デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神械のココロワヒメ   作:カール・ロビンソン

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第壱章『ライドウの再来』・下

 宴の席を辞した頃には既に草木も眠る丑三つ時。都の火も消え果てて、世界を夜の精霊が支配する時間でございます。

 そんな折にも、ココロワヒメは自らの工房に籠って、回収してきた故障した絡繰り兵を分解し、調査しておりました。落ちそうになる瞼を開いて、眠気に負けそうになる自信を叱咤し、調査を少しでも進めんと懸命に努力しておるのです。おお、なんと健気で責任感の強いことか。

 

 一通り分解し終えて気づいたことは、故障個所は一定ではないこと。ある機体は伝導帯の断裂、ある機体は右脚部の関節部の破損、ある機体は動力炉の不調等々故障の原因がまちまちであるのです。もし、機体に構造的な問題があるなら、普通故障個所は一つか二つ程度に絞られるはず。

 しかも、やはりどれも経年劣化以外では、考えられない故障原因であること。そして、故障した機体はどれもここ一年程度に作成した機体であるため、それも考えられない。

 さりとて、人為的に切断されたり破壊されたり、と言う形跡もない。あくまで経年劣化による故障としか思えないものなのだ。

 ココロワヒメは頭を捻ります。一年で経年劣化するようなものをココロワヒメは作りはしない。最低でも10年は動くはずである。ならば、何者か。超常の存在が関与しているのではないか、と。

 しかし、それを炙り出す手段をココロワヒメは思いつきませぬ。いかに聡明な彼女であれど、そうした手法を知らなければどうしようもないのです。

 何かそのような術の手引書はないか。明日、絡繰りを修理し終えたら書庫を調べて、そういうものがないか探すことを決意して、ココロワヒメは腰を上げます。流石のココロワヒメも、そろそろ眠らねば明日に触るからでございます。

 

 そして、部屋を出ようとした時、不意に部屋の入り口である障子が開きました。開けたのはどうも小姓のようでした。10に満たない少年の様な従神は、小間使いとして様々な神に召し抱えられており、ココロワヒメもそうしておるのです。

 

「どうしました? 特に用はありませんよ?」

 

 ココロワヒメは警戒の色を露にして声をかけます。何やら、小姓の様子が尋常ではないからであります。目の焦点が定まらず、ココロワヒメの問いかけにも応じませぬ。

 

 次の瞬間、小姓は猛烈な勢いでココロワヒメに突進して参りました。手には鈍色に光る何かを持っております。恐らく、包丁や匕首のような刃物でございましょう。危うし、ココロワヒメ!!

 

 しかし、ココロワヒメもさるもの。小姓の行動を予測し、咄嗟に横に飛び退いて突進をかわしたのでございました。

 だが、着地する足が床に転がる絡繰り兵のパーツを踏んでしまいました。嗚呼、何たる不運。たまらず、ココロワヒメは床に転倒してしまうのです。

 

 仰向けに倒れたココロワヒメの身体を踏みつけて、小姓が包丁を頭上高くに振り上げます。致命の刃が振り下ろされれば、ココロワヒメは絶体絶命! 嗚呼、賢く淑やかな姫君の運命やここまでか!? 誰か、助けに入る勇者は居らぬのか!?

 

 空を切り、振り下ろされる包丁! きつく目を閉じることしかできぬココロワヒメ! 最早これまでか!?

 

 だが、刹那に響いたキィン!と言う甲高い音! 包丁の刃は真っ二つになって宙を舞ったのです。空しく壁に突き刺さる包丁。咄嗟に飛び退く小姓。そして、目を見開いたココロワヒメが見た者は。

 

「ライドウ…様?」

 

 いた! 快男児はそこに立って居った!! 今、皆が待ち望んだ英雄が、ヤナトの地に再び現れたのだ!!

 黒き学生帽とマントを纏い、手にした白刃は赤口葛葉。強きを挫き、弱きを助ける威風堂々たるその姿、まさに快男児! 我らが第十四代目葛葉ライドウここにあり!!

 

「ご無事ですか、ココロワ様?」

 

 ライドウは油断せずに、視線と刀を小姓に向けたままココロワヒメを助け起こすのであります。ココロワヒメの顔には、喜色と安堵が満ち満ちております。縁を結んだ英雄が助けに来たのです。女神として、嬉しゅうないはずがありませぬ。

 

『来るぞ、ライドウ!』

 

「ああ」

 

 肩に乗る猫、ゴウトの言葉にライドウは頷き、小姓を見据えます。すると、小姓は身を大きく振るわせ、まるで蛹が羽化するかのように、その姿が破れ中から、赤黒い体躯の怪人が姿を現したのです。あれは、天竺の悪鬼ラクシャーサではないか!?

 

 剣を携え、ライドウと対峙するラクシャーサ。その身体能力は剣の達人でも及ばぬほど。ましてや、少年であるライドウでは相手にならぬ。悪鬼めはそう侮り、一気に勝負をつけるべく大きく跳躍し、大上段の一撃をライドウに見舞うのでありました。

 

 だが、ライドウに見え透いた技は通じぬ。咄嗟にココロワヒメを抱き上げ、後ろに大きく跳躍したのであります。そして、斬撃をかわしながら懐から抜いた金属の管を前に突き出すのです。

 管が開けば、そこから翡翠色のマグネタイトの奔流が溢れ、光の線が螺旋を描き、そこから悪魔が現れる。これぞ、葛葉流悪魔召喚の秘術!!

 冷風を纏いて現れたるは、大樹の梢にて躯食う大鷲。世界の風を司る霊鳥フレスベルグであった。

 人より大きな鷲が一つ羽ばたけば、たちまち巻き起こる竜巻と絶対零度の冷気。それは凍てつく嵐となって悪鬼めに襲い掛かるのです。哀れ、悪鬼は瞬時に凍てつき、豪風に砕かれ四散するのでありました。

 

『間一髪でしたな、ココロワ様』

 

「はい。ありがとうございました、ライドウ様」

 

「お礼には及びませぬ、ココロワ様」

 

 ココロワ様の礼に謙譲の言葉と静かな微笑みで返し、ライドウは姫を丁寧に降ろすのでありました。嗚呼、これぞ紳士! やはり、快男児たるもの強さのみでなく、優しさも持ち合わせておらねばなりませぬなぁ!!

 

「しかし、ライドウ様。どうして、再びヤナトに?」

 

『少々込み入った事情がありまして…ライドウ?』

 

 ココロワヒメの問いに答えようとする、ゴウトがライドウを見て言葉を切ります。彼の視線が、開いた障子の向こうに横たわる闇を見据えていたのです。

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ見えた姿。白い仮面の者が闇の中で身を翻す姿。奴こそがこの襲撃の下手人であろう。ライドウの第六感がそう告げておりました。

 しかし、もはや彼の者の影も形も気配もなし。敵の追撃がないとも限らぬ。ライドウは追うのを諦め、ココロワヒメの安全を守ることを優先するのでした。

 

 さあ、いよいよ、物語『デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神械のココロワヒメ』が始まりました!!

 大和の英雄ライドウに、縁を結んだヤナトの女神ココロワヒメとサクナヒメ、そして、新たな発明神と御柱都の闇に潜む仮面の者。彼らがどうのような物語を紡いでいくのか。それは次回『第弐章:仮面の影を追う』で語ることと相成ります。

 

 それでは、皆様のご期待を希いながら、一度幕引きとさせていただきます。ご清聴ありがとうございました!

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