君の傷になって死にたい   作:サイnon

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3.愚者一得

東京都立呪術高等専門学校。日本に二校しか存在しない呪術師のための教育機関であり、呪術界の要。

無数の寺社仏閣が立ち並ぶ広大な土地。うっかりすると迷いそうな敷地内を五条に連れられ虎杖と天坂は歩いていた。

 

「これから二人とも学長と面談ね。下手打つと入学拒否られるから気張っていこー!」

「ええ!?そしたら俺、即死刑!?」

 

笑いながら拳を天に突き上げる五条と叫ぶ虎杖。そんな二人を横目に天坂は背中に冷や汗が伝うのを感じていた。

 

しまった。夜蛾学長のことをすっかり忘れていた。天坂は内心舌打ちをする。

 

虎杖と高専に来れたことで浮かれていた。夜蛾との問答で彼の望む答えを出せなければこの学校にいられない。虎杖とも離ればなれだ。絶対にそれだけは避けなくては。

しかし、天坂に虎杖のような高潔な思考は存在しない。無理に取り繕ったところであのアウトレイジのような見た目の学長にはすぐ見破られるだろう。

かと言って馬鹿正直に「虎杖くんの苦しむ姿が死ぬほど好きなので一緒にいたいです!」とか口走ろうものなら仙台に着払いで送り返されること必定である。

どうしよう、これ詰みでは?

 

「なんだ、貴様が頭ではないのか」

 

唐突に低い声が響いた。虎杖の頬がぐぱり、と裂けてもう一つ口が現れる。

 

「力以外の序列はつまらんな」

 

すぐさま虎杖が頬を押さえて黙らせる。

 

「悪ぃ、たまにこうやって出てくんだ」

「愉快な体になったねぇ」

「キモい腹話術みたいだな」

「ひっで!そこまで言うか!?」

 

今度は押さえていた手の甲に口が現れる。なんというか、器用なものだ。

 

「貴様には借りがあるからな。小僧の体をモノにしたらまずは貴様から殺してやろう。その次はお前だ、ガキ」

「え、俺?」

 

まさか宿儺に指名されると思わなかった。ラスボス級の呪霊に殺害宣言されるのは中々すごいことではないだろうか。

 

「小僧はお前のことがたいそう大事なようだからなぁ。一等惨く殺してやる」

「なっ…」

 

天坂は想像する。

宿儺なら自分を殺した後、それを見せつけるため絶対に虎杖に代わるだろう。無惨な死体となり果てた自分を見て目から光が消え、涙する虎杖。

 

良い。全然良い。アリ寄りのアリ。

 

「させねぇ」

 

虎杖が手の甲に思い切り拳を打ち付けた。目の奥が怒りに燃えている。

 

「そんなこと絶対させないからな」

 

その様子を見ていた五条は笑う。

虎杖は他者のために本気で怒り、それを自身のエネルギーに変えるタイプだ。天坂という存在がいれば彼はこれから強くなるだろう。

隣の天坂をちらりと伺うと何かを堪えているような表情をしている。

まあ、守られてばかりというのは歯痒いのだろう。彼にも悠仁と同じくらい強くなってもらわなくては。

 

五条が今後の教育方針を固めている間、当の天坂はというと。

 

 

あー、その正義感に満ちた主人公然とした表情とても良いです。その顔が苦痛と絶望に歪む瞬間がたまらんのです。

 

 

碌でもない思考が漏れないように唇を噛んでいた。

 

 

「じゃ、最初は悠仁からね。快里はちょっと外で待ってて」

「はい。悠仁、頑張れよ」

「もちのロン!」

 

虎杖とハイタッチして、建物の中に入っていく二人を見送る。

さて、二人が戻るまでになんとか看破されない入学動機(言い訳)を考えなくては。

 

 

 

 

 

 

虎杖は河童に似たキモ可愛い呪骸に殴打され、床に転がった。

呪骸は呪いが込められた人形だ。いくらこちらが殴ろうと痛みで怯むということがない。

 

『俺はとにかく人を助けたい。そういう遺言なんで。後、守んなきゃいけない(親友)がいるんす』

 

そんな虎杖の入学動機に夜蛾はあっさりと不合格を叩きつけた。

家族も、親友も、他人の内。呪術師を続けるならある種の利己的なモチベーションが必要になる。それこそ、死刑を先延ばしにしたいといったような己のためのモチベーションが。

 

夜蛾は問う。

 

「もし、親友が己と袂を分かつことになったらどうする」

「は?そんなこと」

「ないとは言い切れないだろう。呪術師は己の精神との戦いでもある。親友が自身の望まない道に進んだとき、君は『今まで守ってやったのに』と親友に対価を求めるのか」

「……アンタ嫌なこと言うなぁ」

「気付きを与えるのが教育というものだ」

 

壁に背を預けた五条は何も言わずに成り行きを見守っている。

 

虎杖は河童に打撃を打ち込みながら思考する。

そんなこと考えたこともなかった。天坂が隣にいることは呼吸をするのと同じように当たり前で、年を食っても、どちらかが結婚しても、それだけは変わらないと思っていた。

将来、天坂が自分を必要としなくなったら。もう会うことすら無くなるのだとしたら。

 

「考えを改めなければ大好きな祖父や親友を呪うこともあり得るんだぞ。今一度問おう。君は呪術高専(ここ)に何をしに来た」

 

河童が強烈な拳を振り下ろさんと跳躍する。

虎杖は腰を落とし、両腕を広げた。拳が頬をかすめる。抱え込むように呪骸の体を捩じり、締め上げる。

 

「あいつを、快里を守るのは俺のためだ」

 

自分はまだ天坂がいないと立っていられない。

将来のことなど今は分からない。夜蛾の言うとおり、いつかまったく別の道に進む時が来るかもしれない。

だから、強くなりたい。天坂に寄り掛からなくても一人で立っていられるように。全てをひっくるめて天坂を守り、受け止められるように。来るべき別れの時に、彼のせいにしないためにも。

 

「爺ちゃんに、快里(あいつ)に恥じるような生き方はしたくない」

 

夜蛾がわずかに微笑んだ。

 

「悟、もう一人を連れて来い。寮の案内と諸々の警備(セキュリティ)の説明はその後だ」

「はいはい」

 

虎杖に手を差し伸べる。

 

「君は合格だ。ようこそ、呪術高専へ」

 

その手を取ろうとした瞬間、術式の解かれていない河童にぶん殴られて虎杖はまた床に転がった。

 

 

 

 

 

 

 

「お、お疲れ。どうだった?」

「合格!」

 

天坂に笑顔とVサインを見せる。今度はハイタッチではなく拳をぶつける。

 

「喜ぶのはまだ早いよ。快里が合格できるかどうかはまだ分かんないんだから」

「快里なら大丈夫だよ。な!」

「まあ、全力は尽くすよ」

 

これからは賭けだ。苦肉ではあるが一応言い訳は考えたし、自分の『術式の発動条件』も揃えた。後は、言葉選びと天坂の表情筋にかかっている。

せっかくここまで来たのだ。易々とこの地獄(美味しい展開)を手放してなるものか。

 

扉を開けた五条が口を開く。

 

「快里はさ、悠仁が自分と全然違う道に進むってなったらどうする?」

「え?うーん、そりゃ進路とか就職とかそういうので疎遠になることはあると思いますけど…」

 

数秒目を伏せてから、天坂は五条を見上げる。

 

「結局は他人だから、あいつの考えを全部理解するなんて土台無理な話です。でも、悠仁が望む限りは隣にいようってだけです」

 

目隠しをした五条の表情は読めない。ただ、短く「そっか」と呟いた。

 

 

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