デビルサマナー葛葉ライドウ 対 神械のココロワヒメ 作:カール・ロビンソン
第弐章『疑惑の仮面』・上
嗚呼、天の高みに在る頂の世の御柱都! そこに聳え立つ摩天楼! 其の頂、空に最も近いところに、神の玉座はおわします。
虚空に佇む、亜麻色の髪の偉大なる神は、我らが神々の頂点に立つ、カムヒツキノミコト! その尊顔にはいつになく、ご機嫌な笑顔が浮かんでおりまする。
「久しいの、ライドウよ。其方に再びまみえたことを、朕は喜ばしく思うぞ」
『はっ、カムヒツキ様。このゴウトもライドウも、そのご尊顔を再び拝ませていただくことを喜ばしく思います』
恭しく首を垂れるライドウと、その肩に在って答えるゴウト。その姿を見て、カムヒツキ様はますます上機嫌。ライドウのごとき英雄に傅かれては、いかにヤナトの主神といえど嬉しくもなろうというもの。
「聞けば、此度もココロワヒメの危機を救ったとのこと。この見事な活躍、まさに当代の勇者よの」
「はっ、ライドウ様が駆けつけてくださらなければ、私の命はなかったでしょう。ライドウ様には、感謝の言葉もありませんわ」
カムヒツキ様のコロコロと笑って言う玉音に、ココロワヒメの感謝の言葉が混ざります。その白磁のような頬を、桜色に染める様の、何とも可憐なことよ! 嗚呼、何たる果報者かライドウよ!
「して、ライドウよ。大和の民である其方が、再びヤナトに訪れた理由は何か?」
『このライドウは口下手故、このゴウトが代わりに申し上げます』
「よい。形式は問わぬ。速く申せ」
『はっ、然れば、御耳を拝借いたします』
カムヒツキ様の了承を得てゴウトが申し上げます。その言葉に、ココロワヒメは微かに笑うのです。その名高き、葛葉ライドウ。男の中の男ではありますが、生来の口下手。だが、そこもまた愛嬌というもの。ココロワヒメも、カムヒツキ様も微笑ましく思うのでございます。
『実は、ヤナトに悪しき神の魔の手が迫っているとの通報がございまして、ライドウめは、一も二もなく、参上致しました』
「なんと!? して、その情報は確かであるか?」
『確度の方は何とも。しかし…』
「…ココロワ様や、姫を失うわけにはいきません」
ゴウトの言葉を引き継いだライドウの言葉に、ココロワヒメは胸を締め付けられます。何やら、ライドウの傷のようなものを感じたのでございます。ライドウとて人の子、鬼神ではありませぬ。嗚呼、離れていたわずかな間に、何があったのか?
「…相分かった。もしや、最近起こっている事件がその端緒であるのかもしれぬ。ライドウよ、ココロワヒメと共に、最近起こっておる事件を解決してくれぬか?」
「御意」
ライドウの覚悟を察したカムヒツキ様も、小細工なしにライドウに事情を打ち明け、解決を依頼することにしたのでございます。おお、我らがヤナトの女神は英雄の憂いを汲み取ってくださるのです。嗚呼、これぞヤナト撫子の心意気!
「事情は、退出後にココロワヒメに尋ねるがよかろう。しかし、サヨリヒメの参内の遅いことよ」
カムヒツキ様がやや不機嫌な声で仰った、直後ココロワヒメの後ろに小走りで参った小さな影が、ひれ伏して言うのでありました。
「サヨリヒメ、参内に遅れましたこと申し訳ありませぬ!!」
床に、その黄金色の髪をこすり付けたる、幼き女神は何とも哀れな様子で主神に許しを請うのであります。カムヒツキ様もココロワヒメも、その様子に苦笑い。遅れた申しても、余りに急な呼び出しであったゆえに仕方ないこと、と捉えておるのであります。ヤナトの女神は、東京のサラリーマンのように狭量ではございませぬ。
「よい、許す。…して、サヨリヒメよ。其方、ライドウの話は聞いておろうな?」
「は、はい!? 確か、先の戦でサクナ様やココロワ様と共に、邪悪なる神に立ち向かった、異郷の侍であるとか」
「そこにおるのが、そのライドウじゃ。この度の怪異、ライドウが突き止めてくれることに相成った。其方も、協力を惜しまぬよう」
「まあ!」
カムヒツキ様の御言葉に、その顔を輝かせて上げるサヨリヒメ! 先ほどの憂いはどこへやら。若き女神は、大和の英雄に夢中な様子! いやはや、ライドウよ! 何とも罪づくりな男であろうか! これが英雄である快男児の宿命であろうか!?
「ライドウ様! 私、サヨリヒメと申します! 今後ともよろしくお願い致します! 嗚呼、なんと麗しい顔…」
サヨリヒメは興奮気味に、ライドウに自己紹介を行います。その様子に、ココロワヒメは再び苦笑い。若き神だけあって、麗しい殿方であるライドウには目がない様子。無理もない、と思いながら、ライドウを見れば、その様子に吃驚仰天。我らがライドウの厳めしい眼は、ただ一点を、サヨリヒメの腰を見つめていたのだ。
ライドウの視線の先にあったもの、それは昨夜見た白き異形の面! おお、なんということであろう! サヨリヒメはまさか、昨夜の凶行の下手人であるのか!?
ココロワヒメは口を噤む。その英知に溢れる、灰色の脳細胞が、ライドウの様子が只ならぬことを、彼の言いたいことを、瞬時に察したのでございます。英雄と女神は阿吽の呼吸でございます!!
しかし、確証なきことをこの場で軽々しく口に出すわけにもいきませぬ。疑惑の仮面を目にしたライドウとココロワヒメは、ただただ無邪気にはしゃぐサヨリヒメと共に、天上の御座から退出するのでありました。
まさかまさかのこの事態! 果たして、若き女神と天竺の悪鬼、そして、悪しき神との関連やいかに!?