デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神械のココロワヒメ   作:カール・ロビンソン

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第壱章『ライドウの再来』・中

 カムヒツキ様の御前から退出したサクナヒメとココロワヒメ。二人は宴席に通され、歓待を受けることに相成りました。

 何せ、サクナヒメはヤナトの英雄。その名は頂の世に遍く響き渡り、知らぬものは居らぬほど。故に、久し振りの都への帰還を祝って、宴が開かれたのでございます。

 目の前には咲き誇る四季の花々。桜に梅に桃、椿や紫陽花や菊に至るまで、百花繚乱の彩りが目を楽しませます。また、高坏に並べられた小皿には、山と盛られた強飯を始めとする、山海の珍味が並べられております。龍肝鳳舌の御馳走は神の心さえも躍らせる香しい香りを放っておりまする。

 

 しかし、それを前にするサクナヒメとココロワヒメの表情は浮かぬ様子。並べられた馳走も、小姓共が注ぐ酒も喉を通らぬ有様にございます。心に憂いが満ちれば、いかような珍味であれど砂を噛んだような味しかせぬのでございましょう。嗚呼、姫君の憂鬱の誠に深きことよ!

 

「…まあ、気にするでないココロワよ! 役目を退いたのであれば、心置きなくヒノエで暮らせるではないか!!」

 

 空元気をフル回転して、からからと笑ってそう言います。サクナヒメが開拓し、今や愛しの我が家となったヒノエ島。かつて、鬼島と呼ばれたその場所は、自然の恵み豊かな金色野となったのでございます。今年もサクナヒメの誇る米、天穂は豊作でございました。ココロワヒメがヒノエに住んで、より力を貸してくれるのであれば、明年もまた明年も宝の米が成ることにございましょう。

 

「ありがとうございます、サクナさん」

 

 サクナヒメの心遣いを受け、ココロワヒメは静かに微笑みます。その可憐なることまさに雛罌粟の如し! 嗚呼、思い出される過去の記憶。サクナヒメはあの頃よりすっかり成長し、このような心遣いができる姫に成ったのでございます。これが友として嬉しゅうないはずがないのです。

 

「ただ…気がかりなことがありまして…」

 

「気がかり、とな?」

 

「…はい。何故、今になって絡繰り兵に故障が起こり始めたのか…しかも、自然に起こりそうにないものが…」

 

「…ふむ、何者かの仕業、ということかの?」

 

 ココロワヒメの言葉に、サクナヒメは頭を捻ります。先の事件では、都に忍び込んでおった異郷の神が、米泥棒の糸を引いていたのでございました。

 この度の不可解な絡繰りの故障騒動。それがまた異郷の神の仕業であったとしても、不思議ではありません。もしもそうであるならば、事件の根を突き止めて、それを引っこ抜いてやらねばならぬのです。

 

「とはいえ、私達だけでは捜査は覚束ないでしょうね…」

 

 ココロワヒメはその麗しい顔を伏せて、ため息を吐くのでございます。ココロワヒメはヤナトきっての知恵者。謎を解き明かすことにおいては、右に出る者は居りません。しかし、事件を捜査するノウハウなどはついぞ持ち合わせては居りませぬ。そして、それはサクナヒメも同じことにございます。

 

「…こんな時、ライドウがおってくれればのう」

 

 サクナヒメは頼もしき快男児の姿を思い出して言います。先の事件で戦場を共にし、縁を結んだ人の子の英雄葛葉ライドウ。彼の者は探偵として、事件を捜査する術に長けておるのです。このような時、彼がおってくれたならば、さぞ頼もしいことにございましょう。

 

「…ない物ねだりをしても、仕方ないですわ。私達は何とか、自分でできることをしなければ」

 

 ココロワヒメは力なく首を振ってそう言います。ライドウを頼もしく思う気持ちは、ココロワヒメとて同じ。しかし、彼は既に大和の地に帰還したのであります。いつまた会えるやも分かりませぬ。彼を頼みとすることは不可能。ならば、自分達でできることをせねば、と志すのでございます。いやはや、この逆境にあっても折れることのない、強い心。これぞ、我らが発明神ココロワヒメの心意気!

 

「おひいさま、只今戻りました」

 

 そう言いつつやってきたりまするは、宙に浮かぶ翡翠色の獣。狛犬の愛嬌を10倍したようなそれは、タマ爺と申すサクナヒメ随一の家臣にして、育ての親。そして、ヤナト最強の神剣たる星魂剣の精霊でありまする。悪神オオミズチとの戦を前に、鎌と鍬に生まれ変われど心は同じ。サクナヒメの心の寄り処とする最愛の存在なのでございます。

 今日も今日とて、ヒノエ島から持って来た天穂を納入して参ったタマ爺。しかし、様子がいつもとは少し異なります。

 

「おお、ご苦労であったなタマ爺!…はて、後ろにおるのは何者じゃ?」

 

 そう、タマ爺は後ろに何者かを引き連れておったのでございます。それは、何やら見も知らぬ神の様でありました。

 

「おお、申し遅れました。実はおひいさまの御目にかかりたい、とお願いされましてな。ささ、どうぞ前に」

 

「はい。感謝いたします、タマ殿」

 

 そう言って前に進み出たるは、サクナヒメやココロワヒメよりもやや幼い印象を受ける女神でございました。ややウェーブのかかった髪と、ヤナトには珍しい褐色の肌が特徴の、金で縁取られた白い布を体に巻き付けたような衣装を身に纏う可憐な女神。ココロワヒメには心当たりがございました。彼女は最近頭角を現してきた知恵の神であったはず。

 

「貴女は、もしやサヨリヒメではありませんか?」

 

「まあ、私をご存じとは光栄です!」

 

 ココロワヒメの言葉に、サヨリヒメは表情を輝かせて言うのでございます。その可憐さと愛嬌は、まるで大輪の向日葵の様。麗しい女神二人を前にしても、引けを取りませぬ。

 

「知り合いか、ココロワ?」

 

「この伝話を発明した神ですわ、サクナさん」

 

 ココロワヒメが袖口から、何やら小さな板状の絡繰りを取り出して言います。かの伝話なる絡繰り、何でも遠く離れた場所の者とも通話できるという摩訶不思議な品であるとのこと。いやはや、我らが大和にも電話はございますが、それをあのような小さな代物でできるようになるとは、ヤナトの女神の技術力は計り知れぬものにございますなぁ!!

 なお、ココロワヒメも伝話に関する着想はあったとのこと。しかし、サヨリヒメの方が早く完成させ、世に送り出した結果、伝話は彼女の専売特許になったとのことでございます。

 

「おお! お主があれを作ったのか! まだ若いのに大したものよの」

 

「お褒めに預かり、恐悦でございます、サクナ様」

 

 サクナヒメのお褒めの言葉を受け、ますます喜色を露にするサヨリヒメ。自身の言葉でこのように喜んでくれては、サクナヒメも悪い気は致しませぬ。

 

「私、サクナ様やココロワ様とお近づきになりたくて、タマ殿にお願いして執り成していただいたのです」

 

「実に熱心にお願いされましてな。しかし、おひいさまもご迷惑ではござらぬでしょう?」

 

 タマ爺はサクナヒメとサヨリヒメを見比べてそう言います。高貴な血筋と、それに鼻をかけた我儘三昧であったため、あまり都に友のおらぬサクナヒメ。彼女の勇名を慕って来た若き神ならば、良き友になれるであろう、と踏んでタマ爺も案内を買って出たのでありました。

 

「うむ! 殊勝な心掛けの娘の様であるからの。サヨリヒメよ、よろしくな」

 

「はい! よろしくお願いします、サクナ様!」

 

 サクナヒメが差し出した手を、しっかと両手で握り締めるサヨリヒメ。おお、女神が友誼を結ぶ姿はなんとも尊いものでございますなぁ!

 

「私もよろしくお願いしますね、サヨリヒメ」

 

「はい! ココロワ様ともお近づきなれるなんて、今日は素晴らしい日です!」

 

 ココロワヒメが差し出した手を、同じように両手で握るサヨリヒメ。その純真な姿に、二人もほっこり。先ほどまでの陰鬱な気持ちが、どこかに飛んで行ってしまったのでございます。

 

「そうじゃ、ココロワよ。絡繰りの修理、サヨリヒメに手伝って貰うのはどうじゃ?」

 

 サクナヒメはふと、サヨリヒメを見てそう言います。ココロワヒメが修理せねばならぬものは数多く、一人では難儀することにございましょう。そこに現れたる、サヨリヒメ。彼女もまた絡繰りに精通しておるとのこと。その手伝いがあれば、ココロワヒメの負担も減ると考えたのでございます。

 

「…そうですね、サヨリヒメさえよければ」

 

 ココロワヒメもサクナヒメの言葉を受けて頷きます。伝話では後れをとったとはいえ、ココロワヒメはそのようなことで嫉むような器の小さな神ではござらぬ。新気鋭の後輩と、切磋琢磨して共にヤナトを良くしていければと思っておるのでございます。共に絡繰りを触って、技術と親交を深めていければ、と思うのでございます。

 

「はい! 私でよければ、是非!」

 

 サヨリヒメもまた快く引き受ける様子。その嬉しそうな顔を見て、サクナヒメとココロワヒメは、顔を見合わせてにっこり。新たな友が増えたことが、二人も嬉しいのでございます。

 

「よし! では、三人で飲もうではないか! これ、誰ぞ席をもう一つ用意せよ!」

 

 サクナヒメの言葉に、小姓が慌てて席の用意にかかります。嗚呼、もはや閑話休題! 三女神は仲良く宴を楽しみ、親交を深めるのでありました。

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