君の傷になって死にたい   作:サイnon

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書き直したので再upです。前のとそこまで大きくは変わってないです。


9.一意奮闘

 

虎杖が匿われたのは地下だった。交流会までの間、ここで生活し強くなることに専念する。

五条に提示された課題は呪力の制御と呪術に関する最低限の知識を身に付けること。

 

今の虎杖は弱い。誰も助けられず、釘崎を一人にして、天坂を傷付け、伏黒を殺しかけた。

今のままでは顔向けが出来ない。

 

「強くなりたい。『最強』を教えてくれ」

「フッフッ、お目が高い」

「先生、自分で最強って言ってたけどね」

 

五条曰く、呪力はエネルギーであり、それを術式に流すことで様々な効果が得られるという。

残念ながら虎杖には術式はない。基本的に術式は生まれながらにして体に刻まれているものであり、分かりやすく言えば才能がかなりの比率を占める。よって虎杖が今進めるべきことは元来の身体能力を活かした戦い方を更に伸ばすことだ。

 

「悠仁は肉弾戦のセンスがピカイチだからね。それに呪力を上乗せする。下手な呪術よりこういう基礎でゴリ押しされた方が僕は怖いかな」

 

やる気なく大の字になっていた虎杖が目を見開く。

 

「でもでも!それなら俺もうできるぜ!」

「起きろよ」

 

頭に浮かんだのは少年院での戦い。特級呪霊に死に体で叩きこんだ一撃には確かに今までとは違う手応えがあった。

 

「じゃあ、やってごらん。どうせできないから」

「怪我しても知んないよ?」

「いいから、はよはよ」

 

ぐっと腰を落として渾身の一発を五条の手のひらに打ち込む。が、乾いた音が鳴るだけだった。

 

「篭ってなかったね、呪力」

「なんで!?」

「呪力は負の感情が源だからね。あの時の悠仁は怒りや恐怖に満ち溢れてたんだろう」

「なるほど、だから伏黒はいつもキレ気味だったのか!」

「違うヨ」

 

怒りや恐怖。あの時感じたのはもちろん呪霊や死への恐怖だったが、一番は天坂に頼らなければ踏み出せなかった自分自身の不甲斐無さだ。

 

「…もっかいやってみてもいい?」

「いいよ」

 

今度はゆっくり腹の底から息を吐いて、拳を構える。あの時の感覚を思い出せ。

右腕に力を込める。踏み込んだ一撃は五条の手にギリギリ届くことなく()()に阻まれた。

 

「あれ、またできてない?」

「いや、できてるよ。やるね」

「な!言っただろ!」

「ま、全然安定してないから訓練は必須だけどね」

「訓練?」

「皆わずかな感情の火種から呪力を捻出できるように訓練してるんだよ。術式は大体4~6歳で自覚するから、こっち(呪術界)とは無縁だった快里とかは子供のころから自然と呪力をコントロールするのが癖になってるんだろうね」

「…つまり、今一番俺が遅れてんの?」

「そゆこと」

 

凹んだ。これは早急に何とかしなければ。

 

「というわけで、悠仁にやってもらうのはこれ!」

「…映画?」

 

テーブルに山と積まれているのは様々なパッケージのDVDだ。

 

「そっ、映画鑑賞!名作からC級ホラー、地雷のフランス映画まで選り取り見取り。起きてる間はぶっ通しで見てもらう。コイツとね」

 

五条が取り出したのは夜蛾の呪骸だ。ボクサーグローブを着けた熊は五条の手では大人しく寝ていたのに、虎杖の手に渡った途端強烈なアッパーカットを見舞った。

映画を観つつ呪骸に呪力を流し続けることで、どんな感情下でも安定して出力を一定に保つことができるように訓練する。集中が切れればぶん殴られる。

まずは無傷で一本観通せるようになれなければ話にならない。

 

「なにから観る?これとかどう?ヒロインがすげームカつくんだけど最後派手に死ぬの」

「すんげーネタバレ」

 

DVDの山を漁っていると、前に天坂に勧められた作品を見つけた。コウモリをモチーフにしたダークヒーローの三部作。特に二作品目が好きだと言っていたような。

やはりちゃんと観るなら一作目からだろうかと考えていると熊のパンチが顔面にめり込んだ。

 

「もー!!」

 

呪骸を床に叩きつけた虎杖を見て五条はケラケラ笑う。

 

「どうする?やめる?」

「やる」

 

即答だった。

自分だけ置いて行かれてなるものか。もうあんな思いはしたくない。

呪骸を小脇に抱えて、一作品目をプレイヤーに入れた。

 

 

 

 

 

 

「健気なことだなぁ」

 

いっそ哀れなほどに。

折り重なる骨の山の頂上で宿儺はせせら笑っていた。

 

虎杖が宿儺の生得領域にいたとき、別にすべてを暴露してしまっても良かった。虎杖が心の拠り所にしている存在がいかに醜悪か見せつけて、絶望する姿を嘲笑うのも一興かと思ったが。

 

「あれを見ずに死ぬのは少しばかり惜しい」

 

言わずもがな伏黒恵のことだ。

途中で虎杖が身体の支配権を取り返してしまったことで見る事は叶わなかったが、近いうちに伏黒が何をしようとしていたのか、その全貌を見る事ができるだろう。それを見届ける前に終わってしまうのは勿体ない。

 

ただでさえ虎杖は身体はもう貸さないだの、無条件に生き返らせろだのと駄々をこねていた。そのうえ下手に天坂の本性を暴露して生き返らないと言い出されてはあまりにも面倒くさい。

 

宿儺は天坂の存在自体には大して興味がない。苦しみを嗜好とする考え方こそ呪霊に近しいが、その根底にあるのが他者への異常な好意というのがチグハグすぎて心底気色悪い。心境的には油虫(ゴキブリ)を見ている気分だ。

しかし、そんな気色の悪い存在は虎杖を生に繋ぎとめる楔となっている。これを利用しない手はないだろう。

 

あれ(天坂)はさして強くない。お前が死んでも、彼岸でまたすぐに会えるだろうな』

 

そこでようやく虎杖は聞く耳を持った。

宿儺が生き返りのために提示した条件は二つ。

「契闊」と唱えたら一分間身体の支配権を明け渡すこと。

そして、この約束を忘れること。

 

もちろん反発された。だから、一つだけ付け加えた。

 

『その一分間、望まない限り誰も殺さず、傷付けないと約束しよう』

『ふざけんな。そんなこと俺が望むわけねぇだろ』

 

宿儺があえて作った縛りの隙。

虎杖はその言葉遊びの意味を理解していない。

「虎杖が望むかどうか」ではない。「()()()()()()()が望むかどうか」である。

 

「これで貸し借りは無しだ。せいぜい面白おかしく踊ってみせろ、油虫(天坂)

 

 

 

 

 

強くならなくては。

 

天坂は禪院真希に一方的にボコられていた。

二年の先輩たちは最初こそ天坂に対して気遣わしげだったが、しごきが始まるとそんなしんみりした空気は一切なくなった。

離れたところからパンダに投げ飛ばされている釘崎の悲鳴が聞こえる。

 

「オマエさぁ、やる気あんのかよ」

「あります」

「ねぇだろ」

 

天坂の拳が真希の胴に辿り着く前に彼女の振るった長物が首筋に打ち込まれた。

 

「い゛っ」

「実戦なら今ので首飛んでんぞ。動きがガバガバ。ガードもしねぇ。オマエの動きは死にに行ってるやつの動きなんだよ」

「…そう見えますか」

「そうにしか見えねぇから言ってんだろ」

 

こわ。そんなところで本質を見抜かれるとは思ってもみなかった。

真希の言うとおり、今まで散々前に出ようと考え続けていたせいでそれがつい出てしまっている。これからは、それでは困るのだ。

 

このまま順当にいけば、一か月後虎杖は重要なターニングポイントに辿り着く。

吉野と真人。作品における屈指のトラウマ回。

真人は虎杖にとって特に因縁の相手であり、呪いという存在の醜悪さを知らしめた存在だ。

 

真人の術である無為転変は性能においてもビジュアル面においても作中随一の悍ましさと凶悪さを誇る。正直、魅力的ではある。だが、一つ問題がある。

被害者が多すぎるのだ。

原作内で真人の手にかかり散って行った人物は吉野をはじめとして、メカ丸こと与幸吉、七海、釘崎、そして大勢の名もなき一般人たちと多岐にわたる。

 

そこまで大人数と死因がかぶってしまうと印象が薄くならないだろうか。

 

死に方が同じとかなんだその最悪な天丼的展開。

改造人間や肉体破壊はかなりインパクトがあるが、そんなもの渋谷事変に突入してしまったら胃もたれするほど出てくる。善良な虎杖は一つ一つに心を痛めるだろうが、根が頑強であるゆえに積み重ならないと決定的な一撃になりえない。数ある傷の一つになるのは物足りなさがある。

 

できることなら唯一無二のトラウマになって死にたい。

 

天坂はだいぶ欲が出ていた。

宿儺が言っていた「まだその段階にすら立っていない」という言葉に加えて遺言シーンを見逃したことへの欲求不満。

今後の方針として、ただ死ぬのではなく最悪でも数年はトラウマとして引き摺って貰えるような終わり方を目指すことにした。なんなら一生背負ってほしい。

 

そのためには、やはり渋谷事変に介入するしかないだろう。

あの阿鼻叫喚の地獄でならきっとこの夢想は叶うはずだ。だから、積極的に死を目指すのは一旦取り止める。

地獄で死に方を選ぶなら、相応の強さを身につけなければ。

 

里桜高校事件に介入したい気持ちはある。めちゃくちゃある。しかし、吉野にはあまり会いたくないのだ。

 

だって、あまりにも死に方が羨ましいじゃないか。

虎杖に後々まで引きずるトラウマを植え付けるシチュエーションが理想的過ぎる。見に行ったら我慢できず真人に「俺を代わりに殺してくれ」とか言ってしまいそうだ。

そんなことをして吉野が生存してしまったら原作軸から大きく外れてしまう。でも吉野が死ぬのを見て絶望する虎杖はめっちゃ見たい。

 

本当なら自分が行きたいが、今回ばかりは形代を行かせるしかないだろう。

幸いにも虎杖と連絡を取ることは五条に許されている。それとなく進捗を探り、美味しいところを見せていただこう。

 

それに、さらなる曇らせのためにちょっとした仕掛けも用意する予定だ。上手くいけばかなり良いものが見られる。

 

 

真希に腕を捻られ、あっさりと地面に転がされた。

 

「集中しろ。ダチが死んだのにその程度かよ」

「っ、もう一回お願いします」

 

すぐさま起き上がった天坂を見て、真希はニヤリと笑う。

 

「来い。まずは私から一本取ってみろ」

 

砂まみれになりながら真希に向かっていくのを伏黒は少し離れた位置から見ていた。

 

 

散々転がされて歩くだけで砂が落ちてくる。

伏黒が無言でスポーツ飲料を差し出した。

 

「さんきゅ」

「…意外と元気だな」

「ん?ああ、いつまでも落ち込んでられないからな。今はとにかく強くなんねぇと」

「そうか」

「色々とありがとな、伏黒」

 

伏黒は答えない。ただ、小さく口の端だけで笑った。

 

 

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