遊戯王小説 スターダスト・メモリーズ   作:柏田 雪貴

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プロローグ

 その日のデュエルスクール・ウェスト校は、朝礼の時点から全体的に浮き足立っていた。それもそのはず、翌日から始まるのは学生達のオアシス、夏休み。ある生徒は一日中デュエルできると喜び、ある生徒は授業がないことに感激し、またある生徒は予定された補習に苛まれている。

 

 そんな中、彼らと異なる生徒が一人いた。一年の教室、窓際の一番後ろの席に座る黒髪の少年──星宮(ほしみや)柊太(しゅうた)は、生気のない瞳で窓の外を頬杖を突いて眺めていた。規則通りに身につけた学ランは、夏だというのに首元までボタンを閉められている。装飾のない制服や鞄は、あえて個性を出さないようにしているかのようだ。机の引き出しから少し覗いている使い込まれた星に関する本だけが、彼の人間味を感じられた。

 担任の教師は夏期休暇の間の課題についてや、休暇明けのテストについての説明を行っていたが、教室内のソワソワした空気に飲み込まれ、柊太のもとには届いていない。

 

 やがて、担任が長い話を終え、号令がかけられると、教室から浮かれた生徒達が解放されたと言わんばかりに飛び出していく。しかし柊太は周囲の様子を気にもせず、またぼんやりとしていた。

 

「これから夏休みだってのに、浮かねぇ顔してるな、星宮」

 

「・・・・・・なんだ、灰村か」

 

 柊太に声をかけたのは、クラスメイトである灰村(はいむら)紅蓮(ぐれん)だ。赤みがかった黒髪に、見る者をたじろがせるほどに悪い目つき。肘までまくられた制服は、折り曲げられて悲鳴でも聞こえそうだ。ボタンを全開にした学ランの下には真っ赤なTシャツを着ている。腰からは財布のもの以外にもチェーンが下げられており、彼のファッションセンスが窺えた。

 

「なんだとは何だよ。お前が昨日、デッキの調整がしたいって言ってきたんだろ」

 

 少し不服そうな表情をする紅蓮だが、見た目に反してその程度で怒るほど狭量の男ではない。紅蓮が怒るのは、彼が『魂』と呼ぶほど惚れ込んでいるカードを馬鹿にされた時か、食事を邪魔された時か、己のファッションに口出しされた時くらいのものだ。多いだなんて言ってはいけない。

 

 そんな彼と柊太の関係性は、友人と言って差し支えないものだった。あまり他人と関わろうとしない柊太のどこに興味を持ったのか、紅蓮は彼によく話しかけ、デュエルに誘ってくるのだ。

 

「今はまだ生徒が多いが、まぁ少しすれば減るだろ。空き教室もあるだろうしな」

 

 言いながら、紅蓮は柊太の机に腰掛ける。その際、コツンと音を立てて、彼がベルトに付けているデッキケースが天板に当たった。炎のようなメタルレッドの輝きは、じゃらじゃらと付けられたチェーンの中でも一際目立っている。

 それにつられて、柊太も腰のケースに触れた。外見は黒いシンプルなデザインだが、その内側には美しい星空が描かれており、ある人物とお揃いで買ったものだった。

 

 ズキン、と心臓が痛む音がする。とっさに胸元に手を当てた柊太だが、痛みはすぐに引いた。病気や怪我ではない。もっと根の深い、心の痛みだ。

 最近は鳴りを潜めていたその痛みが、今更になって再燃し出したのは、『彼女』との約束が近づいているからだろうか。

 

 

 

 

Episode0 プロローグ

 

 

 

 

 生徒達のほとんどが下校し、人の少なくなった校舎の空き教室で、柊太と紅蓮は向かい合う。

 普段ならデュエリスト達によって競争率が高い部屋も、長期休暇前ともなれば、人影はほとんど無かった。おそらく、デュエルしたい生徒は校外の施設に行っているのだろう。終業式は半日で終わるため、わざわざ学校でデュエルする意味は薄いのだ。

 

「ま、()いてて楽でいいわな」

 

 紅蓮は肩だの腕だのを回して準備を終えると、ケースから取り出したデッキを勢いよくディスクへとセットした。その対面では、すでに柊太もデュエルディスクを構えている。

 

「・・・・・・行くよ、」

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 互いに五枚の手札を構え、タイミングを合わせて戦いの火蓋を切る。システムによって選ばれた先攻は、紅蓮だ。

 

「オレのターン! あんまり良い手札じゃねぇが・・・・・・動けなくはねぇ。

 【クリエイト・リゾネーター】を召喚! そして手札の【奇術王ムーン・スター】は、チューナーが居るときに特殊召喚できるぜ」

 

 紅蓮の正面に、ソリッドビジョンによって投影された二体のモンスター、風車を背中に挿した奇抜な悪魔と、これまた奇抜なピエロの悪魔が現れる。

 そして紅蓮はムーン・スターの効果は使わないまま展開を進める。

 

「クリエイトでムーン・スターをチューニング! 来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】!」

 

 【クリエイト・リゾネーター】が光の輪へと姿を変え、光点となった【奇術王ムーン・スター】を包み込み、赤く燃える炎へと姿を変える。そして炎は悪魔のような角の生えた竜の形を作った。

 

「ライジングの効果発動だ。シンクロ召喚成功時、墓地から【リゾネーター】を特殊召喚できるぜ。もう一回出てこい【クリエイト・リゾネーター】!

 そして再びクリエイトでライジングをチューニング、シンクロ召喚! 深炎より来たれオレの魂! 【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」

 

 炎の竜から火花がはじけると、それが墓地にいた風の悪魔にまで飛び散り、それを消そうと飛び回るクリエイトがフィールドにまでやってくる。

 そしてその姿をチューニングリングへ変えると、放火した張本人であるライジングを包み、赤黒く燃え上がった。

 

 一瞬の光の(のち)に現れたのは、暗黒の翼を持ち、両腕に巨大な刃を備えた悪魔の竜。その威圧感は、機嫌が悪い紅蓮の視線レベルだ。イマイチ伝わりにくい。

 

「オレはカードを一枚伏せて、ターンエンドだぜ」

 

 アビスの後方に裏側のカードが投影され、布陣は盤石となった。

 それに臆することなく、柊太はカードを引く。

 

「僕のターンだ」

 

 【琰魔竜レッドデーモン・アビス】には、ターンに一度フィールドのカードの効果を無効にする強力な効果がある。それに加えて伏せカードがある。紅蓮の性格を考えるとブラフの可能性もあるが、だからといって看過できるものではない。

 

「だったら、全部踏み超える。

 魔法カード【調律】を発動、デッキから【シンクロン】チューナーを手札に加えて、その後デッキトップ一枚を墓地に送るよ」

 

「いいぜ、通しだ」

 

 柊太の手札に【ジャンク・シンクロン】が加わり、【チューニング・サポーター】が墓地へ送られる。

 

「運が良いね。そのまま【ジャンク・シンクロン】を召喚して、効果発動。墓地の【チューニング・サポーター】を特殊召喚するよ」

 

「構わねぇな」

 

 アビスの効果を使わないことに疑問を覚えながらも、【チューニング・サポーター】を特殊召喚し、更に墓地からモンスターを特殊召喚したことで手札から【ドッペル・ウォリアー】も戦線に加わる。

 

「【ジャンク・シンクロン】で【ドッペル・ウォリアー】をチューニング、シンクロ召喚。【ジャンク・スピーダー】。

 シンクロ召喚成功時の効果で、デッキから【シンクロン】チューナーを可能な限り特殊召喚できるよ。チェーンして【ドッペル・ウォリアー】の効果、トークンを二体特殊召喚する」

 

 この効果を止めなければ、大量展開から連続シンクロ召喚が可能だが、紅蓮はアビスの効果も伏せカードを使う様子がない。

 

「・・・・・・なら【ドッペル・トークン】二体と【スチーム・シンクロン】【ジェット・シンクロン】を特殊召喚だ」

 

 四体のモンスターが特殊召喚され、柊太のフィールドが埋まった。

 

 数ヶ月の付き合いでわかったことだが、紅蓮は少々変わったデュエリストだ。展開の途中を止めるのではなく、切り札級のカードに妨害を当てる。まるで相手の全力を欲するような、普通のデュエリストからすれば馬鹿らしい戦い方が、彼のスタイルだ。

 

 それをおかしいとは思わない。プレイングは人それぞれだし、柊太はそのおかげで思う存分展開することができる。

 

「【スチーム・シンクロン】で【ドッペル・トークン】二体をチューニング、シンクロ召喚。【TG(テックジーナス)ハイパー・ライブラリアン】」

 

 蒸気の調律機とデフォルメされた二体の兵士が調律し、本を片手に持つ司書が大仰な仕草で現れる。

 

「ここだな。リバースカード、【スカーレッド・レイン】! フィールドのレベルが一番高いモンスター以外を除外する! 消え失せな!」

 

「っ、そんなカード伏せてたのか」

 

 悪魔の竜が咆哮すると、学校の天井を突き破って緋色の隕石が互いの戦線に降り注ぎ、柊太のモンスター達は吹き飛ばされる。だがレッドデーモン・アビスは強固な肉体によって難なく耐え、むしろその屈強さを増した。

 

「相変わらず意地が悪いな・・・・・・」

 

「カハハッ、何とでも言えよ」

 

 紅蓮は下手くそに笑うと、挑発するように柊太に向けた指を動かす。

 彼は普段のプレイングを囮にし、大量展開を誘ったのだ。本来ならば初動となるカードに【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果を使わない時点で違和感を抱くのだが、柊太は彼のプレイスタイルを知っていたため、油断してしまっていた。『そのおかげで思う存分展開できる』だなんて考えていた少し前の自分を殴りたい。

 

「・・・・・・カードを三枚セット、これでターン終了だ」

 

 柊太は手札一枚を残して、残り全てをセットした。召喚権を使ってしまった以上、これ以上の展開は難しく、アビスの無効効果もまだ残っている。柊太はターンを終えるしかなかった。

 

「何だ、もう終わりか? なら容赦しないぜ、オレのターン!

 【コール・リゾネーター】を発動、効果でデッキの【リゾネーター】モンスターである【レッド・リゾネーター】を手札に加えて通常召喚だ。召喚成功時の効果で手札から【風来王ワイルド・ワインド】を特殊召喚しチューニング、もう一度来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】! 効果で墓地の【レッド・リゾネーター】を蘇生し、その効果でアビスの攻撃力分、ライフを回復するぜ」

 

灰村紅蓮 LP8000→11200

 

 そしてドラゴン族・闇属性がシンクロ召喚されたことで、墓地の【スカーレッド・レイン】が手札に戻ってしまう。

 

「オレは【レッド・リゾネーター】で【レッド・ライジング・ドラゴン】をチューニング、燃えろオレの魂【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」

 

 赤い調律魔がリングとなって炎の竜を包み込むと、【レッド・ライジング・ドラゴン】の身体が実体を帯び始め、歴戦の王者を思わせる傷だらけの赤竜となる。

 

「次だ、魔法カード【エンシェント・リーフ】を使うぜ。ライフが9000以上あるとき、その内2000を支払うことで、二枚ドローする!」

 

灰村紅蓮 LP11200→9200

 

「カハッ、良いカードだ。食らえ【クリムゾン・ヘル・セキュア】!」

 

 紅蓮が発動したのは、場に【レッド・デーモンズ・ドラゴン】が存在するときのみ発動できる魔法カード。その効果は、相手の魔法・罠を全て破壊するという制限カードの【ハーピィの羽根箒】と同等の効果だ。

 

「リバースカード、【スターライト・ロード】! 僕のフィールドのカード二枚以上を破壊する効果が発動したとき、それを無効にして破壊する!」

 

 傷だらけの悪魔竜が右腕に宿した拳を床に打ち付け、そこから走った亀裂が柊太のフィールドへ広がる。

 だが彼のカードが破壊されることはなく、マグマの滾る亀裂から神々しい光が溢れ出した。

 

「無駄だぜ、【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】の効果発動! 1ターンに一度、フィールドのカードの効果を無効にする!」

 

「手札から、【エフェクト・ヴェーラー】の効果発動! 相手メインフェイズに手札からこのカードを捨てて、相手モンスター一体の効果を無効にする!」

 

 一体で足りないならばと深淵の竜が赤黒い炎を纏った拳で床を殴ろうとするが、その眼前に中性的なツインテールの少女が現れ、震える身体で精一杯拳を止めようとする。持ち主に似て女性は殴れない性格なのか、仕方なくアビスは拳を下ろした。

 

 逆順処理により、柊太のトラップが適用される。

 

「【スターライト・ロード】の追加効果! エクストラデッキから【スターダスト・ドラゴン】を特殊召喚できる!

 ──彼女の想いを、今ここに。現れろ、【スターダスト・ドラゴン】!」

 

 ひび割れた地面から、光と共に星屑の名を持つ竜が飛翔する。その輝きによって、噴出した溶岩が押し返され、【クリムゾン・ヘル・セキュア】のカードを打ち砕く。

 

「チッ、裏目に出たか・・・・・・」

 

 【スターダスト・ドラゴン】には、自身をリリースして破壊を無効にする効果と、エンドフェイズに帰還する効果を持っている。後者は蘇生制限を満たしていないため脅威にはならないが、【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果を妨害されてしまうことになった。

 スカーライトを使い捨てるような使い方をすれば、スターダストをフィールドから退かすことは出来るが──

 

「オレの魂は、そうやって使うモンじゃねぇよな。

 バトルだ、【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】でスターダストに攻撃!」

 

 紅蓮の指示を受け、深炎の魔竜が両腕の刃を一切使わず星屑の竜に殴りかかる。

 それに対し、柊太は再び伏せられたカードを発動した。

 

「リバースカード、【シューティング・ソニック】! 僕のフィールドの【スターダスト】シンクロモンスターを対象に、そのモンスターがこのターン相手モンスターと戦闘する場合、ダメージステップ開始時に相手モンスターをデッキに戻す!」

 

「はぁ・・・・・・はぁ!?」

 

 その効果にしっくり来てない様子の紅蓮だったが、やがて理解が追いつくと驚愕の声をあげた。

 

 効果が適用され、【シューティング・ソニック】のカードの力を受けたスターダストが、迫り来るアビスに向けてブレスを放つ。咄嗟に回避したアビスだったが、星屑竜のブレスはそのまま天井を破壊し、落下してきた瓦礫によって痛手を受けた深炎の竜は、やむなく退散していった。

 

「マジか・・・・・・だったら効果使って相打ちになっとけば良かったか」

 

 全ての行動が裏目に出ている状況に、思わず紅蓮が声を漏らす。何もせず攻撃していればこうはならなかったのだから、デュエルモンスターズは難しい。

 

「クッ、カードを二枚伏せて、ターンエンドだぜ」

 

 紅蓮のフィールドに裏側のカード──恐らく一枚は【スカーレッド・レイン】──が増え、ターンが移る。

 

「僕のターン、ドロー」

 

 互いのフィールドには、レベル8のシンクロモンスター。そのため、もし紅蓮が【スカーレッド・レイン】を発動したとしても、どちらも除外されずに残ることになる。しかし、【スターダスト・ドラゴン】は【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】に攻撃力で劣っている上、強化しようにも【スカーレッド・レイン】の追加効果で自身以外の効果を受けなくなってしまう。かなり不味い状況だ。

 

「【異次元からの埋葬】を発動! 除外されている【ジャンク・スピーダー】【スチーム・シンクロン】【TG(テックジーナス)ハイパー・ライブラリアン】を墓地へ送る。

 そして、伏せていた【ネクロイド・シンクロ】を発動! 墓地のモンスターを除外して、エクストラデッキから【スターダスト】を、効果を無効にしてシンクロ召喚する!」

 

 ブラフとして伏せていた、逆転のカード。しかし、これで出来るのは、紅蓮に一矢報いることまでだ。

 それでも、柊太はカードを切った。

 

「【ジャンク・スピーダー】と【ドッペル・ウォリアー】に、【ジャンク・シンクロン】をネクロ・チューニング!」

 

 墓地の中で、【ジャンク・シンクロン】がモーターを駆動させ、自身を三つの光輪へと変化させる。

 そして【ジャンク・スピーダー】【ドッペル・ウォリアー】を包み込み、光の柱となってフィールドへと飛び出した。

 

「──彼女の輝きは、曇りなき黄金の如く! シンクロ召喚、【真閃珖竜スターダスト・クロニクル】!」

 

 眩い光から現れたのは、黄金の身体を持つ【スターダスト】。しかしその輝きは、本来のものよりもどこか薄れて見えた。

 

「なるほど、ソイツでスカーライトを超えようってつもりか。

 だがな、そう簡単に行くと思うなよ! リバースカード、【シンクロコール】! 効果で墓地のモンスター一体を特殊召喚し、ソイツを含めたモンスターでシンクロ召喚を行う!

 墓地の【レッド・リゾネーター】を蘇生し、スカーライトをチューニング!」

 

 紅蓮のフィールドに現れた赤い悪魔が光のリングへと変化し、スカーライトと共に新たなる悪魔竜へと変貌を遂げる。

 

「シンクロ召喚! 悪魔を焼けオレの魂! 【琰魔竜レッド・デーモン・ベリアル】!」

 

 全身に悪魔の顔を模した鎧を纏った邪悪なる竜が、紅蓮のフィールドに顕現する。

 

「レベル10の、シンクロモンスター・・・・・・!」

 

 柊太は苦々しい顔でベリアルを見つめる。攻撃力は3500とクロニクルを上回っており、スターダストは【スカーレッド・レイン】の除外範囲内となってしまった。

 

「・・・・・・僕はスターダストを守備表示に変更、これでターン終了」

 

 伏せカードは無く、手札も使い果たした。スカーライトを破壊するために出したクロニクルも、その目的を果たせていない。

 

「エンドフェイズ、【スカーレッド・レイン】を発動だ。スターダストには退場してもらうぜ」

 

 再び緋色の隕石が降り注ぎ、星屑の竜がフィールドから吹き飛ばされる。

 

「オレのターン、ドローだ」

 

 先ほどまでの笑顔とは打って変わって、少しシラけたような表情で、紅蓮はカードを引く。

 

 一分後、柊太は【レッド・デーモン】達の連続攻撃によって敗北した。

 

 

 デュエルスクールを後にした柊太が向かったのは、自宅ではなく市内にある病院だ。もはや顔なじみとなったナースさんと受付を済ませ、目的の部屋へと向かい、扉を開ける。

 

「・・・・・・来たよ」

 

 彼がそう挨拶するのは、ベッドに眠る少女だ。夜のように黒い髪に、透き通るように白い肌。しかし、その身体には点滴が打たれており、青黒い痣ができている。閉じられた瞳は少しも動かず、無機質な心電図の音だけが彼女の生を告げていた。

 

「今日は、終業式だったんだ。ついこの前、中間考査があったばっかりなのに、ずいぶんと早いよね」

 

 柊太はいつものようにパイプ椅子を出してベッドの横に腰掛けると、眠ったままの少女へと語りかける。

 

「それで、灰村にデッキの調整を頼んでいたんだけどさ。アイツ、全く加減してくれなくって。全然調整にならなかったよ」

 

 週に一度、彼女のお見舞いに来るのが、柊太の習慣だった。そして、この一週間あったことを、届いているかもわからない言葉を語り聞かせる。

 それが何になるわけでもないのに、と柊太は心の中で自嘲した。結局、自分は彼女のために何かしているという感覚が欲しいだけなのだろう。エゴにまみれた、嫌な感情だ。

 

 柊太が【スターダスト】を使うのだって、同じ理由だ。今眠っている彼女のカードを借りてデュエルすることで、それが彼女のためになると思っている。ただの思い込みだと自覚しながら、そこから目を背けている。

 

「結局、まだ君のカードは使いこなせてないみたいでさ。【スターダスト】関連のカードを増やしてみたんだけど、上手くいかなかったよ」

 

 むしろ、それが理由で展開に支障が出ていた。もし紅蓮が【クリムゾン・ヘル・セキュア】を使わなければ柊太のフィールドにモンスターは出せず、ただ負けていただろう。

 以前、紅蓮にも指摘されたことがあった。『お前のデッキはチグハグだ』『【スターダスト】とそれ以外のカードが食い違っている』と。そんなこと、使っている自分が一番よくわかっていた。

 

「・・・・・・どうすれば、良いのかな」

 

 ふと、弱音が零れてしまう。彼女の反応がないのを良いことに、弱い自分を曝け出してしまいたくなる。

 けれど、柊太は続いて出よううとした言葉を飲み込んで、笑みを作った。

 

「いや、なんでもないや。また来るよ、美輝」

 

 代わりに放った言葉は、彼女──久世(くぜ)美輝(みき)には届かず、宙に溶けていった。




色々ありましたが、今までの作品へのリベンジも込めて、また筆を取りました。

今度はエタらないように頑張りたいです。
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