ひとまずはバレずに最後までいってもらいます。
誤字報告ありがとうございました。
「詰める」については「相手にきびしくせまる。追い込む。」という意味があるので一応間違いではないです。
ちょっと加筆しました。
漏瑚は山奥で五条にやられた傷を癒していた。
真人もかなりのダメージを負っていた。
呪力を振り絞った領域展開は宿儺によって呆気なく破られた。まだ指二本分だけのはずなのにあの存在感。真人たち呪霊とはそもそも魂の格が違う。
宿儺さえいればこれから先、呪いの時代がやってくると確信した。だが、なぜか宿儺は虎杖の縛りを受けなかった。
「宿儺の器はどうだった」
「天敵なうえに思ってたよりずっと強かったよ」
真人は悠然と湯の中を泳ぐ。
真人は率直に言えば虎杖をナメていた。宿儺の器であろうと、所詮まだ理想と現実が一致していないバカなガキだと思っていた。
そんな慢心が誤算に繋がった。
特に最後の一撃。あれをもろに食らっていたら真人は確実に
本来なら虎杖を下して宿儺を仲間に引き入れる予定だったがあの様子だとかなり厳しそうだ。
宿儺を関心をこちらに向けさせるなら夏油に言われた通り、指を集めて献上してしまうのがいいだろう。
しかし、困ったことに真人は虎杖を殺したくてしょうがない。
もちろん目的のために殺意は引っ込めなくてはならないが、魂は何度だって殺せる。その取っ掛かりは既に得ている。あの時は何も考えずに殺してしまったが、あれが分身であるならば見つけるたびに繰り返し虎杖の目の前で殺せばいい。吉野の時もだったが、あの術師を殺した後の虎杖の反応はそれはもう吐き気がするほど笑えた。
「あ、そうだ。虎杖といた別の術師がさ、全然強くなかったんだけど
ピクリ、と夏油の眉が動いた。漏瑚も関心がわいたのかわずかに身を乗り出す。
「避けた?」
「何て言えば良いかな。最初見たときは確かにそこに生きてたのに、魂まで届かなかったんだよね。てっきり本体だと思ってたのに分身?だったって言うか。でも死体が残ってたからただの分身ってわけでもなさそう」
「なんだその術は。気色の悪い」
「でも利用し甲斐はありそうだよ。アイツを殺したら虎杖のヤツ面白いくらい動揺してたし」
「つまり虎杖悠仁の弱みか」
「多分ね。あと、宿儺にも面識あるっぽいんだよねー」
夏油は真人の言っている人物に心当たりがあった。
以前に宿儺の指を取り込んだ呪胎が少年院に現れたとき、派遣されたのは虎杖を含めた四名。そのうち二名は戦線を離脱。虎杖ともう一人が生得領域に残ったと聞く。
気になったのはその件での死亡者が虎杖ただ一人だけだったということ。
生得領域に残ったはずのもう一人は生還した。
呪術師とはいえまだ大した戦闘経験もないであろう人間がそんな環境で生きていられるとは考えにくい。それこそ、
これは面白いものを見つけたかもしれない。
夏油は人知れず口角を吊り上げた。
交流会当日。五条と七海は時間まで待機していた。五条は長い足をテーブル上に投げ出し、退屈そうにしている。
「七海ー、なんか面白い話してー」
「断ります」
「じゃあ廃棄シュークリームでキャッチボールしながら教育委員会の闇を暴露しよう。動画にしてサイトに上げようぜ」
「お一人でどうぞ」
「ナナミンのー!ちょっといいとこ見てみたーい!」
「その手のノリは虎杖くんに。今バカっぽさが必要なのは彼の方でしょう」
叩いていた手を止めて五条は黙る。
虎杖はそれなりに回復してきたように見える。あくまでもそれなりにだ。今でこそ普段通りに戻ってきているが、少し前までは笑った後にふと思い出したように表情が陰る瞬間があった。
強くなるために重めの任務を受けてもらうとは言ったが、里桜高校の一件は虎杖自身が思っている以上に尾を引いているのは明白だった。
「重いってそういう意味じゃなかったんだけどなー」
ため息をつき、ずり落ちてきた目隠しを押し上げる。
「快里はどうだった?」
「素直でしたよ。あの様子なら同じことは繰り返さないでしょう」
「ちなみに何て叱ったの?」
「『常に共にあることが正解ではない』と」
「……オマエに頼んで正解だったよ」
天坂は虎杖に対して献身的すぎる節がある。
人知れず術を使って虎杖に形代を同伴させたのも虎杖の身を案じてからということは伊地知から聞いている。というか詰め寄って吐かせた。
友達を想うことが悪いわけではない。しかし、形代が死亡したであろう時刻とほぼ同時に天坂自身が体調不良に見舞われたと伏黒に聞いた。死んだ分身の記憶を引き継げるなら、彼の脳内に何が起こったかなんて容易に想像がつく。『形代が死んでも本体が生きているからオッケー』なんて判断を繰り返していたら先に天坂の精神がおかしくなってしまう。
だからこそ現場にいた人間からの指導が必要だと思った。
五条は七海を信頼している。社会経験があるというのもそうだが、七海は失う側の痛みを知っている人間だ。
少なくとも、五条では先ほどのような言葉は出てこない。
「で、指は?」
「上に提出しました。あなたに渡したら虎杖くんに食べさせるでしょう」
「チッ」
「おーい、先生ー!あ、ナナミンもいる」
明るい声とともに虎杖がやって来た。仲間との再会に胸を躍らせ目を輝かせる虎杖に暗さは微塵もない。その様子に七海は心の中だけで安堵した。やはり強い子だ。
早く早くと急かす虎杖に五条は真剣だった表情を引っ込めてニヤリと笑う。
「まさか悠仁、ここまできて普通に登場するつもり?」
「エッ違うの」
「死んだはずの仲間が実は生きてたー、なんて呪術師やっててもそうないよ。というわけで」
ビシッと虎杖に人差し指を突き立ててキメ顔を作る。
「やるでしょ、サプライズ」
「サプライズ…」
いまいちピンと来ていなかった虎杖も五条の熱弁、という名の悪ふざけの提案に乗り気になったのか即答で是を返した。
やれどうするか、なにすればいいかと賑やかな会話を聞きながら七海は英字新聞に視線を落とした。
「許さんぞ乙骨憂太ー!会ったことねぇけどよー!」
釘崎の元気な絶叫を聞きながら天坂は考えていた。
ついに来た交流会。時系列通りに進んでいるなら途中で花御と呪詛師たちの介入がある。が、少しだけ気がかりなことがある。
今は本当に原作通りに進んでいるのかということだ。以前は深く考えていなかったが、五条にさり気なく聞いたところ、やはり吉野のイジメの主犯だった生徒は死亡していたらしい。こちらに影響があるほど大きな変化ではないが、不安なのはその改変が天坂の存在によって引き起こされただろうということだ。
本来なら虎杖が体育館に乗り込んだことで犠牲者は出なかったはずのところを自分が出発前に虎杖を引き止めたことでズレが生じた。時間にすればわずかなズレだが結果として原作にない出来事が起こっている。無事に渋谷事変を迎えられるのか若干不安になってきた。先の展開を知っているというアドバンテージが機能しなくなるのは勘弁してほしい。
本音を言えば東堂、虎杖と花御の戦いに介入しようと思えばできるが入れない、というより入りたくない。
戦いが人間離れしすぎているのに加えて、東堂と虎杖の間に生まれる謎世界観について行ける気がしない。傍から見てる分には面白いけどあれマジで何なんだろう。
「大丈夫か」
伏黒に声をかけられたことで思考を中断する。
「ああ、悪い。考え事してた」
「来たぞ」
伏黒の視線を追うと京都校の面々が揃っていた。
釘崎は早速血気盛んに絡んでいっている。ぼんやりその様子を眺めていると東堂と目が合った。なぜか射殺さんばかりに睨まれる。即行で目を逸らしたがまだ視線を感じる。
「なあ、東堂さんすげーこっち見てないか。何したんだ」
「オマエと一緒に半殺しにされかけた記憶しかねぇよ」
「半殺しになってたのは形代だけでオマエ軽傷だっただろ」
「仕方ないだろ。あんなゴリラと真っ向からやり合ったらまず死ぬって」
ひそひそ話し合っているとようやく五条がやって来た。
「おまたー!お土産持ってきたよー!」
出張土産の謎の人形を京都校生たちに配ってから、台車に乗った箱をくるりと東京校生に向ける。人一人入りそうな箱が揺れ、中から出てきた人影が蓋を吹っ飛ばす。
「はい!おっぱっぴー!」
「故人の虎杖悠仁くんでーす!」
満面の笑みで箱から飛び出した虎杖に場が静まり返った。伏黒と釘崎は盛大に顔を引きつらせている。
「あれ!?全然ウケてない!?」
独特のポーズのまま固まる虎杖を天坂が笑いをこらえながらスマホで撮影する音だけが場違いに響いた。
虎杖生存サプライズが見事に滑ったあと、東京校の面々はミーティングを行っていた。
「あのー、これは見方によってはとてもハードなイジメなのでは?」
「うるせえ、暫くそうしてろ」
「ていうかなんで俺まで」
虎杖は遺影の額縁を持たされて正座させられていた。その横で天坂も同様に正座させられているが、膝に釘崎の藁人形が置かれている。暗に「動いたら共鳴りの刑に処す」と言われているようなものだ。
天坂の言葉に釘崎のこめかみに血管が浮く。トンカチを天坂の頬にごりごりと押し付ける。
「『なんで』?オマエ虎杖生きてんの知ってただろ?妙にリアクションうっすいと思ったわ」
「いやまあそれは口止めされてたし…」
「こっちがどんだけ心…、情けねぇ面するかと思ってたのによぉ」
「いででで尖ってる方はやめてくれ」
釘抜き部分で肉を削る勢いで頬を擦られる。
悪いとは思っているので抵抗せずやられながら、やはり気を遣ってくれていたのか、と納得する。
表向きに虎杖が死んでから、
「悪かった。ありがとな、釘崎、伏黒」
「ヘラヘラすんな」
「悪かったって痛い痛い」
「そのへんにしてやれ野薔薇。で、どうする?人数増えちまったから作戦変えるか」
「おかか」
「そりゃ悠仁次第だな」
「殴る、蹴るなら得意っすよ」
「そういうのは間に合ってんだよなぁ」
ショックを受ける虎杖を一瞥してから伏黒が補足を入れる。
「コイツが死んでる間何してたか知りませんが、東京校と京都校、両方が呪力なしで戦った場合、勝つのは虎杖です」
きっぱりと言い切る伏黒に二年生は目を丸くする。真希は視線を天坂に向ける。何を問われているのか察して先に口を開く。
「伏黒の言うとおり、肉弾戦でなら悠仁が圧倒的に有利です。体術だけなら東堂さんに並ぶでしょうね」
「へえ」
伏黒と天坂は以前に東堂と戦っている。その二人がここまで言い切るということはかなり期待ができそうだ。
もともと天坂がいる時点でこちらには数の有利がある。うまく立ち回れば圧勝も夢ではない。
真希は不敵にほくそ笑んだ。
東堂はイラついていた。
下らない暗殺作戦も、高田ちゃんの推し活を邪魔されるのも気に入らない。
なにより、気に入らないのは東京校の天坂の存在だ。
以前、東堂は東京校に行った際に伏黒と天坂に会っている。そのとき天坂に女のタイプを聞いた。
曰く「笑顔が可愛いよく笑う子」だと。だが、それに違和感を覚えていた。どこか本音ではないと東堂の勘が告げていた。
戦い方も気に入らない。本体はのらりくらりと攻撃を躱し、分身の方は死んでも構わないといわんばかりの捨て身。実に漢らしくない。
人は追い詰められた瞬間に本音が出るものだ。今度こそ、それを引きずり出してやる。
高田ちゃんが出演予定の番組をつけ、東堂は推し活に意識を切り替えた。
東堂くんの光の親友パワーで主人公が消し飛ばないか心配になってきました。