光の東堂vs闇の天坂vsダークライvsまたしても何も知らない虎杖
気持ち悪さ三割増しです。ご注意ください。
天坂は別に東堂葵というキャラクターが嫌いなわけではない。
意味不明な言動とよく分からない気持ち悪さに隠れがちだが、一般家庭出身ながらに一級術師である実力派の人物だ。
生前の夏油傑が引き起こした百鬼夜行でも活躍していたそうだし、これから起こるであろう渋谷事変でもめちゃくちゃオイシイ所を持っていっている。虎杖と東堂の共闘はそりゃもう文句なしに最高にカッコよかった。カッコイイのだが。
呑気に紙面上の戦いを眺めていたときから思っていた。
コイツとは絶対馬が合わないだろうな、と。
「何やってんだよ東堂!」
「止めてくれるな虎杖。これは男と男の真剣な話し合いだ」
「話してねぇじゃん!ノータイムでぶん殴ってたじゃん!なんで快里に手ェ出す必要があんだよ!」
「必要さ。
マジでなんだこれ。
痺れを取ろうと腕をプラプラさせながら天坂は言い争う二人を眺めていた。状況的には急襲してきた東堂を虎杖が諫めようとしているのだが、会話だけ聞くと娘が連れてきた婚約者を殴った父親とそれに怒っている娘という感じである。しかし残念ながらここにいるの全員男だ。
さて、ここで逃げようものなら東堂は呪霊になど目もくれずこちらを殺しに来るだろう。それはいろんな意味で非常に困るが、東堂の求める答えがいまいち分からない。
天坂はげんなりしながら渋々口を開く。
「あの、前にもう女子の好みは言ったんですけど」
「違うな。オマエはまだ本音を隠しているだろう」
なんで分かるんだよ怖いわ。
好みのタイプが「笑顔が可愛いよく笑う子」というのも嘘ではない。
ピンク髪の魔法少女しかり、金髪ツインテールのセーラー戦士しかり、笑顔というのは曇らせ展開において非常に重要な要素であると天坂は個人的に思っている。それはもちろん虎杖にも当てはまる。
普段から笑っている人物ほど、虚を突かれた瞬間の表情の落差が分かりやすくてとてもイイ。眼前にした絶望に、上がっていた口角がストンと落ちる瞬間だけでご飯三杯はいける。
そんなことを馬鹿正直に言えるわけがないのだが。
こう、もっと良い感じの言い回しがないだろうか。この目の前のゴリラを納得させ、かつ嘘にもならない『本音』。
心配そうにこちらを見ている虎杖と目が合った。
さすがに虎杖の前で「罪悪感と絶望感に打ちひしがれる女の子の姿が最高に可愛いし興奮する」だなんて言えるはずがない。
軽率に言って変態の烙印を押されるだけならまだしも、もし虎杖に拒絶されて縁を切られてみろ。プライドとか精神年齢とかいろいろなものをかなぐり捨てて本気で泣く自信がある。
かと言って「虎杖くんです♡」と答えてもまたあらぬ誤解が生まれる。
推しではあるし人間としてもとても好ましいとは思うが、結婚したいとか
だって可愛いんだから仕方ない。虎杖が可愛いのが悪い。
思考が明後日の方向に飛びかけたところで再び
一瞬視界がブレる。突然目の前に東堂が現れたことで、虎杖と自分の位置が入れ換えられたと理解しても対応が追い付かない。
脇腹を狙った鋭い蹴りが飛んでくる。呪力のガードをものともせず、防御で上げた天坂の腕ごと胴に蹴りが突き刺さった。骨からメキメキと嫌な音が鳴る。
「い゛っ」
「どうした。答えないならここで殺す。つまらん答えでもどの道殺すがな」
殺すんかい。どうしろってんだ。
身体にまとう呪力の流れを防御から受け流しへと切り替える。焼け石に水な気はするが防御を突破されて直撃をくらうよりいくらかマシだ。
といっても東堂の動きを捌ききれるわけでもなく、受け流しきれなかった拳が顎に入った。衝撃で脳が揺れる。女子の好みの話をする余裕なんてない。なんでボコられてるかもだんだん分からなくなってくる。
こっちの打撃はたいして効いている気がしないし、東堂はよく分からないし、虎杖の曇らせが見られるわけでもないしで正直帰りたくなってきた。
「やめろって東堂!」
割って入ろうとした虎杖と天坂の位置が再び入れ替えられる。なおも掴みかかろうとする虎杖を今度は東堂自身と入れ替える。
「すまない
「……はあ?」
威圧するような声を上げたのは天坂だった。
普段の穏やかさを微塵も感じさせない声色に虎杖はぎょっとして天坂を見る。
「悠仁の親友は俺ですけど?」
「何を言う。俺と
「アンタのは全部妄想だろーが!こちとら小三からだぞ!現実で十年近くの信頼と実績があるんだよ!」
「絆に時間の長さは関係ない。現に俺と虎杖は心の奥底で通じ合っている」
「それは単なる性癖の一致だろ!」
ぐらつく頭のまま振るった拳はあっさり受け止められるが、咄嗟に腹に呪力を集中させてカウンターの掌打のダメージを抑える。
天坂は殴られてまくってだいぶ思考が鈍ってきているのと、溜まりに溜まったフラストレーションで半ば自棄になっていた。
本心を見せないための言葉を選別しての会話をする余裕もなく、思っていたことをぶちまける。
「何言われようと俺の答えは変わんねぇよ!笑顔の可愛い子が好きだ!どんなに過酷な状況でも誰かのために血反吐吐きながら立ち上がって、足引きずりながら前に進める人が好きなんだよ!その人のためなら一緒に地獄くらい落ちてやる!」
最終的に報われるなら、その過程でどれだけ曇らせてもいいと誰かが言ってた気がする。
だから繰り返し崖から突き落としたいし、這い上がるのを隣で応援したい。
「俺は!(曇らせを見るために)隣にいられれば幸せなんだよ!」
東堂は一瞬目を見開き、動きを止めた。
「なるほど。ようやく腹の底を見せたな」
唐突に東堂は構えを解いた。東堂の脳内でどんなやりとりがあったか分からないが、なぜか切なそうな顔で天坂を見てくる。
「妙に具体的な物言いだと思ったが……。分かるぞ。近い存在だからこそ、言えない気持ちというのはあるものだ。俺も高田ちゃんにまだこの気持ちの全てを伝えられてはいない」
「…………ん?」
予想外の返しに熱に浮かされていた頭が冷えた。
東堂の言っている意味を図りかねる。てっきり「やっぱりつまらん」とかなんとか言われて切り捨てられるかと思っていたが、なにかおかしい。
東堂はなぜか目尻に浮かんでいる涙を拭いつつ語りかける。
「愛というのは誰に止められるものでもない。もちろん、自分自身にも。だが伝えずにただそばで相手の幸せを願うというのは、美談ではあるが苦しいだろう」
「……えっと、何か誤解がある気が」
「いい、皆まで言うな。明け透けに言葉にするほど俺は野暮じゃない。しかし、オマエの気持ちを知った以上、なおさら
いやだから何の話だ。
本格的に混乱してきた。もともと話がかみ合うタイプではないと思っていたがまともにコミュニケーションが取れているかも怪しくなってきている。いったい何がこの男の琴線に触れたのか。
そこでようやく天坂は約一ヶ月前の東堂の言葉を思い出した。
好みのタイプを聞いてきたとき「男でもいいぞ」と言っていたことを。
「違う!!!」
推しだけど、親友だけど、そういうんじゃないから。
確かに虎杖のことは心から大好きだが方向性が違う。ただひたすら曇る姿が見たい。あわよくば自分がその原因となって一生の
そもそも
全力で否定するが、一度納得してしまった東堂が聞き入れるわけもない。
「同じ友を持つ者のよしみだ。胸を貸してやろう」
「いらん!やめろ!解釈違いだ!」
天坂が東堂に掴みかかろうとしたとき、森を覆うように帳が下りた。
一級術師の中に冥冥という術師がいる。
彼女の黒鳥操術はただカラスを操るだけというものだが、カラスに自死を強制させることで呪力の制限を解放する
命を懸けた『縛り』はその代償の重さゆえに強力な能力の底上げを可能にする。
カラスでそれほどの強さなら、人間だったらどうなるのか。
そこで身体能力も術式も凡人の域を出ない天坂がまともに戦うための方法を思いついた。ほぼノーリスクで支払うことができる強力な
かなり倫理的に問題があるが試してみる価値はあると思った。
虎杖が離脱していた期間、天坂はこの『縛り』を自分の術式にも組み込めないかと試行錯誤していた。
もちろん形代を複数出現させるのはかなり呪力を食うし、なにより管理がおざなりになるリスクもある。だから、
余談だが、伏黒と釘崎にそれとなく「こんなことできそうだよな」と相談してみたところ、釘崎には鬼の形相で説教をくらい、伏黒には道徳の教科書を渡された。
任務中に堂々と試すわけにもいかず、家入にもろもろの処理を頼み込んでこっそり試行するしかなかった。家入にもかなり嫌な顔はされたが。
今回は特級呪霊の出現という例外な状況であることだし大目に見てくれるだろう。多分。
東堂に絡まれる予想外の展開こそあったものの、これが特級呪霊である花御に通じるなら、天坂の望みにまた一歩近づける。
魑魅魍魎がはびこる地獄と化した渋谷で死に様を選ぶために、文字通り死ぬ覚悟で挑んでみようじゃないか。