君の傷になって死にたい   作:サイnon

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急に伸びてて虎杖曇らせ勢の多さに戦々恐々としてます。
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5.形代変転

「釘崎野薔薇。喜べ男子ども、紅一点よ」

 

尊大な態度で自己紹介をした野薔薇は同級生となる男子三人を見回す。

 

「俺、虎杖悠仁。仙台から」

「伏黒恵」

「天坂快里。俺も仙台出身。よろしく」

 

野薔薇はじとーっとした視線で三人を観察する。

ガキの頃にハナクソ食ってそうな芋臭い奴とカモメに火をつけてそうな仏頂面の奴。そして、先ほどから野薔薇をじっと見つめてくる奴。何だこいつ。

見た目は人畜無害そうだが、なんだか気に入らない。こちらに向けられる視線は変に野薔薇の警戒心を刺激してくるのだ。

 

「おいオマエ。なにジロジロ見てんだよ。ヤラしい目で見てんなら承知しねぇぞ」

「え?いや、可愛いなって思って」

「…ふーん、田舎者のくせにちょっとは見る目あんじゃない」

「釘崎も地方民じゃん」

 

警戒心よりも褒められた優越感が勝ち、ふんぞり返る。最後の虎杖のツッコミは無視された。

 

「……虎杖、天坂ってああいう感じか?」

「快里はわりとああいうとこあるよ」

 

ひそひそ話している伏黒と虎杖をよそに天坂は一人テンションが上がっていた。

 

やば、生野薔薇ちゃんめっちゃ可愛いな。

 

釘崎野薔薇はどこまでも気高く強い女性だ。自分を肯定し、戦うことを厭わず、仲間のために涙を流せる女の子。

なにより最高なのが彼女の存在がこれから起こる悲劇でかなり重要な位置を占めるということ。呪いの言葉を残すことはなかったが、彼女が倒れたことが虎杖の心に深刻なダメージを与えることを天坂は知っている。

惜しむらくは高潔すぎて彼女自身にあまり曇る要素がないことだろうか。

おっぱいのついたイケメンとはよく言ったものである。

 

「で、これからどこ行くんですか」

「よく聞いてくれた、快里。ようやく一年生全員が揃い、しかも四分の三はおのぼりさんときた」

 

目隠しで見えないはずの五条の目が煌めいた気がした。

「行くでしょ、東京観光」

 

虎杖と釘崎が分かりやすく顔を輝かせる。

やれTDLだの中華街だの論争を繰り広げているのを伏黒と天坂は一歩引いて見ていた。

 

「お前は加わらなくていいのか」

「いや、うんまあ…」

 

加わるも何も前世では東京在住だった。正直東京の思い出は通勤ラッシュやよく分からないアンケートや糞煮込みの職場の記憶の方が色濃くて素直に喜べない。

アキバなら行きたい。青い看板のアニメショップとかメロンな本屋とか。

残念ながら今は高校生のためアレソレ的な薄い本やゲームは買えない。ニトロなんちゃらやクロックなんちゃらにも手が出せない。年齢制限は守らなくては。エロとリョナと曇らせにおいては真摯でいたい。

 

そこまで考えて、気が付いた。

 

ここ呪術廻戦の世界なんだから呪術の薄い本とか無くない?

マジで無いの?四肢欠損とかえぐい曇らせ本とかも無いの?

まさか転生先でこんなジレンマに突き当たるとは思ってなかった。

 

一人だけ見当違いな方向で落ち込んでいる天坂を置いて、五条は行き先を発表した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「噓つきー!」

 

虎杖と釘崎の悲痛な絶叫が響いた。

 

目の前にそびえ立つのは明らかに呪いの気配を放っている廃ビル。裏手にある墓地とのダブルパンチで呪いが発生したらしい。

呪いは人の負の感情から発生する。それはもちろん場所から連想される恐怖も例外ではない。

 

「野薔薇と悠仁は呪いを祓ってきて。ま、実地試験みたいなもんだと思ってよ」

「あれ?快里は?」

「そうよ。こいつも新入生なんでしょ?つか二人きりとかヤなんだけど」

「ここの呪いなら二人いれば十分だよ。さ、行った行った」

 

屠坐魔を手渡し、二人の背中を押す。渋々といった表情で虎杖と野薔薇は建物へ向かう。やいやい言い合いながら遠ざかっていく後ろ姿を見送ってから伏黒が口を開いた。

 

「…良かったんですか。天坂を行かせないで」

「俺だけハブられるのちょっと悲しいんですけど」

「いーの。今回見たいのは野薔薇の方だし。あと、快里に聞きたいこともあってね」

 

思わず身を固くする。どうしよう、「なんか(よこしま)な気配しかしねーからオメーやっぱクビな!」とか言われるんだろうか。

 

「快里が鏡から出してた模倣(コピー)さ、あれただのコピーじゃないでしょ」

「あ、そっち?」

「逆にどっちだと思ったの」

「いやべつに」

 

そういえばこの人呪力がめっちゃよく見える目を持っているんだったか。六眼なら天坂の術式なんてとっくにお見通しだっただろう。

 

「俺はあれを形代(かたしろ)って呼んでます」

 

天坂の術式は『形代変転(かたしろへんてん)』という。正式名称ではない。天坂がそれっぽく適当に名付けたのだ。

鏡を媒介としてもう一人の自分を呼び出す、ただそれだけ。だが、分身とは異なる。

 

形代とは本来人型を模した紙の神具を指す言葉だ。人の霊や魂を宿すものであり、自分の身代わりとしてそれに穢れを移して焚き上げることで己を祓い清める。

 

天坂が呼び出すもう一人の自分は正真正銘『天坂快里』本人だ。呼び出した瞬間を起点として同一の記憶、思考、人格を有する。しかし、それはあくまでその時点までの話であり、そこから誰と関わりどういった生を歩むかは本体である天坂にも分からない。早い話がドッペルゲンガーである。

だからこそ、呼び出したときに言葉による縛りを課さなければならない。適当に放置したが最後、いつの間にか借金していたり人を殺していたりなんてことにもなりかねない。

 

もちろん実体なので殺されたら死体が残るし、リアルタイムでの記憶の共有なんて便利な機能も無い。

唯一記憶を共有できるタイミングは形代が鏡に戻るもしくは死んだ場合だが、あまりやったことはない。自分のものではない自分の記憶が流れ込んでくるのは中々混乱するのだ。

しかし、最近はこの記憶共有が有益だと考えを改めている。自分(本体)がいないときでも形代がいれば離れた場所でも虎杖の曇らせ展開を見逃さずに済む。

 

「もう一人の自分って、可能なのかそんなこと」

「実際できてるからな。俺もメカニズムはよく分かってない」

形代(身代わり)か、言いえて妙だね。で、それだけ?」

「…それだけです」

「あはは、嘘が下手だなー」

「先生相手でもほいほい開示しない方が良いでしょ」

「うんうん、その用心深さは良いと思うよ」

 

笑っている五条に冷や汗が滲む。一体どこまで見えてるんだこの人。

 

そのとき、ビルの上の階から何かが飛び出してきた。恐らくこの廃ビルに寄生していた呪霊だろう。

 

「祓います」

「待って」

 

構える伏黒を五条が制する。呪霊の体から棘が飛び出し、断末魔を上げながら墜落していく。

 

「良かった。野薔薇もちゃんとイカれてたね」

「見たいってそういうことですか」

「そ。ある程度イカれてないと呪いへの嫌悪や恐怖に耐えられないからね。恵はそういう呪術師見てきたでしょ」

「じゃあ、やっぱ俺も行った方が良かったんじゃ」

「悠仁と快里がイカれてるのは分かってたから問題ナッシング」

「え、悠仁はともかく俺はそこまでじゃないですよ」

「……普通の人間は親友と一緒に死刑にしてくださいとか言わないと思うよ?」

「…伏黒はどう思う?」

「…自覚無いのは割とヤバいと思う」

「うっそマジで?」

「マジ」

 

伏黒にそこまで言われるのはちょっとショックだった。特級呪物丸呑みにしたやつと同列ですかそうですか。

というかこの中で一番イカれてるのは間違いなく五条だろう。何しれっと「お前の方がヤバイ」みたいな顔してるんだ。

 

凹んでいると虎杖と釘崎が子供を抱えて戻ってきた。まだやいやい言い合っているが先ほどより二人の空気は柔らかいものになっている。青春だ、と思春期に女子とのキャッキャウフフな経験がない天坂はちょっと遠い目になる。分かりにくいだけで虎杖はモテるのだ。小沢が良い例である。

 

元気にビフテキと寿司を五条にせがんでいる二人を見る。

これで役者は揃った。あとはただ進むのみ。

 

 

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