浮かれ者のペネロペ   作:ロビャーノ・ベッチョリーノ

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処女作です。よろしくお願いします。


浮かれ者の

───────────……………………

 

〝わたし〟は、あまり自分の名前が、好きじゃなかった。

 

 

別に、本当に嫌って程じゃないけども。

 

でも、何となくその名前は、〝わたし〟には、似合わないというか。

 

自分で言うのもなんだけども…………………

 

 

〝皮肉めいている〟と、いうか─────………………

 

 

……………………。

 

 

『ペネロペ』

 

 

それが、私の名前だった。

 

 

 

───────

 

「ペネロペさん」

 

木造のテーブルを挟んだ椅子に座って、わたしと、〝先生〟が対面していた。

 

先生は、今年で55歳を迎える。

 

先生の厳格そうな皺は、いつもは優しく、少しだけ柔らかくなるのだけど、今日の今に限っては、むしろ掘りたての彫刻のような、そんな鋭さを持っていた。

 

優しく、厳しい女性で、わたしの。

 

そう。

わたしの唯一と言える恩師で、先生で、そして母のような、そんなにそんな人であった。

 

「はい、先生……………」

 

「最近」

 

先生の目が細められる。

 

「発作が起きていないそうじゃないですか。安心しました。あなたは、昔から少しだけ不安定でしたから………………」

 

「すみません……………」

 

「責め立てているのではありません。今のあなたは、胸を張って良いと言っているんですよ」

 

「はあ…………」

 

耳の痛い話だ。

耳たぶが熱くなるのを感じて、鼻から息を吸った。

 

「………………。ふふっ、聞こえますか」

 

「え?」

 

「ほら、子供たちの声です。」

 

「あ、ああ」

 

「楽しそうで、元気で、遊んでいる声。皆さん、親を無くして、ここに来た時とは、本当に大違いで」

 

それは、本当にいい事だと思う。

少しだけ開けられた窓から、春先の角の丸くなったそよ風が白いカーテンをゆらゆらさせた。

 

そのそよ風は、外で遊んでいる子供たちの声を乗せて、すうっと部屋に入ってくる。

 

「………ペネロペさん」

 

「あ、はあ、はいっ」

 

「あなたは…………………」

 

…………………。

 

「あなたは、やはり、あの子たちに心は、開いてあげられませんか」

 

「それ、は………………」

 

やっぱり、と思った。

 

「………わたしは、浮かれっ、者なので」

「わたしがあの中に入っても、馴染めないというか、浮いちゃうんじゃないかなあぁ………………なんてぇ」

「わたし、」

「普通じゃっ、無いっぽいので────……………」

 

 

───────

 

月に、先生との対談は何度かある。

ずっと、〝ここ〟に馴染めていないわたしのことを、見兼ねての配慮なのだと、幼いながらのわたしでも、何となく分かっていた。

 

それをああやっぱり、って自覚する度に少しだけ、胸が苦しくなった。

 

先生から貰ったものは、抱えきれないほどあるというのに。

わたしがどうしようもないばかりに、何も返せていないどころか、先生の事を困らせてしまう。

先生は、何も悪くなんか、ないっていうのに。

 

「はあ…………………」

 

ため息は、もはやわたしの癖になってしまった。

悪い癖だから、治そうと思っても、いつの間にかしてしまう。

 

「だめだなーーーーっ。わたし」

「なんで、こうなんだろーーーー」

「あはは」

「はは」

 

少し、外に出て、一人の時間を作ることにした。

でも、そんなわたしをからかうような風が吹いて、わたしのクリーム色の髪を揺らしていく。

 

さわさわと、木たちが揺れる音がする。

わたしは、その中の1本の木の幹に持たれて、足を抱えるようにして座っていた。

 

ここは、お気に入りの場所で、わたしだけの秘密の場所だった。

子供たちが遊んでいる所から少しだけ離れた場所だから、わたしにとっての、他でもない居場所になりつつある。

 

寂しくて、暖かくて、わたしにぴったり。

 

「ううっ」

 

嫌だな〜っ。こんな自分。

ほんと、迷惑しかかけなくて。

こんな自分なんて

 

私、なんてっ。

 

わたしの目が熱くなるような感じがした。

 

「あ、ああっ!……………泣いちゃ、だめなのにっ。」

「大変っ。しっ深呼吸─────」

 

いけない。

だめだ。

 

自分の体の中から出てくる、ゾッとするほど黒い雲を必死に抑えた。

 

だめなんだ。わたしは。

 

「うっ、うう─────!」

「うゥうん……………ッ」

 

泣いたり、怒ったり、そういう〝わたしが不安定〟になると、黒い雲が出てきてしまうんだ。

 

それは、その雲は、どうやらわたしにしか見えないようで、そして1度それが出てきてしまえば………………。

 

本当に、最悪な事になる。

 

「ふ、ふぅーーッ。ふぅーーーふっふっうぅ〜〜〜────………………」

「…………さん────」

 

へ?

 

「ペネロペさんっ!!」

「あっ」

「大丈夫、しっかり───っ!!!」

「…………っ。は、はい」

 

頑張って、首を縦に振る。

せ、先生だ。

 

安心して、黒い雲が私の体の中に戻っていく。

そうして、力が入らなくなって倒れそうになった私の体、先生は慌てて抱き留めた。

 

ああ、また、迷惑かけちゃった。

暗くなっていく意識の中、わたしは最後にそんなことを思っていた。

 

 

────────

 

『ペネロペ・メリタ』

 

私の目の前に座るこの少女の名前だ。

クリーム色の髪。ペリドットのような目。整った、淡麗な顔立ちの、今年で11歳を迎える少女。

 

 

彼女はここに捨てられた子だった。

 

 

彼女は魔法族ではない家庭の元に産まれたにも関わらず、強力な魔法力を持っていた。

そのせいで、ずっと昔からことある事に不思議な事が彼女の身の回りで起きてしまっていたようだ。

 

その話を聞いて、私は目を見開いた。

どうやら、彼女の魔法力は〝何でもかんでも浮かす〟ようだった。

ふと気を抜けば、あらゆるものが〝浮いてしまう〟。

 

そして奇妙な事に、彼女の魔法力は使えば使うほど、まるで周りの物たちの重さが無くなっていけば行く程に、

 

それだけ〝ペネロペという個を構成するあらゆるモノが軽くなっていく〟のだった。

 

それは、体重だけにとどまらない。

性格、倫理感、言動──────…………

 

それら全てが、〝軽くなる〟。

 

奇妙な彼女の魔力と体の関係は、度々軽率な問題を起こし…………

 

そのせいでどこに行っても彼女は〝浮いてしまう〟。

 

『浮かれ者のペネロペ』

 

とは、子供たちが影で呼んでいる彼女のあだ名だ。

 

彼女を理解してあげられるのは、魔法族と、真の大いなる愛を持った一部の人間だけ───。

 

彼女が、私の孤児院に入院するのは、ある意味必然的なことだったかもしれない。

 

私は、『魔女』だったから、彼女を理解しようとした。愛そうとした。

 

そして助けてあげようとも。

 

あなたにも、人並みの幸せがあるのだと。

 

「ペネロペさん。」

 

「はい、先生……………」

 

ペネロペは、弱々しく返す。

なにより、彼女のこの性格から何とかしなくてはならない。

 

生い立ちのせいなのだろう。明らかに低い自己肯定力。

目と目を合わすことも難しい、他人に対しての強い警戒。

 

そして……………

 

全て自分のせいにして、一人で抱え込んでしまう、臆病さ。

 

己で縛り付けた強い鎖で閉じ込めた結果、確かに彼女の回りで発生する不可思議の数は減った。

 

だが、それは膨らみ続ける風船。

 

それを続ければどうなるのか、魔女である私は知っている。

 

「最近」

 

哀れに憂い、目を細める。

 

「発作が起きていないそうじゃないですか。」

 

 

 

彼女は、

 

 

オブスキュリアルだったのだ。

 

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