遊戯王小説 スターダスト・メモリーズ 作:柏田 雪貴
空に、星が輝いていた。真っ暗で、けれど黒一色ではない、不思議な色合い。その夜空に、数え切れないほどの星々が輝いている。
『わぁ、綺麗!』
隣で、少女の声がした。もう暫く聞いていないその声色は、どこか褪せておぼろげだ。そんな『彼女』へ振り向くと、夜の黒に溶け込んだ、ぼんやりとした輪郭が見える。
満天の星空に、同じくらい輝かせた瞳を向ける彼女──美輝の横顔を見つめながら、彼は頷いた。
『・・・・・・そうだね、綺麗だ』
言ってから恥ずかしくなって、空も見れずに膝に顔を埋めたことを、よく覚えている。
そうしていると、この大空の下で、自分がどれだけ矮小な存在かを突きつけられているような気がして、ふいに不安な気持ちになる。
それは、隣の彼女がどこかへ行ってしまうのではないか、という不安だ。そのうち彼女には大きな翼でも生えて、自分を置いてどこかへ飛び立ってしまうのではないか。こうして一緒に星空を眺められるのも、今回が最後になるんじゃないか。そんな不安が鎌首をもたげて、喉の奥でのたうち回っている。
『来年も、二人で来られるといいね!』
無邪気にそう笑う彼女の笑顔が眩しすぎて、直視できなかった。その光に当てられて、喉奥から弱音が零れてしまう。
『あと何回、こうしていられるのかな』
口にして、しまったと思った。彼女にだけは弱音を吐くまいと思っていたのに、とうとう漏らしてしまった。自分のせいで彼女の瞳を曇らせてしまうようなことだけは、絶対に避けなければならなかった。
だが、彼女の光は衰えなかった。
『何回でも、だよ! 十年後も二十年後も、それこそおばあちゃんになるまで、毎年ここに来ようよ!』
今思えば、なんとも思い切った台詞だろう。けれども、その無邪気さにいつも救われていたのも事実だ。
『・・・・・・そうだね、取りあえず、十年を目標にしようかな』
『もう、柊太は後ろ向きだなぁ』
苦笑と笑顔を向け合って、今度は二人一緒に星空を眺めた。喉奥で蠢いていた感情は、少しだけ晴れていた。
そして、濡れたような空に、一筋の赤い光が流れた。まるで竜のように尾を引く一条の光が、空を駆けていく。
『あ、流れ星!』
『本当にあるんだ・・・・・・』
美輝の嬉しそうな声に、柊太の驚いたような声が連なる。彼女は思いついたように手を打つと、両手を合わせて目を瞑った。
『十年後も、二人で星空を見れますように!』
それは、願い事のようで、誓いの宣言かのようだった。柊太に対する、約束のようでもあった。
『・・・・・・美輝の願いが、叶いますように』
それに応えるように、柊太も流星に願った。隣で彼女が嬉しそうに笑うのがわかる。
照れくささや気恥ずかしさから耳まで赤くなったが、なんとなく、そうするべきだと思った。どうせ暗くてよく見えないのだ、格好付けたっていいだろう。
はにかんで笑う彼女の顔は、目を瞑りたくなるくらいに眩しくて──そして、その笑顔が、ベッドの上の動かない顔と重なる。
それを最後に、夢は終わった。心地良い微睡みから、生
「・・・・・・・・・・・・最悪だ」
彼の起きてからの第一声は、心底嫌悪するかのような声だった。
Episode1 夏の目覚め
夏休み開始から一週間ほど経ったこの日は、憎たらしいくらいに快晴だった。気分転換のために外に出た柊太だったが、その機嫌は悪くなる一方だ。
「・・・・・・あっつい」
滴る水滴を手の甲で拭うが、それでも汗は吹き出してくる。それなりに気に入っているTシャツだが、白くなってしまう可能性が高い。デュエルディスクやデッキを入れたウェストポーチを腰から下げているせいで、ズボンの辺りもぐっしょりしている。
どこか涼む場所はないかとフラフラ商店街を歩いていると、『ABC焼き』という奇っ怪な単語の書かれた
古風な木造の外装にはショーケースが備えられており、そこにはデフォルメされた【A-アサルト・コア】や【B-バスター・ドレイク】といったユニオンモンスター達の形に作られたカラフルな焼き菓子の食品サンプルが陳列されていた。どうやら鯛焼きのように中に餡が入っている小麦粉主体の和菓子もどきらしいが、どんな頭をしていればこんな気の狂ったような商品が生まれるのだろうか。
「・・・・・・なにこれ」
思わずといった様子でつぶやく柊太の反応も尤もだ。
この場所は妙な甘味品屋がやってきては一年足らずで移転するという曰く付きの場所で、近所の子供達からは【おかしの家】と呼ばれているが、同名のカードのイラストと外観はあまりマッチしていない。
以前までは『デス・コアラのマーチ焼き』なる焼き菓子を売っている店だったのだが、あまりの不人気さに店を畳み、次にやってきたのがこの『ABC焼き』屋らしい。柊太はその時期塞ぎ込んでいたので知るよしも無かったが。
ともあれ、目の届く範囲にある他の店は八百屋や精肉店で、涼めるような場所はここだけのようだ。もう少し歩けば公園や蕎麦屋、金物屋もあった気がするが、熱に浮かされた思考ではそこまで考えられずそのまま古風な外観に似合わない自動ドアをくぐった。
「いらっしゃいませ~」
間延びした店員の声を聞きながら、店内の冷気を身体で感じる。店内はレジスターと商品の売り場、そして休憩所があった。内装は以前の店から変わっていないらしい。
柊太が店内を見渡すと、休憩スペースにいるとある人物が目に止まる。
「・・・・・・げ」
少し眉を寄せながら、柊太は思考を巡らせた。
柊太が先ほどまで視線を向けていたのはデュエルスクールに在学する三年生、
(どうしよう・・・・・・帰ろうかな)
涼しさによって余裕ができた脳で考えるが、ここで引き返すのは不自然だろう。しかも、早速売れ行きが危ないのか店員が『帰りませんよね~?』という視線を向けてくるため一層帰りづらい。
「・・・・・・すみません。おすすめを一つ、お願いします。あと飲み物も」
「かしこまりました~。夏期限定の『ABC焼き ユニオンドライバーセット』でよろしいでしょうか?」
店員が示したのは、【ABC】関連のユニオンモンスターの焼き菓子全てが詰め合わせにされたセットだ。多分、お土産や贈り物用だろう。お値段もかの有名な『ブルーアイズ・マウンテン』と同じ価格、3000円である。
「え、僕一つって・・・・・・」
「一つですが?」
「・・・・・・・・・・・・」
「一つですが?」
結局、根負けした柊太がその商品と緑茶を買うと、店員がやけに良い笑顔で「ありがとうございました~」と頭を下げる。「これでお給料ちゃんと貰えそうです~」という呟きは、聞こえなかったことにしたい。
紙袋とドリンクをそれぞれ持って何気なく休憩コーナーの椅子に座り、ため息をつく。予想外の出費に、公共の場でなければ頭を抱えていただろう。
取りあえずお茶を口に含み、喉を潤してから、はぁ、ともう一つ息を吐く。そのまま身体と気分を休ませていると、近くのテーブルの会話が耳に入ってきた。
「・・・・・・それで、この後どうする? 虹花の行きたい場所ならどこでもいいぜ」
「そうですね、春物の洋服でも見に行きましょうか。遊羽、自分で滅多に服なんて買わないですから」
「俺の服、ほとんど虹花が選んだモノだしな」
チラリと視線を向けると、茶髪にオレンジのメッシュを入れ、紅蓮に負けず劣らずどころか上回るほど目付きが悪い青年と、それを眺めながら端正な顔立ちに笑みを作り、栗色の髪をロングに纏めた女性が話していた。ABC焼きを食べている如月遊羽と、その恋人と噂されているウェスト校の生徒会長、
居心地悪いなぁ、と思いながら、柊太は再び緑茶に口を付けた。心なしか甘く感じたのは、気のせいだろうか。
「なら、服屋行った後は適当に食材でも買いに行くか。どうせ今日も
「えぇ、お邪魔じゃなければ」
「虹花が邪魔なワケねぇよ。それに、今更気にすることじゃねぇだろ」
否、絶対に気のせいではない。甘味に合うように渋めにされた緑茶を飲んでいるはずなのに、胸焼けでもしそうだ。彼が生徒会長と付き合っているという噂は本当だったらしい。お菓子は後で誰かに押しつけることにして、絡まれない内にさっさと立ち去ろう。
そう思って立ち上がったのと同時に、柊太の携帯端末から着信音が響く。最悪のタイミングだ、と思いつつ、遊羽と顔を合わせないよう慌てて店を出て画面を確認すると、表示されたのは『灰村 紅蓮』の文字。
「・・・・・・もしもし?」
『よぉ、星宮か。今大丈夫か?』
「全然大丈夫じゃなかったよ」
不機嫌な声で返すと、紅蓮が謝罪の言葉を連ねてくる。幾分か溜飲が下がった柊太が、「で、何の用事?」と訊くと、思い出したように紅蓮が答えた。
『実は、昨日受けた補習で出た課題を、教室に忘れちまってな・・・・・・一人で職員室に行くと生活指導食らうし、付いて来てくれないか?』
連れションに行く女子か、と柊太は呆れた。大体、普段から生活指導されるようなことをしているのが悪いのだ。
「僕はそんなに暇じゃないんだけど」
『頼むぜ柊太! じゃないと、オレは馬の合わない先輩か、無口で何考えてるかわからない先輩のどっちかと一緒に行くか、こっそり校内に忍び込むことになっちまう』
どうやら、一人で行って大人しく指導を受ける、という選択肢はないらしい。呆れを通り越して感心に誓い感情を得た柊太は、「何時に集合?」と訪ねていた。
『恩に着るぜ、星宮! 一時間後に校門前で良いか?』
「わかった。後で埋め合わせはしてね」
紅蓮の返事を聞くより前に、通話を切った。もし断られたとしても、『ABC焼き』の代金くらいは支払って貰おう、と柊太は八つ当たり気味に思った。気味もなにも、ほぼ八つ当たりである。
自宅へ戻り、少し重めの紙袋を適当に部屋へ置いて、手早く着替えた。デュエルスクールまでの距離はそこそこあるため、早めに準備しておいて損はないだろう。そして今度は暑さ対策に飲み物もショルダーバックに入れておく。デッキケースをベルトに取り付けて、準備を終えた。
玄関を出ると、朝よりも強い日差しがうだるような暑さを作り出していた。飲み物も追加で奢って貰おう、と決意しつつ、柊太は学校への道を歩き出す。
(・・・・・・本当なら、美輝も一緒にこの道を歩いていたはずだったのにな)
熱に当てられてか、そんな考えがよぎってしまう。そして、一度そちら側に行ってしまった思考は、重い足取りを追い越して、どんどん進んでしまう。
(本当なら、彼女もデュエルスクールに
「よぉ、星宮。早かったな」
暗い表情のまま俯いて歩いていると、ふいに声をかけられた。驚いて顔を上げると、赤みがかった黒い髪が目に入る。
「・・・・・・灰村」
「? どうかしたのか?」
どうやら、考え事をしている間にスクールまでたどり着いていたらしい。身についた習慣というのは恐ろしいものだ。
「まぁいいや。急に呼び出して悪かったな」
「全くだよ。もし僕が如月先輩に目を付けられたら、灰村のせいだからね」
『ABC焼き』の店で見かけた先輩のことを思い出す。急いで店外に出たためあちらの様子を伺うことはできなかったが、もし顔を覚えられていたらと思うと、少々寒気がした。彼にとって、遊羽は災厄か何かなのだろうか。
校舎に向けて歩き出しながら、紅蓮は挙がった名前に疑問符を浮かべる。
「遊羽先輩に? 何したんだよお前」
目を見開いている紅蓮に、先ほどの出来事を説明すると、彼は「カハハッ」と愉快そうに笑い飛ばした。
「気にしすぎだろ。遊羽先輩は確かにおっかないし、容赦ないし、躊躇いとか一切ないが──本当におっかねぇな、あの人──そんな小さなこと、いちいち気にするような人じゃないぜ」
やけに親しげな物言いをする紅蓮に、柊太は引っかかるものがあった。確かに二人には『不良』という共通点は存在するが、校内で話しているのは見たことがない。
「如月先輩のこと、知ってるの?」
「あぁ、中学が同じだったからな。世話になったっつーと誤解を受けそうだが・・・・・・まぁ、そんなトコだ」
なるほど、一昔前の少年漫画にあるような、不良同士の絆、というものだろうか。そう考えると、納得がいくような、いかないような。
(・・・・・・僕は『星宮』で、先輩は『遊羽先輩』か)
単純に、付き合いの長さによるものだろうとはわかっている。だが、その差を少し気にしてしまう自分がいることもまた、事実だ。
「お、着いたぜ」
そうこう話している内に、気が付けば『職員室』の札が視界にあった。面倒くさそうな表情と態度の紅蓮が扉を開けるのに続いて、冷気の籠もった室内に入る。
「失礼するぜ」
「失礼します」
タイミングの合った挨拶に、柊太は若干嫌そうに顔を顰め、紅蓮は面白そうに笑った。勿論凶悪な笑みなので、近くにいた新人教師はギョッとして少し距離を取った。
「む、灰村に星宮か。学校に何か用事か」
二人が担任の教師を探して視線を左右させていると、入り口近くに机を持っていた生徒指導教師がこちらに気づく。
紅蓮とは別種の怖い外見──眉間に皺が寄っており、眉が太く、ジャージが悲鳴をあげそうなほどに筋骨隆々な肉体──で近づいてくる彼に、紅蓮は若干びびりながら笑顔で答える。
「昨日ぶりだな先生、ちょっと学校に忘れものしちまったんで、二人で取りに来たんだよ」
「いや、僕は別に、むぐ!?」
捉え方によっては柊太も忘れ物をしたと思われかねない紅蓮の言葉を否定しようとした彼だったが、いきなり肩を組まれて腕で口を塞がれた。なんとも強引なヤツである。
「そうか。龍塚先生なら今教室にいるだろう。帰りに職員室に寄る必要は無い、さっさと用事を済ませて帰れ。
それとだな灰村。教師には敬語を使えと何度も言って・・・・・・」
「わかってますってセンセイ、ほら星宮、さっさと行こうぜ」
生徒指導教師の言葉を遮って扉を出る紅蓮と、仕方なくその後ろに続く柊太。少し職員室から離れたところで、柊太は足を緩めた。
「何でさっき誤解を受けるような言い方をしたのさ・・・・・・僕まで不良扱いされるのは嫌なんだけど」
柊太の言葉に、紅蓮は申し訳なさそうに頭を掻くと、柊太へ向き直った。
「いやー、つい誤魔化すためにな。それに、あのくらいで不良とは思われないだろうし、大丈夫だろ」
なんともいい加減な言葉に柊太は少し引っかかったが、それ以上に早く帰宅したいので気にしないことにした。換気しているとは言え、暑さは一向に弱まる気配を見せない。むしろ、涼しい職員室から出てしまったため余計暑く感じられた。
「ま、取りあえず、さっさと教室まで行こうぜ。いつまでもこんな暑いところで喋ってたら干からびちまう」
それは紅蓮も同意見のようで、自然と二人の歩みが早くなる。職員室のある管理棟から教室棟まで移動し、そこから更に階段を使って一年の教室まで移動する。
昼間でありながら人の居ない廊下は、どこか新鮮に感じられた。二階から聞こえてくる、吹奏楽部や合唱部の奏でる音色も相まって、まるで初めて来る場所だ。
「失礼しまーっす。忘れ物取りに来ましたー、っと」
紅蓮が教室の扉を開けると、窓が開け放たれ、カーテンが揺らめく教室が視界に広がる。やる気無く並んだ机に、補習で使われたのか人一人分のスペースを空けてそっぽ向いた椅子。そして整頓されていたり何も置かれていなかったり逆に教科書達が詰め込まれていたりと個性が溢れるロッカー。一週間ぶりの教室だ。
「ん? あぁ、灰村か。夏休みになっても忘れ物だなんて、気が抜け過ぎじゃない?」
黒板の脇にある金属製の机でパソコンを操作していた男性が紅蓮を振り返り、呆れたような表情を作る。二人のクラスの担任、
「気が抜けてるも何も、いつも通りだぜ? オレは結構な忘れ物常習犯だ」
どこか自慢げにそう言う紅蓮に、息吹は苦笑を濃くした。実際、彼は教科書に限らず課題や提出物をかなりの頻度で忘れており、教師陣から目を付けられている理由の一つになっている。その日の内に提出するように努めているため怒られることは少ないが、反感を買っているのは事実だ。
「星宮も忘れ物? キミはそんなタイプじゃないと思ってたんだけど」
視線を少しズラして、息吹は柊太へと目を移す。話しかけられるとは思っていなかった彼は少し戸惑いながらも口を開く。
「灰村に付き合えって言われただけですよ。こいつと一緒にしないでください」
そのまま紅蓮に「早く課題取って来なよ」と柊太が言うと、紅蓮は愉快そうに笑って補習で使っていた席に向かった。
そんな二人のやり取りを、息吹は懐かしそうに目を細めて見ていた。自分の学校生活を思い出しているらしい彼に、今度は柊太が首を傾げる。
「そう言えば、何で先生は教室に? 国語科の教師なんだし、国語準備室に居ると思ってたんですが」
「ギクッ」
なんとも古風な反応で身を強張らせる息吹に、柊太が訝しむような視線を向けると、目的の課題を鞄に押し込み、ジッパーを勢いよく閉めながら口元を歪めた。
「どうせ、ソリッドビジョンの演出を自分好みにイジってたとかだろ。ヘンタイロリコンドラゴンフィギュアフェチのセンセイのことだしな」
「ちょ、灰村!? なんてこと言うのさ!?」
肩に荷物を
「え、先生・・・・・・?」
「いや、違うからね!? 灰村が勝手にそう呼んでるだけだから! 先生がそういう変態的思考を持ってると決まった訳じゃないから!」
「聞いてくれよ星宮、この前気まぐれで行った店で【ドラゴンメイド・パルラ】のフィギュアと睨めっこして「わー! うわぁー!!」」
凶悪な顔を更にワルそうに歪めた紅蓮の言葉を、息吹は必死に遮る。が、時すでに遅し、柊太はなんとも言えない表情で担任から距離を取っていた。
「個人の趣味じゃん人それぞれじゃん! 別に法に触れてる訳じゃないし!?」
「せめて通販使うとかしましょうよ先生・・・・・・」
「現物見てみないとわからないことがあるんだよこの世界には!」
教壇をバンバン叩いて力説する息吹だが、柊太にはその手のことがサッパリわからない。彼が困惑していると、紅蓮は「カハハッ」と下手な笑いを見せた。
「気持ちはわかるがセンセイ、パルラは無いぜパルラは。【ドラゴンメイド・チェイム】派だったら仲良く握手したっつーのによ」
「パルラを悪く言うな、可愛いだろ!? というかチェイム派だなんて、灰村も大変そうだね♪ もう11期だってのに、未だにドラゴンフォームも無いし。あれ、もしかして【ドラゴンメイド】内で唯一ドラゴン形態をお持ちでいらっしゃらない?」
「アンタ言ってはいけないことを!」
話のノリに付いて行けず疑問符を浮かべている柊太だが、彼に構わず二人の口論はデッドヒートし、だんだんと互いの空気も険悪なものになっていく。
「大体、教師がロリコンってどうなんだよ。普段から【ガガガシスター】だの【セームベル】だの【ゴーストリックの雪女】だの手札誘発幼女だの見てニヤついてるのはどうかと思うぜ!」
「そんなこと言ったら灰村だって白髪好き過ぎるでょうが! キミが授業中にこっそり【閃刀姫-レイ】とか【カクリヨノチザクラ】とか見てるのはわかってるんだからね!」
「ァンだと!?」
「なにおう!?」
「僕もう帰って良いかな・・・・・・」
血で血を洗うような醜い争いに、柊太はため息をついた。完全に蚊帳の外であり、ぶっちゃけ今いなくなってもバレないだろう。廊下は日光が入りにくいとは言え、ジメっとした暑さがある。帰ってシャワーでも浴びたかった。
二人の会話を聞き流しながら、どうしようかと考えていると、急に紅蓮が振り返った。
「──というワケだ星宮、オレ達のデュエルの審判、よろしく頼むぜ!」
「・・・・・・え?」
どうやら口論だけでは決着が着かないため、デュエルで勝敗を決めることにしたらしい。見れば、いつの間にやら机が教室後方に詰められており、息吹もパソコンに繋いでいたデュエルディスクを左腕部に巻き付け、授業では余り見ることのない真剣な表情を作っていた。
「いや、『みんなちがって、みんないい』って言葉もあるし、そこまでしなくても・・・・・・」
「星宮、わかってくれ──男には、戦わなきゃならない時があるんだ」
いや、そんな
「さぁセンセイ、デッキからカードの剣を抜けよ! オレの【レッド・デーモン】で蹴散らしてやるぜ」
「フッ、なら先生の【カオスドラゴン】で粉砕!玉砕!大喝采!!してあげるよ♪」
「そこは【ドラゴンメイド】対決じゃないんだ・・・・・・」
暫く帰れそうにないと察した柊太は、こっそりと教室の冷房を入れる。いい加減、蒸し暑い空気に耐えられなくなってきたのだ。
そして、その冷気を吹き飛ばすがごとく、男達の熱い
「行くぜ、「デュエル!」」
長くなってしまったので前後編に分けました。近日中に後編を投稿予定です。