うまぴよい伝説の伝説   作:煮琶瓜

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まず世界観がおかし過ぎる

 時は新宇宙世紀改24113年。サングトリア惑星系の第八惑星に、一匹の牡馬が誕生した。当時としては非常に珍しいサラブレッドの白馬で、生まれた瞬間から立ち上がるまでに要した時間はその前の世界記録を八秒上回る三秒ジャスト。遺伝子改造の末に生まれた科学の申し子であったとはいえ、その偉大な記録に生み出したゲノムコーディネイター達もにわかに色めき立ったという。

 この時代、競馬という概念は斜陽であった。スピードを求めるのであれば光速で飛び回る等速のマシンでドライビングテクニックを競い合うSoL-1が、生き物での競技に限定してもキャタピラレッグのタンクタイガーや巨大アオイロオオカミのフェンリル等が争う無差別級アニマルレースが存在しており、遺伝子改良の果てに生まれた優良種であったとしても外見上一般的な馬でしかないそれらが争う様を好んで見ようという者は少数派だったのだ。

 それ故、界隈で話題が持ち切りになるほどに優駿で艶美さも感じさせる良馬であるとは言っても、世間的に見れば大した注目を浴びてはいないのが実情であった。

 競走馬として育てられたその馬は、新馬戦の12000mという短距離で二着に三百十四馬身差の大差を付け圧勝、鮮烈なデビューを飾ると、続くアガラジコロニー杯でコースレコード、アースランド賞でもコースレコード、モンディベリー記念においてもコースレコードを更新するという異常としか言いようのない記録を打ち立てて行った。しかしそれでも一般的な知名度は皆無であったと言っていい。

 彼が世間的に注目を浴びだしたのはデビュー二年目、三歳馬の時分である。その頃になると、短距離で争うスプリンターよりは長距離で戦うステイヤー気質であると周知されており、馬主である遺伝子弄津太郎もそれに合わせて参加するレースを選出するようになっていた。彼がその年、最後のレースに選んだのがこの時代の最長である42195mを最大百頭で駆け抜ける古麻螺尊杯である。

 

 その試合を見ようと詰め掛けたたった五百万人の観客はその日、伝説を目撃した。

 ゲートが開いた瞬間、飛び出したのは白い影である。四本の足を駆使した高速のストライド、一般的な歩幅を軽く十メートルは上回るその走法はまさに飛ぶという表現が相応しい。横並びになった九十一頭から一瞬で抜け出すと、そのまま堂々と先頭を飛翔して行く。有り得ない。誰かの、いや、観客全ての心が一体となった。42195mという長距離レースにおいて初手から全速力で走ろうなどというのは自殺行為である。だがその白馬の速度ときたら、まるで最後の直線で見せるようなスパートを彷彿とさせるほどだったのだ。

 ある程度の距離を保って減速するというのなら分からなくもない。後半に響くかもしれないが、周囲を囲まれるリスクとは天秤に掛けられるだろう。だが、騎手も馬も完全に示し合わせたように、一切速度を緩める事はしなかった。

 騒然とする場内、釣られてペースを上げてしまう二番手以下の馬達、実況と解説も困惑の色を隠し切れない。第一コーナーを曲がり、第二コーナーを曲がり、直線へ入った頃に、その場の全ての人間達はようやく理解した。あいつらはあの速度で走り切るつもりだ!

 第三コーナーに入る、速度は衰えない。コーナーを抜ける時、少し足がもつれたか、一瞬だけ減速したように見えたが、ただの一歩で体勢を立て直し、短い直線でその遅れを取り戻すようにさらに加速する。なんだあれは、本当に馬なのか。実況が全ての観客の心を代弁した。

 白馬が第四コーナーを曲がり、最終直線に入った時、他の馬は未だ第三コーナーを抜けきれずに居た。もはや独擅場、モニタにはずっと白い影しか映っていない。直線を進み始めたその瞬間、その馬は全ての歓声と罵声を一斉に受けながら、長いはずのその道程を星間ワープのように駆け抜けた。

 ゴールイン。

 その日、当たり馬券と外れ馬券が一緒くたに宇宙を飛び交った。

 

 次の日から、白馬はにわかに注目を集め出した。ただ、それは競馬史の記録を塗り替えたからだとか、優美な姿が非常に絵になるだとか、そう言った理由ではなかった。

 注目の的となったのはその無尽蔵とも思われるスタミナと耐久力である。通常のサラブレッドは全力で走り続ければ足が折れるか、そうでなくても何らかの故障を発生させる事が多い。だが彼は四万メートル以上を全速力で走り抜けた後も、多少疲労が見えてはいたが、問題なく普通に歩いて帰って行ったのだ。

 この事が話題を呼び、研究のために体細胞の採取なども日課に加わる事になった。当の馬自身は非常に賢く、研究員の接触に対しては非常に穏やかな応対であったと言われている。その時に得られたデータは驚くべきもので、科学技術の水準が上がり切ったと言われる当時をして飛躍の可能性の塊と言わしめた。

 

 そして翌年、彼と人類にとって決定的と言える事件が起きる。

 四歳馬となった彼が初めての全方位螺旋重力芝十二頭立てであるアーアルンドステークスに参戦し、当然のように先頭を左回転で突き進んでいる時であった。突如、コースとして使用されていた人工衛星ホボブラーのエネルギー炉が排熱機構に深刻なエラーを発生させ、火災が発生した。通常であれば管理システムがスプリンクラーを作動させるなり空間凍結による一時的隔離を実行するなりといった措置が取られるはずであったが、運悪く、それら全てが劣化により使用不能に陥っていた。なお最終点検日は1500年前であり、法的には問題が無かったと言われている。不幸な偶然が重なった結果であると言えるだろう。

 しかし、これは人類にとっては不幸どころか、大いなる幸運であったと言っていい。

 試合の行われていた円筒状のコースは火災発生現場からそう離れておらず、人工知能からの警告によりレースは即座に中断、避難勧告が騎手たちに向けて発された。しかし、唯一抜きん出て並ぶ者の無かった白馬にその声が届く事はなかったのである。

 次の瞬間、ゴールに向かい疾走する一人と一頭の頭上で爆発が起こり、エヅラニュウム製の重力制御板の破片が襲い掛かった。火災が広がり誘爆を始めたのだ。

 人体に馬体に突き刺さる大小の瓦礫、足が止まり、騎手は投げ出され頭から叩きつけられる。そして、中継を見ていた人々は目撃した。いっとう大きく、薄い、鋭利な金属板が、白馬の頭部から臀部にかけてを唐竹割に一刀両断する様を。

 

 死んだ。誰もがそう思っただろう。せめて首を飛ばされただけであれば治療も出来たであろうが、脳ごと体を真っ二つにされては手の施しようが無い。そうとしか考えられない状況だった。

 だが見よ! その馬は! ああ、なんという事か、切断された側面が奇妙に蠢くと、己が片割れを探すようにうねり、泡立ち、互いに絡み合ったではないか!

 引き合った半身はまるでフィルムを逆に回すかのように臀部から癒着し、零れ落ちたはらわたも時を戻すが如く腹部へと回帰してゆく! 頭部もまた完全に、両断された事実など無かったかのように美しい左右対称へと復元した! 最後に一度嘶くと、突き刺さっていた細かな破片すらも体外へとはじき出されたではないか!

 たったの数秒、それだけの時間で、白馬は元の完全な形へと戻っていた。最早先ほどの惨劇の名残は、その白い鬣に残った己の血の跡と地面を転がる騎手だったものだけ。

 目撃者たちは暫く沈黙し、やがて、何が起きたか理解すると、全身全霊を持って宇宙が震えるほどの歓声を上げた。

 

 その当時、人々は既にヘイフリック限界を乗り越え老化という現象とは縁を絶っていたが、事故や病気などといった外的要因による死者は出続けていた。不老を実現していたが、不死とは程遠い生物だったのである。

 当然ながら、それらを乗り越えるための研究は日夜為されており、遺伝子研究による耐久力や耐性の獲得なども前進こそしていたが、牛歩と表現するのも烏滸がましい程の歩みの遅さであった。

 そこへ颯爽と現れたのがこの白馬である。

 脳の損傷すら自身の治癒能力で秒単位での回復を可能とする再生能力。彼は研究者たちが欲したそれをそのまま有していた。宇宙消防隊による救助と消火活動の後、回収された彼を人間達は人種や国家の壁を越え、当時最高の知能でもって調べ尽くす。成果の結実までさほどの時間は要さなかった。

 白馬は人類をその背に乗せ、不死という新たな位階へと誘ったのだ。

 

 クロノハーベスト 生涯成績1000戦1000勝(内レコード優勝777)

 人類が精神生命体としてさらなる位階へと上がるその日まで共に歩み、前馬未踏の領域に到達したその白馬は、斜陽であった競馬界を世界から完全消滅させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というのが僕の転生したウマ娘のウマソウルの設定だそうです。どこから突っ込んだらいいんだろう。

 

 

 

 死んでから出会った魔法使いを名乗る不審な少女にダーツを二回投げさせられて、当たったのが『再生』と『ウマ娘』だった僕が目を覚ますと、そこは粗末と言っていい木製の住居だった。おそらく僕は産まれたばかりの赤ん坊で、周囲からはよくやったぞとか、ウマ娘じゃないかすごいぞとか、歓声のようなものが聞こえてくる。どうやら僕の誕生は祝福されているようだった。

 持ち上げられ、産声を上げた僕は、その後布の敷かれた籠のようなものに横たえられる。ゆりかご的な物だろうと認識すると同時、自然に体が動き、僕の体は勝手に両足で立ち上がった。

 ああ、これウマソウルの設定の影響だなと思った時には周囲から驚愕の声が上がっていた。

 

 

 

 この世界に於いてウマ娘は差別の対象である。ただし、差別的に優遇されるという意味で。

 ウマ娘は普通の人間よりも遥かに身体能力で勝る。実際、僕の生まれた村で一番の力自慢だった田治丸叔父さんも年齢が一桁だった僕に押し合いで全く勝てなかったのだからその差はかなり大きい。そのためだろうか、ウマ娘は少なくとも僕の故郷となったこの村の近辺では働き手として大変重宝されていたし、大名様の所へ願い出れば仕官すら叶う――騎バ隊というウマ娘のみで構成された部隊が存在している――らしかった。

 うん、そうなんだ。僕は明らかにウマ娘的な世界へ転生したようなのだけど、村の皆の話を聞いた感じだと、所詮農民の噂話で正確な時期の特定はできなかったものの、戦国時代とかそれくらいじゃあないだろうかと思われるのだ。

 

 僕が数えで十となる頃だった。その頃にはもう村でも一番の働き者として畑仕事や田んぼ造りに励んでいた僕は、田治丸叔父さんのお手伝いで年貢を運ぶためにその日初めて村を出た。

 と言っても、何か道中珍しい物がある訳でもなく、特に事件が起きるでもなく、目的地までは無事に到着。ほうウマ娘ですかとお上の人が品定めをする目で見てはきたけど、この子を取られては村が立ち行かなくなりますると冗談っぽく言う叔父さんに、嫌みっぽくない笑いを返す良い人だった。

 どうやら身分を越えた友人であったらしい叔父とそのお役人が部屋の奥で談笑を始めてしまったので、僕は一人取り残され手持無沙汰になってしまった。勝手に帰る訳にも行かず、かといって突っ立ってるのもなんだかなぁと考えていると、ふと、道中すぐそこに川がせせらいでいたなと思いだした。

 叔父に一声だけかけ川へと繰り出すと、足を流し、長く歩いた事で汗ばんだ体を冷やしていく。バスタオルでもあれば全身を洗っても良かったのだけど、そんなものは無いので我慢した。

 そうしてゆっくりまったりとしていると、突然、発見ッ!! と大きな高い声が僕の頭の上の方にある白い耳に飛び込んだ。

「勧誘ッ! 我の名は第六天魔王信長! 貴様、我が配下となれ!!」

 名乗りから何から全てがおかしい、どこから突っ込めばいいのだろう。振り向けば栗毛に白いメッシュの入った髪をして、頭に笠を被った少女が勝気そうな目でこちらに肉食獣のような笑みを向けていた。

 

 

 

 この世界の戦国武将にはウマ娘が混じっている。これはどういう理由かというと、至極単純にウマ娘が人間のほぼ上位互換であるため養子に取られる場合があるのが一つ。そしてもう一つの大きな理由が、この世界のウマ娘は普通の人間の両親から予兆無く生まれて来る一代限りの突然変異である事だ。

 ウマ娘が子供を産んでもウマ娘はほとんど生まれないし、ウマ娘の子供は普通に祖父や祖母に似るのである。そのため異界の魂を宿しているかいないかが普通の人間との差異であり、ウマ娘も普通に産まれた家の血統を継いでいると認識されているのだ。

 ところで、ウマ娘は前世だかなんだかよく分からない異界の生物の名を持って産まれて来る。しかし、戦国の世で立場ある家柄に生まれた場合、格式に沿った命名を行わないという事は認められない。これを怠れば家臣からの信用を失うし、教養すら持たないと周囲に馬鹿にされてしまう。かと言ってウマ娘の名前を捨てさせるという事も通常起こらない。その結果。

 

 森クロノハーベスト蘭丸

 

 それが養子に入った僕に与えられた名前である。ねぇほんとどこから突っ込んだらいいのこの世界。

 っていうか、僕、森蘭丸ポジなの? ノッブを名乗るあの子、家督継いだばっかりなんだけど。なんなら僕を勧誘した時まだ吉法師だったんだけど。尾張の大うつけだったんだけど。年代全然合ってなくない?

 

 森家の人間として引き取られた僕の主な仕事はトップの秘書……つまり、信長様の付き人だった。そのポジションにウマ娘要る? と思ったが、僕としては万々歳で、周囲の話に付いて行けるように勉強しながらウマ娘の本能に従ってトレーニングを積んで行った。

 織田家というか尾張の国は色々問題が頻発していたため、戦だ和睦だ同盟だ破棄だと色々目まぐるしく状況が変わって行ったが、評定に関して発言権がある訳でもない僕は只々自分の知識と足を鍛え上げていく事に集中した。信長様は僕のその行為を認めてくれていて、悪い顔をしていたので何か目的があるのだろうとは理解していたけれど、その厚意に甘えながら話し相手やストレスの発散の付き合いをして行き、互いに仲は深まって行ったと思う。

 そしてある時、信長様が僕の待機していた部屋へ勢いよく雪崩れ込むと、低い背を精いっぱい伸ばしながら大声で叫んだ。

「出陣ッ! 戦支度をせよ、此度が貴様の初陣である!!」

 ついに来たか、と流石の僕も覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 稲生の戦い。僕の初めての戦は後世でそう呼ばれている。僕の出番がやって来たのはその緒戦、両軍激突のすぐ後だった。

 自分に突き刺さった矢を引き抜き、痛みを堪えながらチートとしか言いようのない再生能力で傷を癒しつつ名乗りを上げる。その瞬間、戦場が静まり返り、敵軍の中から一人の女性が僕の前へと姿を現した。

 柴田ミホノブルボン勝家。戦国時代に似つかわしくない戦装束を来た、後に仲間として戦場を駆け回る事になる、今はまだ敵として相対している武将だった。

 

 柴田ミホノブルボン勝家と僕、森クロノハーベスト蘭丸が横並びになり地平を睨む。柴田側の兵の一人が弓を取り、矢を番えると柴田ミホノブルボン勝家はよろしいかと眼で問いかけて来る。是非も無し、と僕が一つ頷くと、弓の弦は引き絞られ、側の大木へ向けて矢が放たれた。その矢が木肌に突き立った瞬間、僕と柴田ミホノブルボン勝家は同時にスタートを切った。

 

 

 

 この世界の合戦には僕の知っている歴史と比較すると特異極まりない違いが一つある。

 それが一対一で行われる、ウマ娘同士の一騎打ちだ。戦場でウマ娘武将とウマ娘武将が出会うと行われるそれは、この世界の戦場に置いて大きな意味を持っている。

 この一騎打ちを邪魔する事は人間の規範として許されず、挑まれれば拒否する事もまた許されない。行われている最中は全ての闘争は一時的に中断され、一瞬前まで槍で突き合っていた足軽も、弓に次矢を番えていた弓兵も、それが始まると理解した瞬間ウマ娘のために道を空け、戦場には先ほどまでとは違った熱気が充満するのだ。

 始まれば両陣営とも自分の軍のウマ娘を全力で応援し、しかし妨害行為などは一切許されない。それを行えば最悪、親兄弟に至るまでの全てが処罰を受ける事になる。

 そして勝敗が決まればまた戦が再開される。だが、一騎打ちの前と後ではその様相は全く違っているのだ。勝った軍の士気は絶頂に、負けた方の士気はどん底まで落ち込む事になるのである。

 たかが士気だと侮り重要性を理解出来ず、ウマ娘を重用しなかった武将は全てこの世から駆逐されて来たと言う。これはそれほど重要な要素としてこの世界に君臨しているシステムなのだ。

 

 なおこの一騎打ち、殺し合いなどの血生臭い物ではなく、ウマ娘の本能に従った脚比べ――つまりレースという形式で行われるものである。

 

 

 

 合図が出された瞬間、僕たち二人は同時に飛び出した。周囲から上がる大きな歓声、一瞬それに怯んだ僕は足が緩み、意に介さなかったミホノブルボンに先行を許してしまう。恐らく逃げウマであろう彼女に先を行かれるのはよろしくないけれど、不思議と焦りはなかった。たぶん僕に宿るウマソウルがそうさせたのだろう。

 戦場で行われる脚比べに決まったコースは存在しない。互いの兵が自然と形作る天然の道筋を本能的に察知し、共通認識とするのだ。今回のコースは左回りでほぼ蛇行も無い、現代日本で見られた競馬のそれとよく似た形になっていた。

 第二コーナーを抜け、最初の直線、僕は一気に加速した。ミホノブルボンの顔に初めて表情が浮かぶ。多少ペースを上げ、簡単には抜かれまいとしたようだったが、スパート並みの速度を出した僕の脚はそれを容易く追い越した。

 両軍からは驚愕と動揺、それに嘲笑と悲鳴の声がする。馬鹿な、何を考えているんだ、所詮名も無いウマ娘かそれで最後まで持つものか。だけど何も問題は無い。本当は無いのはおかしいんだけど、問題は無いのだ。僕に宿るウマソウルは次元最高の再生能力を持つチート白馬の物なのだから。

 クロノハーベストは無尽蔵のスタミナを持つ白馬、ではない。彼が持っていたのは再生能力、即ち、走りながら消費量を上回る速度でスタミナを回復し続ける能力だ。

 そんな馬の魂を持った僕は、つまり常時スタミナ超回復というゲーム性を完全否定するスキルを持ったウマ娘なのである。

 速度を緩めず第三コーナーに入る。速度を落とさなかったせいで最短距離では曲がれなかったけれど、なんとか速度を維持しながら大回りで第四コーナーも曲がりきる。おかげでミホノブルボンがすぐ後ろまで迫って来ていた。

 必死に足を前へと動かす。辛い。回復しながら走っているから痛い訳でも疲れが出ている訳でもないのに踏み出すのが辛い。時速にして50kmをゆうに超えるその一歩一歩が、本来既に人体の限界を超えているのだ。でも、チートなんてない、故障が有り得るはずなのに、何の保証もありはしないのに、ミホノブルボンは僕を追ってスパートをかけて来た。大丈夫だと分かっていても恐ろしいのに、彼女は顔色一つ変えずに追いすがってくる。尊敬の念が芽生えた。

 最高速なら彼女の方が上か。スタミナ無視の全力で走っているのに追いつかれている以上、本来僕は何もかもが彼女に劣っているのだろう。だが、それでもだ。それでも勝利したのは僕だった。

 

 ミホノブルボンが毅然とした態度で自陣に向かって帰って行く。脚比べの終わったウマ娘に即座に攻撃するのもまた御法度であるため、テンションが天元突破していた自軍の兵達もそれを素直に見送った。一方の敵方は悲惨なものである。お通夜ムードと言うのがこれほど似合う光景は見たことが無いと思うほど沈み込んでしまっていた。柴田ミホノブルボン勝家はそれだけの信頼を一身に受け、誇りとされているウマ娘だったらしい。それが名前を聞いた事も無いような、脚比べの定石すら理解していないような走りをする相手に負けたのだから、当然かもしれない。

 戦端が開かれる音を背後に信長様の所へ戻り勝利の報告をすると、笑いながら喜びを隠し切れない声でこう言った。

「指示ッ! 次は南の林軍と脚比べをして参れ!」

 僕、今勝って来たばっかりなんですけど?????

 

 

 

 ところで、脚比べに勝利し、自陣も戦に勝利したウマ娘には特別やるべき……いや、する権利を与えられる事がある。それが全軍の前での歌唱と舞踊。つまるところ、ウイニングライブである。

 だが走りのトレーニングしかして来なかった僕にそんな事が出来るはずが無く、恥ずかしさもあって信長様に辞退を申し上げた所、鬼のような相貌となってしまわれた。

「莫迦者ッ!!! 勝利の舞とは兵の慰労と芸能の側面を併せ持つ、過去から積み重ねて来た文化の極みぞ! 今は出来ぬと言うのなら、今から出来るようになって見せよ! 付いて来い、手本を見せてくれようぞ!!!」

 その日、信長様と一緒に舞った敦盛は兵や武将たちの何かに突き刺さったらしく、異様な熱気と盛り上がりを見せた。

 

 

 




気分転換に思いついたものを熱いうちに鋳造した結果がこれだよ!!
歴史に関して全く詳しくないので歴史を辿ったり改変したりするような内容ではないのでご注意ください。
一応連載にしてありますが、書きたい所だけ書く方式ですのでおそらく次話かその次くらいで終わるはず。
桁数とかがおかしいのは仕様です。
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