デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神械のココロワヒメ   作:カール・ロビンソン

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第壱章『ライドウの再来』
第壱章『ライドウの再来』・上


 闇ある所に光あり。悪ある所に正義あり。

 天網恢恢疎にして漏らさず。正しき行いは必ず賞され、悪しき行いは必ず裁かれる。

 それを成す英雄の一人、我らが快男児こと、第十四代目葛葉ライドウ。今日、彼と二人の女神の物語の幕が再び上がることと相成りました。

 本日もまた、皆様の前で物語を披露できることをありがたく思い、最後まで役目をはたしていきたいと存じます。何卒、よろしくお願い致します。

 

 ここは我らが大和の国より、限りなく近くて遠いヤナトの地。人の世と隔てた、八百万の神々の住まいし、頂の世の都、御柱都でございます。

 ヤナトを騒がせた悪神オオミズチは鎮められ、立て続けに襲って来た疫神をも退け、ヤナトの地はすっかり平安を取り戻しておりました。続いておった凶作の風も過ぎ去り、地には豊穣の息吹が満ち満ち足りておりまする。

 ようやく訪れた平穏を誰もが享受し、頂の世の全ての神々が、ひいては麓の世の人々が、安らぎの日々を送る時代が幕を開けたのでございます。

 

 しかし、好事魔多し。輝かしい平和の時代を迎えたばかりのヤナトの地に、三度悪の手が伸びようとしていることを、今は誰も気づかぬのでありました。

 

 ところ変わりまして、ここは御柱都の頂上にある御殿。創世の主神、カムヒツキ様の御前でございます。

 空に鎮座いたしまする天上の女神たるカムヒツキの神。薄紅の花のような十二単の衣を纏い、珊瑚の様な光柱を背にする彼の神は、目の前に畏まる女神を見下ろして告げるのでございます。

 

「ココロワヒメよ。本朝をもって、其方の役目を解く。今までの務め、誠に大儀であった」

 

「…はっ」

 

 主神の冷厳たる玉音を受け、首を垂れるのは深窓の令嬢の如き雰囲気の麗しき女神であった。

 腰よりも長く、脚まで届くその黒髪は、まるで夜の帳の様。歯車をあしらった冠を頂くその顔は、深い知性を感じさせる美貌。青と黒を基調とした、青海波と金色の歯車の紋様の十二単を身に纏う彼の美神の名はココロワヒメ。車輪と発明を司り、様々な道具を作ってヤナトの繁栄を支えている神でありまする。

 そんな彼女の表情は、明らかな曇り模様。それもそのはず。カムヒツキ様から仰せつかっておりましたお役目を、実質的に中断と言う形で降ろされたのでございますから。

 

「お言葉ですが、カムヒツキ様」

 

 ココロワヒメの後ろで控えておりました女神が顔を上げて言う。その勝気な表情は、主神であるカムヒツキ様を前にしても、一切物怖じせぬ色がございます。

 この悍馬のような女神。鴉の濡れ羽色の髪を蝶の羽の様に結わえ、稲穂模様があしらわれた千早と朱の袴の出で立ちの彼女こそは、ヤナトの地に安寧を齎した大英雄。都最強の武神にして、ヤナトの地に豊穣の恵みをもたらす豊穣神こと、天穂のサクナヒメでございます。

 

「此度の決定、納得できませぬ。何故に、ココロワが御役目を解かれねばならぬのですか?」

 

 サクナヒメはその瞳に静かな怒りの炎を宿して、カムヒツキ様に問うのでございます。嗚呼、その友を思う真心。これぞまさに刎頸の友というものでございますなぁ!

 

「ココロワの発明が都に齎した恩恵は数知れず。しかも、オオミズチの討伐でも、大疫神の鎮圧でも大きな功があります。御役目を降ろされる理由が、皆目見当もつきませぬ」

 

 サクナヒメの理路整然とした発言に、カムヒツキ様は静かに頷きます。

 この御柱都の警備や雑役を担う絡繰り兵は全てココロワヒメが作成したものであり、他にも都の神々の生活を支える発明を幾らもしております。

 そして、先の二度の大事件もココロワヒメの力なくして勝利はあり得ませんでした。彼女もまたサクナヒメと共に、このヤナトに安寧を齎した救国の英雄の一人なのでございます。

 

「なるほど。サクナヒメよ。其方の言い分は最もである」

 

「ならば…!」

 

「しかし、些か勘違いをしておる様じゃな。朕は何も、ココロワヒメに落ち度があった故に役目を取り下げるのではない」

 

 サクナヒメの言葉を聞き届けたカムヒツキ様。しかし、そんな彼女の発言に推し被せる様にして、続けるのでございます。

 

「最近、何やら絡繰り兵を初めとする、ココロワヒメの発明品の故障が目立っておるようでな。方々から修理や故障原因の究明の声が上がっておる」

 

 カムヒツキ様の御言葉に、痛恨の表情で唇を噛むココロワヒメ。心より溢れる悔しさを抑えきれぬ御様子。その麗しき顔にも焦燥が滲んでおりまする。

 

「しかし、それは…!」

 

「無論、それを叱責することはない。じゃが、修理や原因究明と並行して役目を行うことは些か任が重すぎる、と判断した故の降板である、と心得よ」

 

「…はっ」

 

 カムヒツキ様の御言葉に、サクナヒメも静かに引き下がるほかりありません。そう、ココロワヒメもサクナヒメも先の言葉に、心当たりがあるのでございます。

 ここ一月ほどの間で、ココロワヒメの作った絡繰りが謎の故障を起こしているのでございます。当然、ココロワヒメのところにも、問い合わせが殺到しており、ココロワヒメ自身も原因探求のために、故障した絡繰りを分解して調べたこともございました。

 故障の原因そのものは非常に単純で、歯車が一部欠けたり、伝導帯がねじれたりした程度の事でございました。しかし、そうなった原因が全く分からぬのです。普通に動作しているだけでは、起こり得ぬ故障でございます。そう、誰かが故意にそう弄らぬ限りは。

 

「達は以上である。二人とも下がるがよい。…ココロワヒメよ、気を落とすでないぞ?」

 

「はっ。…お心遣い痛み入ります」

 

 カムヒツキ様の御言葉に、御礼を申し上げて退出するココロワヒメ。しかし、その心中にあるのは既に忸怩たる思いのみではなかった。ココロワヒメの頭脳がある一つの可能性に思い至ったのだ。何者かの陰謀の魔の手が、都に伸びているのではないか、と。現段階では何の確証もない。だが、そのような予感がするのであった。

 果たして、その予感が的中し、ヤナトを揺るがす大事件の火種が既に撒かれていることを、今は誰も知る由はないのでございました。

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