それでもよろしければ、この作品にお付き合いください!
Episode1 始まりの朝
「……退屈だ」
今日は親父が昔から親しい関係と言う女性の誕生日パーティーだ。しかし呼ばれた当の本人である親父はその女性の護衛係で付きっきりであり、「暇だろ?」という理由で連れてこられた俺は暇をもて余していた。
(にしても……色んな人がいるな)
どこを見ても大層なドレスやスーツを着たおばさんやおじさん、彼らの子供も俺とは違ってお洒落な服を着ている。別に親父に着せられたこの服がお洒落じゃないというわけではないが、明らかに見劣りしてるだろう。それくらい、有名人や金持ちが多いのだ。
「────ねぇ。アンタ、もしかして一人なの?」
「ん?」
突然声を掛けられ、椅子の背もたれに腕をかけ振り向く。そこには背中の開いた白いサニードレスを着た、俺よりも背の低い少女がいた。ツインテールに結われた金髪の髪にサファイアみたいな紺碧の瞳をした少女だ。
「まぁ、こっちにゃ喋る相手なんていねぇしな」
「ふーん……」
「ちなみにそっちは?」
「あたしは……別に一人でもいいのよ」
つまり俺と同じく一人ぼっちと。
「名前なんて言うんだ?俺は
「
神崎・ホームズ・アリア……ん?神崎?それにホームズ?
「もしかして神崎かなえさんってアリアの母親だったりするか?」
「ええ、そうよ」
神崎かなえ──────今日の誕生日パーティーの主役であり、あのホームズ家に嫁いだ、俺の父親と親しい関係である女性。今はここより奥の方で親父付き添いの元、色んな人達と話をしている。
しかしとなるとこの少女があの有名なシャーロック・ホームズの子孫……まさか俺と同い年、もしくは年下とはな。しかも世間一般で言えばかなりの美少女である。
「そういうアンタも、ママの護衛してる人が?」
「ああ、俺の親父だ」
「……経歴を聞いたけど、凄い人ね」
「お互い暇みたいだしさ、なんか話そうぜ」
「いいけど……何を話すのよ?」
「んー……あ、アリアって兄弟とかいるのか?」
「妹ならいるわよ。メヌエットって言うの」
へぇ、妹がいんのか。
「羨ましいな、俺は兄弟いないからさ」
「なら会ってみる?」
「え、いいのか?」
「いいわよ。と言ってもあの子、足が不自由だからここにはいないの。パーティーの後なら、会えると思うけど」
「それでいいぜ。親父ならいいって言ってくれるだろうし……あ、そうだ。ならさ、ついでにこの家を探検……っ?」
……何だ、この違和感?さっきまでと今とで突然何かが変わった。なんかこう…………
『────リア!避け────!』
「えっ?」
「っ!?」
どこからなのかは分からないが、突然聞こえた声。その後に発砲する音が聞こえ、俺の隣にいたアリアが倒れたのはほぼ同時の事だった。
「アリア!!」
アリアが撃たれた事に気付いたのはすぐだった。背中の左側に撃たれた痕がある。しかし撃たれた場所がまだ良かったのか、幸いにも出血量は少ない。意識は朦朧としているらしく、俺の声は届いていないが。
「おい、アリア!しっかりしろ!アリア!!」
「どうした!?っ、全員伏せてろ!アリア嬢が撃たれた!まだ犯人がいるかもしれん!」
「ア、アリア……?そ、そんな……いやあああああっ!!」
親父の声が聞こえ、アリアの母親であるかなえさんの悲鳴が部屋全体に響いた。
そしてアリアが到着した担架に乗せられるまで、俺はただ彼女の名前を叫ぶ事しか出来なかったのだ。
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「────……い。おいってば……大丈夫か、竜牙?」
「……あぁ?」
俺が目を覚ますと、そこはベッドの上。正面にはよく知る天井。そして横を向けば、俺を心配そうな顔で見るルームメイトの姿があった。
「よぉ……キンジ」
「いや、よぉじゃなくて……大丈夫なのか?なんかうなされてたぞ。声掛けても起きないし、悪い夢でも見てたのか?」
悪い夢……なるほど、まさか4年前のあの事件を夢に見るなんて久々だな。当時はしばらく夢に出てきていたがここ最近は全然見なかったのに。何か悪い予感でもするんだろうか?
「まぁ、ちょっとな……うっ、汗でベトベトする」
「大分うなされてたからな。シャワー浴びてきたらどうだ?」
「そうする」
ルームメイトの提案に従い、俺はベッドを出て浴室へと向かう。時計を見ればパパッと入ってしまえばまだ学校に間に合う時間だ。
ちなみに俺と同じこの部屋を共有するルームメイトの名は、
しかし入学試験で互いに最後まで残り、カルテットではチームを組み、
軽くシャワーを浴び終え、そのまま武偵高の制服に着替える。ワイシャツを着て学校のズボンを履き、ネクタイを軽く締める。そして防弾制の学ランは前のボタンを外したまま羽織って洗面所を出た。
すると出た途端に美味しそうな匂いが漂っている事に気付いた。キンジの奴が料理をするとは思わない為、たぶんあいつの幼馴染みだろうなと思いつつリビングに顔を出す。
「よっ、
「あっ、りゅ、竜牙くん。おはよう」
リビングにはルームメイトのキンジの他にもう一人、知り合いがいた。武偵高のセーラー服──純白のブラウスに臙脂色の襟とスカート──を乱れ一つなく着た、前髪ぱっつんの黒髪の少女。
「こりゃまた……朝っぱらからよく作れるよな」
「う、ううん、ちょっと早起きしただけだし……それに昨日まで伊勢神宮に合宿で行ってて、キンちゃんのお世話できなかったから……」
テーブルの上に置かれている漆塗りの重箱の中には玉子焼き、エビの甘辛煮、銀鮭、西条柿といった豪華食材に白く光るご飯。……ちょっと早起きしただけでこんだけ作れるとかホント凄いよな。しかもうまいし。特に和食。
「白雪は絶対、いいお嫁さんになれるな」
「お、お嫁さんさんだなんて……そ、そんな、ま、まだ早いよ……」
両手を赤くした頬に添え、照れる白雪はキンジの方をチラッチラッと見ている。あいつは飯食ってて気付いてんのかどうか知らんけど。
……まぁ、見て分かるように白雪はキンジの事が好きだ。幼馴染みだし、昔から一緒みたいだから意識しててもしょうがねェけど。ただ、相手はまったくその好意に気付いてないが。
「あっ、竜牙くんにも作ってきたんだ。良かったら食べてっ」
「マジか、この量を二人分作るとか絶対に俺には出来ん。ありかとな、白雪」
「ううん、どういたしまして」
「んじゃ、いただきますっ」
蒔絵つきのフタを開け、まったくそっくりに並べられている料理を見て涎が垂れそうになる。白雪から渡された塗り箸を使って食べ始めると、食後のデザートらしいみかんを食べ終えたキンジが口を開いた。
「……えっと、いつもありがとな」
「まだお礼言ってなかったのかよ」
「お前が来たせいでタイミング無くしてたんだよ……」
知るか、んなもん。言うんだったら食べる前に言え。そして食べ終わったらごちそうさまでしたを言え。
「えっ。あ、キンちゃんもありがとう……ありがとうございますっ」
「いや、何でだよ」
「そ、そうだぞ白雪。何でお前がありがとうなんだよ。あと、顔上げろって」
「だ、だって、キンちゃんが食べてくれて、お礼を言ってくれたから……」
嬉しそうな顔を上げた白雪は目を潤ませながら蚊の鳴くような声を出す。キンジの事が好きすぎるとはいえ、これだけでこうなるか。まぁ、昨日まで合宿で会えなかったんだし、その反動もあるか。
「────あ」
意識していたわけではない。だが白雪が前屈みになってた+セーラー服の胸元が緩んで開いてたせいもあって、白雪の大きな胸の谷間が見えてしまった。しかも黒いレースの下着がバッチリと丸見えである。
「……黒か」
「えっ?」
「いや、こっちの話だ。気にすんな」
高校生で黒ってちょっと攻めすぎじゃないか?俺も
「……ごちそうさまっ」
キンジが突然勢いよく立ち上がる。……あー、なるほど。こいつも白雪の下着が見えたって事か。で、危ない感覚がしたから逃げたって事か。
まったく、キンジの
「んぐっ……ほい、ごちそうさま」
「お前、絶対噛んでないだろ!」
「ふざけんな。こんなうまい飯を噛まないで飲み込むたァそんな真似できっかよ」
「お粗末様でした。そう言ってくれると、作った甲斐があるよ」
ほら、白雪もこう言ってくれてるだろ。まぁ、重箱をテキパキと片付けてキンジの学ランを取りに行っちゃったが。
「……歯ァ磨いて準備すっか」
そう言って洗面所に行き、歯を磨きつつ最後の準備をする。壁に立て掛けてある刀、”
校則の一つに、『武偵高の生徒は、学内での拳銃と刀剣の携帯を義務付ける』というのがあるからな。普通の高校には絶対にない校則だ。今じゃ『普通の高校への
「キンちゃんも竜牙くんも、今日から一緒に2年生だね。はい、防弾制服」
「
「……始業式ぐらい、銃は持たなくてもいいだろ」
「ダメだよキンちゃん、校則なんだから」
そう言う白雪に、ホルスターごと拳銃を帯銃させられるキンジ。まぁ、その気持ちも分からなくはないが武偵である以上、何が起こるか分からないしな。
「それに、また武偵殺しみたいなのが出るかもしれないし……」
「武偵殺し?」
「ぺっ……ああ、年明けに周知メールが出てた連続殺人事件の事だろ?」
武偵の車などに爆弾を仕掛け、自由を奪った上で
「でも武偵殺しは逮捕されたんだろ?」
「つっても模倣犯が出ないとも限らないだろ」
「う、うん……それもそうだし、キンちゃん……それに竜牙くんも今朝の占いで、女難の相が出てたし。もしもキンちゃんの身に何かあったら、私……ぐす……」
あの、白雪?俺だけついでみたく言うのやめてくれないか?別に女難の相が出てても気にしねぇけど、もうちょっと俺の身も心配してくれたら嬉しいんだが……無理か。
「分かった分かった。ほら、これで安心だろ。だから泣くなって」
そう言って棚から出したナイフ……兄の形見であるバタフライ・ナイフをポケットに収め、白雪を慰めにかかる。
キンジに白雪を任せ、俺は黒い名札を制服に付ける。武偵高では4月だけ生徒全員が名札を付けるルールがある。まぁ、1年は上級生の名前知らんし、こっちも1年の名前知らないからまぁ、その為だろうな。
「俺はメールをチェックしてから出るから。白雪、お前は先に行ってろよ」
「あっ、じゃあ、その間にお洗濯とかお皿洗いとか」
「いいからっ」
キンジの言葉に従い、部屋から出ていく白雪。
……キンジ、お前にメール送る友達なんていねぇだろ。
「やってもらえばいいのによ。あんな世話焼きな幼馴染み、なかなかいねぇぞ?」
「いいんだよ、自分でやるんだから」
「やった事ほとんどねぇだろ、ぐうたら」
そう言われると返す言葉がなくなったのか、PCの前に座り、白雪に言った通り(来てない)メールBOXをチェックしたり、Webを見始めた。その姿に溜め息を吐きつつ、俺もまだ時間があるからと少し眠る事にした。
──────が、それが良くなかった。
「──……い!おい、竜牙!起きろってば!」
「んだよ、キンジ……まだ時間あんだろ……?」
「ねぇよ!今、7時55分!」
「……あ?んじゃ、バスは……」
「バスは58分発だ、絶対に間に合わない!だからチャリで行くぞ!ほら、急げって!」
キンジはこの7時58分のバスに乗り遅れた事を生涯悔やむだろう。だが反対に俺はこの事を嬉しく感じていた。
何故なら────神崎・H・アリアと再び会う事が出来たのだから。