担当ウマ娘がダンボールかぶってる 作:徐々に奇妙な冒険
「まったく二股トレーナーは……」
「誤解は解いたはずだよな。まだ言うか」
「だってカイチョーとの話を秘密にしようとするんだもーん」
ウマ娘二人と並んで歩きつつ、小話に花を咲かせる。
時計を確認するが、まだ門限ではないようだ。
「とうちゃーく!」
「今日もお疲れさん」
トレセン学園には寮が存在する。
基本的には二人一組での相部屋で過ごし、ウマ娘との交流を深めうんぬんかんぬん。
「んじゃねー、トレーナー!」
「おう、いい夢見ろよ」
寮はウマ娘による完全プライベート空間のため、緊急事、しかも寮長の許可が無ければトレーナーは入ることを許されていない。
入るなと言われると入りたくなるし中の間取りが気になるが、まぁ……一生知ることはないにだろうなといった感じだ。
「で、お前はどっちなんだ?」
「はい?」
「寮だよ寮。栗東か、美浦か」
「あぁ……私、寮には所属してないんです」
「寮に所属してない? あぁ、マルゼンスキーのような?」
「あ、マルゼンスキーさん一人暮らしなんですね……はい、そのような感じです。トレセン学園の近くのアパートを借りています」
トレセン学園近くのアパート。
あぁ、ウマ娘が大地を蹴る音や掛け声で微妙にうるさくて家賃が安めになっているあの。
最近遮音設備をつける工事をしたとかなんとかだが、あんまり気にしたことなかったな。
「そうか。気をつけて帰れよ」
「あれ? 詮索しないんですね?」
「ま、この世の誰にもプライベートがあんだ。ハリボテエレジーが極度の人見知りであることは知ってるし、一人で暮らしていても不思議じゃないって思ってな。……だが、それでお金は足りてるのか? ぶっちゃけた話、レースのためのトレーニングをしつつお金も工面するなんて、とてもじゃないが両立できるとは思えないんだが……」
「まぁ……いろいろありまして」
言葉を濁した。
親の脛齧ってるとかでも全然言っていいのに。ウマ娘は基本まだ子供だ。
ここで危険な仕事をしているとかだったらトレセン学園のトレーナーとして生徒指導に入るが、こいつの性格でそれができるか? いいやできない(反語)
「じゃあ、私はこれで」
「気ぃつけて帰れよぅい」
「はいっ。では!」
たかたかと駆けていくハリボテエレジー。
校門抜けて曲がり角を曲がり、姿が見えなくなったところで、俺は大きく伸びをした。
どあ〜〜〜〜〜っ。業務、ほとんど終わりィ!
あとは、トレセン学園の教師としての業務だが、そこはオトナノオハナシで、かなり負担が減っている。
プリントとかに目を通して、あとはタイムカード切って終わりじゃい!
「さ、もうひと頑張りと行きますか……お?」
「お疲れ様です」
「あぁ、たづなさん。今帰りです?」
「いえ、ちょっとコレを……」
たづなさんが言いづらそうに見せて来たものは、我ら社畜の味方エナジードリンク。
いやもうほんと、お疲れ様っすたづなパイセン。
「ストック用に多めに買ったんですが、一本いかがですか?」
「そうですね。いただきます」
「あと……もうひと頑張りですね……」
「はい……」
カコッ。プルタブを開いて中の液体を流し込む。
あぁ〜苦いとも甘いとも言えないこのなんか変な感覚〜。
慣れてしまってるのが恐ろしいな。学生時代はそんなの飲まないって決めてた飲料No.2。ちなみに1位はビール。あれはなかなかやめられん。
「ハリボテエレジーちゃんはどうですか?」
「ポテンシャルがすさまじいです。悔やむべきは時間の無さですね。もっと時間をかけて育成すれば、完璧なウマ娘になると思います」
「急ごしらえのウマ娘、ですか」
「はは、上手いこと言いますね」
シンボリルドルフ会長と比べりゃ……あっ寒気。
「正直……メイクデビューが不安です。今のところ、不安要素しかなくって。もっともっと、せめてトウカイテイオーの半分くらいまでは行って欲しいんですよ。やる気はあるんだから……せめて」
「そうですか……うぅん……自分のフォームや得意分野を決められていないのは少し遅いスタートですもんね。小さな頃から自分と見つめあって磨き続けてきた子たちと違い、ハリボテエレジーちゃんにはそのノウハウがない」
そう、それが一番の問題なんだ。
トレセンのトレーナーといえば、ウマ娘に合ったトレーニングメニューを用意して、どれが合っているか、どこがダメだったか、アドバイスをしていくのが定石。
けれど、ハリボテエレジーはまっさらな状態からのスタートだったために、何が合っているのかもわかりようがない。故に今までずっと、基本的なステータスを底上げするトレーニングをこなして貰っていた。
ハリボテエレジーが自分の得意分野をはっきりと認知するまで、本来の俺の出番は無いに等しいんだ。
「ですが、あなたが思っているよりも、ハリボテエレジーちゃんは強い子ですよ」
「…………」
「もしかしたら、プレイスタイルとまでは言わなくても、目指す理想の自分くらいは見えているのかもしれません。自分の担当するウマ娘を、もっと信頼してあげましょう」
「もっと、信頼……」
「トレーナーとウマ娘はビジネスパートナーってわけじゃないんですから」
……なるほど。
たしかに俺は、どこか一線を置いていたのかもしれない。
ハリボテエレジーは俺を信頼してくれている。だったら、それに答えるのが俺の……トレーナーの仕事だ。
「ようし! なんかやる気出てきました! アドバイスありがとうございます、たづなさん!」
「お役に立てたようで何よりです。では、ここで」
「はい! お仕事頑張ってください!」
「お互いに」
うっしゃあエナジードリンク効いてきたァ!
プリントなんかもうペラペラ捲っちゃうもんね!!
「お、なんか今日はえらくやる気ですね」
「さっきたづなさんからエナドリ貰ったんで! もう今日は明日の分まで仕事しちゃいますよバリバリーッ!!」
「い、いや、明日の仕事は明日発生するんじゃ……?」
今日分の仕事が終わる頃には晩飯時などとうにすぎていた。
うどんが食べたい。