「いやぁ、チャリなんて久し振りだな」
「余裕こいてる場合かよ、遅刻すんぞ?」
バスに乗り損ねた俺達は2人並走してチャリを漕いでいる。近所のコンビニとビデオ屋の脇を通り、お台場に続くモノレールの駅をくぐる。すると遠くに見える、海に浮かぶような東京のビル郡。
ここ、武偵高こと東京武偵高校はレインボーブリッジの南に浮かぶ長方形の
ちなみにさっきから言ってる武偵とは、凶悪化する犯罪に対して新設された国家資格であり、武偵免許を持つ者は武装を許可されて逮捕権を有する。一見、警察みたいだが武偵は『金で動く』という所に違いがある。つまり金さえ貰えれば、武偵法の許す範囲内ならどんな荒っぽい仕事も下らない仕事でもこなす。誰が言ったか、つまりは『便利屋』だ。
とまぁ、そんなわけだから武偵高ではもちろん、通常の一般科目だけでなく武偵の活動に関わる専門科目を履修できる。
強襲学部の
諜報学部の
探偵学部の
兵站学部の
通信学部の
衛生学部の
研究部の
教務部の
教養学部の
ちなみに専門科目だが俺は強襲科、キンジは探偵科、白雪は超能力捜査研究科である。他に狙撃科やキンジと同じ探偵科にちょっとした
「なんとか始業式には間に合いそうだな」
「そうだな。1学期の始業式から遅刻とか、内申点が下がるに決まって────」
『そのチャリには爆弾が仕掛けてありやがります』
「あ?」
「……へっ?」
突然聞こえてきた、脅迫文みたいな奇妙な声。いや、確かどっかで聞いた事がある……あ、思い出した。今ネットで人気のボーカロイド、あれで作った人工音声だ。
「……
周囲を見渡すと、俺達のチャリにいつの間にか併走してきていた────セグウェイ2台を見つけた。
車輪を2つ平行に並べただけで器用に走る、タイヤつきのカカシみてぇな乗り物、それがセグウェイだ。
『チャリを降りやがったり、減速させやがると、爆発しやがります』
『助けを求めてはいけません。ケータイを使用した場合も爆発しやがります』
「なっ……何の冗談だ!何のイタズラだっ!?」
「イタズラにしちゃ、マジすぎんだろ」
セグウェイには2台とも誰も乗っていない。その代わりに人が本来乗る場所にはさっきから人工音声を出してるスピーカーと、1基の自動銃座が載っていた。
「
その銃座からは秒間10発の9ミリパラベラム弾を撃つイスラエルIMI社の
「おい、キンジ!チャリのどっかに爆弾ねぇか!?」
「クソッ、何で俺がこんな目に……っ!」
チャリのあちこちをまさぐっていたキンジの表情が一瞬にして強張る。サドルの裏側────なるほど。
俺も自分のチャリのサドルの裏側に手を回してみれば、サドルの一番後ろ側、しかも極めて分かりづらい場所に何かが仕掛けられていた。
……ただ普通に仕掛けただけじゃ俺に気付かれると思ったか。しかし触ってみた感じ、型までは分からんがプラスチック爆弾か。しかも大きさからして自動車が消し飛ぶサイズだ。
このチャリジャック……やり方からして犯人は武偵殺し、もしくはその模倣犯。キンジは絶対に模倣犯の仕業としか思ってないだろうが。
「……まずいな。おい、キンジ!俺について来い!」
「お、おう!」
こんなもんがここで爆発したら怪我人がでる。とにかく人けがない場所……第2グラウンドがいいか。距離がまだあるが、ここから見た感じいつも通り誰もいない。
「おい、竜牙!どうすりゃいいんだよ!?」
「とにかく第2グラウンドに向かうぞ!そこからは…………うーん」
「お、おいっ!見捨てるとか言うなよ!?」
「言うかっつーの!」
しかし……マジでどうするか。正直俺だけだったらどうとでもなるが、今はキンジがいる。しかも
「……?なんだ、あれ……?」
突然キンジがある一点を凝視する。視線の先を見れば、7階建てのマンションもとい女子寮の屋上の縁に、女の子が立っていた。
武偵高のセーラー服。
遠目からでもハッキリと分かる、長いピンク色のツインテール。
そんな彼女は、躊躇いもなく屋上から
「はああああっ!?」
「ちょっ、ふざけんな!!」
この状況で自殺する奴が現れるか普通!?しかも武偵だぞ!?と思ったが、その女子生徒は事前に準備してあったと思われるパラグライダーを空に広げ、滑空を始めた。
……一体何のつもりだ?と思っていると、そのままこっちに向かって降下してくるではないか。
「バッ、バカ!来るな!」
「このチャリには爆弾が仕掛けられてる!巻き込まれんぞ!」
俺とキンジが叫ぶが、聞こえていないのか女子生徒はこちらに迫りながら左右の太ももに着けたホルスターから、それぞれ銀と黒の大型拳銃を2丁抜いた。
「ほらそこのバカ2人!さっさと頭を下げなさいよ!」
「えっ?はあっ!?」
「っ、バカ頭下げろ!」
俺がペダルを漕ぎつつも並走しているキンジの頭を上から押さえつけると同時に、女子生徒がセグウェイ2台を銃撃した。UZIの銃口が反撃の火を吹くヒマもなく、銃座と車輪はバラバラになって俺達に置いていかれる。
……うまいな。あまり射撃の腕に自信がない俺から見ても今のは凄いと分かる。そもそもあんな不安定な体勢から弾を撃って命中する事自体が驚きだ。多分ランクはSで間違いないだろう。
しかし────これでハッキリした。パラグライダーが準備してあった以上、あの女子生徒はこのチャリジャックが今日起きる事を知ってたんだろう。理由だったり方法だったりは分からんが。
とにかく俺達を助けてくれるんだったら、やるべき事は一つだ。
「おい、ピンク頭!!」
「だっ、誰がピンク頭よ!風穴開けるわよ!?」
「俺よりもこっちのバカを助けてくれ!俺は自分でどうにかする!」
「!……分かったわ!」
大型拳銃をホルスターに戻し、俺達の頭上を通る女子生徒と短い会話をし、横を向けばキンジが驚いた顔をしていた。
「りゅ、竜牙はどうすんだよ!?」
「言ったろうが、俺は自分でどうにかするって。お前はあのピンクあ「風穴!!」……あの子に助けてもらえ」
俺はキンジにそう言ったのを最後にペダルに掛ける力を
それに────
「やっぱいたか」
ビルの合間や横道などから出てきて俺を追ってくる5台のセグウェイ。さっき女子生徒に壊された2台と同じく、それぞれにスピーカーと銃座から俺に銃口を向けるUZIが載せている。キンジと走ってた時に似たような形がチラチラと見えてたからもしかしてとは思ってたが。
「この辺でいいか」
この追いかけっこを終わりにする為わ俺が辿り着いたのは高さが低い建物が比較的多い場所。俺はそこで、
「よっ────はっ!」
「
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤドンッ!!!
まるで大砲の弾を撃ったような大きな音が鳴り響く。真上へと蹴り飛ばされたチャリは一瞬にして遥か上空にまで届き、次の瞬間には閃光と轟音が大空に響き渡った。
────チャキッ。
「遅い──────
チャリに向けられていた銃口が俺に向き直るが、既に手遅れだ。鞘に手を添え、黒羅を引き抜いて……カチン、と納める。
ほんの一瞬の後、後ろを振り向けば、セグウェイもUZIも銃座も、全て俺に斬られてバラバラとなり、ガラクタの山となっていた。
ドガアアアアアアンッッ!!!
「おっ」
少し離れた場所で大きな爆発が起きる。キンジもあの助けに来てくれた女子生徒も無事だといいんだが。
「……なーにしてんだよ、キンジお前?」
爆発が起きた場所から桜の木に引っかかってたパラグライダーを見つけ、その先にある扉が外れた体育倉庫の中を覗けばあの女嫌いのキンジがさっきの女子生徒を抱っこしてた。
正確には防弾製(というか武偵高じゃほとんどの物が防弾製)の跳び箱にハマったキンジの上に気を失った女子生徒が覆い被さってるだけだが。
「女は嫌いって言いながらこんな小さな子はアリなのかよ?お前、ロリコンか」
「んなわけないだろ!?いいから早く助けろ!」
「へいへい」
しっかし……よくは見てないが、体格は中等部……いや、最近始まったインターン制度で入ってきた小学生と言われてもおかしくない位にはチビっ子だな。
「ヘ……ヘ……」
「あん?」
「ヘンタイー!」
突然聞こえてきた声はどこか聞き覚えのあるアニメ声みたいな、ちょっと鼻にかかった幼い声。
「さっ、さささっ、サイッテー!!」
意識を取り戻した女子生徒がばっ!とブラウスの前側を下ろしたのが分かった。あー……キンジが邪魔して気付かなかったが、どうやらブラウスがめくれてたらしい。つまりは下着をキンジに見られたってわけか。哀れキンジ。
「おっ、おい、やっ、やめろ!」
「このチカン!恩知らず!人でなし!」
ばかぽこばかぽこ!と、女子生徒のあまり痛そうに見えないパンチがキンジの頭を襲う痴話喧嘩が始まった。
「……どうでもいいけど、そこで痴話喧嘩してる二人」
「っ!?いきなり誰よっ──ってああ、アンタ、無事だったのね」
「っ!?」
今まで下にいるキンジに顔を向けていた為、今までどんな子なのか分からなかったが……俺はこの子の顔を知ってる。髪色が
「お前、もしかして────」
「っ!!横に飛びなさい!!!」
彼女がそう言い、キンジと共に跳び箱の中へと隠れたのを見て俺は咄嗟に自分の状況を判断し、横へ飛んだ。
────ガガガガガッ!!
「ちっ!」
体育倉庫の壁へと隠れる前に飛んできた何十発もの弾の一部を黒羅で弾き返し、俺は無事に安全地帯へと逃げ込む。
「まだいんのか……」
壁に隠れつつ外の様子を見れば18台のセグウェイが18丁のUZIをこの体育倉庫へと向けている。キンジ達は跳び箱が防弾製だった事で助かったらしく、すき間からセグウェイに向かって銃弾が撃たれていく。位置的にも行動の早さ的にも撃ってるのは彼女だろう。
ズガガガッ!ガキンッ!
弾切れの音が跳び箱の中から聞こえた。一方、セグウェイ18台も一度退き、今は並木の向こうに隠れている。
「強い子だ。それだけでも上出来だよ」
「……は?」
「おっ?」
何したか分からんがなったか、あのモード……ヒステリアモードに。
「きゃっ!?」
「ご褒美に、ちょっとの間だけお姫様にしてあげよう」
そう言って彼女をお姫様抱っこしたキンジが跳び箱から倉庫の端────というか、俺のすぐ近くに着地した。
「よぅ、相変わらずのキザったらしい言葉をどーも」
「本人に向かって言うかな、普通?」
「別に今更だろ」
積み上げられたマットの上にちょこんと座らせられた彼女を尻目に、俺達はいつも通りに言葉を交わす。
「な、なな、なによ……!?ど、どうしちゃったのよこいつ!?キャラ変わり過ぎよ!?」
「まぁ、簡単に説明するとこいつは────」
「竜牙、準備運動はいいか?」
ズガガガガガガンッ!!
「んだよ、もう来たか」
「姫はそのお席でごゆっくり、な。銃なんかを振り回すのは、俺達だけでいいだろう?」
「俺は刀だけどな」
俺は鞘から黒羅を引き抜き、キンジはマットシルバーのベレッタ・M92Fを抜いて、奴らの射撃線が交錯するドアの方へと歩いていく。
「あ、危ない!撃たれるわ!」
「俺も今のキンジも撃たれねェよ。だからそこでちょっと待っとけ。────
「…………えっ?」
後ろを僅かに見れば、アリアの紅い瞳が真ん丸になっていたのが特に印象的だった。