遊戯王小説 スターダスト・メモリーズ   作:柏田 雪貴

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一話 夏の目覚め 後編

「「デュエル!」」

 

 

 教室の机を移動させて作られたスペースで、十メートルほど間を空けて向き合う紅蓮と息吹の中間辺りに立つ柊太は、密かにため息をついた。本来デュエルディスクを用いたデュエルでは審判が必要になることなど殆ど無いのだが、恐らくこのデュエルの結末を見届けろ、ということだろう。一昔前の不良漫画じゃあるまいし、と柊太は本日何度目かわからない呆れの感情を抱いた。

 

「先攻は先生だね、【黒鋼竜】を召喚してリンクマーカーにセット、【ストライカー・ドラゴン】をリンク召喚するよ♪ ストライカーの特殊召喚時と黒鋼の墓地へ送られた時の効果をチェーンして、デッキから【レッドアイズ】カードである【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】と【リボルブート・セクター】を手札に加えるよ」

 

「レダメか・・・・・・エラッタされたとは言え、面倒なカードだぜ」

 

 紅蓮が眉を寄せると、息吹は得意げな表情を作って手札に加えた新イラスト版の【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】のカードを見せびらかす。

 

「いやー帰ってきてくれて嬉しいね♪ それじゃあ早速、表側表示のドラゴン族、【ストライカー・ドラゴン】を除外してレダメを特殊召喚だ。効果で墓地のドラゴン族モンスター【黒鋼竜】を特殊召喚! そのままドラゴン族二体でリンク召喚、【天球の聖刻印】だ♪ 再び【黒鋼竜】の効果を発動して、【レッドアイズ・スピリッツ】を手札に加えるよ」

 

「何でターン1が付いてないんだよエラッタしろ!」

 

 六枚になった先生の手札を見ながら、紅蓮は思わず吠えた。対する息吹は楽しそうな笑みを浮かべると、カードを二枚抜き取りディスクに差し込む。

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 ターンが移り、紅蓮は険しい顔でデッキに指をかける。

 

「オレのターン、ドロー」

 

 息吹のフィールドには、妨害効果を持つ【天球の聖刻印】と、伏せカードが二枚。天球から出てくるドラゴンも含めて考えると、中々厄介な盤面だ。

 

「だが知ったこっちゃねぇな。通常魔法【コール・リゾネーター】発動、デッキから【リゾネーター】モンスターである【クリムゾン・リゾネーター】を手札に加えて、オレのフィールドにモンスターがいないからそのまま特殊召喚ッ! 次だ、【風来王ワイルド・ワインド】は攻撃力1500以下の悪魔族チューナーがいることで特殊召喚できるぜ。

 レベル2のクリムゾンでレベル4のワイルド・ワインドをチューニング、来い魂の種火【レッド・ライジング・ドラゴン】! 効果で墓地の【リゾネーター】、クリムゾンを特殊召喚するぜ」

 

「そこにチェーンして【天球の聖刻印】の効果発動、手札・フィールドのモンスターをリリースすることで、表側表示のカード一枚を手札に戻すよ♪ 自身をリリースして【レッド・ライジング】には退()いてもらおうか」

 

 息吹のフィールドで浮かんでいた天球儀がその発光を強くし勢いよく爆発すると、その眩しさに目をやられたレッド・ライジングがエクストラデッキへと帰って行く。

 

「チッ、逆順処理だ。オレのフィールドに【クリムゾン・リゾネーター】が特殊召喚されるぜ」

 

「ならリリースされた天球の効果を使わせてもらうよ♪ デッキ・墓地からドラゴン族一体、デッキの【巨神竜フェルグラント】を攻守0で特殊召喚だ。更にフェルグラントの効果で、そっちの【クリムゾン・リゾネーター】を除外させてもらうよ」

 

 紅蓮のフィールド舞い戻ったクリムゾンがフェルグラントによって襟首を掴まれ、そのまま砲丸投げの要領で窓の外へとフルスイング。ゲームから取り除かれた。

 

「流石センセイ、二段構えとは性格悪いな・・・・・・だが、オレもここで止まるような男じゃないぜ。

 【竜の霊廟】を発動だ、効果でデッキからドラゴン族の【真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)】を墓地に送り、通常モンスターを落としたことで追加効果、【アブソルーター・ドラゴン】も墓地へ突っ込むぜ。

 アブソルーターの効果、墓地へ送られた時にデッキから【ヴァレット】モンスター、【ヴァレット・シンクロン】を手札に加える。そのまま通常召喚して効果、墓地のレベル5以上の闇属性モンスター、【アブソルーター・ドラゴン】を特殊召喚だ」

 

 瞬く間に【レッド・デーモン】を呼び出す準備を整えた紅蓮だが、対する息吹もまた手を動かした。

 

「リバースカード、【崩界の守護竜】を使うよ。フィールドのドラゴン族、フェルグラントをリリースして、フィールドのカード二枚を破壊する。対象は勿論そこの二体だ♪」

 

 フェルグラントがどこからかスイッチらしきものを取り出すと、『任務了解』と言わんばかりにボタンを押し、その身体を爆散させた。その爆発によって、紅蓮のドラゴン達も吹き飛ばされてしまう。

 これまでの凝ったモーションを見るに、やはり息吹は先ほどまでディスクを弄っていたらしい。勤務時間中のはずだが、それを知られないように教室で作業に当たっていたのだろうか。

 

「それはさておき。流石先生、容赦ないね・・・・・・」

 

 合計三回の妨害に、柊太も思考をデュエルに向けながら呟く。彼の視線の先で、紅蓮は悔しげな表情でターンを終える。

 

「クッソ、カードを二枚伏せて、ターンエンドだぜ」

 

「エンドフェイズ、【レッドアイズ・スピリッツ】を発動するよ♪ 墓地の【レッドアイズ】モンスターである【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を特殊召喚だ」

 

「またドラゴンが増えるのかよ・・・・・・!」

 

 【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の美しい背中を眺めつつ、先生は口元を緩めたままカードを引く。無類のドラゴン好きである彼のデッキは【ドラゴン族】尽くし、ここから展開するのも勿論ドラゴンだ。

 

「先生のターン、まずはレダメの効果で墓地のフェルグラントを特殊召喚だ♪ 効果でそっちの墓地の【風来王ワイルド・ワインド】を除外させてもらうよ。

 続けて二体でリンク召喚だ。召喚条件はドラゴン族・鳥獣族二体、おいでよ【ドラグニティナイト-ロムルス】。効果でデッキから【竜の渓谷】か【ドラグニティ】魔法・罠を手札に加えるよ。【竜の渓谷】をサーチして、そのまま発動♪ 効果で、手札の【リボルブート・セクター】をコストにデッキからドラゴン族を一体、【嵐征竜-テンペスト】を墓地に送る」

 

「そういやテンペストも帰ってきてるんだっけか・・・・・・」

 

 かつて環境を荒らしに荒らしたドラゴンテーマ、【征竜】。その一角が何故か今は制限カードなのだ。

 

「よく帰ってきたよね、ホント。早速使おうかな、墓地のドラゴン族二枚【天球の聖刻印】と【黒鋼竜】を除外して、墓地からテンペストを特殊召喚だ。

 ドンドン行くよ、【疾走の暗黒騎士ガイア】をリリースなしで召喚。この場合、攻撃力は1900になっちゃうけどね」

 

 息吹がディスクにカードを置くと共に、猛スピードでガイアが駆け込んできた。名前の通りの疾走だったが、急ぎすぎた所為か馬の息が上がっており、これが攻撃力低下の原因らしい。

 

「そして光属性のガイアをリリースして、デッキの【オッドアイズ・ドラゴン】を墓地に送ることで、このカードは特殊召喚できる」

 

 急ぎ駆けつけたにも関わらず即座に生け贄にされ、ガイアは不満げに唸り声を上げた。

 

「いでよ、絶望の暗闇に差し込む、眩き救いの光。【オッドアイズ・セイバー・ドラゴン】」

 

 ガイアの身体が光へと置換されていき、その輝きから幾つもの剣を身に纏った赤いドラゴンが現れる。珍しいカードを使う息吹に、紅蓮は愉快そうに破顔していた。

 

「おいおいセンセイ。セイバー・ドラゴンとはまた、面白いカード入ってンなぁ!」

 

「灰村だってエクストラに素の【レッド・デーモンズ・ドラゴン】入れてるんでしょ? お互い様だよ」

 

 互いに笑みを向け合う二人を見ながら、柊太はかなり驚いていた。

 

 【オッドアイズ・セイバー・ドラゴン】といえば、名前こそ知られているものの余程の物好きでない限りデッキに投入するようなカードではない。【オッドアイズ・ドラゴン】も同じだ。

 つまり、よほど強い思い入れが──そうしたいという感情があるのだろう。紅蓮にとっての【レッド・デーモン】のように、譲れないようなこだわりが。

 

 対して、自分はどうだろうか。デッキに入れている、【スターダスト】達。上手く噛み合っていないカード達に、そこまでの感情は、持ち合わせているのか。

 

(・・・・・・・・・・・・わからない)

 

 ただの自己満足だと自覚していた。他のカードを入れた方が良いと言われれば、否定出来ないだろう。それでも、何故自分は『彼女』のカードを使おうとしているのか。

 

 考え込む柊太を余所に、デュエルは進んでいく。

 

「【疾走の暗黒騎士ガイア】のリリースされた時の効果で【カオス・ソルジャー】モンスター、【カオス・ソルジャー-開闢の使者-】を手札に加えるよ♪

 リンク2のロムルス、テンペスト、オッドアイズ・セイバーをリンクマーカーにセット、リンク召喚だ♪ 来なよ【ヴァレルソード・ドラゴン】! 更に墓地のオッドアイズ、オッドアイズ・セイバーを除外することで【カオス・ソルジャー-開闢の使者-】を特殊召喚!

 これで攻撃力は足りてるね、バトルフェイズだ」

 

 総攻撃力は6000、だが【ヴァレルソード・ドラゴン】には二回攻撃を得る効果がある。紅蓮は強気に笑みを浮かべるが、その背筋には冷や汗が流れていた。

 

「まずは、カオス・ソルジャーで攻撃するよ♪」

 

 混沌の戦士が剣を振るい、飛翔した斬撃が紅蓮の身体を直撃する。

 

灰村紅蓮 LP8000→5000

 

「チッ、痛ぇな」

 

 ソリッドビジョンのため実際にはほとんど痛みはないが、それでも紅蓮は眉を顰めた。

 

「ヴァレルソード、キミも攻撃だ! そしてこのタイミングでヴァレルソードの効果発動、ターンに一度、フィールドのモンスター一体を守備表示にすることで、このターン二回攻撃を得るよ。そして、この効果に相手はチェーンできない♪」

 

 カオス・ソルジャーが盾を構えて守備の姿勢を取り、その力の一部をヴァレルソードへと与える。

 

 そのまま剣銃の竜が頭部のアーマーを変形させ自身の身体を一本の剣とすると、そのまま紅蓮めがけて首を振った。

 

「クッソ、ライフで受けるぜ!」

 

灰村紅蓮 LP5000→2000

 

 攻撃を終えたヴァレルソードだが、振り抜いた身体をそのままに頭部のアーマーを展開する。その口元には、赤い炎が宿っていた。

 

「これで終わりかな? 二回目の攻撃だ、ヴァレルソード!」

 

 ヴァレルソードが収束させた炎をブレスとして解き放つ。紅蓮にトドメを刺すかに思えたその炎は、彼に当たることなく周囲へと広がった。

 

「・・・・・・罠カード、【王魂(おうごん)調和(ちょうわ)】を発動した。相手の直接攻撃宣言時、その攻撃を無効にし、墓地のモンスターを除外することでレベル8以下のシンクロモンスターをシンクロ召喚するぜ!

 レベル7の【アブソルーター・ドラゴン】に【ヴァレット・シンクロン】をチューニング!」

 

 彼の周りを取り囲む炎の中から、二体のドラゴンが蘇る。そして一方はチューニングリングへ、もう一方は光の点へと姿を変えた。

 

「燃えろオレの魂! 【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】!」

 

 一瞬の閃光の後に現れたのは、傷だらけの王者の竜。彼は大きく翼を広げると、咆哮と共に炎を吹き飛ばした。

 

「なるほど、他のタイミングだと防ぎきれないから、二回も攻撃を受けたのか。やるね♪」

 

 【カオス・ソルジャー-開闢の使者-】の攻撃を止めていた場合、【ヴァレルソード・ドラゴン】のもう一つの効果、戦闘する相手モンスターの攻撃力を半分にしその数値分自身に加える効果と二回攻撃によって、紅蓮のライフは削りきられてしまう。故に、このタイミング以外では発動できなかったのだ。

 

「カードを一枚セット、これでターンエンド♪」

 

 スカーライトには、自身の攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚された効果モンスターを全て破壊する効果がある。そして、フィールドで相対しているモンスター達の攻撃力は互角だ。

 

 ダメージは受けたが、反撃の手も打った。ここからは、紅蓮のターンだ。

 

「オレのターン! メインフェイズ、スカーライトの効果発動だぜ! 吹き飛べヴァレルソード、カオス・ソルジャー!」

 

 スカーライトの全身の傷痕から血のように赤い炎が吹き出し、右腕へと集まっていく。拳を握りしめた王者の竜は、その灼熱を標的へと振り抜いた。

 

龍塚息吹 LP8000→7000

 

 更地となった教師のフィールドを見て、紅蓮は二枚ある手札の片方を手に取る。

 

「オレの場にシンクロモンスターがいることで、【シンクローン・リゾネーター】を特殊召喚するぜ」

 

 王者の竜に仕えるかのように現れる調律の悪魔。レベル9のシンクロ召喚が可能な状況に、息吹はディスクを操作した。

 

「ならそのタイミングで、かな。リバースカード【戦線復帰】を使うよ♪ 墓地の【巨神竜フェルグラント】を対象に、守備表示で特殊召喚する」

 

 フェルグラントの除外効果は対象を取らない効果のため、効果解決時に除外するカードを選ぶもの。紅蓮は自身の伏せカードに一瞬だけ目を向けると、躊躇い無くそれを発動した。

 

「こっちもリバースカード発動だ。速攻魔法、【バーニング・ソウル】! オレの場にレベル8以上のシンクロモンスターがいるから使えるぜ。墓地のカード一枚を手札に戻し、オレのフィールドのモンスターでシンクロ召喚を行う!

 オレは墓地の【王魂調和】を手札に戻し、レベル1のシンクローンでスカーライトをチューニング!

 深炎より来たれオレの魂【琰魔竜レッド・デーモン・アビス】!」

 

 【シンクローン・リゾネーター】がチューニングリングとなってスカーライトと調律し、その傷だらけの身体を包む鎧となる。そして悪魔の装束を身に纏ったレッド・デーモンが、赤黒い炎をまき散らしながら咆哮した。

 それに呼応するように息吹の墓地から黄金の竜が復活し、その翼を煌めかせる。

 

「シンクローンの効果が発動するが・・・・・・クリムゾンは除外されてたっけか」

 

「そ、フェルグラントの効果でね♪ それをもう一度味わわせてあげるよ、効果発動!」

 

「二度目はゴメンだぜ、アビスの効果発動! フィールドの表のカードを対象に、その効果を無効にする! コイツはフリーチェーンだ」

 

 巨神竜が翼を広げ、口元に金色(こんじき)のオーラをため込むが、琰魔竜が両拳を合わせて頭蓋を殴りつけたため、彼の口内で暴発した。

 

「バトルだ。アビスでフェルグラントを攻撃!」

 

 口から煙を吐きながら咳き込む金色の竜の首元をむんずと掴み、上空へと投げた深淵の竜は、そのまま胸元をべきべきと音を立てて膨らませ、琰魔竜の名に違わない量の爆炎ブレスを放った。

 

「フェルグラントは守備表示だから、ダメージは無いね。・・・・・・灰村も演出には凝るタイプなんだな」

 

「そりゃ、自分の魂をカッコ良くしたいだろ。オレはカードを伏せて、ターンエンドだ」

 

 ライフの差は実に五千。伏せカードもバレてる上、手札も一枚しかない。そんな逆境でも、紅蓮は下手な笑顔を浮かべたままだった。いや、むしろデュエルしている中で一番破顔しているだろう。

 

「・・・・・・すごいな、灰村は」

 

 その笑顔を見て、柊太はふと呟いた。彼は自分の信じたカードを使い、その上で勝利を掴む。たとえ不利な状況であっても、笑顔を絶やさない。

 その姿勢は、どこか『彼女』に似ていた。【スターダスト】を信じて戦い、そしていつも笑顔でデュエルしていた美輝の姿が、脳裏に蘇る。

 

(・・・・・・このままで良いのかな、僕は)

 

 無意識に、拳を握りしめる。思い詰めたような表情の柊太に、紅蓮は一瞬だけ視線を向け目を細めたが、何も言うことはなく息吹へと向き直った。

 

「そら、センセイのターンだぜ。手札二枚で何が出来るかな!?」

 

「急にフラグ立て始めた!? ま、まだ先生も教え子に負ける訳にはいかないし、このターンで決めさせて貰うよ♪」

 

 息吹はこのターンにドローしたカードをシニカルな笑みと共に発動した。

 

「【復活の福音】を発動! 対象は勿論【巨神竜フェルグラント】だ♪」

 

「流石にソイツは止めるぜ、アビスの効果発動! その効果を無効にする!」

 

 息吹のフィールドに【フェルグラント】を(かたど)った石像が出現したが、アビスが気に食わなかったらしく拳で粉砕した。

 

「よし、使ったね。【竜の渓谷】の効果発動、手札の【輪廻竜サンサーラ】をコストに、デッキから【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】を墓地へ送るよ。

 更に墓地の【嵐征竜-テンペスト】の効果発動、墓地から【ドラグニティナイト-ロムルス】と【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を除外して、自身を特殊召喚だ。

 準備は整ったね、墓地の【輪廻竜サンサーラ】の効果発動♪ 墓地から除外して、レベル5以上のドラゴン族を墓地から手札に戻すよ。更に、先生はそのモンスターをアドバンス召喚することも出来る」

 

 彼の墓地から竜巻と共に復活したテンペストだが、即座にその身体を風へと変換し新たな竜の糧となる。

 

「アドバンス召喚。いでよ、絶望の暗闇をも越える、雄々しき二色の眼持つ竜! 【オッドアイズ・アドバンス・ドラゴン】!」

 

 テンペストの身体が完全に風となって(ほど)けると、甲冑の(ごと)き赤の鱗を翼を含めた全身に纏い、槍のような衝角を全身から生やした、二色の瞳持つ赤の飛竜が現れた。その竜は大地を踏みしめると、大きく雄叫びをあげる。

 

「セイバーやオッ素だけじゃなくて、アドバンスまで入ってんのかよ・・・・・・!」

 

「【カオスドラゴン】とは仮の姿、本来のデッキは【オッドアイズ】なのさ、なんてね♪

 アドバンス・ドラゴンの効果発動! アドバンス召喚成功時、相手モンスターを選んで破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを受けてもらうよ」

 

 赤竜が、周囲に爆風を巻き起こしながら飛翔する。その鋭い牙の間からは、今にも放たれんとするブレスが(ほむら)の如く漏れ出している。

 そして、その顎が開かれる。咆吼と共に放たれたブレスは二色の螺旋を描き、琰魔の竜へと殺到した。アビスは両腕でその奔流を受け止めにかかったが、束の間の拮抗すら許されず、主の元へと吹き飛ばされた。

 

灰村紅蓮 LP2000→0

 

 

「いやー、負けた負けた。やっぱデュエルスクールの先生なだけあって、メチャクチャ強かったぜ」

 

 両手を頭の後ろで組みながら、紅蓮は独り言にしては大きな声で言う。すでに陽は傾いており、隣を歩く柊太の顔はゲンナリとしていた。

 

「まさか、こんなに時間かかるとは思わなかったよ・・・・・・龍塚先生もノリノリだったし」

 

 あの後、紅蓮はデッキをシャッフルし始め、「んじゃ、サイドボード入れ替えで2マッチ目だな」と言い放ち、息吹もそれに賛同したため、夕暮れ時までかかってしまったのだ。【ドラゴンメイド】の件はただの口実で、実際はデュエルしたかっただけなのだろう。デュエルジャンキーめ、と柊太は心の中で毒づいた。

 

「・・・・・・悪かったな。こんな時間まで付き合わせちまって」

 

 彼の暗い表情に気づいてか、紅蓮が申し訳なさそうに目を伏せる。そんな表情まで凶悪なため、どこか可笑しく感じてしまった柊太は、苦笑を浮かべながら首を横に振った。

 

「いいよ、別に。埋め合わせはしてくれるんでしょ?」

 

「げ、何を要求されるのやら・・・・・・」

 

 顔を顰めるものの、嫌がることはしない。彼は義理堅いのだ。勿論、『こう見えて』という注釈は付くが。

 

「・・・・・・それじゃあ、訊きたいんだけどさ。何で灰村はそんなに【レッド・デーモン】にこだわるの?」

 

 入学してから夏休みに入るまで、彼は今までのデュエルを『魂』と呼ぶカードと共に戦っていた。そのせいで不利な戦いを強いられることもあったし、メタカードを使われることもあった。なのに何故、彼は己を貫けるのか。

 

「なんだ、そんなことでチャラにしてくれんのか?」

 

「それとこれは別だよ」

 

「手厳しいな」

 

 カハハッ、と愉快そうに笑うと、紅蓮は真剣な表情を作ってから再び口を開いた。

 

「惚れ込んでるから、だな」

 

「惚れ・・・・・・?」

 

 予想外のワードに柊太がなんとも言いがたい顔になるのにも構わず、紅蓮は続ける。

 

「ああ。親父から【レッド・デーモンズ・ドラゴン】のカードを貰って、そのイラストに目を奪われた。スゲェ、カッケェって。んで次に効果に惹かれた。お世辞にも強いとは言えない能力だけど、当時のオレはそれでも最強だろって思ったし、デメリット効果だって周囲を寄せ付けないカッコ良さがあると思ってた。いや、今でも思ってるな」

 

 いつになく真面目な様子で自身の思いを語った紅蓮は、犬歯が見えるような笑みを柊太へ向けた。

 

「満足したか?」

 

「うん、まぁ・・・・・・」

 

 歯切れの悪い反応に紅蓮が疑問を持つと、柊太は何やら神妙な顔で考え事をしているようだった。

 

「どうしよう・・・・・・思った以上にマトモな内容で反応に困る・・・・・・」

 

「おーい、聞こえてんぞソレー」

 

 ジトっとした視線を向けてくる紅蓮のツッコミを聞き流しながら、柊太は考える。『彼女』も同じなのだろうか。彼の記憶の中で、『彼女』はいつも【スターダスト】と共に戦っていた。その切欠(キッカケ)や理由というものを、柊太は知らないのだ。

 

(・・・・・・どうしてだろう)

 

 『彼女』は何故あそこまで【スターダスト】に拘っていたのだろうか。

 柊太が更に思考の海に沈み込もうとする隣で、ふと紅蓮が空を見上げた。そして驚いたように目を見開いくと、少年のような笑みを浮かべた。

 

「おい星宮、アレ見ろよ!」

 

「何さ、急に」

 

「いいから見ろって!」

 

 興奮した様子で肩を叩いてくる紅蓮に急かされて、柊太もまた上へと視線を向けた。そして驚愕と、一握りの懐かしさが、彼の中に生まれた。

 

「あれは・・・・・・」

 

 朱色に染まった空を、一筋の赤い光が流れていた。長く尾を引いた、紅の流星。それはいつか見た流れ星に似ていた。

 

「【レッド・デーモン】強化【レッド・デーモン】強化【レッド・デーモン】強化・・・・・・意外と三回言えるのな」

 

「・・・・・・灰村はもうちょっと風流とか(おもむき)とか覚えようよ」

 

 今度は逆に柊太がジト目で紅蓮を見る番だった。そんなことを気にせず流れ星を眺め続ける紅蓮に、柊太も呆れながら再び空へと目を向けた。

 

 その時だった。一瞬だけ、雄叫びが聞こえたのは。流れ星が翼やかぎ爪を生やし、まるで本物の竜の姿で飛翔したように見えたのは。

 

「・・・・・・オイ星宮。見たか、今の」

 

「・・・・・・うん」

 

 そうやり取りを交わした時には、空には何事もなかったかのように朱色が広がっているだけだった。

 呆然とした様子で、暫くその場に立ち止まる二人。先に動き出したのは、紅蓮だった。

 

「いやー、スゲェもん見たな、オレ達! 流れ星がドラゴンになるとか、普通ないよな!」

 

 目を輝かせて拳を握る彼だが、柊太は酷く混乱した様子だった。状況を理解できていない、といった風だ。

 

「どういうこと・・・・・・? もしかして今のはソリッドビジョンで、僕の知らないモンスターの召喚演出・・・・・・?」

 

「ロマンの無いこと言うなよ、オレ達は流星のドラゴンを見た、カッコ良かった、それで良いじゃんか」

 

 カラッとした笑って見せ、先を行く紅蓮に置いて行かれないよう柊太も歩き出す。だが、彼の脳内には疑問が溢れていた。

 

(あんなモンスター、見たことがない。それに、ソリッドビジョンで空にモンスターを描くだなんて、それこそKCのイベントでしか見たことがない・・・・・・)

 

 腑に落ちない感覚を覚えながらも、日が落ちる前には帰宅しようと、彼らは足を早めた。

 

 あの流れ星が裏山に落ちたように見えたのもきっと、気のせいだろう。

 

 

 人気(ひとけ)のない、木々の生い茂った裏山。郊外にあるその場所から、ふよふよと煙が昇っていた。その発生源には一枚のカードがあり、地面に(なか)ばまで突き刺さったソレは、大量の熱を帯びているようだった。

 

 暫くシューシューと音を立てて蒸気を発していたそのカードの周囲の空間が、ふと揺らめいた。その揺らぎは線を結び、輪郭を帯び、やがて人の姿を形作る。

 

「・・・・・・ぅ」

 

 そして生まれた()()は身体を震わせ身を起こすと、焦点の定まっていない瞳で周囲を見回し、そして具合を確かめるように四肢を動かす。

 

「こんな姿になってしまうとは・・・・・・まだ()が足りないか」

 

 抑揚の無い声でそう呟いた彼女は、数歩歩いた先の少し開けた場所から見える町並みへ、品定めするような目を向けた。そして期待に沿うものを見つけたのか、満足げに目尻を歪める。

 

「感じるぞ・・・・・・いくつもの力を。妾の欲する、シンクロの力を!」

 

 恍惚とした声音でそう言って、少女は外見に似合わないほど凄絶な笑みを浮かべ、その産声をあげた。

 

「ククク・・・・・・カカカカカ・・・・・・!」

 

 夏のある日。誰も知らない脅威が、誰も知らない場所で、目覚めた。




【レッド・デーモン】も【スターダスト】も好きですが、個人的に滅茶苦茶思い入れのあるのが非ペンデュラムの【オッドアイズ】。出せて嬉しいです。

次回も構成は決まっているので、書き上がり次第投稿致します。
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