キンジが持つヒステリアモード(正式名称ヒステリア・サヴァン・シンドローム)という特性は……まぁ、簡単に言うと“性的に興奮すると強くなる“、以上。
つっても俺みたいに物理的に強くなるわけではなく、思考力・判断力・反射神経などが飛躍的に向上するのだ。
しかしキンジが女嫌いの理由は、このモードの発動条件だけではない。曰く、ヒステリアモードとは男が子孫を残す為に、女を守ろうと大なり小なりパワーアップする本能が異常に発達したものらしい。
その結果として、“女子を何がなんでも守りたくなってしまい“、“女子に対してキザな言動を取ってしまう“状態になるのだ。そのせいで中学時代は一部の女子にイジメの復讐などに利用されたと聞いてる。
しかも、その力のせいで実の兄を失ったと考えてるとなりゃあ……な?
「来いよ、ポンコツ共。俺はアリアに聞かなきゃならねぇ事があんだよ」
セグウェイ11台にそう言った瞬間、一斉にUZIが火を吹いた。というかこっち2人なんだからもうちょっと分けて来いよ。まぁ、何台来ようが負けるつもりはないが。
「閃滅!」
空中で細切れにされ、地面に向かって落ちていく鉄クズの雨の中を駆け抜ける。UZIの正面まで迫った所で、俺は黒羅を逆手に持ち、勢いよく振りかぶった。
「
薙ぎ払われる黒羅の切っ先がまるで鋭い爪のように次々とUZIに突き刺さり、貫き、叩き潰していく。それを止める事なく反対側からもう一度放てば、UZI及びセグウェイは11台の内、8台が破壊された。
────ズガガガガガガガッ!
残ったセグウェイ3台が、同時にUZIを撃ってくる。しかし弾が俺がいた場所に届く頃には、俺は斜めに並んだセグウェイ3台の遥か上を飛んでいた。
「
落下重力を利用した一太刀がUZI3丁とセグウェイ3台を両断し、車輪を片方失くしたそれぞれはバランスを取る事も出来ずに左右に倒れた。
「ふぅー……そっちはどうよ、キンジ」
「終わったよ。……それにしても相変わらずの強さだな。弾を、しかも何十発も斬るなんて」
「視て、腕を動かせば誰でも出来るぜ?」
というかチラ見したけど、一度に銃弾7発を正確に全部UZIの銃口内に撃ち込めるのも大分凄いと思うぞ?ま、まぁ、俺よりはハードル低いし。俺だって3発くらいまでなら同じ事が出来るはずだし。
「悪いけど、俺はまだ人間を辞めたくないんでね」
「俺だって人間だわ」
そりゃ親父みたいに戦車やら戦闘機やら戦艦やらを相手に単身で戦ったんだったら人間を辞めてると言われてもしょうがねぇけど。
「……んで?何でアリアは跳び箱に入り直してんだよ?気に入ったのか、そこ?」
体育倉庫に視線を向けると、何故かアリアが跳び箱の中に戻っているのだ。そしてぼーっと俺達を見ていたが、俺に声を掛けられるとハッとして跳び箱の中へ引っ込んでしまった。
……いや、何でだよ?
「な、何であんたが教えてもないあたしの名前を知ってるのかは後で聞くけど……お、恩になんか着ないわよ。あんなオモチャぐらい、あたし1人でも何とかできた。これは本当よ。本当の本当」
……?『あたしの名前』って言ってる時点で本人確定なんだが……どうやらあっちは俺の事に気付いてないらしい。まぁ、何故か髪色と瞳の色以外は昔と瓜二つなアリアと違い、俺は身長も伸びたし顔立ちも少し変わったしな。
「そ、それに、そっちのあんた!今のでさっきの件をうやむやにしようったって、そうはいかないから!あれは強制猥褻!レッキとした犯罪よ!」
ちなみにそのアリアは何やら跳び箱の中でうごめいてる。どうやらスカートを直してるらしいが、ホックが壊れたのかうまくいかないらしい。
「……おい、キンジ」
「なんだい?」
「お前がそれになった理由って、まさかアリアのスカートを────」
「それは断じてないと誓えるよ」
まぁ、多分何かの拍子に壊れたんだろう。仮にキンジがホックを壊したとしても、故意ではなく事故だろうし。
「アリア、それは悲しい誤解だ」
「誤解ですって!?」
キンジかズボンを留めるベルトを外し、跳び箱に投げ入れてから少し時間が経った後。アリアは跳び箱の中からキンジのベルトでスカートを留めて出てきた。
ふわ、と見るからに身軽そうな体が、俺達の正面に降り立つ。
……うん、何度も確認するがやっぱアリアだ。昔と変わらず背はちっこい。確かあの頃は142……今もツインテールを留めてるツノみたいな髪飾りを上乗せしても145ねぇな。
「ちょっとは落ち着けよ、アリア」
「……あんた、さっきからあたしを誰かと勘違いしてるんじゃない?あたしは、あんたとは会った事も……な……い……?」
俺をじっと見つめるアリアの声が段々と勢いを失くしていき、ついさっきと同じく瞳を大きく見開く。……やっと気付いたか?
「ね、ねぇあんた……名前は?」
「黒堂竜牙。これで俺が誰だか分かったか?」
「竜牙っ!?ほ、本当に竜牙なの!?」
今までの中で一番驚いた顔をするアリア。まぁ、当然っちゃ当然か。出会ってしばらくはよく顔を合わせていたが、今じゃたまに電話やメールでやり取りするくらいだしな。だがそれでも東京武偵高に転校してきてんだったらメールの一つでもしてほしかったな。
「ほ、本当に……?」
「んだよ、信じられねぇのかよ?」
「だ、だってあんた、そんなに昔髪伸ばしてなかったじゃない。そ、それに……」
まぁ、確かに髪は伸ばしたな。今じゃ肩に届くくらいには伸ばしてるし。そしてアリアは髪以外にも何か言いたい事があるらしいが、顔を赤くして俯いたまま黙ってしまっている。
「それに……その、かっこよくなってるし……」
……かっこよく?
「え、マジで?俺、かっこいい?」
「う、うん」
「なぁ、キンジ。お前はどう思うよ?」
「その前に同じ男の俺に聞く意味はあるのかい?」
あっ、確かに。言われてみれば、同性のこいつにかっこいいなんて言われても気持ちわりぃだけだわ。
「ところで質問をしてもいいかい?」
「何だ?」
「何よ、強猥男」
「アリア、その呼び名は訂正してもらってもいいかな?」
「じ、事実じゃない。あ、あたしが気絶してるスキに、ふ、服をぬ、ぬぬ、脱がそうと……!」
あー……話が進まないし、ちょっとここはキンジの味方しておくか。
「アリア、それはあの爆風が原因らしいぞ?それにこいつだって1人の武偵だ。そんな事をするような奴じゃない。親友の俺が保証してやる」
「竜牙……」
「……分かったわよ。龍牙が嘘言うわけないものね」
いや、信頼してくれるのは嬉しいが流石に嘘を言った事はあるぞ?
「話を戻すけど……竜牙とアリアは知り合いなのかい?アリアはすぐには気付かなかったみたいだけど」
「俺、中学時代はほとんどイギリスにいたんだよ。それでアリアと会う機会がたまたまあったんだ」
「そうね。初めて会った時は色々あったけど」
突然何者かに撃たれたのを色々あったで済ましていいのか分からんが、自慢するような事じゃないしな。結局、あの時の犯人は捕まえるどころか誰なのかすら判明してないし。
「イギリスに?……ああ、なるほど。そういえば竜牙の母親はイギリス人と日本人のハーフだったね」
「ああ」
つっても中学以前からお袋の実家にはよく行ってたけどな。中学時代は色々あってイギリスで過ごしたけど。
「そうだ。アリア、俺もおまえに聞きてぇ事があんだけど」
「何よ?」
「何で髪色と瞳の色が変わってんだ?おかげで最初分かんなかったぞ」
「ああ、これ?実は────」
「なのに背は低いままだし。インターンで入ってきた小学生かと思ったぜ」
俺のその一言にアリアがピシッと固まる。……あ、やべ。地雷踏んだ。そういやアリアの奴、昔からチビなの気にしてたっけ。完全に忘れてたっていうか……思った事が口に出てしまっていた。
「りゅ・う・が~?あんた、誰が────」
「えっと……ちょっと待て、俺が悪かったから落ち着けって。小学生って言ったのは撤回……あ」
「だ!れ!が!小学生よ!!」
アリアが左右のホルスターから銀と黒のガバメントを抜き、撃ってきやがった。弾丸は頭部を狙っていたが、俺は全ての弾を黒羅で斬り刻み、窮地を脱出する。
「躊躇いなく頭狙うんじゃねぇよ!?」
「うっさい!竜牙ならそのくらい余裕でしょ!!」
いやまぁ、確かに余裕っちゃよ『パァン!』『ガキンッ!』最後まで言わせろよ!?途中で撃ってくんな!
「くそっ……キンジ、逃げるぞ!」
「りょ、了解!」
「待ちなさい!やっぱりあんたも、強猥の現行犯で捕まえて風穴開けてやるわ!」
「いっでぇ!?」
あ、ヒステリアモード切れてる。数分しか持たないんだっけか、あれ。
「たくっ、しゃあねぇな!」
アリアが撃ってくる弾を黒羅で防ぎつつ、キンジと共に走り出す。俺のせいとはいえ、今のアリアを止める術はない。あるとすれば、それは時間の経過だけだ。
「待ちなさいーっ!でっかい風穴あけてやるんだからーっ!」
「あけられるもんならなっ!」
「か……勘弁してくれーっ!」
これが後に『
後に『緋弾のアリア』として世界中の犯罪者を震え上がらせる鬼武偵、神崎・H・アリアと。
そして後に『
硝煙と斬った鉄のニオイにまみれた、面白くもちょっと危ない出会いと再会だった。