俺を見る。

 

「聞きました。レグルスって、すごいチームだったそうですね。シンボリルドルフ、ナイスネイチャ、ゴールドシップ、メジロマックイーンなどを手がけていたと」

「ッ!? ちょっと待ってくれ。なんだい、その小学生が考えたような最強のチームは!?」

「色んなチームに兼部という形でウマ娘の力は分配されていたと聞きます。そして、そのチームが今や名前も聞かなくなってしまったのは、トレーナーが問題を起こしたのではないか、と噂されていることも」

 

……なんだそれ。

誰から聞いたんだ? そんな昔のことを……それに、証拠だってかなり頑張って消したはず。

 

「あるウマ娘の選手生命を縮めてしまったから……とも」

「それが、シンフォニー……?」

「でも、そのウマ娘は芦毛だったって聞きました。シンフォニーさんは茶髪です。私はそれが聞きたいんです」

「シンフォニー……か」

 

思い出すは、あの雨の日のこと。

俺が担当するウマ娘は栗色の髪をしていた。

芝生をかける茶色のウマ娘は俺の誇りとも思えた。

たまにその妹もやって方が、同様に栗色だったと思う。

 

「……シンフォニーは……事故にあってから、髪が白くなったんだ」

「…………」

「医者が言うにはストレスらしい。あれだけ走ることを楽しんでいたんだから、そうであってもおかしくない、ってさ」

 

雨の日。

泥に滑ったシンフォニーは、脚を折ってしまった。

走りの才能に全てを振っていたシンフォニーは自然治癒力が元々低いらしく、復帰は見込めないそうだ。

 

「だんだんとシンフォニーの髪の色が薄くなっていくんだ。まるでエネルギーを吸われていくかのように」

 

そして、髪が白くなっていくシンフォニーに対して。

アークインパクトの髪色は、暗くなっていった。

やがてアークインパクトの髪色が漆黒に染まった時、シンフォニーの髪は芦毛と見間違うほど白くなっていたんだ。

 

「だから俺はトレーナーとしてレグルスを退部した。シンフォニーのようなウマ娘を出さないために」

「…………」

「治療法を探して中央に来たのも間違いだった。シンフォニーは、俺が逃げたと思っていた。反論はできないが……」

 

その場にいた全員が黙った。

言葉を選んでいるのだろう。

 

「だからシンフォニーは、誰も信じないんだ。新しくトレーナーをつけるということもなく、たった一人で薬に縋った」

「それしか頼れるものが無かったから、ですか?」

「恐らくそうだ。俺の責任だ。俺がもっとしっかりしてればこんなことにはならなかった。もっと俺に才能が有れば……」

「それを言うのは、僕達にじゃないんじゃないかい」

「……ギンシャリボーイ」

「聞かないなら無理矢理聞かせればいい。勝とうじゃないか」

 

頼もしい。

まさかこんなにも歳の離れたウマ娘に勇気をもらうとは。

……いや、いつの時代もウマ娘は人に勇気を与えてきた。必然と言えば必然か。

すまない、シンフォニー。一人にして。

次は俺が勇気を返す。

 

「みんな、頼む。俺に力を貸してくれ」

「「「「はい!」」」」

 

俺の鍛えたこのチームで。

レグルスじゃない、このチームで!

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